鉛筆を使わない認知症検査―改訂長谷川式スケールに「描く課題」がない理由
第119回医師国家試験 B問題 第6問
国試問題にチャレンジ
改訂長谷川式簡易知能評価スケールの項目に含まれないのはどれか。
- a.計算
- b.見当識
- c.物品記銘
- d.数字の逆唱
- e.立方体の模写
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
改訂長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)は日本で開発された認知症のスクリーニング検査で、口頭の質問のみで行う9項目・30点満点の構成をとり、20点以下で認知症を疑います。項目は年齢、日時・場所の見当識、3語の記銘、計算(100から7を2回引く)、数字の逆唱、3語の遅延再生、5物品の記銘、言語流暢性(野菜の名前)で、図形の模写や書字といった動作性課題は含みません。MMSEは重なった五角形の模写や書字を含み、立方体の模写や時計描画はMoCAの課題であるため、各検査の特徴を対比して覚えると混同を防げます。遅延再生はAlzheimer型認知症で早期から低下しやすい一方、HDS-Rだけでは構成障害を評価できず、点数も教育歴やうつ状態、せん妄などの影響を受けます。検査ごとの得意・不得意を理解して使い分けることが、認知症診療の第一歩になります。
解答・解説
正解はeです
改訂長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R:Hasegawa Dementia Scale-Revised)は、日本で開発された認知症のスクリーニング検査である。質問に口頭で答えてもらう形式の9項目からなり、30点満点で、20点以下を認知症の疑いとする(カットオフ値20/21点)。 大きな特徴は、紙と鉛筆を使った書字・描画などの動作性の課題を含まず、すべて言語的なやりとりで実施できる点である。そのため、運動障害や視力低下があっても施行しやすく、短時間(10分程度)で終えられる。逆にいえば、図形の模写のような視空間認知・構成能力を調べる課題は含まれていない。 本問では、HDS-Rの9項目(年齢、日時の見当識、場所の見当識、3つの言葉の記銘、計算、数字の逆唱、3つの言葉の遅延再生、5つの物品記銘、言語流暢性)を思い出し、そこに含まれない課題を選べばよい。立方体の模写は HDS-R にはなく、MoCA(Montreal Cognitive Assessment)などで用いられる課題である。
選択肢考察
- ×a. 計算
HDS-Rに含まれる。「100から7を順番に引いてください」と指示し、100−7(93)、さらにそこから7を引く(86)の2回を行わせる(各1点、計2点)。最初の答えを誤った場合はそこで打ち切る。計算力とともに、注意の持続や作業記憶(情報を一時的に保持しながら処理する能力)も反映する。なお、7を5回続けて引く課題(シリアル7)は MMSE(Mini-Mental State Examination)の形式である。
- ×b. 見当識
HDS-Rに含まれる。「今日は何年の何月何日ですか、何曜日ですか」で時間の見当識(年・月・日・曜日 各1点、計4点)を、「私たちがいまいるところはどこですか」で場所の見当識(自発的に答えられれば2点、ヒントを与えて正答すれば1点)を評価する。見当識障害、特に時間の見当識障害は認知症で比較的早期から現れやすい。
- ×c. 物品記銘
HDS-Rに含まれる。時計、鍵、ペン、硬貨など相互に関係のない5つの品物を見せた後に隠し、何があったかを答えさせる(各1点、計5点)。視覚的に提示した情報の即時的な記銘力を評価する項目である。
- ×d. 数字の逆唱
HDS-Rに含まれる。「これから言う数字を逆から言ってください」と指示し、3桁(例:6-8-2)、続いて4桁(例:3-5-2-9)の逆唱を行わせる(各1点、計2点)。3桁を誤った場合はそこで打ち切る。注意力や作業記憶を評価する課題である。
- ○e. 立方体の模写
HDS-Rには含まれない。HDS-Rは口頭の質問だけで構成され、図形の模写などの動作性課題を持たない。立方体の模写は MoCA(日本語版 MoCA-J)に含まれる課題で、視空間認知や構成能力(形を正しく組み立てて描く能力)をみる。MMSE にも図形模写があるが、MMSE で用いられるのは立方体ではなく、2つの五角形が重なった図形の模写である。構成障害は Alzheimer 型認知症や Lewy 小体型認知症などで出現し、HDS-Rだけではこれを評価できない点に注意する。
HDS-R の9項目と配点(30点満点)
1. 年齢(1点):2年までの誤差は正解とする。 2. 日時の見当識(4点):年・月・日・曜日。 3. 場所の見当識(2点):自発的に答えられれば2点、ヒントで正答すれば1点。 4. 3つの言葉の記銘(3点):例「桜・猫・電車」など。後の遅延再生のために覚えておくよう伝える。 5. 計算(2点):100−7、さらに7を引く。 6. 数字の逆唱(2点):3桁・4桁。 7. 3つの言葉の遅延再生(6点):自発的に答えられれば各2点、ヒント(植物・動物・乗り物など)で正答すれば各1点。 8. 5つの物品記銘(5点)。 9. 言語の流暢性(5点):知っている野菜の名前をできるだけ多く挙げさせる。6個以上で点数が加算され、10個で満点。
解釈
20点以下で認知症の疑いとする。カットオフ値を20/21点とすると、認知症の判別の感度は約0.90、特異度は約0.82と報告されている。ただし、スクリーニング検査であり、点数だけで認知症と診断したり重症度を確定したりはしない。教育歴、難聴、うつ状態、せん妄などの影響も受ける。
記憶のプロセスと遅延再生
項目4(記銘)→ 項目5・6(干渉課題)→ 項目7(遅延再生)の流れは、記銘・保持・再生という記憶の過程を評価する構成になっている。遅延再生は近時記憶の障害を鋭敏に反映し、Alzheimer 型認知症で早期から低下しやすい。
MMSE・MoCA との比較
・MMSE:国際的に広く用いられる30点満点の検査で、23点以下を認知症の疑いとすることが多い。見当識、記銘、注意と計算(シリアル7)、再生、呼称、復唱、3段階の口頭命令、読字(書かれた指示に従う)、自発書字、重なった五角形の模写を含み、動作性課題がある点が HDS-R と異なる。 ・MoCA:軽度認知障害(MCI)の検出を目的とした30点満点の検査で、立方体の模写、時計描画、トレイルメイキング(線つなぎ)などの視空間・遂行機能課題を含む。
POINT
・HDS-R は口頭のみで行う9項目・30点満点の認知症スクリーニング検査で、20点以下で認知症を疑う。 ・項目:年齢、日時・場所の見当識、3語の記銘、計算(100−7を2回)、数字の逆唱、3語の遅延再生、5物品の記銘、野菜の名前(言語流暢性)。 ・図形の模写・書字・口頭命令などの動作性課題は含まない(これらは MMSE に含まれる)。 ・立方体の模写は MoCA、重なった五角形の模写は MMSE。 ・遅延再生は Alzheimer 型認知症で早期から障害されやすい。
