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「考えの筋道」が崩れるとき―滅裂思考で整理する思考障害の3分類

第119回医師国家試験 C問題 第11問

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第119回 C問題 第11問

思路障害はどれか。

  1. a.強迫観念
  2. b.思考吹入
  3. c.心気妄想
  4. d.広場恐怖
  5. e.滅裂思考

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は精神症候学の基本、思考障害の分類を問う問題だ。ポイントは「思路障害」という言葉が何を指しているかを正確につかむこと。思考の異常は、考えの進み方、考えの中身、考えの体験のされ方の3つに分けて整理すると見通しがよくなるよ。
医学生医学生
正直、思考の障害はどれも「頭の中の異常」という感じで、区別があいまいでした。
ドクタードクター
多くの人がそうなんだ。まず思路障害は、思考過程や思考形式の障害とも呼ばれて、考えが一つの目標に向かって順序よく、まとまって進むかどうかの異常を指す。次に思考内容の障害は、考えの中身の異常で、代表は妄想。そして思考体験様式の障害は、考えを自分がどう体験しているかの異常だ。
医学生医学生
精神医学の講義で「形式」と「内容」を分けると習いました。そうすると、心気妄想は妄想なので内容の障害ですね。
ドクタードクター
その通り。心気妄想は根拠がないのに重い病気にかかっていると確信して訂正できない状態で、うつ病で出やすい。罪業妄想、貧困妄想と合わせてうつ病の三大妄想、微小妄想と呼ばれるね。中身の問題であって、考えの進み方が乱れているわけではない。
医学生医学生
思考吹入は、考えが吹き込まれるという話なので、内容の障害かと思ったんですが……。
ドクタードクター
そこは間違えやすいところだね。思考吹入は「他人の考えが外から頭に入れられる」と感じる体験で、自分の考えが自分のものだという感覚が損なわれている。だから思考体験様式の障害、つまり自我障害に分類される。思考奪取、思考伝播、作為思考と並ぶ統合失調症に特徴的な症状で、シュナイダーの一級症状にも含まれるよ。
医学生医学生
強迫観念はどうでしょう。臨床実習の精神科で、何度も手を洗ってしまう強迫症の患者さんを見ました。
ドクタードクター
いい経験だね。強迫観念は、本人も不合理だと分かっているのに意思に反して繰り返し浮かび、振り払えない考えだ。思考吹入と違って「自分の考えである」という感覚は保たれているけれど、意思に反して浮かぶという体験のされ方の異常なので、一般に思考体験様式の障害に分類される。考えの進み方そのものの異常ではないね。
医学生医学生
広場恐怖はそもそも思考の障害というより、不安の症状ですよね。
ドクタードクター
その理解で正しい。パニック発作が起きたときに逃げられない、助けが得られないと感じる場所、たとえば電車や人混みを恐れて避けるようになる状態だ。パニック症に伴うことが多く、DSM-5以降は独立した不安症としても扱われる。思路障害とは関係がないね。
医学生医学生
となると残るのは滅裂思考。考えと考えのつながりが失われている状態なので、まさに思路の障害ですね。
ドクタードクター
正解。滅裂思考は思路障害の代表で、統合失調症に特徴的だ。考えのつながりがゆるむ連合弛緩がさらに高度になったもので、文と文のつながりが分からなくなり、極端になると単語の羅列、いわゆる言葉のサラダになる。「滅裂な内容を考えている」のではなく、「考えの筋道が滅裂になっている」と理解するといい。
医学生医学生
せん妄の患者さんも話がまとまらないことがありますが、それも滅裂思考と呼ぶんですか。
ドクタードクター
鋭い質問だ。意識障害を背景に思考がまとまらない状態は、滅裂思考とは区別して思考散乱と呼ぶ。意識が清明なのに筋道が崩れるのが滅裂思考、という対比で押さえておこう。
医学生医学生
ほかの思路障害も疾患とセットで覚えたほうがよさそうですね。
ドクタードクター
そうだね。躁状態では考えが次々に湧いて話題が逸れていく観念奔逸、うつ状態では考えが進まず返答が遅くなる思考制止。統合失調症では連合弛緩、滅裂思考、それに考えの流れが突然止まる思考途絶。てんかんや知的障害では、枝葉にこだわって回り道をしつつ最終的には目標に着く迂遠、器質性脳疾患では同じ言葉が繰り返される保続がみられる。
医学生医学生
話の中身だけでなく、話の進み方そのものも観察する必要があるということですね。OSCEの医療面接ではそこまで意識していませんでした。
ドクタードクター
まさにそこが臨床で大事な視点だ。精神科の面接では、何を話すかと同時に、どう話すか、話がどうつながるかを記録する。話の中身は妄想の評価に、話の流れは思路障害の評価に、そして考えが自分のものと感じられているかは自我障害の評価につながる。この3つの軸で聞き分けられると、診断の手がかりがぐっと増えるよ。

まとめ

思考障害は、考えの進み方・まとまりの異常である思路障害、考えの中身の異常である思考内容の障害(妄想)、考えの体験のされ方の異常である思考体験様式の障害の3つに分けて整理します。滅裂思考は連合弛緩が高度になって論理的なつながりが失われた状態で、統合失調症に特徴的な思路障害の代表です。心気妄想は思考内容の障害でうつ病の微小妄想の一つ、思考吹入は自我障害としての体験様式の障害でシュナイダーの一級症状、強迫観念も一般に体験様式の障害に分類され、広場恐怖は不安の症状です。思路障害には観念奔逸(躁状態)、思考制止(うつ状態)、思考途絶(統合失調症)、迂遠(てんかんなど)もあり、意識障害による思考散乱とは区別します。話の内容・流れ・自己所属感という3つの軸で患者の語りを観察することは、精神科診療の基本となります。

解答・解説

正解はeです

思考障害の3分類

精神症候学では、思考の障害を次の3つの側面に分けて整理する。 1. 思路障害(思考過程・思考形式の障害):考えの「進み方・つながり方」の異常。考えが一つの目標に向かって順序よく、まとまって進んでいくかどうかが問題になる。 2. 思考内容の障害:考えの「中身」の異常。代表は妄想である。 3. 思考体験様式の障害:考えを「自分がどのように体験しているか」の異常。考えが自分の意思に反して浮かぶ(強迫観念)、他者に操られている・吹き込まれている(作為思考、思考吹入)などがこれに当たる。

正解を導く考え方

選択肢を上の3分類に当てはめると、思考の進み方・まとまりそのものが崩れている症状は滅裂思考だけである。妄想(心気妄想)は内容の障害、強迫観念と思考吹入は体験様式の障害、広場恐怖は不安・恐怖に関する症状であり、いずれも思路障害ではない。

選択肢考察

  1. ×a.  強迫観念

    強迫観念は、本人がばかばかしい・不合理だと分かっているのに、意思に反して繰り返し浮かんできて振り払えない考えやイメージである(例:手が汚染されているのではないか、鍵をかけ忘れたのではないか)。強迫症(強迫性障害)の中核症状で、これを打ち消すための行為が強迫行為である。その考えが「自分の考えである」という感覚は保たれており、思考体験様式の障害に分類されるのが一般的である。考えの進み方の異常ではないため、思路障害ではない。

  2. ×b.  思考吹入

    思考吹入は、他人の考えが外部から自分の頭の中に吹き込まれる、入れられると感じる体験である。思考奪取(考えが抜き取られる)、思考伝播(考えが周囲に伝わってしまう)、作為思考(考えを他者に操られる)とともに、自分の思考が自分のものであるという感覚(自我意識の能動性・所属性)が損なわれた体験であり、思考体験様式の障害(自我障害)に分類される。統合失調症に特徴的で、シュナイダーの一級症状に含まれる。

  3. ×c.  心気妄想

    心気妄想は、医学的な根拠がないのに「自分は重い病気にかかっている」「治らない病気だ」と確信し、訂正できない妄想である。妄想は思考内容の障害に分類される。うつ病で出現しやすく、罪業妄想、貧困妄想とあわせてうつ病の三大妄想(微小妄想)と呼ばれる。

  4. ×d.  広場恐怖

    広場恐怖は、パニック発作のような症状が起きたときに逃げ出せない、助けが得られないと感じる状況(公共交通機関、人混み、広い場所、閉鎖空間、一人での外出など)を強く恐れ、避けるようになる状態である。パニック症に伴うことが多く、DSM-5以降は独立した不安症の一つ(広場恐怖症)としても扱われる。不安・恐怖の症状であり、思考の進み方の異常である思路障害ではない。

  5. ○e.  滅裂思考

    滅裂思考は、考えと考えの間の論理的なつながりが失われ、話全体のまとまりがなくなった状態で、思路障害の代表である。統合失調症に特徴的で、考えのつながりがゆるむ連合弛緩がさらに高度になったものと位置づけられる。軽度の連合弛緩では話題が少しずつずれていく程度だが、滅裂思考では文と文のつながりが分からず、極端になると単語の羅列(言葉のサラダ)になる。「滅裂な内容を考えている」のではなく、「考えの筋道(思路)が滅裂になっている」と理解するとよい。なお、意識障害(せん妄など)で思考がまとまらない状態は滅裂思考とは区別して思考散乱(散乱思考)と呼ぶ。

主な思路障害と代表的な疾患

・観念奔逸:考えが次々に湧き、連想に引きずられて話題がどんどん移り、目標から逸れていく。躁状態(双極症)。 ・思考制止(思考抑制):考えが進まず、浮かばない。返答が遅く、口数が少なくなる。うつ状態。 ・連合弛緩:考えのつながりがゆるみ、話のまとまりが悪くなる。統合失調症。 ・滅裂思考:連合弛緩が高度になり、論理的なつながりが失われる。統合失調症。 ・思考途絶:考えの流れが突然途切れ、話が止まる。統合失調症。 ・迂遠(迂遠思考):細かい枝葉にこだわり回り道をするが、最終的には目標に到達する。てんかん、知的障害など。 ・保続:同じ考えや言葉が繰り返され、次へ進めない。器質性脳疾患、認知症など。 ・思考散乱:意識障害時に思考がまとまらない状態。せん妄など。

思考内容の障害

妄想(被害妄想、関係妄想、誇大妄想、心気妄想、罪業妄想、貧困妄想など)、支配観念(優格観念)。

思考体験様式の障害

強迫観念、作為思考(させられ思考)、思考吹入、思考奪取、思考伝播など。

POINT

・思考障害は「思路(過程・形式)」「内容」「体験様式」の3つに分けて整理する。 ・思路障害:観念奔逸(躁)、思考制止(うつ)、連合弛緩・滅裂思考・思考途絶(統合失調症)、迂遠(てんかん)。 ・内容の障害=妄想。うつ病の三大妄想は心気妄想・罪業妄想・貧困妄想。 ・体験様式の障害=強迫観念、思考吹入・思考奪取・思考伝播・作為思考。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。