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においは飲み込みを助けない?―嚥下の各期から考える高齢者の嚥下障害

第115回医師国家試験 B問題 第13問

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第115回 B問題 第13問

高齢者の嚥下障害の原因とならないのはどれか。

  1. a.嗅覚低下
  2. b.歯牙欠損
  3. c.舌運動低下
  4. d.唾液分泌低下
  5. e.咽頭収縮力低下

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、高齢者の嚥下障害の原因として当てはまらないものを選ぶ問題だ。カギになるのは、食べ物を口に入れてから胃に届くまでの流れを段階ごとに整理すること。それぞれの選択肢が、どの段階で、どんな役割を担っているかを考えてみよう。
医学生医学生
嚥下というと、飲み込む瞬間の喉の動きだけをイメージしてしまいます。
ドクタードクター
多くの人がそう思うけれど、実際はもっと手前から始まっているんだ。一般に、歯で噛み砕いて唾液と混ぜ、舌でまとめて食塊を作る準備期、舌で食塊を咽頭へ送り込む口腔期、嚥下反射で気道を守りながら食塊を食道へ押し込む咽頭期、蠕動で胃へ運ぶ食道期に分けて考える。
医学生医学生
生理学の講義で、口腔期までは随意運動で、咽頭期からは反射だと習いました。
ドクタードクター
よく覚えているね。その枠組みで選択肢を見ていこう。まず歯牙欠損はどうかな。
医学生医学生
歯がないと噛めないので、食べ物が大きいままになりそうです。
ドクタードクター
その通り。十分に噛み砕けないと唾液ともよく混ざらず、まとまりのよい食塊が作れない。大きな塊のまま飲み込もうとして、窒息や誤嚥の危険が高まる。義歯を入れても天然歯ほどの咀嚼効率は出ないことが多いんだ。
医学生医学生
唾液分泌低下も、食塊がまとまらなくなるという意味では同じ準備期の問題ですね。
ドクタードクター
そう。唾液は食物を湿らせて、粘りと滑りを与えて飲み込みやすくする。唾液が減ると食塊がぱさついて咽頭に残りやすくなる。高齢者では加齢に加えて、抗コリン薬や抗うつ薬、利尿薬などの薬剤、Sjögren症候群などで口腔乾燥が起こりやすいことも知っておこう。
医学生医学生
舌運動低下は、準備期と口腔期の両方に関わりそうです。
ドクタードクター
まさにそこ。舌は食物を歯の間に運んで咀嚼を助け、食塊にまとめ、さらに口蓋に押しつけるように前から後ろへ動いて咽頭へ送り込む。舌の動きが悪いと口の中に食物が残ったり、送り込みのタイミングがずれて誤嚥したりするんだ。
医学生医学生
咽頭収縮力低下は咽頭期ですね。飲み込んだあとに喉に残る感じでしょうか。
ドクタードクター
いいイメージだ。咽頭収縮筋が上から順に収縮して食塊を食道入口部へ押し込むことで、咽頭に食物が残らないようにしている。この力が落ちると喉頭蓋谷や梨状陥凹に食物が残り、嚥下後に気道へ流れ込んで誤嚥につながる。
医学生医学生
残るのは嗅覚低下ですが、においがわからないと食べ物だと気づきにくくて、飲み込みにも影響しそうな気がしてしまいます。
ドクタードクター
迷うのは自然だよ。臨床では嚥下の前段階として、視覚や嗅覚で食物を認識し、食べる量や速さを判断する先行期(認知期)を加えた5期モデルで考えることも多い。嗅覚はこの先行期で食欲や食物の認識に関わる。だから嗅覚が落ちると食事がおいしくなくなって食欲不振にはなりうる。でも、噛む、まとめる、送り込む、嚥下反射を起こすという運動そのものは障害されないんだ。
医学生医学生
なるほど、食欲の問題と、飲み込む運動の問題は分けて考えるんですね。だから嗅覚低下が原因とならないものになる。
ドクタードクター
その通り。ちなみに先行期の障害として臨床的に重要なのは、認知症や意識障害による食物認知の低下のほうだ。においの低下とは重みがまったく違うから、混同しないようにしよう。
医学生医学生
高齢者で嚥下障害が起こりやすいのは、今の選択肢以外にも理由がありますか。
ドクタードクター
あるよ。加齢で喉頭の位置が下がって嚥下時の喉頭挙上が不十分になることや、咳反射・嚥下反射の低下も大きい。さらに脳血管障害、Parkinson病、認知症などの基礎疾患が重なることが多いんだ。
医学生医学生
呼吸器内科を回ったとき、誤嚥性肺炎で入院を繰り返す患者さんが多くて驚きました。
ドクタードクター
嚥下障害の合併症として誤嚥性肺炎、窒息、低栄養、脱水は特に重要だ。眠っている間に口腔内の細菌を含む唾液を気づかずに誤嚥する不顕性誤嚥もあるから、むせがないから安心とは言えない。評価には、30秒間に空嚥下を何回できるかをみる反復唾液嚥下テスト(3回未満で異常の疑い)や改訂水飲みテスト、さらに嚥下造影検査や嚥下内視鏡検査がある。
医学生医学生
予防としては口腔ケアやとろみ付けでしょうか。
ドクタードクター
そう、口腔ケアで口の中の細菌を減らし、食形態を調整し、食事の姿勢を工夫し、嚥下訓練を行う。言語聴覚士や歯科、看護師、管理栄養士とのチーム医療が力を発揮する分野だよ。

まとめ

嚥下は、歯で噛み砕き唾液と混ぜて舌で食塊を作る準備期、舌で咽頭へ送り込む口腔期、嚥下反射と咽頭収縮で食道へ押し込む咽頭期、蠕動で胃へ運ぶ食道期という一連の運動です。歯牙欠損、唾液分泌低下、舌運動低下、咽頭収縮力低下はいずれもこの運動に直接関わり、高齢者の嚥下障害の原因となります。一方、嗅覚は先行期で食欲や食物認識に関わるものの、食塊を運ぶ運動には関与しないため嚥下障害の原因とはなりません。高齢者では喉頭位置の低下や反射の減弱、脳血管障害や認知症などの基礎疾患も加わり、誤嚥性肺炎・窒息・低栄養・脱水につながります。嚥下を段階ごとに整理して理解することは、誤嚥の評価や口腔ケア・食形態調整などの予防策を考える土台になります。

解答・解説

正解はaです

問われていること

嚥下(えんげ:飲み込み)は、食物を口に取り込んでから胃に送り届けるまでの一連の運動である。高齢者では加齢に伴い、この運動に関わる構造や機能(歯、舌、唾液腺、咽頭筋、喉頭挙上、嚥下反射など)が少しずつ衰え、嚥下障害が起こりやすくなる。本問は、選択肢のうち嚥下運動そのものに関与しないものを選ぶ問題である。

考え方

嚥下は一般に次の段階に分けて理解される。 1. 準備期(咀嚼期):歯で食物をかみ砕き、唾液と混ぜ、舌で寄せ集めて飲み込みやすい塊(食塊)を作る。 2. 口腔期:舌が口蓋に押しつけられるように動き、食塊を咽頭へ送り込む。 3. 咽頭期:嚥下反射により軟口蓋が鼻腔への通路を閉じ、喉頭が挙上して喉頭蓋が気道をふさぎ、咽頭収縮筋が順に収縮して食塊を食道へ押し込む。 4. 食道期:食道の蠕動運動で食塊が胃へ運ばれる。 歯・唾液・舌は準備期と口腔期に、咽頭収縮筋は咽頭期に直接関わるため、いずれの機能低下も嚥下障害の原因となる。一方、嗅覚は鼻腔の嗅上皮で感知される感覚で、食欲や「これは食べ物である」という認知には影響するが、口腔から食道への食塊の移送には関与しない。したがって嗅覚低下は嚥下障害の原因とはならない。

選択肢考察

  1. ○a.  嗅覚低下

    嗅覚は食物の香りを感じ取り、食欲を引き起こしたり食べ物を認識したりすることに関わる感覚である。嗅覚が低下すると食事の味わいが落ちて食欲不振につながることはあるが、咀嚼・食塊形成・咽頭への送り込み・嚥下反射といった嚥下運動そのものは障害されない。よって嚥下障害の原因とはならず、本問の正解となる。

  2. ×b.  歯牙欠損

    歯は準備期に食物をかみ砕く役割を担う。歯が欠けていると食物を十分に細かくできず、唾液ともよく混ざらないため、まとまりのよい食塊が作れない。その結果、大きな塊のまま飲み込もうとして窒息や誤嚥の危険が高まる。義歯を入れても咀嚼の効率は天然歯に及ばないことが多い。嚥下障害の原因となる。

  3. ×c.  舌運動低下

    舌は準備期に食物を上下の歯の間へ運んで咀嚼を助け、唾液と混ぜて食塊にまとめ、口腔期には舌の前方から後方へと口蓋に押しつけるように動いて食塊を咽頭へ送り込む。舌運動が低下すると食塊の形成と送り込みがともに障害され、口腔内に食物が残ったり、送り込みのタイミングがずれて誤嚥したりする。嚥下障害の原因となる。

  4. ×d.  唾液分泌低下

    唾液は耳下腺・顎下腺・舌下腺などから分泌され、食物を湿らせてまとめ、適度な粘りと滑りを与えて食塊を飲み込みやすくする。高齢者では加齢のほか、抗コリン薬・抗うつ薬・利尿薬などの薬剤やSjögren症候群などで唾液分泌が低下しやすい(口腔乾燥症)。唾液が減ると食塊がまとまらずぱさついて咽頭に残りやすくなり、嚥下障害の原因となる。

  5. ×e.  咽頭収縮力低下

    咽頭期には、上・中・下の咽頭収縮筋が上から順に収縮して食塊を食道入口部へ押し込み、咽頭内に食物を残さないようにする(咽頭クリアランス)。咽頭収縮力が低下すると、喉頭蓋谷や梨状陥凹に食物が残留し、嚥下後に気道へ流れ込む誤嚥の原因となる。嚥下障害の原因となる。

摂食嚥下の5期モデル

臨床では、嚥下の前段階を含めて次の5期で考えることも多い。 1. 先行期(認知期):視覚・嗅覚などで食物を認識し、食べる量や速さを判断して口に運ぶ。 2. 準備期(咀嚼期) 3. 口腔期 4. 咽頭期 5. 食道期 嗅覚は先行期で食物の認識や食欲に関わるにすぎず、食塊を運ぶ運動には関与しない。先行期の障害として臨床的に重要なのは、認知症や意識障害による食物認知の低下である。

高齢者で嚥下障害が起こりやすい理由

・歯の喪失や義歯不適合による咀嚼力の低下 ・舌や口唇・頬の筋力低下 ・唾液分泌の低下(加齢、多剤服用) ・喉頭の位置が下がり、嚥下時の喉頭挙上が不十分になる ・咽頭収縮力や咳反射・嚥下反射の低下 ・脳血管障害、Parkinson病、認知症などの基礎疾患

嚥下障害がもたらす問題

誤嚥性肺炎、窒息、低栄養、脱水が主な合併症である。誤嚥性肺炎は高齢者の肺炎の大きな割合を占め、睡眠中に口腔内の細菌を含む唾液を気づかずに誤嚥する不顕性誤嚥も重要である。予防には口腔ケア、食形態の調整(とろみ付けなど)、食事時の姿勢の工夫、嚥下訓練が行われる。

主な評価法

反復唾液嚥下テスト(RSST:30秒間に空嚥下が何回できるか、3回未満で異常の疑い)、改訂水飲みテスト、嚥下造影検査(VF)、嚥下内視鏡検査(VE)などがある。

POINT

・嚥下は準備期(咀嚼)→口腔期→咽頭期→食道期の流れで食塊を運ぶ運動であり、歯・舌・唾液・咽頭収縮筋はいずれも嚥下に直接関わる。 ・嗅覚は食欲や食物認識に関わるが、嚥下運動には関与しないため嚥下障害の原因とはならない。 ・高齢者の嚥下障害は誤嚥性肺炎・窒息・低栄養・脱水につながる。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。