白い胸水は胸管からのSOS―食道癌手術とLAMに共通する「リンパの破綻」
第115回医師国家試験 D問題 第14問
国試問題にチャレンジ
乳び胸の原因となるのはどれか。2つ選べ。
- a.心不全
- b.食道癌手術
- c.細菌性胸膜炎
- d.月経随伴性気胸
- e.肺リンパ脈管筋腫症〈LAM〉
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
乳び胸は、胸管の損傷や閉塞によってカイロミクロンを含むリンパ液が胸腔にたまる状態で、原因は外傷性と非外傷性に分けて整理します。外傷性では、後縦隔で胸管に近接する食道の切除術やリンパ節郭清が代表的で、術後に脂肪摂取を始めるとドレーン排液が乳白色になることで気づかれます。非外傷性では悪性リンパ腫が最多で、若い女性ではリンパ管系で平滑筋様細胞が増殖するLAMが重要です。心不全は漏出性胸水、細菌性胸膜炎は膿胸、月経随伴性気胸は血胸と結びつき、乳び胸の代表的な原因ではありません。診断には胸水トリグリセリド値と偽性乳び胸との鑑別が欠かせず、胸管の解剖と病態を結びつけて理解することが、術後管理や胸水の評価に直結します。
解答・解説
正解はb, eです
乳び胸(chylothorax)とは、乳びが胸腔内にたまった状態をいう。乳びは、小腸で吸収された脂肪をカイロミクロン(脂質を運ぶリポ蛋白の一種)として含むリンパ液である。乳びを運ぶ胸管が損傷したり、閉塞したりして、リンパ液が漏れ出すことで起こる。 胸管の走行と乳び胸の起こり方は次のとおりである。 ・胸管は腹部の乳び槽(第1〜2腰椎の高さ)から始まり、大動脈裂孔を通って胸腔に入る。 ・胸腔内では、下部では脊柱の右前方を、大動脈と奇静脈の間に沿って上行する。第4〜6胸椎の高さで左側へ移り、最後は左静脈角(左内頸静脈と左鎖骨下静脈の合流部)に注ぐ。 ・このため、胸管が下部で損傷すると右側の、上部で損傷すると左側の乳び胸が起こりやすい。 乳び胸の原因は、大きく外傷性と非外傷性に分けられる。 ・外傷性:胸部外傷、胸部の手術による胸管の損傷。手術では食道切除術が代表的である。 ・非外傷性:悪性腫瘍(悪性リンパ腫が最多)によるリンパ管の閉塞・浸潤、リンパ管の異常増殖を起こす疾患(肺リンパ脈管筋腫症など)、上大静脈や鎖骨下静脈の血栓症、原因不明の特発性など。 本問では、胸管を直接損傷しうる食道癌手術と、リンパ管系の異常を本態とする肺リンパ脈管筋腫症(LAM)が、乳び胸の典型的な原因である。心不全、細菌性胸膜炎、月経随伴性気胸でたまる胸水(胸腔内の液体)は、それぞれ漏出性胸水、滲出性胸水・膿胸、血胸であり、乳び胸の代表的な原因ではない。
選択肢考察
- ×a. 心不全
誤り。心不全では、静脈圧が上がって毛細血管内の静水圧が高くなり、その結果として胸水がたまる。この胸水は蛋白濃度の低い漏出性胸水で、両側にたまることが多い(片側の場合は右側に多い)。中心静脈圧の上昇によって胸管から静脈への流れが悪くなり、ごくまれに乳び胸を合併したという報告はある。しかし頻度は極めて低く、胸管そのものを損傷する食道癌手術や、リンパ管の異常を本態とするLAMと比べると、乳び胸の原因として挙げる疾患ではない。
- ○b. 食道癌手術
正しい。食道は後縦隔で胸管のすぐ近くを走っている。そのため、食道切除術やリンパ節郭清の際に胸管やその分枝が傷つき、術後に乳び胸を起こすことがある。食道癌手術は、術後乳び胸の原因として最も代表的なものの一つである。術後に絶食している間は胸腔ドレーンからの排液が淡い色でも、経口摂取や経腸栄養を始めて脂肪が入ると、排液が乳白色に変わり量が増えることで気づかれることが多い。食道癌手術では、胸管ごと郭清(胸管合併切除)したり、胸管を結紮したりすることもある。治療は、まず保存的に行う。絶食と中心静脈栄養、または中鎖脂肪酸(MCT)食を用いる(中鎖脂肪酸はリンパ管を通らず門脈から吸収される)。ソマトスタチンアナログ(オクトレオチド)を用いることもある。排液が多い状態が続く場合は、胸管結紮術やリンパ管塞栓術を行う。
- ×c. 細菌性胸膜炎
誤り。細菌性胸膜炎は、肺炎などに続いて胸膜に細菌感染が及んだ状態である。炎症によって血管の透過性が高まり、好中球が多く、蛋白とLDHの濃度が高い滲出性胸水がたまる(肺炎随伴性胸水)。胸水のpHやグルコースが低下したり、胸水から細菌が検出されたりする複雑性肺炎随伴性胸水に進むことがある。さらに胸腔内に膿がたまると膿胸となる。膿胸は白く濁って見えるため乳び胸と紛らわしいが、遠心分離すると上清は透明になる点で区別できる(乳び胸は遠心後も白濁が残る)。細菌性胸膜炎は乳び胸の原因ではない。
- ×d. 月経随伴性気胸
誤り。月経随伴性気胸は、月経の開始前後(多くは開始から72時間以内)に繰り返し起こる気胸である。生殖年齢の女性で右側に多い。胸腔内子宮内膜症(横隔膜や胸膜、肺に子宮内膜の組織が存在する状態)が背景にある。発生機序としては、横隔膜の小さな孔を通って空気が流れ込むこと、胸膜や肺の病変が月経に合わせて剥がれ落ちることなどが考えられている。月経に一致して血胸や喀血を伴うことはあるが、胸管やリンパ管を障害する病態ではないため、乳び胸の原因にはならない。治療は、手術(横隔膜の病変の切除・修復)と、ホルモン療法による月経の抑制を組み合わせる。
- ○e. 肺リンパ脈管筋腫症〈LAM〉
正しい。肺リンパ脈管筋腫症(lymphangioleiomyomatosis:LAM)は、生殖年齢の女性にほぼ限って発症するまれな疾患である。平滑筋に似た異常な細胞(LAM細胞)が、肺やリンパ管系(体軸に沿ったリンパ節や胸管など)で増える。LAM細胞にはmTOR経路の制御に関わるTSC遺伝子の異常があり、結節性硬化症に合併するもの(TSC-LAM)と、合併しない孤発性のもの(孤発性LAM)がある。LAM細胞がリンパ管の壁や内腔で増えてリンパの流れを妨げたり、リンパ管が破綻したりするため、乳び胸や乳び腹水がしばしば起こる。肺では、胸部CTで薄い壁をもつ嚢胞がびまん性・多発性にみられる。主な症状は労作時の呼吸困難で、気胸を繰り返すことも多い。治療にはmTOR阻害薬のシロリムスが用いられ、肺機能の低下を抑え、乳び胸水の減少にも効果がある。
乳び胸の診断
・胸水は典型的には乳白色で、遠心分離しても上清の白濁が残る。ただし、絶食中や栄養状態が悪い場合は乳白色にならず、漿液性に見えることもある。 ・胸水中のトリグリセリド(中性脂肪)が110 mg/dL以上なら乳び胸の可能性が高く、50 mg/dL未満ならほぼ否定できる。その中間の値では、リポ蛋白電気泳動でカイロミクロンを確認する。 ・胸水中の細胞はリンパ球が主体である。 ・リンパ管シンチグラフィやリンパ管造影で、漏れている部位を調べることがある。
偽性乳び胸(コレステロール胸膜炎)との鑑別
・結核性胸膜炎や関節リウマチなどで、長期間(数年単位)たまっていた胸水にコレステロールが蓄積し、白濁する状態である。 ・胸水中のコレステロールが高く(200 mg/dL以上)、コレステロール結晶がみられる。カイロミクロンは検出されない。 ・胸膜が肥厚していることが多い。
乳び胸の原因
・外傷性:胸部の手術(食道切除術、心臓・大血管の手術、肺切除・縦隔リンパ節郭清など)、胸部外傷、中心静脈カテーテル留置に伴う損傷。 ・非外傷性:悪性腫瘍(悪性リンパ腫が最も多い。そのほか肺癌、縦隔腫瘍など)、LAM、リンパ管腫症、上大静脈・鎖骨下静脈の血栓症、結核・サルコイドーシス、黄色爪症候群、肝硬変に伴う乳び腹水の胸腔への移行、特発性(先天性の乳び胸は新生児の胸水の原因として重要)。
治療
・保存的治療:胸腔ドレナージで排液し、絶食と中心静脈栄養、または中鎖脂肪酸(MCT)食で胸管を流れるリンパ液を減らす。オクトレオチドを用いることもある。 ・保存的治療で改善しない場合:胸管結紮術、リンパ管塞栓術、胸膜癒着術などを行う。 ・長く排液が続くと、蛋白質、脂肪、リンパ球(特にTリンパ球)が失われ、低栄養や免疫不全になるおそれがあるため注意が必要である。
POINT
・乳び胸は、胸管の損傷や閉塞によって、カイロミクロンを含むリンパ液(乳び)が胸腔にたまる状態である。 ・外傷性の原因では、食道切除術などの胸部の手術による胸管損傷が代表的である。 ・非外傷性の原因では、悪性リンパ腫が最多である。若い女性ではLAMを考える。 ・胸水中のトリグリセリドが110 mg/dL以上なら乳び胸を示唆する。高コレステロールの偽性乳び胸と区別する。 ・月経随伴性気胸に伴うのは血胸、細菌性胸膜炎に伴うのは膿胸、心不全に伴うのは漏出性胸水である。
