StudyMed医師国家試験

濁った胸水にGram陽性球菌―肺炎のその先にある膿胸をどう治すか

第120回医師国家試験 D問題 第25問

国試問題にチャレンジ

第120回 D問題 第25問

65歳の男性。発熱と胸痛を主訴に来院した。1週間前から咳嗽と喀痰を認めていた。3日前から発熱を伴い,膿性痰が増量し,昨日から胸痛を自覚したため受診した。56歳時から糖尿病の治療中である。60歳の妻と2人暮らし。喫煙は20歳から20本/日を45年間。飲酒は機会飲酒。意識は清明。身長174cm,体重71kg。体温38.3℃。脈拍84/分,整。血圧142/80mmHg。呼吸数20/分。SpO2 96%(room air)。眼瞼結膜と眼球結膜とに異常を認めない。頸静脈の怒張を認めない。心音に異常を認めない。左胸部の呼吸音が減弱している。腹部は平坦,軟で,肝・脾を触知しない。血液所見:赤血球502万,Hb 14.6g/dL,Ht 48%,白血球15,200,血小板23万。血液生化学所見:総蛋白7.0g/dL,アルブミン4.2g/dL,AST 36U/L,ALT 32U/L,LD 338U/L(基準124~222),尿素窒素10mg/dL,クレアチニン0.8mg/dL,空腹時血糖140mg/dL,HbA1c 7.0%(基準4.9~6.0),Na 139mEq/L,K 4.2mEq/L,Cl 103mEq/L。CRP 22mg/dL。胸部エックス線写真を下に示す。左胸腔にドレーンを挿入し,胸水のドレナージを行ったところ,胸水は混濁していた。採取した胸水には白血球を多数認め,Gram染色標本ではGram陽性球菌が確認された。  適切な治療薬はどれか。

第120回 D問題 第25問の問題画像
  1. a.抗菌薬
  2. b.抗結核薬
  3. c.抗真菌薬
  4. d.気管支拡張薬
  5. e.吸入副腎皮質ステロイド薬

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、肺炎の経過中に胸痛と胸水が出てきた症例で、何を投与すべきかを考える問題だ。ポイントは、胸水の性状とGram染色の結果をどう解釈するか。まず、経過から何が起きていると考えたかな。
医学生医学生
咳と痰で始まって、発熱とともに膿性痰が増えているので、細菌性肺炎だと思います。そこに胸痛が加わったのが気になりました。
ドクタードクター
いい着眼点だ。胸痛は、炎症が肺から胸膜まで広がってきたサインと考えられる。左の呼吸音が減弱していて、胸部エックス線写真でも左下肺野の透過性が低下しているから、左胸水の貯留が考えられるね。
医学生医学生
頸静脈怒張や心音の異常がないので、心不全による胸水ではなさそうですね。
ドクタードクター
その通り。細菌性肺炎に伴ってたまる胸水を肺炎随伴性胸水という。これが進んで胸腔内に細菌感染が成立し、胸水が膿性に濁ったり、胸水中に細菌が確認されたりすれば膿胸と呼ぶ。今回は混濁した胸水、多数の白血球、Gram陽性球菌がそろっているね。
医学生医学生
膿胸ということは、病理実習で見た「胸膜に膿がたまった状態」ですね。糖尿病があるのも関係しますか。
ドクタードクター
関係する。糖尿病は感染にかかりやすく重症化しやすい背景で、膿胸の危険因子の一つだ。では治療の柱は何だと思う?
医学生医学生
膿をドレナージで出すことと……、原因菌を叩く抗菌薬でしょうか。
ドクタードクター
正解。膿胸の治療は胸腔ドレナージと抗菌薬の全身投与の2本立てだ。ドレナージはもう済んでいるから、残るのは抗菌薬になる。Gram陽性球菌としては肺炎球菌、口腔内常在のレンサ球菌、黄色ブドウ球菌などが考えられるし、市中発症の膿胸では口腔内の嫌気性菌が混ざっていることも多い。だから例えばアンピシリン・スルバクタムのようなβ-ラクタマーゼ阻害薬配合ペニシリンを点滴で始め、胸水や血液の培養結果を見て絞り込むのが一般的だ。
医学生医学生
投与期間は肺炎より長くなるんですか。
ドクタードクター
一般に数週間と長めになる。膿のたまった空間には薬が届きにくいからね。では、ほかの選択肢がなぜ違うかも確認しよう。抗結核薬はどうかな。
医学生医学生
胸水で結核といえばADAが高いリンパ球優位の滲出性胸水、とCBTの勉強で覚えました。
ドクタードクター
その知識がそのまま使える。結核性胸膜炎は数週間かけてゆっくり発症することが多く、今回ほど強い急性炎症は示しにくい。膿性胸水でGram陽性球菌が見えている今回とは合わないね。抗真菌薬は?
医学生医学生
真菌なら、Gram染色で球菌よりずっと大きな酵母や菌糸として見えるはずですよね。
ドクタードクター
そう。真菌性膿胸は高度な免疫不全や食道穿孔、胸部手術後などに限られるまれなものだ。気管支拡張薬と吸入ステロイドはどうだろう。
医学生医学生
喫煙歴は長いのでCOPDが頭をよぎりましたが、喘鳴や呼気延長の記載はないですね。
ドクタードクター
そうなんだ。どちらも喘息やCOPDの気道の病気に使う薬で、胸腔内の細菌感染は治せない。吸入ステロイドは局所の免疫を抑えるから、むしろ感染には不利に働きうる。
医学生医学生
肺炎のあとに胸痛と片側の呼吸音減弱が出たら胸水を疑って穿刺し、膿性や菌陽性ならドレナージと抗菌薬、という流れですね。
ドクタードクター
その通り。発展として押さえたいのは、肺炎随伴性胸水の病期だ。透明でpHやグルコースが保たれる滲出期なら抗菌薬だけで改善することが多い。進むと胸水が濁り、pHとグルコースが下がってLDが上がり、フィブリンで隔壁ができて多房化する。最後は胸膜が厚く線維化して肺が膨らまなくなる。肉眼的な膿、Gram染色や培養陽性、pH7.20未満、グルコース60mg/dL未満などがドレナージを考える目安だ。
医学生医学生
多房化してドレーンが効かなかったらどうするんですか。
ドクタードクター
胸腔内にウロキナーゼなどの線維素溶解薬を注入する方法があり、それでも改善しなければ胸腔鏡下手術で掻爬や剝皮術を行う。呼吸器内科や呼吸器外科の実習では、ドレーンの排液量や性状の変化を毎日確認する意味をぜひ意識してほしい。

まとめ

細菌性肺炎の経過中に胸痛と片側の呼吸音減弱が加わったら、肺炎随伴性胸水から膿胸への進展を疑って胸腔穿刺を行います。胸水が混濁し、白血球が多数でGram染色や培養で菌が確認されれば膿胸と診断し、治療の柱は胸腔ドレナージと原因菌に有効な抗菌薬の全身投与です。Gram陽性球菌(肺炎球菌、レンサ球菌、黄色ブドウ球菌など)に加え嫌気性菌の混在も考えて薬を選び、培養結果で絞り込みながら数週間投与します。結核性胸膜炎はリンパ球優位・ADA高値、真菌は大型の酵母や菌糸として見える点で区別でき、気管支拡張薬や吸入ステロイドは胸腔内感染には無効です。胸水の病期と性状から治療の強度を判断する考え方は、多房化例での線維素溶解療法や手術の適応判断にもつながります。

解答・解説

正解はaです

所見の整理

・65歳男性。糖尿病で治療中(HbA1c 7.0%)であり、感染症にかかりやすく重症化しやすい背景がある。喫煙指数は20本×45年=900と重喫煙者である。 ・1週間前から咳と痰があり、3日前から発熱とともに膿性痰が増えた。これは下気道の細菌感染(肺炎)の経過である。昨日から胸痛が加わっており、炎症が胸膜に広がったことを示す。 ・体温38.3℃。呼吸数20/分とやや多いが、SpO2 96%で呼吸不全はない。頸静脈怒張や心音異常がなく、心不全による胸水は考えにくい。 ・左胸部の呼吸音が減弱している。胸水や無気肺など、左胸腔内の異常を示す所見である。 ・白血球15,200/μL、CRP 22mg/dLと強い炎症反応がある。LDの軽度上昇も組織の炎症・障害を反映している。 ・胸部エックス線写真では左下肺野の透過性が低下しており、左胸水の貯留が考えられる。 ・ドレナージした胸水は混濁し、白血球が多数みられ、Gram染色でGram陽性球菌が見つかった。

診断へのプロセス

細菌性肺炎に続いて胸水がたまる病態を肺炎随伴性胸水という。これが進んで胸腔内に細菌感染が成立し、肉眼的に膿性(混濁)で、胸水中に細菌が確認されれば膿胸と診断する。本例は混濁した胸水、多数の白血球、Gram染色での細菌の確認がそろっており、肺炎に続いて起こった細菌性膿胸と診断できる。Gram陽性球菌としては、肺炎球菌、レンサ球菌(特にStreptococcus anginosus群などの口腔内常在レンサ球菌)、黄色ブドウ球菌などが考えられる。糖尿病は膿胸の危険因子の一つである。

設問の考え方

膿胸の治療の柱は「胸腔ドレナージ」と「原因菌に有効な抗菌薬の全身投与」である。ドレナージはすでに行われているので、残る治療はGram陽性球菌をねらった抗菌薬である。結核、真菌、気道閉塞性疾患を示す所見はないので、ほかの薬は適応にならない。

選択肢考察

  1. ○a.  抗菌薬

    胸水のGram染色でGram陽性球菌が確認された細菌性膿胸なので、胸腔ドレナージとあわせて抗菌薬を全身投与する。市中発症の膿胸では、肺炎球菌やレンサ球菌に加え、口腔内の嫌気性菌も混ざっていることが多い。そのため、まずβ-ラクタマーゼ阻害薬配合ペニシリン(アンピシリン・スルバクタムなど)などを点滴静注で開始し、胸水や血液の培養結果を見て薬を絞り込む。投与期間は一般に数週間と長めになる。以上から、正しい。

  2. ×b.  抗結核薬

    結核性胸膜炎は、数週間かけてゆっくり発症することが多く、本例ほど強い急性炎症(白血球15,200/μL、CRP 22mg/dL)は示しにくい。胸水はリンパ球が主体の滲出性胸水で、アデノシンデアミナーゼ(ADA)が高値になる。胸水の塗抹で結核菌が見つかることは少ない。本例は好中球が主体と考えられる膿性胸水でGram陽性球菌が見つかっており、結核を示す所見はない。抗結核薬は適応にならないので、誤りである。

  3. ×c.  抗真菌薬

    真菌(カンジダ、アスペルギルスなど)による膿胸は、高度な免疫不全や食道穿孔、胸部手術後などに限られ、まれである。真菌はGram染色で球菌よりずっと大きな酵母や菌糸として見えるので、Gram陽性球菌とは区別できる。本例では原因菌はGram陽性球菌と考えられ、抗真菌薬は不要なので、誤りである。

  4. ×d.  気管支拡張薬

    気管支拡張薬(β2刺激薬、抗コリン薬など)は、気管支喘息や慢性閉塞性肺疾患(COPD)のように気道が狭くなる病気で、気流制限を改善するために使う。本例は重喫煙者ではあるが、喘鳴や呼気の延長など気道閉塞を示す所見はなく、SpO2も96%に保たれている。胸水がたまる病態は気管支拡張薬では改善しないので、誤りである。

  5. ×e.  吸入副腎皮質ステロイド薬

    吸入副腎皮質ステロイド薬は、気管支喘息(およびCOPDの一部)の気道の慢性炎症を抑える長期管理薬である。細菌が胸腔内に感染している膿胸を治す作用はなく、局所の免疫を抑えるためむしろ感染に不利に働きうる。本例に使う理由はないので、誤りである。

肺炎随伴性胸水と膿胸

細菌性肺炎の経過中に生じる胸水を肺炎随伴性胸水という。病期はおおむね次の3つに分けられる。 1. 滲出期:胸水は透明で、pHやグルコースは保たれる。抗菌薬だけで改善することが多い。 2. 線維素膿性期:細菌が胸腔内に入り、胸水が混濁してくる。pHとグルコースが低下し、LDが上昇する。フィブリンの析出で隔壁ができ、胸水が小部屋に分かれる(多房化)。 3. 器質化期:胸膜が厚く線維化し、肺が十分に膨らまなくなる(肺の捕捉)。 胸腔ドレナージが必要と判断する目安は、肉眼的な膿、Gram染色または培養が陽性、胸水pH<7.20、胸水グルコース<60mg/dLなどである(複雑性肺炎随伴性胸水・膿胸)。

膿胸の治療

・抗菌薬の全身投与:原因菌に合わせて選び、長めに続ける(数週間)。嫌気性菌が混ざっていることを考えて選択する。 ・胸腔ドレナージ:膿を体外へ排出する。 ・多房化してドレナージが効かない場合:胸腔内に線維素溶解薬(ウロキナーゼなど)を注入する。それでも改善しなければ胸腔鏡下手術(VATS)による掻爬(かき出し)や剝皮術(肥厚した胸膜を剝がす手術)を行う。

胸水の鑑別のヒント

・Lightの基準:胸水/血清総蛋白比>0.5、胸水/血清LD比>0.6、胸水LDが血清LD基準値上限の2/3を超える、のいずれかを満たせば滲出性胸水とする。 ・結核性:リンパ球優位、ADA高値。 ・癌性:血性のことが多く、細胞診で悪性細胞がみられる。 ・心不全:両側性で漏出性。

POINT

・肺炎に続いて発熱・胸痛・片側の呼吸音減弱 → 肺炎随伴性胸水・膿胸を疑い、胸腔穿刺を行う。 ・混濁した(膿性の)胸水やGram染色・培養が陽性なら膿胸 → 胸腔ドレナージと抗菌薬の全身投与。 ・Gram陽性球菌(肺炎球菌、レンサ球菌、黄色ブドウ球菌)に加えて嫌気性菌も考えて抗菌薬を選ぶ。 ・結核性胸膜炎はリンパ球優位・ADA高値の滲出性胸水。 ・糖尿病は膿胸の危険因子。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。