ドレーンでは止まらない出血―血気胸で緊急手術に踏み切るタイミング
第120回医師国家試験 A問題 第30問
国試問題にチャレンジ
20歳の女性。胸痛と息苦しさとを主訴に救急車で搬入された。1時間前,咳をした後に右胸痛と呼吸困難が出現し,次第に増悪したため救急車を要請した。身長162cm,体重48kg。体温36.5℃。心拍数108/分,整。血圧84/48mmHg。呼吸数18/分。SpO2 95%(リザーバー付マスク10L/分酸素投与下)。眼瞼結膜は貧血様である。心音に異常を認めない。呼吸音は右で減弱している。血液所見:赤血球290万,Hb 9.5g/dL,Ht 29%,白血球10,690,血小板19万。胸部エックス線写真を下に示す。輸液を開始し胸腔ドレナージを施行したところ,血性排液1,200mLがあり持続的に空気漏れがみられた。ドレナージ2時間後,胸腔ドレナージ排液は血性で1時間200mLの排液と空気漏れが持続しており,SpO2 99%(マスク8L/分酸素投与下)であった。この時点で末梢血液所見は赤血球245万,Hb 7.5g/dL,Ht 24%,白血球12,600,血小板18万であった。心拍数120/分,整。血圧70/40mmHgで赤血球輸血を開始した。 この時点で行うべき対応はどれか。

- a.緊急手術
- b.胸膜癒着術
- c.昇圧薬投与
- d.胸腔ドレーンの追加
- e.グルココルチコイド投与
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
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ドクター
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医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
やせ型の若年者が咳などを契機に胸痛と呼吸困難を発症し、貧血やショックを伴い、胸部エックス線写真で気胸に液面形成(ニボー)を認める場合は血気胸を考えます。出血の多くは肺の虚脱で断裂した癒着索内の体循環系血管からで、圧が高いため自然止血しにくいのが特徴です。治療はまず胸腔ドレナージですが、初回排液1,000〜1,500mL以上、200mL/時以上の排液が2〜4時間持続、輸液・輸血でも循環動態が不安定のいずれかを満たせば、止血とブラ切除を目的とした緊急手術の適応となります。出血性ショックでは昇圧薬やドレーン追加、胸膜癒着術、ステロイドでは出血は止まらず、輸液・輸血で時間を稼ぎながら出血源を制御することが原則です。ショックの病態に応じて治療を選ぶ考え方は、外傷を含む救急診療全般に通じる重要な基盤となります。
解答・解説
正解はaです
所見の整理
・20歳の女性、身長162cm・体重48kg(BMI約18.3)のやせ型。咳を契機に右胸痛と呼吸困難が急に出現し、1時間で増悪している。やせ型の若年者に咳などで胸腔内圧が上昇したのを契機に発症する経過は、肺尖部のブラ・ブレブ破綻による自然気胸の典型像である。 ・来院時から頻脈(108/分)と低血圧(84/48mmHg)があり、ショック指数(心拍数÷収縮期血圧)は約1.3とショック状態である。眼瞼結膜は貧血様で、Hb 9.5g/dLと貧血を認める。 ・右呼吸音減弱。胸部エックス線写真では右肺の虚脱(気胸)に加えて右胸腔内に液面形成(ニボー)を伴う液体貯留を認める。気体と液体が同時に存在するため、液体の上縁が水平な線として描出される。 ・胸腔ドレナージで血性排液1,200mLと持続的な空気漏れ(エアリーク)が得られたことから、血気胸と確定できる。
診断
自然血気胸である。気胸で肺が虚脱する際に、壁側胸膜と肺(ブラ)の間に張っていた癒着索状物が引きちぎられ、その中を走る血管(体循環系の小動脈)から出血する機序が代表的である。体循環由来の動脈性出血は圧が高く、自然止血しにくい。
経過の評価
ドレナージ2時間後も血性排液が200mL/時で持続し、エアリークも止まっていない。Hb は9.5→7.5g/dLへ低下し、心拍数120/分・血圧70/40mmHgと、輸液・輸血を行ってもショックが進行している。すなわち活動性の出血が続いており、出血性(循環血液量減少性)ショックの状態である。
設問の考え方
血胸に対して開胸または胸腔鏡下での止血術を考慮する目安として、①ドレナージ開始時の排液量が1,000〜1,500mL以上、②その後の排液が200mL/時以上で2〜4時間持続、③輸液・輸血を行っても循環動態が安定しない、などが挙げられる。本例は①〜③のすべてを満たしており、出血源を直接止血する緊急手術が必要である。輸液・輸血は手術までの時間をつなぐための蘇生処置であり、出血源の制御(根本治療)にはならない。
選択肢考察
- ○a. 緊急手術
初回排液1,200mL、その後も200mL/時の血性排液が持続し、輸液・輸血下でもHb低下とショックが進行している。ドレナージでは止まらない活動性出血であり、出血源(断裂した癒着索内の血管など)の止血と、エアリークの原因となっているブラの切除を同時に行う緊急手術の適応である。現在は胸腔鏡下手術(VATS)が選択されることが多いが、循環動態が極めて不安定な場合は開胸手術が選ばれる。
- ×b. 胸膜癒着術
胸膜癒着術は、タルクや自己血、OK-432などを胸腔内に注入して壁側胸膜と臓側胸膜を癒着させ、胸腔を閉鎖する処置である。悪性胸水の再貯留予防や、手術が困難な難治性気胸に用いられる。肺が十分に再膨張していることが前提であり、癒着が完成するまで時間もかかる。進行中の動脈性出血を止める効果はなく、本例の救命処置にはならない。
- ×c. 昇圧薬投与
本例のショックは出血による循環血液量減少性ショックである。この病態では内因性カテコラミンによる血管収縮がすでに最大限に働いており、昇圧薬を加えても効果は乏しい。さらに末梢血管の収縮による臓器虚血を悪化させるおそれがある。優先すべきは輸液・輸血による循環血液量の補充と、手術による出血源の制御である。
- ×d. 胸腔ドレーンの追加
現在のドレーンからは血液も空気も十分に排出されており、SpO2も改善していることから、ドレナージ自体は機能している。問題は出血そのものが続いていることであり、ドレーンを増やしても止血はできない。ドレーンの追加は、排出不良やドレーンの閉塞、別の部位に残った貯留がある場合に検討する処置である。
- ×e. グルココルチコイド投与
グルココルチコイド(副腎皮質ステロイド)は、アナフィラキシーショックの二相性反応の予防(補助的な位置づけ)や、副腎不全(副腎クリーゼ)によるショックなどで用いられる。出血性ショックには効果がなく、止血作用もない。
自然血気胸
・自然気胸のうち数%にみられ、若年のやせ型男性に多いが女性にも起こる。 ・主な出血源は、肺と壁側胸膜の間の癒着索状物が肺の虚脱で断裂した際の血管で、肋間動脈など体循環系の血管から出血する。体循環系は肺循環系より圧が高いため、自然止血しにくく大量出血になりやすい。 ・胸部エックス線写真で、気胸の所見(肺の虚脱線)に加えて液面形成(ニボー)を認めるのが特徴である。単純な胸水では液体の上縁がメニスカス状(外側が高い曲線)になるが、胸腔内に空気が同時にあると水平線になる。
血胸の初期対応と手術適応
・まず太めの胸腔ドレーンを挿入し、血液を排出して肺を再膨張させ、排液量で出血の勢いを評価する。 ・開胸または胸腔鏡下の止血術を考慮する目安:ドレナージ開始時の排液量が1,000〜1,500mL以上、200mL/時以上の排液が2〜4時間持続、輸液・輸血を行っても循環動態が不安定。 ・ドレナージで止血が得られても、胸腔内に凝血塊が残る場合(凝固血胸)は、膿胸や肺の拘束を防ぐため胸腔鏡下での除去を検討する。
ショックの分類と治療の原則
・循環血液量減少性ショック(出血など):輸液・輸血と出血源の制御。 ・血液分布異常性ショック(敗血症、アナフィラキシー、神経原性):輸液と血管収縮薬(アナフィラキシーではアドレナリン筋注が第一選択)。 ・心原性ショック:強心薬、原因疾患(心筋梗塞など)への治療。 ・心外閉塞・拘束性ショック(緊張性気胸、心タンポナーデ、肺塞栓症):閉塞の解除(脱気、心囊穿刺、血栓溶解など)。
POINT
・やせ型の若年者が咳などを契機に胸痛・呼吸困難を発症し、貧血とショックを伴う場合は血気胸を考える。 ・胸部エックス線写真で気胸に液面形成(ニボー)を伴えば血気胸を示唆する。 ・治療はまず胸腔ドレナージ。初回排液1,000〜1,500mL以上、200mL/時以上が2〜4時間持続、輸液・輸血でも循環動態が不安定ならば緊急手術(止血術)の適応である。 ・出血性ショックでは昇圧薬ではなく、輸液・輸血と出血源の制御を優先する。
