StudyMed医師国家試験

赤紫の顆粒が埋め尽くす骨髄―急性前骨髄球性白血病とt(15;17)をつなぐ一本の線

第119回医師国家試験 D問題 第10問

国試問題にチャレンジ

第119回 D問題 第10問

骨髄血塗抹May-Giemsa染色標本を下に示す。  この患者にみられる染色体異常はどれか。

第119回 D問題 第10問の問題画像
  1. a.t(4;14)
  2. b.t(8;21)
  3. c.t(9;22)
  4. d.t(15;17)
  5. e.t(16;16)

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、骨髄塗抹標本の細胞像から白血病の病型を見抜き、そこに対応する染色体異常を選ぶ問題だ。形態から病型、病型から遺伝子異常へと、2段階でつなげる力が試されているよ。まずは標本の印象を言葉にしてみよう。
医学生医学生
大きめの細胞が視野をほぼ埋め尽くしていて、正常な造血細胞がほとんど見当たりません。急性白血病でしょうか。
ドクタードクター
いいね。では、その細胞の細胞質に注目してみよう。May-Giemsa染色で赤紫色に染まる粗大な顆粒が、ぎっしり詰まっているのがわかるかな。
医学生医学生
はい、顆粒がすごく目立ちます。これはアズール顆粒ですか。
ドクタードクター
そう。アズール顆粒に富んだ幼若な骨髄系細胞、つまり異常前骨髄球が骨髄を占拠している像だ。核も類円形のものから、くびれや切れ込みのある不整形のものまで混じっている。ここから考えられる病型は何だろう。
医学生医学生
FAB分類のM3、急性前骨髄球性白血病ですね。血液内科の講義で、ファゴット細胞の写真を見た記憶があります。
ドクタードクター
その通り。APLでは、アズール顆粒が融合してできた針状のAuer小体がよくみられ、それが薪の束のように多数集まった細胞をファゴット細胞と呼ぶ。今回の画像ではそこまではっきりしないけれど、顆粒の充満した異常前骨髄球の増加だけでも十分APLを想起できる。そしてAPLの9割以上でみられるのが、t(15;17)だ。
医学生医学生
PML-RARA融合遺伝子ができるんでしたよね。でも、なぜそれで白血病になるのかはあいまいです。
ドクタードクター
大事なところだね。15番染色体のPML遺伝子と17番染色体のレチノイン酸受容体α遺伝子が融合してできるPML-RARA蛋白は、レチノイン酸受容体の働きを異常に抑えて、骨髄系細胞が前骨髄球より先に分化するのを止めてしまう。だから前骨髄球の段階で成熟が止まった細胞が増え続けるんだ。
医学生医学生
分化が止まっているなら、それを解除すれば治療になる、ということですか。
ドクタードクター
鋭いね。それがATRA、全トランス型レチノイン酸による分化誘導療法だ。大量のATRAで抑制が外れると、白血病細胞は成熟好中球へ分化していく。亜ヒ酸もPML-RARA蛋白の分解を促して効果がある。では、ほかの選択肢も確認しよう。t(8;21)はどうかな。
医学生医学生
M2に多い転座で、予後良好だったと思います。Auer小体もみられるので、少し迷いました。
ドクタードクター
迷うのは自然だよ。t(8;21)は成熟傾向を伴うAMLに多く、RUNX1-RUNX1T1融合遺伝子をつくる。Auer小体はあっても、今回のように顆粒が充満した前骨髄球が一面に並ぶ像とは違う。t(16;16)やinv(16)も同じくコア結合因子を障害する予後良好群で、異常好酸球の増加を伴うM4Eoに特徴的だ。
医学生医学生
t(9;22)はPhiladelphia染色体なので、慢性骨髄性白血病ですね。
ドクタードクター
そう。BCR-ABL1融合遺伝子ができて、恒常的に活性化したチロシンキナーゼが増殖を促す。CMLのほぼ全例と、成人ALLの一部にみられ、イマチニブなどのチロシンキナーゼ阻害薬の標的になる。残るt(4;14)は?
医学生医学生
免疫グロブリン重鎖遺伝子が関わる転座で、多発性骨髄腫だったはずです。
ドクタードクター
正解。FGFR3やNSD2とIGHの転座で、del(17p)やt(14;16)とともに骨髄腫の高リスク染色体異常とされる。急性白血病の所見ではないね。
医学生医学生
形態でAPLとわかれば、t(15;17)とPML-RARAまで一気につながる、ということですね。
ドクタードクター
その流れが大切だ。最後に臨床で絶対に押さえておきたい点を話そう。APLは診断時から高率にDICを合併する。アズール顆粒に含まれる組織因子などが放出され、さらに線溶も強く亢進するので、フィブリノゲンが著明に下がり、FDPやDダイマーが上がる線溶亢進型のDICになるんだ。
医学生医学生
歯肉出血や皮下出血で受診することが多い、と国試の過去問でよく見かけます。
ドクタードクター
そうだね。頭蓋内出血や肺出血による早期死亡が問題になるから、APLを疑ったら血小板輸血や新鮮凍結血漿の補充などDIC対策を早期から行う。もう一つ、ATRAや亜ヒ酸の副作用として分化症候群がある。発熱、呼吸困難、肺浸潤影、胸水、体重増加などが出たら疑い、副腎皮質ステロイドで治療する。亜ヒ酸ではQT延長にも注意が必要だ。
医学生医学生
かつては怖い白血病だったのに、分化誘導療法の登場で治癒が期待できる病型になったんですね。
ドクタードクター
その通り。だからこそ見逃さずに早く診断し、出血を乗り切ることが予後を左右するんだ。

まとめ

骨髄塗抹標本でアズール顆粒に富む異常前骨髄球が骨髄を占拠していれば、急性前骨髄球性白血病(APL、FAB分類M3)を考えます。APLの9割以上にt(15;17)がみられ、PML-RARA融合遺伝子が前骨髄球段階での分化停止を引き起こすため、ATRAによる分化誘導療法や亜ヒ酸が有効です。鑑別として、t(8;21)はM2、inv(16)/t(16;16)はM4Eo(いずれも予後良好)、t(9;22)はCMLやPh陽性ALL、t(4;14)は多発性骨髄腫の高リスク異常と整理しておきましょう。APLは線溶亢進型のDICを高率に合併し、早期の出血死が問題になるほか、治療中は分化症候群にも注意が必要です。形態像から病型を判断し、染色体異常と治療・合併症まで一続きで理解することが、造血器腫瘍の学習と実臨床の土台になります。

解答・解説

正解はdです

画像所見の読み取り

骨髄血塗抹標本では、比較的大型の異常細胞がほぼ視野全体を占めている。これらの細胞の細胞質には、赤紫色に染まる粗大なアズール顆粒が密に充満しており、核は類円形〜くびれや切れ込みのある不整形を示すものがみられる。正常な造血細胞はほとんど認められない。

診断のプロセス

アズール顆粒が異常に多い幼若な骨髄系細胞(異常前骨髄球)が骨髄を占拠している像であり、急性前骨髄球性白血病(APL: acute promyelocytic leukemia、FAB分類M3)が最も考えられる。APLの腫瘍細胞では、針状のAuer小体(アズール顆粒が融合した棒状の封入体)がみられることが多く、Auer小体が薪の束のように多数集まった細胞はファゴット細胞(faggot cell)と呼ばれ、APLに特徴的である。

設問の考え方

APLの9割以上では、15番染色体と17番染色体の相互転座t(15;17)(q24;q21)が認められる。この転座により15番染色体上のPML遺伝子と17番染色体上のレチノイン酸受容体α(RARA)遺伝子が融合し、PML-RARA融合遺伝子が形成される。PML-RARA蛋白は骨髄系細胞が前骨髄球から先へ分化するのを妨げるため、前骨髄球段階で成熟が止まった細胞が増殖する。他の選択肢は、いずれも別の造血器腫瘍に特徴的な染色体異常である。

選択肢考察

  1. ×a.  t(4;14)

    誤り。t(4;14)は多発性骨髄腫でみられる染色体異常である。14番染色体上の免疫グロブリン重鎖(IGH)遺伝子と4番染色体上のFGFR3およびNSD2(MMSET)遺伝子が転座する。多発性骨髄腫では、del(17p)、t(14;16)とともに予後不良(高リスク)の染色体異常とされている。急性白血病の所見ではない。

  2. ×b.  t(8;21)

    誤り。t(8;21)(q22;q22)は成熟傾向を伴う急性骨髄性白血病(FAB分類M2)に多くみられ、RUNX1-RUNX1T1(AML1-ETO)融合遺伝子を形成する。M2の約4割にみられ、Auer小体を伴うことが多い。化学療法への反応がよく、予後良好群に分類される。APLの染色体異常ではない。

  3. ×c.  t(9;22)

    誤り。t(9;22)(q34;q11)はPhiladelphia(Ph)染色体を形成する転座で、9番染色体上のABL1遺伝子と22番染色体上のBCR遺伝子が融合してBCR-ABL1融合遺伝子が生じる。BCR-ABL1は恒常的に活性化したチロシンキナーゼとして細胞増殖を促す。慢性骨髄性白血病(CML)のほぼ全例と、成人急性リンパ性白血病(ALL)の一部(Ph陽性ALL)にみられ、イマチニブなどのチロシンキナーゼ阻害薬が治療の標的となる。

  4. ○d.  t(15;17)

    正しい。骨髄はアズール顆粒に富む異常前骨髄球で占められており、APLと考えられる。APLの大部分にt(15;17)(q24;q21)が認められ、PML-RARA融合遺伝子が形成される。この融合蛋白はレチノイン酸受容体の働きを異常に抑えて分化を停止させるが、大量の全トランス型レチノイン酸(ATRA)を投与するとこの抑制が解除され、白血病細胞は成熟好中球へと分化する(分化誘導療法)。亜ヒ酸(三酸化ヒ素)もPML-RARA蛋白の分解を促して有効である。

  5. ×e.  t(16;16)

    誤り。inv(16)(p13.1q22)またはt(16;16)(p13.1;q22)は、骨髄に異常好酸球の増加を伴う急性骨髄単球性白血病(FAB分類M4Eo)に特徴的な染色体異常である。CBFB-MYH11融合遺伝子を形成し、t(8;21)と同じくコア結合因子(CBF)を障害する白血病(CBF白血病)として予後良好群に分類される。APLの染色体異常ではない。

APLの臨床的特徴

・腫瘍細胞のアズール顆粒に含まれる組織因子などの凝固促進物質が放出されるうえ、線溶系も強く亢進するため、診断時から高率に播種性血管内凝固(DIC)を合併する。線溶亢進型のDICであり、フィブリノゲンが著明に低下し、FDP・Dダイマーが上昇する。 ・そのため歯肉出血、皮下出血、鼻出血などの出血傾向が目立ち、頭蓋内出血や肺出血による早期死亡が問題となる。 ・末梢血では汎血球減少を示すことが多い。 ・骨髄では異常前骨髄球が増加し、ペルオキシダーゼ染色は強陽性となる。

APLの治療

・寛解導入はATRAを中心に、病型・リスクに応じて化学療法(アントラサイクリン系など)や亜ヒ酸を併用する。ATRAによる分化誘導療法の導入により、APLは急性骨髄性白血病の中でも治癒が期待できる予後良好な病型となった。 ・ATRAや亜ヒ酸の重要な副作用に分化症候群(かつてのレチノイン酸症候群)がある。発熱、呼吸困難、肺浸潤影、胸水、体重増加、腎障害などをきたし、副腎皮質ステロイドで治療する。亜ヒ酸ではQT延長にも注意する。 ・出血予防のため、血小板輸血や新鮮凍結血漿の補充などDICへの対策を早期から行う。

造血器腫瘍と代表的な染色体異常・融合遺伝子

・t(15;17) PML-RARA:APL(M3) ・t(8;21) RUNX1-RUNX1T1:AML(M2)、予後良好 ・inv(16)/t(16;16) CBFB-MYH11:AML(M4Eo)、予後良好 ・t(9;22) BCR-ABL1:CML、Ph陽性ALL ・t(4;14) FGFR3/NSD2-IGH:多発性骨髄腫、予後不良 ・t(14;18) IGH-BCL2:濾胞性リンパ腫 ・t(11;14) CCND1-IGH:マントル細胞リンパ腫 ・t(8;14) MYC-IGH:Burkittリンパ腫

POINT

・アズール顆粒に富む異常前骨髄球の増加、Auer小体・ファゴット細胞はAPL(M3)を示唆する。 ・APLの染色体異常はt(15;17)で、PML-RARA融合遺伝子を形成する。 ・APLはDIC(線溶亢進型)を高率に合併し、出血傾向が強い。 ・治療はATRAによる分化誘導療法(亜ヒ酸も有効)で、副作用の分化症候群に注意する。 ・t(8;21)はM2、inv(16)/t(16;16)はM4Eo(いずれも予後良好)、t(9;22)はCML・Ph陽性ALL、t(4;14)は多発性骨髄腫(予後不良)。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。