食事のたびに腫れる顎の下―単純CTに光る小さな白い点が語る唾石症
第119回医師国家試験 D問題 第11問
国試問題にチャレンジ
左下顎部腫脹を反復する患者の頸部単純CTを下に示す。 考えられる疾患はどれか。

- a.Sjögren症候群
- b.顎下腺腫瘍
- c.舌下腺腫瘍
- d.唾石症
- e.リンパ管腫
対話形式の解説
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ドクターまとめ
片側の顎下部腫脹を、特に食事のたびに反復する場合は唾石症を考えます。唾石はカルシウム塩を主成分とするため単純CTや単純エックス線で高吸収として描出され、顎下腺〜Wharton管移行部の石灰化は診断の決め手になります。唾石症の約8〜9割は顎下腺に生じ、粘稠でカルシウムに富む唾液と、長く上行するWharton管がその理由とされます。Sjögren症候群は両側性で乾燥症状が主体、唾液腺腫瘍は持続性の軟部腫瘤、リンパ管腫は嚢胞性病変であり、石灰化を主体とする像とは異なります。治療は保存療法から口腔内摘出、顎下腺摘出、唾液腺内視鏡まで部位と大きさで選択するため、病歴と画像から結石の存在と位置を読み取る力が重要です。
解答・解説
正解はdです
所見の整理
・症状:左下顎部(顎下部)の腫脹を繰り返している。 ・頸部単純CT(造影剤を用いないCT):画像の右側が患者の左側である。左下顎骨の内側、顎下腺の腺体から導管(Wharton管)への移行部に相当する部位に、骨とほぼ同程度の高吸収を示す小さな類円形の石灰化像がある。周囲に明らかな腫瘤や嚢胞性病変は認めない。右側には同様の所見はない。
診断のプロセス
片側の顎下部腫脹を反復するという病歴は、唾液の流れが間欠的に妨げられる病態を示唆する。そこに顎下腺〜導管部の石灰化(結石)が単純CTで描出されているので、唾石症と診断できる。唾石はリン酸カルシウムなどのカルシウム塩を主成分とするため、単純CTで高吸収(白く写る)として明瞭に描出される。唾石症では、食事の際に唾液分泌が増えると、出口をふさがれた唾液が腺内にたまり、顎下腺が腫れて痛む(唾仙痛)。食後しばらくすると腫脹が軽快し、これを繰り返すのが典型的である。
鑑別の考え方
単純CTで高吸収の石灰化を示し、片側性で反復する腫脹をきたす疾患はどれかを考える。Sjögren症候群は両側性・持続性の腫脹と乾燥症状が主体で、唾液腺腫瘍やリンパ管腫は腫瘤性・嚢胞性病変として描出されるはずであり、いずれも本画像とは合わない。
選択肢考察
- ×a. Sjögren症候群
誤り。Sjögren症候群は涙腺・唾液腺などの外分泌腺に自己免疫性の慢性炎症が起こり、ドライアイや口腔乾燥をきたす疾患で、中年女性に多い。唾液腺腫脹は両側の耳下腺に多くみられ、片側の顎下部腫脹を反復する病像とは異なる。抗SS-A抗体・抗SS-B抗体陽性、唾液腺造影での点状・顆粒状陰影(apple tree様所見)などが特徴であり、単純CTで顎下部に結石様の高吸収域を生じる疾患ではない。
- ×b. 顎下腺腫瘍
誤り。顎下腺腫瘍は多形腺腫などの良性腫瘍や、腺様嚢胞癌などの悪性腫瘍があり、通常は徐々に増大する持続性の無痛性腫瘤として現れる。食事に関連して腫れたり引いたりを繰り返すことは少ない。CTでは軟部組織濃度の腫瘤として描出され、本画像のような小さな結石状の石灰化が主体となることはない。本画像では顎下腺に腫瘤性病変を認めない。
- ×c. 舌下腺腫瘍
誤り。舌下腺は口腔底の粘膜下に位置する唾液腺で、舌下腺腫瘍はまれであるが悪性の割合が高い。口腔底の腫瘤として発見されることが多く、石灰化を伴うことはほとんどない。本画像の高吸収域は顎下腺〜Wharton管移行部に相当する位置にあり、部位も性状も舌下腺腫瘍とは合わない。
- ○d. 唾石症
正しい。単純CTで左顎下腺〜導管移行部に高吸収の石灰化(結石)を認め、同側の顎下部腫脹を反復するという病歴とあわせて唾石症と診断できる。唾石症の約8〜9割は顎下腺に生じる。顎下腺の唾液は粘稠度が高くカルシウム濃度も高いこと、Wharton管が長く、口腔底の開口部に向かって上行するため唾液が停滞しやすいことが、顎下腺に多い理由とされる。結石が導管を閉塞すると、食事時に唾液腺が腫れて痛み、二次感染を起こすと化膿性顎下腺炎となる。
- ×e. リンパ管腫
誤り。リンパ管腫(リンパ管奇形)はリンパ管の発生異常による良性の嚢胞性病変で、多くは小児期に頸部などの柔らかい無痛性腫瘤として気づかれる。CTでは水に近い低吸収の多房性嚢胞として描出され、石灰化を伴う高吸収域にはならない。本画像に嚢胞性病変は認めない。
唾石症の概要
・定義:唾液腺の腺体内や導管内に結石(唾石)が形成される疾患。 ・成因:唾液の停滞や導管の炎症、細菌・剥離上皮などの核にカルシウム塩(主にリン酸カルシウム)が沈着して形成されると考えられている。 ・好発部位:顎下腺が約8〜9割を占め、腺体内、腺体と導管の移行部、Wharton管内に生じる。耳下腺は少なく、舌下腺はまれ。 ・症状:食事の際に生じる唾液腺の腫脹・疼痛(唾仙痛)が典型で、食後しばらくすると軽快する。小さな唾石では無症状のこともある。感染を合併すると、持続性の腫脹・発赤・圧痛や、導管開口部からの排膿を伴う。
診断
・口腔底の双手診(口腔内と顎下部外側から挟むように触診する)で、導管内の硬い結石を触れることがある。 ・単純エックス線(咬合法撮影など)や単純CTで高吸収の結石として描出される。CTは結石の位置(腺内か導管内か)や大きさの評価に有用である。超音波検査でも音響陰影を伴う高エコー像として確認できる。 ・急性炎症期の唾液腺造影は炎症を悪化させるおそれがあるため避ける。
治療
・小さな唾石で症状が軽い場合:水分摂取、唾液分泌を促す食品(酸味のあるものなど)、唾液腺マッサージにより自然排出を期待して経過観察する。 ・感染合併時:抗菌薬・鎮痛薬を投与する。 ・導管内(口腔底前方寄り)の唾石:口腔内から導管を切開して摘出する。 ・腺体内や腺体移行部の唾石、再発を繰り返す例:頸部外切開による顎下腺摘出術を行う。近年は唾液腺内視鏡を用いた摘出も行われている。
POINT
・片側の顎下部腫脹を、特に食事時に反復する → 唾石症を考える。 ・唾石は単純CT・単純エックス線で高吸収(石灰化)として描出される。 ・唾石症の約8〜9割は顎下腺に生じる(唾液が粘稠でカルシウムに富み、Wharton管が長く上行性であるため)。 ・Sjögren症候群は両側性・乾燥症状が主体、唾液腺腫瘍は持続性の腫瘤、リンパ管腫は嚢胞性病変であり、石灰化を主体とする像ではない。 ・治療は保存療法、口腔内からの摘出、顎下腺摘出術、唾液腺内視鏡下摘出などを部位・大きさに応じて選ぶ。
