StudyMed医師国家試験

紫斑とフィブリノゲン激減は待ったなし―急性前骨髄球性白血病にはまず分化誘導を

第120回医師国家試験 A問題 第54問

国試問題にチャレンジ

第120回 A問題 第54問

39歳の男性。口腔粘膜の出血と四肢の紫斑を主訴に来院した。5日前から四肢に紫斑を自覚し,昨日,口腔粘膜からの出血を認めたため受診した。既往歴に特記すべきことはない。意識は清明。体温36.2℃。血圧124/76mmHg。眼瞼結膜は貧血様であるが,眼球結膜に黄染を認めない。口腔粘膜に点状出血が散在している。心音と呼吸音とに異常を認めない。腹部は平坦,軟で,肝・脾を触知しない。四肢に点状出血と紫斑を認める。血液所見:赤血球362万,Hb 10.6g/dL,Ht 34%,白血球1,600(芽球23%,前骨髄球19%,分葉核好中球37%,単球8%,リンパ球13%),血小板1.5万,PT-INR 3.0(基準0.9~1.1),APTT 41.6秒(基準対照32.2),フィブリノゲン54mg/dL(基準186~355),FDP 144μg/mL(基準10以下)。血液生化学所見:総蛋白7.9g/dL,アルブミン4.6g/dL,総ビリルビン0.8mg/dL,AST 72U/L,ALT 60U/L,LD 322U/L(基準124~222),尿素窒素28mg/dL,クレアチニン0.6mg/dL。CRP 2.1mg/dL。末梢血塗抹標本で破砕赤血球を認めなかった。  適切な対応はどれか。

  1. a.血漿交換の実施
  2. b.自宅安静を指示
  3. c.抗ウイルス薬の投与
  4. d.分化誘導療法の実施
  5. e.顆粒球コロニー刺激因子〈G-CSF〉の投与

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、皮膚と粘膜の出血で受診した患者さんに、どう対応するかを問う問題だ。ポイントは、血球減少に加えて末梢血に何が出ているか、そして凝固線溶系の異常がどんなパターンかという2点。この2つを組み合わせると、緊急性の高いある病気が浮かび上がるよ。
医学生医学生
血小板がかなり少ないので、まずITPを思い浮かべました。
ドクタードクター
出血と血小板減少からITPを考えるのは自然な第一歩だね。でもITPは血小板だけが減る病気だ。今回は貧血も白血球減少もある汎血球減少で、しかも芽球と前骨髄球が末梢血に出ている。前骨髄球は正常なら末梢血には出てこない幼若な細胞だから、骨髄の腫瘍性疾患を強く疑う必要がある。
医学生医学生
となると急性白血病ですね。凝固の数字もかなり異常に見えます。
ドクタードクター
そこが最大の手がかりだ。PTとAPTTが延び、フィブリノゲンが著しく減って、FDPが大きく上がっている。凝固因子とフィブリノゲンが大量に消費され、同時に線溶が強く亢進している状態、つまりDICだ。それも線溶亢進が前面に出たタイプなんだ。
医学生医学生
血液内科の実習で、DICにも線溶抑制型と線溶亢進型があると教わりました。
ドクタードクター
いいね。敗血症に伴うDICはPAI-1が増えて線溶が抑えられ、臓器障害が目立つ線溶抑制型。一方、急性前骨髄球性白血病、つまりAPLの細胞は組織因子で凝固を活性化するうえ、アネキシンIIを多く発現してプラスミン産生を促すので、線溶が強く亢進する。だから出血症状が前面に出るんだ。初診時から線溶亢進型DICを伴う急性白血病、しかも白血球数が少なめというのは、APLにとても特徴的な像だよ。
医学生医学生
確定診断は骨髄検査で、ファゴット細胞とt(15;17)ですよね。
ドクタードクター
その通り。アウエル小体が束になった異常前骨髄球がファゴット細胞で、t(15;17)によってPML::RARA融合遺伝子ができる。この融合蛋白が、レチノイン酸受容体を介した分化を前骨髄球の段階で止めてしまうんだ。
医学生医学生
だからレチノイン酸を大量に入れて、分化を進めてあげる、ということですか。
ドクタードクター
まさにそれが分化誘導療法で、これが正解だ。薬理量の全トランス型レチノイン酸、ATRAが分化停止を解除し、腫瘍細胞を成熟した顆粒球へと分化させる。すると凝固や線溶を活性化する物質の放出が減り、DICも速やかに改善していく。APLの早期死亡の多くは脳出血や肺出血などの致死的出血だから、APLを強く疑った時点で、骨髄や遺伝子検査の結果を待たずにATRAを始めるのが原則なんだ。
医学生医学生
確定診断を待たずに始める、というのは意外でした。普通の抗がん薬だけではだめなんですか。
ドクタードクター
殺細胞性の抗がん薬だけで始めると、腫瘍細胞が一気に壊れて凝固を活性化する物質があふれ出し、DICがかえって悪化しうる。だからATRAを軸にして、リスクに応じてアントラサイクリン系抗がん薬や亜ヒ酸を組み合わせるんだ。同時に、血小板輸血や新鮮凍結血漿でフィブリノゲンを補うなど、出血を防ぐ支持療法を十分に行う。
医学生医学生
血漿交換は、破砕赤血球がないのでTTPではないから外れますね。
ドクタードクター
そう。血漿交換が第一選択となる代表はTTPで、ADAMTS13に対する自己抗体を除去し、酵素を補充するために行う。今回は破砕赤血球がなく、TTPでは通常みられない高度な凝固異常と幼若細胞があるから当てはまらない。DICそのものに対しても血漿交換は標準治療ではなく、原因疾患の治療が基本だ。
医学生医学生
自宅安静は論外ですね。すでに口の中から出血しているわけですし。
ドクタードクター
そうだね。血小板もフィブリノゲンも極端に低く、いつ頭蓋内出血を起こしてもおかしくない。ただちに入院が必要だ。抗ウイルス薬についても、発熱がなく、造血器腫瘍の所見がそろっていて、ウイルス感染を示す根拠がないから適応はない。
医学生医学生
好中球が少ないなら、G-CSFで底上げしたくなります。
ドクタードクター
気持ちはわかるけど、ここは落とし穴だ。今回の好中球減少は白血病細胞が正常造血を抑えているためで、治療前の急性骨髄性白血病にG-CSFを使うと、白血病細胞まで刺激するおそれがある。APLではATRA投与中に白血球が増えて分化症候群を誘発・悪化させる危険もあるから、ここで使う薬ではないよ。
医学生医学生
分化症候群は、ATRAや亜ヒ酸の副作用でしたっけ。
ドクタードクター
そう。治療中に発熱、呼吸困難、肺の浸潤影、胸水、体重増加、腎障害などが起こる合併症で、昔はレチノイン酸症候群と呼ばれた。疑ったらデキサメタゾンなどのステロイドを投与する。もうひとつ臨床での注意点として、APLのDICは線溶亢進型だけれど、トラネキサム酸のような抗線溶薬は血栓症を招くおそれがあるので原則使わない。そして、APLは早期の出血死さえ乗り越えれば治癒が十分期待できる、予後良好な白血病なんだ。

まとめ

汎血球減少に末梢血の芽球・前骨髄球の出現が加わり、フィブリノゲン著減とFDP著増を示す線溶亢進型DICを伴えば、急性前骨髄球性白血病を強く疑います。病態の中心はt(15;17)によるPML::RARA融合遺伝子で、前骨髄球からの分化が止まっているため、ATRAによる分化誘導療法が治療の軸となり、DICの改善も期待できます。早期死亡の主因は致死的出血であり、疑った段階で確定診断を待たずに入院させてATRAを開始し、輸血などの支持療法を並行して行います。破砕赤血球のないこの病像は血漿交換の対象ではなく、治療前の急性白血病にG-CSFは用いず、ATRAや亜ヒ酸の治療中は分化症候群に注意します。DICのタイプから原因疾患を推定し、原因に直接働きかける治療を急ぐという考え方は、血液内科の救急対応の基本です。

解答・解説

正解はdです

所見の整理

・39歳男性。5日前からの四肢紫斑、前日からの口腔粘膜出血という、数日単位で進行する皮膚・粘膜出血が主訴である。 ・発熱はなく(36.2℃)、黄疸なし、肝脾腫なし。 ・血算:Hb 10.6g/dLの貧血、白血球1,600/μLと減少、血小板1.5万/μLと著減しており、三系統すべてが低下している(汎血球減少)。 ・白血球分画:芽球23%に加え前骨髄球19%が出現している。前骨髄球は正常では末梢血に出現しない幼若細胞であり、骨髄の腫瘍性疾患を強く示唆する。 ・凝固線溶系:PT-INR 3.0・APTT延長、フィブリノゲン54mg/dLと著明低下、FDP 144μg/mLと著明上昇。凝固因子とフィブリノゲンが大量に消費され、同時に線溶が強く亢進している状態、すなわち播種性血管内凝固〈DIC〉である。 ・LD上昇(322U/L)は腫瘍細胞の増殖・崩壊を反映する。AST・ALTの上昇は軽度である。 ・破砕赤血球はみられない。

診断へのプロセス

汎血球減少に末梢血の芽球・前骨髄球の出現が加わっていれば、まず急性白血病を考える。そのうえで、フィブリノゲンが著減しFDPが著増する「線溶亢進優位のDIC」を初診時から伴っていることは、急性前骨髄球性白血病〈APL:acute promyelocytic leukemia、FAB分類M3〉の非常に特徴的な臨床像である。APLでは白血球数が減少していることが多く、本例の白血球1,600もこれに合致する。確定診断は骨髄検査で、アウエル小体を多数束状に含む異常前骨髄球(ファゴット細胞)の増加と、染色体検査でのt(15;17)(q24;q21)、あるいは遺伝子検査でのPML::RARA融合遺伝子の検出による。

鑑別

・血栓性血小板減少性紫斑病〈TTP〉:破砕赤血球がなく、凝固系の著しい異常(PT延長・フィブリノゲン低下)もTTPでは通常みられないため否定的である。 ・免疫性血小板減少症〈ITP〉:血小板単独の減少であり、凝固異常や末梢血の幼若細胞は説明できない。 ・敗血症に伴うDIC:発熱がなく、CRPも軽度上昇にとどまる。また敗血症性DICは凝固優位(線溶抑制型)でフィブリノゲンが比較的保たれやすく、本例の病像とは異なる。 ・肝不全による凝固障害:肝逸脱酵素の上昇は軽度で、アルブミン・ビリルビンも正常であり、合わない。

設問の考え方

APLの最大の死因は、診断早期のDICに伴う脳出血や肺出血などの致死的出血である。したがって、APLを疑った時点で入院させ、骨髄検査や遺伝子検査の結果を待たずに全トランス型レチノイン酸〈ATRA〉による分化誘導療法を速やかに開始することが原則である。ATRAで腫瘍細胞が成熟すると、凝固・線溶を活性化する物質の放出が減り、DICも急速に改善する。並行して、血小板輸血や新鮮凍結血漿でフィブリノゲンを補充するなど、出血を防ぐための支持療法を十分に行う。

選択肢考察

  1. ×a.  血漿交換の実施

    血漿交換が第一選択となる代表的な血液疾患はTTPで、ADAMTS13(von Willebrand因子を切断する酵素)に対する自己抗体を除去し、酵素を補充する目的で行う。本例は破砕赤血球がなく、高度の凝固異常と末梢血の幼若細胞を伴っていることからTTPではない。DICに対して血漿交換が標準治療となることはなく、DIC治療の基本は原因疾患(本例ではAPL)の治療である。

  2. ×b.  自宅安静を指示

    血小板1.5万/μL、フィブリノゲン54mg/dLという高度の出血傾向があり、すでに粘膜出血も生じている。APLに合併するDICでは、診断前後の早期に頭蓋内出血などの致死的出血を起こす危険が高い。外来で経過をみることは許されず、直ちに入院させて分化誘導療法と輸血などの支持療法を始める必要がある。

  3. ×c.  抗ウイルス薬の投与

    ウイルス感染症でも血球減少をきたすことはあるが、本例は発熱がなく、末梢血に芽球と前骨髄球が出現し、線溶亢進型DICを伴うという造血器腫瘍の所見がそろっている。ウイルス感染を示す根拠はなく、抗ウイルス薬の適応はない。

  4. ○d.  分化誘導療法の実施

    APLではt(15;17)によって生じるPML::RARA融合蛋白が、レチノイン酸受容体を介した骨髄球系の分化を前骨髄球の段階で止めている。薬理量のATRA(全トランス型レチノイン酸)はこの分化停止を解除し、腫瘍細胞を成熟した顆粒球へと分化させる。これにより、腫瘍細胞から放出される組織因子やアネキシンⅡ(線溶を亢進させる蛋白)などが減少し、DICが速やかに改善する。殺細胞性の抗がん薬だけで治療を始めると、腫瘍細胞の崩壊でDICがかえって悪化しうるため、APLではATRAを軸とした分化誘導療法が治療の中心となる。亜ヒ酸(三酸化ヒ素)も分化誘導作用をもち、ATRAと併用される。APLを強く疑った段階で、確定診断を待たずに開始すべきである。

  5. ×e.  顆粒球コロニー刺激因子〈G-CSF〉の投与

    G-CSFは好中球の産生を促す造血因子で、主に化学療法後の好中球減少の期間を短縮する目的で用いる。本例の好中球減少は白血病細胞による正常造血の抑制が原因であり、治療前の急性骨髄性白血病にG-CSFを投与すると、白血病細胞まで刺激して増殖させるおそれがある。APLではATRA投与中に白血球が増加し分化症候群を誘発・増悪させる危険もあり、本例で行うべき対応ではない。

急性前骨髄球性白血病〈APL〉の概要

・急性骨髄性白血病〈AML〉の一病型で、FAB分類のM3に相当する。WHO分類では「PML::RARA融合遺伝子を伴うAPL」として独立した病型である。 ・染色体転座t(15;17)(q24;q21)により、15番染色体のPML遺伝子と17番染色体のRARA(レチノイン酸受容体α)遺伝子が融合する。融合蛋白が前骨髄球からの分化を阻害する。 ・骨髄では粗大なアズール顆粒をもつ異常前骨髄球が増加し、アウエル小体が束状にみられる細胞はファゴット細胞と呼ばれる。ミエロペルオキシダーゼ〈MPO〉染色は強陽性である。 ・初診時の白血球数は減少〜正常のことが多い。

APLとDIC

・APL細胞は組織因子による凝固活性化に加え、アネキシンⅡの高発現によってプラスミン産生を促進し、線溶を強く亢進させる。 ・そのためフィブリノゲン著減、FDP・Dダイマー著増を呈する「線溶亢進型DIC」となり、出血症状が前面に出る。 ・これに対し、敗血症に伴うDICはPAI-1(プラスミノゲンアクチベーターインヒビター1)の増加により線溶が抑制され、臓器障害が前面に出る「線溶抑制型」である。

治療の要点

・寛解導入:ATRAを中心とし、診断時の白血球数などのリスクに応じてアントラサイクリン系抗がん薬(イダルビシンなど)や亜ヒ酸を併用する。 ・支持療法:血小板輸血、新鮮凍結血漿などによるフィブリノゲン補充を行い、出血を防ぐ。APLのDICでは線溶が亢進しているため、抗線溶薬(トラネキサム酸)は血栓症を誘発しうるので原則として使用しない。 ・分化症候群:ATRAや亜ヒ酸による治療中に、発熱、呼吸困難、肺浸潤影、胸水、体重増加、腎障害などをきたす合併症である。かつてはレチノイン酸症候群と呼ばれた。疑えば副腎皮質ステロイド(デキサメタゾン)を投与する。 ・APLは適切に治療すれば治癒が期待できる予後良好な白血病であり、早期死亡(主に出血)をいかに防ぐかが鍵となる。

POINT

・汎血球減少+末梢血の芽球・前骨髄球+フィブリノゲン著減・FDP著増(線溶亢進型DIC)→ 急性前骨髄球性白血病〈APL〉を考える。 ・APLの遺伝子異常はt(15;17)、PML::RARA融合遺伝子。 ・治療はATRAによる分化誘導療法が中心で、疑った段階で確定診断を待たずに開始する。DICの改善も期待できる。 ・ATRA・亜ヒ酸の重要な副作用は分化症候群で、治療はステロイド。 ・破砕赤血球なし → TTPは否定的で、血漿交換の適応ではない。 ・治療前の急性白血病にG-CSFは用いない。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。