StudyMed医師国家試験

骨髄は満員なのに血液は足りない―低リスク骨髄異形成症候群で最初にすべきこと

第119回医師国家試験 A問題 第47問

国試問題にチャレンジ

第119回 A問題 第47問

70歳の男性。全身倦怠感を主訴に来院した。2週間前から全身倦怠感が持続し,2日前に家族から顔色不良を指摘されたため受診した。眼瞼結膜は貧血様で,眼球結膜に黄染を認めない。腹部は平坦,軟で,肝・脾を触知しない。皮膚に点状出血や皮疹を認めない。血液所見:赤血球170万,Hb 5.2g/dL,Ht 15%,網赤血球5%,白血球2,800(芽球0%,分葉核好中球30%,好酸球1%,単球2%,リンパ球67%),血小板8.8万。血液生化学所見:総蛋白6.7g/dL,アルブミン3.6g/dL,総ビリルビン0.7mg/dL,AST 26U/L,ALT 22U/L,LD 140U/L(基準124~222),尿素窒素14mg/dL,クレアチニン0.6mg/dL,Fe 80 μg/dL,総鉄結合能〈TIBC〉300μg/dL(基準290~390),フェリチン110ng/mL(基準20~120),エリスロポエチン10mIU/mL(基準4.2~23.7)。骨髄は過形成で,骨髄塗抹標本での芽球割合は0.3%で3系統の造血細胞に異形成を高頻度に認めた。骨髄細胞の染色体は正常核型であった。  適切な治療はどれか。

  1. a.血漿交換
  2. b.赤血球輸血
  3. c.グルココルチコイド投与
  4. d.トロンボポエチン受容体作動薬投与
  5. e.顆粒球コロニー刺激因子〈G-CSF〉投与

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、高齢者の汎血球減少から骨髄異形成症候群を診断し、そのうえで「いま何をすべきか」を選ぶ問題だ。ポイントは、貧血の原因を一つずつ絞り込む流れと、リスクに応じた治療目標の考え方。まず血算をどう読むかな。
医学生医学生
Hbが5.2とかなり低くて、白血球も血小板も減っているので汎血球減少です。MCVを計算すると約88で、正球性ですね。
ドクタードクター
いいね。白血球は2,800で分葉核好中球が30%だから、好中球の絶対数は約840/μL。リンパ球の割合が高く見えるのは相対的なものだ。では網赤血球5%はどう解釈する?
医学生医学生
5%なら上がっているので、溶血や出血で骨髄が頑張っているのかと思いました。
ドクタードクター
そこが引っかけやすいところ。割合ではなく絶対数で考えてみよう。赤血球170万の5%だと約8.5万/μLで、Hb 5.2の高度貧血に見合うほどの造血の増加とはいえない。しかも黄疸も肝脾腫もなく、ビリルビンもLDも正常だから溶血は考えにくい。
医学生医学生
血液内科の実習で、網赤血球は必ず絶対数で見なさいと言われたのを思い出しました。鉄やフェリチンも基準内なので鉄欠乏も違いますね。
ドクタードクター
その通り。腎機能もエリスロポエチンも基準内で腎性貧血も否定的。そうやって二次性の原因を除外したうえで骨髄を見ると、過形成で3系統に高頻度の異形成がある。骨髄では細胞がつくられているのに、成熟した血球として末梢に出てこない。これを無効造血という。
医学生医学生
骨髄が過形成で異形成あり、なら骨髄異形成症候群ですね。再生不良性貧血なら骨髄は低形成のはずです。
ドクタードクター
正解。芽球は0.3%と少なく、20%以上の急性骨髄性白血病にはあたらない。染色体は正常核型だけれど、MDSの約半数は正常核型だから診断を否定する根拠にはならないよ。
医学生医学生
MDSは白血病になることがあると習ったので、治療は抗がん薬や移植を考えるべきなのかと思っていました。
ドクタードクター
そこで大事なのがリスク評価だ。IPSS-Rでは骨髄芽球割合、染色体核型、Hb、好中球数、血小板数を点数化する。この症例は芽球が少なく正常核型で、低リスク群に分類される。低リスクMDSの治療目標は白血病化の抑制より、血球減少による症状を改善して生活の質を保つことなんだ。
医学生医学生
Hb 5.2で倦怠感も出ているので、まず貧血を何とかすべき、つまり赤血球輸血ですね。
ドクタードクター
そのとおり。症状のある高度貧血には赤血球輸血で速やかに補正するのが最初の一手だ。ほかの選択肢も見ておこう。血漿交換はどんな病気に使う?
医学生医学生
TTPでADAMTS13に対する自己抗体を除いて、ADAMTS13を補充する治療でした。
ドクタードクター
よく覚えているね。TTPなら破砕赤血球を伴う溶血、血小板減少、精神神経症状などがみられるけれど、今回は溶血所見がない。グルココルチコイドは自己免疫性溶血性貧血やITPなどで使う薬で、MDSの血球を回復させる効果は期待できず、高齢者では感染や耐糖能異常などの副作用も問題になる。
医学生医学生
血小板が減っているので、トロンボポエチン受容体作動薬も一瞬考えました。
ドクタードクター
そう考えるのは自然だね。でも血小板は8.8万で出血症状もなく、増やす必要性は低い。しかもMDSでは芽球の増加や白血病化を促す懸念が指摘されている。G-CSFも同様で、好中球は減っているものの感染徴候はなく、何より症状の原因である貧血はG-CSFでは改善しない。
医学生医学生
今いちばん困っている症状に直結する治療を選ぶ、ということですね。
ドクタードクター
その感覚が大切だ。発展として、輸血を繰り返すと輸血後鉄過剰症で肝臓・心臓・内分泌臓器に鉄が沈着するから、フェリチンが高くなれば鉄キレート療法を考える。また血清エリスロポエチンが低めの例では赤血球造血刺激因子製剤が効きやすく、本症例でも並行して検討される。del(5q)を伴えばレナリドミド、環状鉄芽球を伴えばルスパテルセプトという選択肢もある。
医学生医学生
高リスクの場合は治療が変わるんですよね。
ドクタードクター
うん。高リスクでは白血病化の抑制と生存延長が目標になり、適応があれば唯一治癒が期待できる同種造血幹細胞移植、適応がなければアザシチジンなどの低メチル化薬を使う。同じ病名でも、リスクで治療方針が大きく変わることを覚えておこう。

まとめ

高齢者の汎血球減少で、溶血・鉄欠乏・腎性貧血などの二次性の原因を除外し、骨髄が過形成で異形成を伴えば、無効造血を本態とする骨髄異形成症候群(MDS)を考えます。骨髄芽球が20%未満であれば急性骨髄性白血病とは区別され、骨髄が低形成となる再生不良性貧血とも鑑別できます。治療はIPSS-Rによるリスク評価で決まり、芽球が少なく正常核型の低リスク例では、症状のある高度貧血に対する赤血球輸血などの支持療法が中心となります。輸血依存例では鉄過剰症に注意して鉄キレート療法を考慮し、高リスク例では同種造血幹細胞移植やアザシチジンが選択肢となります。網赤血球を絶対数で評価する習慣や、リスクに応じて治療目標を切り替える考え方は、血液疾患の診療全般で役立ちます。

解答・解説

正解はbです

所見の整理

・70歳男性。2週間続く全身倦怠感と顔色不良、眼瞼結膜の貧血様所見 → 高度貧血による症状と考えられる。 ・Hb 5.2g/dLと高度の貧血。平均赤血球容積(MCV)=Ht÷RBC×10=15÷170×1000≒88fLで正球性貧血である。 ・白血球2,800で好中球は約840/μL(2,800×30%)と減少し、リンパ球の割合は相対的に増えている。血小板も8.8万/μLと減少しており、3系統すべてが減少した汎血球減少である。末梢血に芽球はない。 ・網赤血球は5%と割合は高く見えるが、絶対数は170万×5%≒8.5万/μLにすぎず、Hb 5.2g/dLの高度貧血に見合う造血の増加はみられない。 ・肝脾腫・黄疸がなく、総ビリルビンやLDも正常 → 溶血性貧血は考えにくい。 ・Fe、TIBC、フェリチンはいずれも基準範囲内 → 鉄欠乏性貧血(慢性の消化管出血など)は否定的。 ・腎機能は正常で、エリスロポエチン値も基準内 → 腎性貧血は否定的。

診断

汎血球減少があるのに骨髄は過形成で、3系統の造血細胞に高頻度の異形成を認める。骨髄の芽球は0.3%と少なく、急性骨髄性白血病(芽球20%以上)にはあたらない。骨髄で細胞はつくられているのに成熟した血球として末梢に出てこない「無効造血」の像であり、骨髄異形成症候群(MDS)と診断できる。骨髄が低形成となる再生不良性貧血とはこの点で区別される。染色体は正常核型だが、MDSでも正常核型は少なくない。

設問の考え方

本症例は芽球が少なく、正常核型で、国際予後スコアリングシステム改訂版(IPSS-R)で評価しても低リスクに分類される。低リスクMDSの治療目標は白血病化の抑制よりも、血球減少による症状の改善と生活の質(QOL)の維持である。Hb 5.2g/dLで倦怠感などの症状が明らかな高度貧血に対しては、まず赤血球輸血で貧血を補正する。

選択肢考察

  1. ×a.  血漿交換

    血漿交換は、患者の血漿を除去して新鮮凍結血漿などに置き換え、病因となる自己抗体などを取り除く治療である。代表的な適応は後天性血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)で、ADAMTS13に対する自己抗体を除き、不足したADAMTS13を補う。TTPでは破砕赤血球を伴う溶血性貧血(LD・間接ビリルビン上昇)、血小板減少、腎障害、精神神経症状などがみられるが、本症例には溶血所見がなく、骨髄所見もMDSを示しており、適応はない。

  2. ○b.  赤血球輸血

    本症例はHb 5.2g/dLの高度貧血で、全身倦怠感などの症状が出ている。低リスクMDSでは血球減少への支持療法が治療の中心であり、症状のある貧血に対しては赤血球輸血で速やかに貧血を改善することが最初に行うべき治療である。輸血を繰り返す場合は輸血後鉄過剰症(肝・心・内分泌臓器への鉄沈着)に注意し、血清フェリチンが高値となれば鉄キレート療法を考慮する。また本症例は血清エリスロポエチン値が低いため、輸血と並行して赤血球造血刺激因子製剤の投与も検討される。

  3. ×c.  グルココルチコイド投与

    グルココルチコイドは自己免疫性溶血性貧血や免疫性血小板減少症(ITP)などの自己免疫性血球減少症で用いられる。MDSに対しては血球を回復させる効果は期待できず、高齢者では感染症や耐糖能異常などの副作用の問題が大きい。一部の低リスクMDSでは抗胸腺細胞グロブリンやシクロスポリンによる免疫抑制療法が行われることがあるが、その場合もグルココルチコイドは副作用予防などの補助的な位置づけであり、本症例でまず行う治療ではない。

  4. ×d.  トロンボポエチン受容体作動薬投与

    トロンボポエチン受容体作動薬(エルトロンボパグ、ロミプロスチム)は、巨核球系の造血を刺激して血小板を増やす薬で、慢性ITPや再生不良性貧血に用いられる。本症例の血小板は8.8万/μLで点状出血などの出血症状もなく、血小板を増やす治療の必要性は低い。また、MDSでは芽球の増加や白血病化を促す懸念が指摘されており、本症例に用いる治療ではない。

  5. ×e.  顆粒球コロニー刺激因子〈G-CSF〉投与

    G-CSFは好中球の産生を促す薬で、がん化学療法後の好中球減少や、好中球減少に重症感染症を合併した場合などに用いられる。本症例の好中球は約840/μLと減少しているものの、発熱などの感染徴候はなく、予防目的に長期投与する意義は乏しい。また本症例で症状の原因となっているのは高度の貧血であり、G-CSFでは貧血は改善しないため、優先される治療ではない。

骨髄異形成症候群(MDS)とは

造血幹細胞の遺伝子異常によるクローン性の疾患で、高齢者に多い。異常クローンの血球は成熟の途中で壊れてしまうため、骨髄は正〜過形成でも末梢血では血球が減少する(無効造血)。血球の形態異常(異形成)を伴い、一部は急性骨髄性白血病へ移行する。抗がん薬や放射線治療後に発症する治療関連のものもある。

診断の要点

・1系統以上の血球減少と、骨髄での異形成(各系統の10%以上)または特徴的な染色体・遺伝子異常。 ・骨髄・末梢血の芽球は20%未満(20%以上は急性骨髄性白血病)。 ・異形成の例:好中球の偽Pelger核異常や脱顆粒、赤芽球の多核・巨赤芽球様変化や環状鉄芽球、微小巨核球。 ・染色体異常として-7/del(7q)、del(5q)、+8、del(20q)などが知られるが、約半数は正常核型である。 ・鑑別:ビタミンB12・葉酸欠乏(巨赤芽球性貧血)、銅欠乏、再生不良性貧血(骨髄低形成)、薬剤性、肝疾患など。

リスク分類と治療

IPSS-Rでは、骨髄芽球割合、染色体核型、Hb値、好中球数、血小板数を点数化してリスクを評価する。本症例は芽球2%以下、正常核型(予後良好群)、Hb 8g/dL未満、好中球800/μL以上、血小板5万〜10万/μLであり、低リスク群に分類される。 ・低リスク:血球減少の改善とQOL維持が目標。赤血球輸血・血小板輸血などの支持療法、赤血球造血刺激因子製剤(血清エリスロポエチンが低値の例で効果が期待できる)、del(5q)を伴う例ではレナリドミド、環状鉄芽球を伴う例ではルスパテルセプト、一部では免疫抑制療法。輸血依存例では鉄キレート療法を考慮する。 ・高リスク:白血病化の抑制と生存期間の延長が目標。適応があれば同種造血幹細胞移植(唯一の治癒が期待できる治療)、適応がなければアザシチジンなどの低メチル化薬。

汎血球減少の鑑別の流れ

まず溶血所見(LD・間接ビリルビン・ハプトグロビン)、鉄・ビタミンB12・葉酸、腎機能・エリスロポエチン、肝脾腫の有無で二次的な原因を除外し、最終的には骨髄検査で骨髄の細胞密度(過形成か低形成か)、異形成、芽球割合、染色体を評価する。

POINT

・高齢者の汎血球減少+骨髄過形成+異形成 → 骨髄異形成症候群(無効造血)。 ・骨髄芽球20%未満がMDS、20%以上は急性骨髄性白血病。 ・低リスクMDSの治療は支持療法が中心。症状のある高度貧血にはまず赤血球輸血。 ・輸血依存例では鉄過剰症に注意し、鉄キレート療法を考慮する。 ・高リスクMDSでは同種造血幹細胞移植や低メチル化薬(アザシチジン)。 ・再生不良性貧血は骨髄低形成、MDSは正〜過形成で異形成あり。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。