出血は「いつ」起きたかで答えが変わる―妊娠初期の性器出血と絨毛膜下血腫
第112回医師国家試験 B問題 第24問
国試問題にチャレンジ
妊娠初期の性器出血の原因として正しいのはどれか。
- a.子宮破裂
- b.前置胎盤
- c.癒着胎盤
- d.絨毛膜下血腫
- e.常位胎盤早期剝離
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
妊娠中の性器出血は時期によって原因が大きく異なり、妊娠初期(13週6日まで)には流産、異所性妊娠、胞状奇胎、絨毛膜下血腫、子宮頸部病変を考えます。絨毛膜下血腫は絨毛膜と脱落膜の間に血液がたまる病態で、超音波では胎嚢周囲の三日月状低エコー域として描出され、多くは自然吸収されますが流産・早産のリスク因子になります。前置胎盤(無痛性の警告出血)と常位胎盤早期剝離(腹痛・子宮硬化・DIC)は妊娠中期以降、子宮破裂は主に分娩時、癒着胎盤は胎盤娩出期以降に問題となります。胎盤が完成する妊娠15〜16週頃を境に出血の原因が入れ替わると整理すると、時期・痛み・子宮所見から鑑別を絞る臨床の思考に直結します。
解答・解説
正解はdです
妊娠中の性器出血は、その時期によって考えるべき原因が大きく異なる。一般に妊娠初期は妊娠13週6日まで(第1三半期)を指す。
妊娠初期の出血で考える疾患
・流産(切迫流産、進行流産、完全・不全流産、稽留流産):妊娠初期の出血の原因として最も頻度が高い。 ・異所性妊娠:卵管妊娠など。腹痛・腹腔内出血・ショックを伴うことがあり、見逃すと致命的になる。 ・胞状奇胎などの絨毛性疾患 ・絨毛膜下血腫 ・子宮腟部びらん、頸管ポリープ、子宮頸癌など子宮頸部・腟の病変
妊娠中期以降の出血で考える疾患
・前置胎盤、低置胎盤(無痛性の出血) ・常位胎盤早期剝離(腹痛・子宮の硬化を伴う) ・子宮破裂(主に分娩時) ・分娩後には弛緩出血、癒着胎盤、産道裂傷など 妊娠初期の出血には胎盤が完成する前(胎盤は妊娠15〜16週頃に完成する)の病態が並び、中期以降の出血には完成した胎盤や分娩に関わる病態が並ぶ、という整理が有用である。選択肢のうち、妊娠初期に性器出血を起こすのは絨毛膜下血腫であり、ほかはいずれも妊娠中期以降あるいは分娩時・分娩後の病態である。
選択肢考察
- ×a. 子宮破裂
誤り。子宮破裂は子宮体部や子宮下部が裂ける状態で、大半は分娩時に起こる。帝王切開や子宮筋腫核出術の既往(子宮の手術瘢痕)、過強陣痛、子宮収縮薬の不適切な使用、児頭骨盤不均衡などが危険因子である。突然の激しい腹痛、陣痛の消失、腹腔内への大量出血によるショック、胎児機能不全をきたす。妊娠初期に起こることは通常ない。
- ×b. 前置胎盤
誤り。前置胎盤は胎盤の一部または全部が内子宮口を覆う状態で、妊娠中期以降、特に妊娠後期に、痛みを伴わない突然の性器出血(警告出血)を起こすのが典型である。妊娠初期〜中期前半には胎盤が子宮口近くにあっても、子宮下部が伸びるにつれて胎盤の位置が相対的に上方へ移動することが多いため、診断は妊娠20週以降、確定は妊娠31週末までに行うのが一般的である。妊娠初期の出血の原因とはしない。
- ×c. 癒着胎盤
誤り。癒着胎盤は、絨毛が子宮筋層に直接付着・侵入し、分娩後に胎盤が自然に剝がれない状態である。問題となるのは胎盤娩出期以降で、無理に剝がそうとすると大量の分娩後出血を起こし、子宮摘出が必要になることもある。帝王切開既往と前置胎盤の合併が大きな危険因子である。妊娠初期の出血の原因ではない。
- ○d. 絨毛膜下血腫
絨毛膜下血腫は、絨毛膜(胎児側の膜)と子宮脱落膜(子宮内膜が妊娠で変化したもの)との間に血液がたまった状態で、妊娠初期に多くみられ、性器出血の原因となる。超音波検査では胎嚢の周囲に三日月状の低エコー域として描出される。多くは自然に吸収されるが、血腫が大きい場合などには流産や早産、前期破水のリスクが高まるとされる。妊娠初期の性器出血の原因として正しい。
- ×e. 常位胎盤早期剝離
誤り。常位胎盤早期剝離は、正常な位置に付着した胎盤が、胎児娩出前に子宮壁から剝がれる病態で、妊娠中期以降(妊娠20週以降)〜分娩中に起こる。腹痛、板状硬と呼ばれる子宮の硬化、胎児心拍の異常を伴い、外出血は剝離の重症度に比べて少量の暗赤色のことが多い。妊娠高血圧症候群、腹部外傷、前回の早剝既往などが危険因子で、播種性血管内凝固〈DIC〉を合併しやすい。妊娠初期の出血の原因ではない。
妊娠時期の区分
・妊娠初期:妊娠13週6日まで ・妊娠中期:妊娠14週0日〜27週6日 ・妊娠後期:妊娠28週0日以降 ・流産:妊娠22週未満の妊娠の終結、早産:妊娠22週0日〜36週6日の分娩
妊娠初期の性器出血への対応の流れ
まず妊娠反応を確認し、経腟超音波で胎嚢が子宮内にあるか、胎児心拍があるかを調べる。子宮内に胎嚢がないのに妊娠反応が陽性であれば異所性妊娠を疑い、hCG(ヒト絨毛性ゴナドトロピン)の推移や腹腔内出血の有無を確認する。子宮内に胎嚢があれば切迫流産・流産の分類、絨毛膜下血腫の有無、胞状奇胎の所見などを評価する。腟鏡診で子宮頸部からの出血(ポリープ、びらん、頸癌)も確認する。
切迫流産と絨毛膜下血腫
妊娠12週未満の流産の多くは胎児の染色体異常によるもので、切迫流産に対して流産を防ぐことが確立した治療はない。ただし、胎児心拍が確認されている例で絨毛膜下血腫を伴う場合には、安静が有効な可能性があるとされている。
妊娠中期以降の出血の鑑別の要点
・前置胎盤:無痛性、反復する鮮紅色の出血。内診は大出血を誘発するおそれがあるため禁忌で、経腟超音波で診断する。 ・常位胎盤早期剝離:有痛性、子宮の硬化、胎児機能不全、DIC。 ・子宮破裂:分娩時の激痛とショック、子宮瘢痕が危険因子。
POINT
・妊娠初期の性器出血:流産(切迫流産を含む)、異所性妊娠、胞状奇胎、絨毛膜下血腫、子宮頸部病変。 ・前置胎盤・常位胎盤早期剝離は妊娠中期以降、子宮破裂は主に分娩時、癒着胎盤は分娩後に問題となる。 ・絨毛膜下血腫は超音波で胎嚢周囲の三日月状低エコー域としてみえ、多くは自然吸収されるが流産・早産のリスク因子となる。
