研究を「する側」と「審査する側」―IRBが担う科学的妥当性のチェック
第112回医師国家試験 B問題 第23問
国試問題にチャレンジ
治験審査委員会・倫理審査委員会〈IRB〉が行うのはどれか。
- a.研究の効果判定
- b.研究の資金調達
- c.介入研究の比較群の割付
- d.研究の科学的妥当性の評価
- e.被験者への説明と同意の取得
対話形式の解説
ドクター
医学生
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医学生まとめ
治験審査委員会・倫理審査委員会(IRB)は、研究者から独立した第三者の立場で研究計画を審査する組織であり、研究を実施する組織ではありません。審査の中心は研究の科学的妥当性と倫理的妥当性で、科学的に意味のない研究は被験者に無益なリスクを負わせるため、科学的妥当性の評価は倫理審査そのものの一部と位置づけられています。資金調達、比較群の割付、被験者への説明と同意の取得、効果判定はいずれも研究者側(治験依頼者や治験責任医師など)の仕事で、IRBはそれらの計画や文書が適切かを事前・継続的に審査します。治験はGCP省令、一般の臨床研究は倫理指針、特定臨床研究は臨床研究法に基づいて審査されるという枠組みとあわせて理解しておくと、臨床研究に参加・協力する際の基本的な姿勢が身につきます。
解答・解説
正解はdです
治験審査委員会〈IRB: Institutional Review Board〉や倫理審査委員会は、研究を「実施する側」ではなく、研究計画を第三者の立場から「審査する側」の組織である。この役割分担を押さえれば、本問は解ける。 人を対象とする研究では、研究者が自分の研究を自分で評価すると、成果を急ぐあまり被験者の安全や権利が軽く扱われるおそれがある。そこで、研究の開始前と実施中に、独立した委員会が研究計画書・説明文書・同意文書などを審査する仕組みが設けられている。IRBが判断するのは主に次の点である。 ・その研究に科学的な意義があり、方法が妥当か(目的を達成できるデザインか、症例数は適切か、など) ・被験者に予想される危険と負担が、期待される利益に照らして許容できるか ・説明文書の内容が十分か、同意を自由意思で得る手順になっているか ・個人情報の保護や利益相反の管理が適切か 一方、研究資金の調達、被験者への説明と同意取得、比較群への割付、効果判定などの「研究の実施」に当たる作業は、治験依頼者(製薬企業など)や研究者側が担う。医師主導治験では、治験を企画・実施する医師(自ら治験を実施する者)がこれらを担う。 したがって、選択肢のうちIRBが行うのは「研究の科学的妥当性の評価」である。科学的に意味のない研究は、被験者に負担やリスクだけを負わせることになるため、科学的妥当性の評価は倫理審査そのものの一部と位置づけられている。
選択肢考察
- ×a. 研究の効果判定
誤り。介入の効果を判定し結果を解析するのは、研究を実施する研究者や治験依頼者の仕事である。IRBは計画段階で「効果判定の方法(評価項目や解析方法)が妥当か」を審査することはあるが、実際の効果判定は行わない。なお、試験途中で有効性・安全性のデータを見て継続の可否を勧告する組織としては、IRBとは別に効果安全性評価委員会〈DSMB: Data and Safety Monitoring Board〉が置かれることがある。
- ×b. 研究の資金調達
誤り。資金の確保は研究者側(治験であれば依頼者である製薬企業、医師主導治験であれば実施する医師側)が行う。IRBは資金の出どころを把握し、利益相反(資金提供者との利害関係が研究の公正さをゆがめないか)が適切に管理されているかを審査する立場にあり、資金調達そのものには関与しない。
- ×c. 介入研究の比較群の割付
誤り。被験者を介入群と対照群に振り分ける割付(ランダム化など)は、研究実施者側が行う作業である。割付の偏りを防ぐため、割付表の作成・管理を研究者から独立した部門に任せることも多いが、それもIRBの業務ではない。IRBは割付方法が計画として妥当かどうかを審査するにとどまる。
- ○d. 研究の科学的妥当性の評価
IRBは、研究計画に科学的な合理性があるか(研究目的・デザイン・対象・症例数・評価方法が適切か)を評価し、そのうえで被験者に対する介入が倫理的に許容されるかを、研究者から独立した客観的立場で判断する。科学的に妥当でない研究は、得られる知見がないのに被験者にリスクを負わせることになるため、科学的妥当性の評価は倫理的妥当性の評価と一体のものとしてIRBの中心的な役割となっている。
- ×e. 被験者への説明と同意の取得
誤り。インフォームド・コンセントの取得は、被験者と直接接する研究責任者・研究分担者(治験では治験責任医師・治験分担医師)が行う。治験コーディネーター〈CRC〉が説明を補助することはある。IRBの役割は、使用する説明文書・同意文書の内容が適切で分かりやすいか、同意の手順に問題がないかを事前に審査することであり、同意取得そのものは行わない。
治験と臨床研究の審査の枠組み
・治験(医薬品・医療機器の製造販売承認を得るための臨床試験):「医薬品の臨床試験の実施の基準に関する省令」〈GCP: Good Clinical Practice〉に基づき、治験審査委員会の審査を受ける。治験には、製薬企業が依頼する企業治験と、医師が自ら計画・実施する医師主導治験がある。 ・治験以外の人を対象とする研究:「人を対象とする生命科学・医学系研究に関する倫理指針」(2021年に、従来の「人を対象とする医学系研究に関する倫理指針」と「ヒトゲノム・遺伝子解析研究に関する倫理指針」を統合して制定)に基づき、倫理審査委員会の審査を受ける。 ・特定臨床研究(未承認・適応外の医薬品等を用いる研究や、製薬企業から資金提供を受けて行う医薬品等の研究):臨床研究法(2018年施行)に基づき、厚生労働大臣の認定を受けた認定臨床研究審査委員会の審査を受ける。
倫理審査委員会の構成の考え方
研究者と利害関係のない委員、医学・医療の専門家に加えて、倫理学・法律などの専門家、一般の立場の者(非専門家)を含め、男女両性で構成することが求められる。研究内容を専門家の目だけでなく、被験者に近い立場からも評価するためである。
倫理原則の源流
ヘルシンキ宣言(世界医師会)は、人を対象とする研究計画を、研究開始前に研究者から独立した研究倫理委員会に提出して審査・承認を受けることを求めている。
役割分担の整理
・IRB/倫理審査委員会:研究計画(科学的・倫理的妥当性)の審査、実施中の継続審査(重篤な有害事象報告、計画変更などの審査) ・研究者(治験責任医師など):説明と同意の取得、介入の実施、データ収集、効果判定 ・依頼者/研究責任者側:研究資金の確保、研究計画の立案、割付の手順の設定、モニタリング
POINT
・IRB/倫理審査委員会は研究を「審査する」独立した組織であり、研究を「実施する」組織ではない。 ・審査の中心は、研究の科学的妥当性と倫理的妥当性(被験者のリスクと利益のバランス、説明・同意の手続き、個人情報保護、利益相反)である。 ・資金調達、割付、同意取得、効果判定は研究者側(治験依頼者・治験責任医師など)が行う。 ・治験はGCP省令に基づく治験審査委員会、一般の臨床研究は倫理指針に基づく倫理審査委員会、特定臨床研究は臨床研究法に基づく認定臨床研究審査委員会が審査する。
