StudyMed医師国家試験

研究を「する側」と「審査する側」―IRBが担う科学的妥当性のチェック

第112回医師国家試験 B問題 第23問

国試問題にチャレンジ

第112回 B問題 第23問

治験審査委員会・倫理審査委員会〈IRB〉が行うのはどれか。

  1. a.研究の効果判定
  2. b.研究の資金調達
  3. c.介入研究の比較群の割付
  4. d.研究の科学的妥当性の評価
  5. e.被験者への説明と同意の取得

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、治験審査委員会・倫理審査委員会、いわゆるIRBの役割を問う問題だ。カギは、IRBが研究を「実施する側」なのか、それとも第三者として「審査する側」なのかという役割分担。ここが整理できれば迷わず解けるよ。
医学生医学生
倫理審査委員会という名前なので、倫理的な面をチェックするところですよね。でも「科学的妥当性」まで見るのは意外でした。
ドクタードクター
そこがこの問題の核心だね。考えてみてほしいんだけど、科学的にデザインが破綻していて、何の結論も得られない研究があったとする。その研究に参加した被験者はどうなるかな。
医学生医学生
リスクや負担だけ背負って、何の役にも立たない……それ自体が倫理的に問題ですね。
ドクタードクター
その通り。だから科学的妥当性の評価は倫理審査と一体のものとされていて、IRBの中心的な仕事なんだ。研究目的に対してデザインは適切か、対象や症例数は妥当か、評価方法は合理的か。そのうえで、予想される危険と負担が利益に見合うか、説明文書は十分か、個人情報保護や利益相反の管理は適切かを、研究者から独立した立場で判断する。正解は研究の科学的妥当性の評価だ。
医学生医学生
研究者が自分の研究を自分で評価すると、成果を急いで被験者の安全が後回しになりかねない、だから独立した委員会が必要ということですね。
ドクタードクター
そういうこと。では、ほかの選択肢を見ていこう。被験者への説明と同意の取得はどうかな。
医学生医学生
臨床実習で、治験の説明に治験コーディネーターの方が同席しているのを見たことがあります。同意を取るのは担当の医師でした。IRBの委員が病棟に来るわけではないですよね。
ドクタードクター
よく観察していたね。インフォームド・コンセントを取得するのは、被験者と直接接する研究責任者・研究分担者、治験なら治験責任医師や分担医師だ。CRCが説明を補助することもある。IRBは、使う説明文書・同意文書が分かりやすく適切か、同意の手順に問題がないかを事前に審査する立場なんだ。
医学生医学生
比較群の割付も、やはり研究者側の作業ですか。ランダム化の公正さを保つために、第三者のIRBがやるのかと一瞬思いました。
ドクタードクター
ひっかかりやすいところだね。割付の偏りを防ぐために、割付表の作成や管理を研究者から独立した部門に任せることはよくある。でもそれはIRBの業務ではない。IRBは割付方法が計画として妥当かを審査するだけだ。
医学生医学生
効果判定も同じ考え方でしょうか。計画段階で評価項目が妥当かは見るけれど、実際の判定は研究者側が行う。
ドクタードクター
その理解でいい。なお、試験の途中で有効性・安全性のデータを見て継続の可否を勧告する組織として、IRBとは別に効果安全性評価委員会、DSMBが置かれることもある。混同しないようにね。
医学生医学生
資金調達も、製薬企業や研究者側の仕事ですよね。IRBが関わるとしたら、利益相反のチェックくらいでしょうか。
ドクタードクター
まさにそう。資金の出どころが研究の公正さをゆがめないかを審査するのであって、お金を集めるのはIRBの役目ではない。ここまでをまとめると、資金調達、割付、同意取得、効果判定は「実施」、科学的・倫理的妥当性の評価は「審査」と整理できる。
医学生医学生
講義で習ったヘルシンキ宣言にも、研究開始前に独立した倫理委員会の承認を受けることが書かれていましたね。
ドクタードクター
よく覚えているね。それがこの仕組みの源流だ。発展として、審査の枠組みも押さえておこう。治験はGCP省令に基づいて治験審査委員会が、一般の臨床研究は「人を対象とする生命科学・医学系研究に関する倫理指針」に基づいて倫理審査委員会が、未承認・適応外の医薬品を使う研究などの特定臨床研究は臨床研究法に基づいて認定臨床研究審査委員会が審査する。また、委員会には医学の専門家だけでなく、倫理学や法律の専門家、一般の立場の人を含め、男女両性で構成することが求められている。
医学生医学生
専門家だけでなく、被験者に近い目線からも見てもらうためなんですね。将来研究に関わるときは、IRBを「通すべき関門」ではなく、被験者を守る仕組みとして捉えたいと思います。

まとめ

治験審査委員会・倫理審査委員会(IRB)は、研究者から独立した第三者の立場で研究計画を審査する組織であり、研究を実施する組織ではありません。審査の中心は研究の科学的妥当性と倫理的妥当性で、科学的に意味のない研究は被験者に無益なリスクを負わせるため、科学的妥当性の評価は倫理審査そのものの一部と位置づけられています。資金調達、比較群の割付、被験者への説明と同意の取得、効果判定はいずれも研究者側(治験依頼者や治験責任医師など)の仕事で、IRBはそれらの計画や文書が適切かを事前・継続的に審査します。治験はGCP省令、一般の臨床研究は倫理指針、特定臨床研究は臨床研究法に基づいて審査されるという枠組みとあわせて理解しておくと、臨床研究に参加・協力する際の基本的な姿勢が身につきます。

解答・解説

正解はdです

治験審査委員会〈IRB: Institutional Review Board〉や倫理審査委員会は、研究を「実施する側」ではなく、研究計画を第三者の立場から「審査する側」の組織である。この役割分担を押さえれば、本問は解ける。 人を対象とする研究では、研究者が自分の研究を自分で評価すると、成果を急ぐあまり被験者の安全や権利が軽く扱われるおそれがある。そこで、研究の開始前と実施中に、独立した委員会が研究計画書・説明文書・同意文書などを審査する仕組みが設けられている。IRBが判断するのは主に次の点である。 ・その研究に科学的な意義があり、方法が妥当か(目的を達成できるデザインか、症例数は適切か、など) ・被験者に予想される危険と負担が、期待される利益に照らして許容できるか ・説明文書の内容が十分か、同意を自由意思で得る手順になっているか ・個人情報の保護や利益相反の管理が適切か 一方、研究資金の調達、被験者への説明と同意取得、比較群への割付、効果判定などの「研究の実施」に当たる作業は、治験依頼者(製薬企業など)や研究者側が担う。医師主導治験では、治験を企画・実施する医師(自ら治験を実施する者)がこれらを担う。 したがって、選択肢のうちIRBが行うのは「研究の科学的妥当性の評価」である。科学的に意味のない研究は、被験者に負担やリスクだけを負わせることになるため、科学的妥当性の評価は倫理審査そのものの一部と位置づけられている。

選択肢考察

  1. ×a.  研究の効果判定

    誤り。介入の効果を判定し結果を解析するのは、研究を実施する研究者や治験依頼者の仕事である。IRBは計画段階で「効果判定の方法(評価項目や解析方法)が妥当か」を審査することはあるが、実際の効果判定は行わない。なお、試験途中で有効性・安全性のデータを見て継続の可否を勧告する組織としては、IRBとは別に効果安全性評価委員会〈DSMB: Data and Safety Monitoring Board〉が置かれることがある。

  2. ×b.  研究の資金調達

    誤り。資金の確保は研究者側(治験であれば依頼者である製薬企業、医師主導治験であれば実施する医師側)が行う。IRBは資金の出どころを把握し、利益相反(資金提供者との利害関係が研究の公正さをゆがめないか)が適切に管理されているかを審査する立場にあり、資金調達そのものには関与しない。

  3. ×c.  介入研究の比較群の割付

    誤り。被験者を介入群と対照群に振り分ける割付(ランダム化など)は、研究実施者側が行う作業である。割付の偏りを防ぐため、割付表の作成・管理を研究者から独立した部門に任せることも多いが、それもIRBの業務ではない。IRBは割付方法が計画として妥当かどうかを審査するにとどまる。

  4. ○d.  研究の科学的妥当性の評価

    IRBは、研究計画に科学的な合理性があるか(研究目的・デザイン・対象・症例数・評価方法が適切か)を評価し、そのうえで被験者に対する介入が倫理的に許容されるかを、研究者から独立した客観的立場で判断する。科学的に妥当でない研究は、得られる知見がないのに被験者にリスクを負わせることになるため、科学的妥当性の評価は倫理的妥当性の評価と一体のものとしてIRBの中心的な役割となっている。

  5. ×e.  被験者への説明と同意の取得

    誤り。インフォームド・コンセントの取得は、被験者と直接接する研究責任者・研究分担者(治験では治験責任医師・治験分担医師)が行う。治験コーディネーター〈CRC〉が説明を補助することはある。IRBの役割は、使用する説明文書・同意文書の内容が適切で分かりやすいか、同意の手順に問題がないかを事前に審査することであり、同意取得そのものは行わない。

治験と臨床研究の審査の枠組み

・治験(医薬品・医療機器の製造販売承認を得るための臨床試験):「医薬品の臨床試験の実施の基準に関する省令」〈GCP: Good Clinical Practice〉に基づき、治験審査委員会の審査を受ける。治験には、製薬企業が依頼する企業治験と、医師が自ら計画・実施する医師主導治験がある。 ・治験以外の人を対象とする研究:「人を対象とする生命科学・医学系研究に関する倫理指針」(2021年に、従来の「人を対象とする医学系研究に関する倫理指針」と「ヒトゲノム・遺伝子解析研究に関する倫理指針」を統合して制定)に基づき、倫理審査委員会の審査を受ける。 ・特定臨床研究(未承認・適応外の医薬品等を用いる研究や、製薬企業から資金提供を受けて行う医薬品等の研究):臨床研究法(2018年施行)に基づき、厚生労働大臣の認定を受けた認定臨床研究審査委員会の審査を受ける。

倫理審査委員会の構成の考え方

研究者と利害関係のない委員、医学・医療の専門家に加えて、倫理学・法律などの専門家、一般の立場の者(非専門家)を含め、男女両性で構成することが求められる。研究内容を専門家の目だけでなく、被験者に近い立場からも評価するためである。

倫理原則の源流

ヘルシンキ宣言(世界医師会)は、人を対象とする研究計画を、研究開始前に研究者から独立した研究倫理委員会に提出して審査・承認を受けることを求めている。

役割分担の整理

・IRB/倫理審査委員会:研究計画(科学的・倫理的妥当性)の審査、実施中の継続審査(重篤な有害事象報告、計画変更などの審査) ・研究者(治験責任医師など):説明と同意の取得、介入の実施、データ収集、効果判定 ・依頼者/研究責任者側:研究資金の確保、研究計画の立案、割付の手順の設定、モニタリング

POINT

・IRB/倫理審査委員会は研究を「審査する」独立した組織であり、研究を「実施する」組織ではない。 ・審査の中心は、研究の科学的妥当性と倫理的妥当性(被験者のリスクと利益のバランス、説明・同意の手続き、個人情報保護、利益相反)である。 ・資金調達、割付、同意取得、効果判定は研究者側(治験依頼者・治験責任医師など)が行う。 ・治験はGCP省令に基づく治験審査委員会、一般の臨床研究は倫理指針に基づく倫理審査委員会、特定臨床研究は臨床研究法に基づく認定臨床研究審査委員会が審査する。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。