StudyMed医師国家試験

同じ検査でも「陽性」の重みが変わる―有病率に揺れる適中度、揺れない感度・特異度

第112回医師国家試験 B問題 第22問

国試問題にチャレンジ

第112回 B問題 第22問

検査前確率〈事前確率〉が変わると変化するのはどれか。

  1. a.感度
  2. b.特異度
  3. c.適中度〈的中度〉
  4. d.偽陰性率
  5. e.ROC曲線

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は検査の性能を表す指標のうち、検査前確率、つまり集団でいえば有病率が変わると値が動くものはどれかを問う問題だ。ポイントは「検査そのものに固有の値」と「検査を受ける集団によって変わる値」を区別できるかどうか。2×2表を頭に描きながら考えてみよう。
医学生医学生
感度や特異度って、検査ごとに「この検査は感度何%」と決まっている印象があります。だから変わらない側でしょうか。
ドクタードクター
その感覚は正しいよ。疾患あり・なしと検査陽性・陰性で表を作ると、真陽性、偽陽性、偽陰性、真陰性の4つに分かれる。感度は「疾患ありの人のうち陽性になる割合」、特異度は「疾患なしの人のうち陰性になる割合」。それぞれ疾患ありの列、疾患なしの列の中だけで計算しているのがミソなんだ。
医学生医学生
列の中だけで割り算しているから、疾患ありの人が全体で何人いるかには左右されない、ということですね。
ドクタードクター
そう。有病率が変わるというのは、疾患ありの列と疾患なしの列の人数の比が変わるということ。でも各列の中の割合は、同じ検査・同じカットオフ値なら変わらない。では、表を横に、つまり陽性の行で読むとどうなるかな。
医学生医学生
陽性と出た人のうち本当に疾患がある割合……それが陽性反応適中度ですね。陽性の行には真陽性と偽陽性が混ざっています。
ドクタードクター
その通り。その混ざり具合が有病率で大きく変わるんだ。感度90%、特異度90%の検査を1,000人に行うとしよう。有病率1%なら疾患ありは10人で真陽性9人、疾患なし990人からは偽陽性が99人出る。陽性反応適中度はおよそ8%にすぎない。
医学生医学生
えっ、陽性でも9割以上は病気じゃないんですか。感度も特異度も90%あるのに。
ドクタードクター
驚くよね。同じ検査で有病率を10%にすると真陽性90人、偽陽性90人で陽性反応適中度は50%、有病率50%なら90%まで上がる。逆に陰性反応適中度は有病率が上がるほど下がる。だから検査前確率で変化するのは適中度、これが正解だ。
医学生医学生
統計の講義で式だけ覚えたときはピンと来なかったんですが、人数で並べると一目瞭然ですね。では偽陰性率はどうですか。「偽」とつくので、なんとなく集団で変わりそうな気もします。
ドクタードクター
偽陰性率は疾患ありの人のうち誤って陰性になる割合で、1−感度に等しい。感度と同じく疾患ありの列の中だけで計算するから、有病率の影響は受けない。偽陽性率も1−特異度だから同様だ。
医学生医学生
ROC曲線は、カットオフ値を動かして感度と偽陽性率をプロットしたものでしたよね。材料がどちらも有病率に依存しないから、曲線も変わらないと考えていいですか。
ドクタードクター
完璧だ。ROC曲線は左上に近いほど、曲線下面積が1に近いほど識別能の高い検査を意味する。ここまでを整理すると、変わらない側は感度、特異度、偽陰性率、偽陽性率、ROC曲線。変わる側は適中度だね。
医学生医学生
適中度は検査後確率そのもの、と考えればよさそうですね。
ドクタードクター
いいまとめだ。発展として尤度比も押さえておこう。陽性尤度比は感度÷(1−特異度)、陰性尤度比は(1−感度)÷特異度で、感度と特異度だけから求まるから有病率に依存しない。検査前オッズに尤度比を掛けると検査後オッズが出る、これがベイズの考え方だ。
医学生医学生
臨床実習の総合診療科で、指導医の先生が「まず検査前確率を見積もってから検査を出しなさい」と言っていたのは、このことだったんですね。
ドクタードクター
まさにそう。有病率の低い一般集団へのスクリーニングでは、特異度の高い検査でも偽陽性が多くなり、陽性反応適中度は低くなりやすい。逆に症状から疑いが強い患者に行えば、同じ陽性結果でも信頼性はぐっと高まる。感度の高い検査の陰性は除外に(SnNout)、特異度の高い検査の陽性は確定に(SpPin)役立つことも合わせて覚えておこう。
医学生医学生
検査結果を見る前に、その人がどんな集団に属しているかを考える癖をつけます。

まとめ

感度・特異度は疾患あり・なしそれぞれの集団の内部で計算されるため、有病率(検査前確率)が変わっても値は変わらず、1−感度である偽陰性率、1−特異度である偽陽性率、両者から描かれるROC曲線や尤度比も同様に有病率に依存しません。一方、陽性・陰性反応適中度は検査陽性者・陰性者の中に疾患あり・なしがどれだけ混ざるかを見る指標で、検査後確率に相当するため、有病率が上がると陽性反応適中度は上昇し陰性反応適中度は低下します。感度・特異度が90%の検査でも、有病率1%の集団では陽性者の大半が偽陽性になりうる点は、スクリーニングの限界を理解するうえで重要です。検査前確率を見積もってから検査を選び、結果を解釈するという姿勢は、日常診療での過剰検査や誤った判断を防ぐ基本となります。

解答・解説

正解はcです

問われていること

検査の性能を表す指標には、「検査そのものに固有の値」と「検査を受ける集団の性質によって変わる値」がある。検査前確率(事前確率)とは、検査を行う前の時点でその人が疾患をもっている確率であり、集団でみれば有病率に相当する。これが変わると値が変わる指標はどれかが問われている。

2×2表で考える

疾患あり・なしと検査陽性・陰性で、真陽性(a)、偽陽性(b)、偽陰性(c)、真陰性(d)に分ける。 ・感度=a/(a+c):疾患ありの人の中で陽性となる割合(疾患ありの列だけで計算) ・特異度=d/(b+d):疾患なしの人の中で陰性となる割合(疾患なしの列だけで計算) ・陽性反応適中度=a/(a+b):陽性と出た人の中で本当に疾患がある割合(陽性の行で計算) ・陰性反応適中度=d/(c+d):陰性と出た人の中で本当に疾患がない割合(陰性の行で計算) 感度・特異度は「疾患あり」「疾患なし」それぞれの集団の内部で計算されるため、両群の人数比(=有病率)が変わっても値は変わらない。一方、適中度は陽性者(または陰性者)の中に疾患あり・なしの人がどれだけ混ざっているかを見るため、有病率の影響を直接受ける。 【具体例】感度90%、特異度90%の検査を1,000人に行う場合 ・有病率1%:疾患あり10人→真陽性9人、偽陰性1人。疾患なし990人→偽陽性99人、真陰性891人。陽性反応適中度=9/(9+99)≒8%、陰性反応適中度=891/892≒99.9%。 ・有病率10%:疾患あり100人→真陽性90人。疾患なし900人→偽陽性90人。陽性反応適中度=90/(90+90)=50%。 ・有病率50%:真陽性450人、偽陽性50人。陽性反応適中度=450/500=90%、陰性反応適中度=450/(450+50)=90%。 同じ検査でも、有病率が高いほど陽性反応適中度は上がり、陰性反応適中度は下がる。したがって検査前確率によって変化するのは適中度である。

選択肢考察

  1. ×a.  感度

    感度は疾患をもつ人のうち検査が陽性となる割合で、真陽性/(真陽性+偽陰性)で求める。疾患をもつ人の中だけで計算するため、集団の有病率(検査前確率)が変わっても、同じ検査・同じカットオフ値であれば値は一定である。

  2. ×b.  特異度

    特異度は疾患をもたない人のうち検査が陰性となる割合で、真陰性/(偽陽性+真陰性)で求める。疾患をもたない人の中だけで計算するため、有病率の影響を受けず、検査とカットオフ値で決まる固有の値である。

  3. ○c.  適中度〈的中度〉

    陽性反応適中度は検査陽性者のうち実際に疾患をもつ割合、陰性反応適中度は検査陰性者のうち実際に疾患をもたない割合であり、いずれも検査後確率に相当する。陽性者・陰性者の中には疾患あり・なしの両方が含まれ、その構成比は有病率に左右されるため、検査前確率が変わると値が変化する。有病率が低い集団では偽陽性の占める割合が増えて陽性反応適中度が低下し、有病率が高い集団では陽性反応適中度が上昇する(陰性反応適中度はその逆)。

  4. ×d.  偽陰性率

    偽陰性率は疾患をもつ人のうち検査が誤って陰性となる割合で、偽陰性/(真陽性+偽陰性)=1-感度である。感度と同じく疾患をもつ人の中だけで計算されるため、有病率によって変化しない。同様に偽陽性率(=1-特異度)も有病率の影響を受けない。

  5. ×e.  ROC曲線

    ROC曲線(receiver operating characteristic curve:受信者動作特性曲線)は、カットオフ値を動かしたときの感度(縦軸)と偽陽性率=1-特異度(横軸)の組をプロットした曲線である。構成要素がいずれも有病率に依存しない指標であるため、曲線の形も検査前確率によって変わらない。曲線が左上に近いほど、曲線下面積(AUC)が1に近いほど、識別能の高い検査である。

検査前確率と検査後確率

検査前確率は、症状・身体所見・疫学情報などから見積もった検査前の疾患の確率である。検査結果を得たあとの確率が検査後確率で、陽性結果後の検査後確率が陽性反応適中度、陰性結果後に疾患がある確率が1-陰性反応適中度にあたる。

尤度比(likelihood ratio)

・陽性尤度比=感度/(1-特異度)、陰性尤度比=(1-感度)/特異度。 ・感度と特異度だけから求まるため、有病率に依存しない。 ・検査前オッズ×尤度比=検査後オッズ(ベイズの定理)。陽性尤度比が大きいほど陽性結果で診断を確定しやすく、陰性尤度比が小さいほど陰性結果で除外しやすい。

臨床・公衆衛生での意味

・有病率の低い一般集団に対するスクリーニングでは、特異度の高い検査でも偽陽性が多くなり、陽性反応適中度が低くなりやすい。 ・逆に、症状などから疑いの強い患者(検査前確率が高い)に行えば、同じ検査でも陽性結果の信頼性が高くなる。 ・感度の高い検査の陰性結果は除外診断に(SnNout)、特異度の高い検査の陽性結果は確定診断に(SpPin)役立つ。

POINT

・有病率(検査前確率)によって変化するのは陽性・陰性反応適中度(=検査後確率)。 ・感度、特異度、偽陰性率(1-感度)、偽陽性率(1-特異度)、尤度比、ROC曲線は有病率に依存しない。 ・有病率↑→陽性反応適中度↑、陰性反応適中度↓。 ・有病率が低い集団のスクリーニングでは偽陽性が増え、陽性反応適中度が低下する。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。