同じ検査でも「陽性」の重みが変わる―有病率に揺れる適中度、揺れない感度・特異度
第112回医師国家試験 B問題 第22問
国試問題にチャレンジ
検査前確率〈事前確率〉が変わると変化するのはどれか。
- a.感度
- b.特異度
- c.適中度〈的中度〉
- d.偽陰性率
- e.ROC曲線
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生まとめ
感度・特異度は疾患あり・なしそれぞれの集団の内部で計算されるため、有病率(検査前確率)が変わっても値は変わらず、1−感度である偽陰性率、1−特異度である偽陽性率、両者から描かれるROC曲線や尤度比も同様に有病率に依存しません。一方、陽性・陰性反応適中度は検査陽性者・陰性者の中に疾患あり・なしがどれだけ混ざるかを見る指標で、検査後確率に相当するため、有病率が上がると陽性反応適中度は上昇し陰性反応適中度は低下します。感度・特異度が90%の検査でも、有病率1%の集団では陽性者の大半が偽陽性になりうる点は、スクリーニングの限界を理解するうえで重要です。検査前確率を見積もってから検査を選び、結果を解釈するという姿勢は、日常診療での過剰検査や誤った判断を防ぐ基本となります。
解答・解説
正解はcです
問われていること
検査の性能を表す指標には、「検査そのものに固有の値」と「検査を受ける集団の性質によって変わる値」がある。検査前確率(事前確率)とは、検査を行う前の時点でその人が疾患をもっている確率であり、集団でみれば有病率に相当する。これが変わると値が変わる指標はどれかが問われている。
2×2表で考える
疾患あり・なしと検査陽性・陰性で、真陽性(a)、偽陽性(b)、偽陰性(c)、真陰性(d)に分ける。 ・感度=a/(a+c):疾患ありの人の中で陽性となる割合(疾患ありの列だけで計算) ・特異度=d/(b+d):疾患なしの人の中で陰性となる割合(疾患なしの列だけで計算) ・陽性反応適中度=a/(a+b):陽性と出た人の中で本当に疾患がある割合(陽性の行で計算) ・陰性反応適中度=d/(c+d):陰性と出た人の中で本当に疾患がない割合(陰性の行で計算) 感度・特異度は「疾患あり」「疾患なし」それぞれの集団の内部で計算されるため、両群の人数比(=有病率)が変わっても値は変わらない。一方、適中度は陽性者(または陰性者)の中に疾患あり・なしの人がどれだけ混ざっているかを見るため、有病率の影響を直接受ける。 【具体例】感度90%、特異度90%の検査を1,000人に行う場合 ・有病率1%:疾患あり10人→真陽性9人、偽陰性1人。疾患なし990人→偽陽性99人、真陰性891人。陽性反応適中度=9/(9+99)≒8%、陰性反応適中度=891/892≒99.9%。 ・有病率10%:疾患あり100人→真陽性90人。疾患なし900人→偽陽性90人。陽性反応適中度=90/(90+90)=50%。 ・有病率50%:真陽性450人、偽陽性50人。陽性反応適中度=450/500=90%、陰性反応適中度=450/(450+50)=90%。 同じ検査でも、有病率が高いほど陽性反応適中度は上がり、陰性反応適中度は下がる。したがって検査前確率によって変化するのは適中度である。
選択肢考察
- ×a. 感度
感度は疾患をもつ人のうち検査が陽性となる割合で、真陽性/(真陽性+偽陰性)で求める。疾患をもつ人の中だけで計算するため、集団の有病率(検査前確率)が変わっても、同じ検査・同じカットオフ値であれば値は一定である。
- ×b. 特異度
特異度は疾患をもたない人のうち検査が陰性となる割合で、真陰性/(偽陽性+真陰性)で求める。疾患をもたない人の中だけで計算するため、有病率の影響を受けず、検査とカットオフ値で決まる固有の値である。
- ○c. 適中度〈的中度〉
陽性反応適中度は検査陽性者のうち実際に疾患をもつ割合、陰性反応適中度は検査陰性者のうち実際に疾患をもたない割合であり、いずれも検査後確率に相当する。陽性者・陰性者の中には疾患あり・なしの両方が含まれ、その構成比は有病率に左右されるため、検査前確率が変わると値が変化する。有病率が低い集団では偽陽性の占める割合が増えて陽性反応適中度が低下し、有病率が高い集団では陽性反応適中度が上昇する(陰性反応適中度はその逆)。
- ×d. 偽陰性率
偽陰性率は疾患をもつ人のうち検査が誤って陰性となる割合で、偽陰性/(真陽性+偽陰性)=1-感度である。感度と同じく疾患をもつ人の中だけで計算されるため、有病率によって変化しない。同様に偽陽性率(=1-特異度)も有病率の影響を受けない。
- ×e. ROC曲線
ROC曲線(receiver operating characteristic curve:受信者動作特性曲線)は、カットオフ値を動かしたときの感度(縦軸)と偽陽性率=1-特異度(横軸)の組をプロットした曲線である。構成要素がいずれも有病率に依存しない指標であるため、曲線の形も検査前確率によって変わらない。曲線が左上に近いほど、曲線下面積(AUC)が1に近いほど、識別能の高い検査である。
検査前確率と検査後確率
検査前確率は、症状・身体所見・疫学情報などから見積もった検査前の疾患の確率である。検査結果を得たあとの確率が検査後確率で、陽性結果後の検査後確率が陽性反応適中度、陰性結果後に疾患がある確率が1-陰性反応適中度にあたる。
尤度比(likelihood ratio)
・陽性尤度比=感度/(1-特異度)、陰性尤度比=(1-感度)/特異度。 ・感度と特異度だけから求まるため、有病率に依存しない。 ・検査前オッズ×尤度比=検査後オッズ(ベイズの定理)。陽性尤度比が大きいほど陽性結果で診断を確定しやすく、陰性尤度比が小さいほど陰性結果で除外しやすい。
臨床・公衆衛生での意味
・有病率の低い一般集団に対するスクリーニングでは、特異度の高い検査でも偽陽性が多くなり、陽性反応適中度が低くなりやすい。 ・逆に、症状などから疑いの強い患者(検査前確率が高い)に行えば、同じ検査でも陽性結果の信頼性が高くなる。 ・感度の高い検査の陰性結果は除外診断に(SnNout)、特異度の高い検査の陽性結果は確定診断に(SpPin)役立つ。
POINT
・有病率(検査前確率)によって変化するのは陽性・陰性反応適中度(=検査後確率)。 ・感度、特異度、偽陰性率(1-感度)、偽陽性率(1-特異度)、尤度比、ROC曲線は有病率に依存しない。 ・有病率↑→陽性反応適中度↑、陰性反応適中度↓。 ・有病率が低い集団のスクリーニングでは偽陽性が増え、陽性反応適中度が低下する。
