StudyMed医師国家試験

40%が82%に化ける―尤度比は「確率」ではなく「オッズ」に掛けよ

第119回医師国家試験 E問題 第39問

国試問題にチャレンジ

第119回 E問題 第39問

65歳の女性。めまいを主訴に来院した。今朝,起床時に寝返りを打ったところ天井がぐるぐる回り,悪心を伴ったため,ベッド上で安静にしていた。めまいと悪心は1分程度で消失した。その後,朝食の準備中に振り向いた際に同様のめまいと悪心が再び出現したため,心配になり受診した。安静時のめまいはない。頭痛,耳鳴および難聴はない。意識は清明。体温36.5℃。脈拍72/分,整。血圧122/76mmHg。神経診察で異常を認めない。  良性発作性頭位めまい症の診断予測スコアを表1に,その診断スコア合計点別の尤度比を表2に示す。 表1 良性発作性頭位めまい症の診断予測スコア 項目 スコア めまいの持続時間2分以内 1 寝返りで誘発される 2 安静時にめまいがある -1 表2 診断スコア合計点別の尤度比 スコア合計 陽性尤度比 -1点 0.1 0点 0.2 1点 1.3 2点 2.8 3点 6.8 この患者における良性発作性頭位めまい症の事前確率が40%である場合,この患者における良性発作性頭位めまい症の事後確率に最も近いのはどれか。

  1. a.8%
  2. b.19%
  3. c.47%
  4. d.65%
  5. e.82%

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、めまいの症例を題材に、診断予測スコアと尤度比を使って事後確率を求める問題だ。臨床疫学の計算問題だけれど、やることは「スコアを正しく数える」「確率をオッズに変換して尤度比を掛ける」「確率に戻す」の3段階だけ。まずは病歴から、スコアの各項目が当てはまるかを確認していこう。
医学生医学生
寝返りで誘発されているので2点、めまいは1分程度で治まっているので「2分以内」の1点、安静時のめまいはないので減点なし。合計3点ですね。
ドクタードクター
その通り。安静時めまいの項目は「ある」ときに-1点だから、「ない」場合は0点として扱う。ここで-1点を足してしまうと2点になって計算がずれるので注意しよう。表から、3点の陽性尤度比は6.8だね。
医学生医学生
じゃあ、事前確率40%に6.8を掛けて……あれ、272%になってしまいます。
ドクタードクター
そう、それが一番多い落とし穴なんだ。尤度比は確率に直接掛ける値ではなく、オッズに掛ける値なんだよ。確率は0~1の範囲に縛られているけれど、オッズは0から無限大まで取れるので、掛け算をしても破綻しない。
医学生医学生
オッズって、疫学の講義でオッズ比を習ったときに出てきた「起こる確率÷起こらない確率」のことですか。
ドクタードクター
まさにそれ。オッズ=p÷(1-p)。事前確率0.4なら、0.4÷0.6で事前オッズは約0.67、つまり2/3になる。これに尤度比6.8を掛けると、事後オッズは約4.5だ。
医学生医学生
最後に確率へ戻すには、オッズ÷(1+オッズ)でしたよね。4.5÷5.5で、だいたい0.82。82%です。
ドクタードクター
正解。分数のまま計算すると、13.6÷16.6で約0.82になる。82%が最も近い選択肢だね。ではほかの選択肢がどこから来たのか考えてみよう。47%や65%は、どういう間違いで出てくると思う?
医学生医学生
スコアの数え間違いでしょうか。1点なら尤度比1.3、2点なら2.8になるので……。
ドクタードクター
いい読みだ。尤度比1.3で計算すると事後確率は約46%、2.8なら約65%になる。持続時間の1点だけ、あるいは寝返りの2点だけを数えて、もう一方を足し忘れるとこうなるわけだ。
医学生医学生
8%や19%は、事前確率の40%より低いですね。尤度比が1を超えているのに確率が下がるのはおかしい、と考えれば一瞬で切れます。
ドクタードクター
その感覚はとても大事。尤度比が1より大きければ事後確率は上がり、1より小さければ下がる。1ならその検査結果は診断に役立たない。計算する前に「上がるはずか下がるはずか」の見当をつけておくと、検算にもなるし誤答も避けやすいよ。
医学生医学生
CBTの勉強では感度と特異度ばかり覚えていましたが、尤度比との関係はどうなっているんでしょう。
ドクタードクター
陽性尤度比は感度÷(1-特異度)、陰性尤度比は(1-感度)÷特異度だ。今回のようにスコアを段階に分けて、区分ごとに尤度比を設定するやり方を多段階尤度比という。陽性・陰性の2分割より情報を無駄にしないのが利点なんだ。目安として、10以上や0.1以下だと診断への影響が大きいとされる。
医学生医学生
陽性的中率とはどう違うんですか。
ドクタードクター
陽性的中率は有病率、つまり事前確率によって大きく変わってしまう。一方、尤度比は検査そのものの性質で、有病率の影響を受けにくい。だから同じ検査結果でも、事前確率の違う患者に当てはめて事後確率を個別に見積もれるわけだ。救急外来と健診では同じ所見の重みが違う、というのを数字で扱える道具だね。
医学生医学生
症例自体は、耳鼻科の臨床実習で見た良性発作性頭位めまい症そのものだと思いました。
ドクタードクター
そうだね。剝がれた耳石が半規管に入り込み、頭の向きを変えたときに1分以内の回転性めまいが起こる。耳鳴や難聴などの蝸牛症状、神経症状を伴わないのが特徴で、後半規管型が多く、Dix-Hallpike法で回旋性眼振が誘発される。治療はEpley法などの浮遊耳石置換法だ。ただし、頭位と関係なく持続するめまいや、構音障害・失調などの神経症状があれば、小脳や脳幹の梗塞を考えなければならない。今回のスコアで安静時めまいが減点項目になっているのも、そうした鑑別を反映していると考えられるね。
医学生医学生
病歴から事前確率を見積もって、所見の尤度比で更新する。普段無意識にやっている診断推論を、数字で追ったということですね。
ドクタードクター
その通り。ベイズの考え方は計算問題のためだけでなく、検査をオーダーする前に「結果次第で方針が変わるか」を考える習慣にもつながる。ぜひ身につけておこう。

まとめ

尤度比を使って事後確率を求めるときは、確率→オッズ→尤度比を掛ける→オッズ→確率という手順を踏みます。オッズ=p÷(1-p)、確率=オッズ÷(1+オッズ)であり、本問ではスコア3点(持続2分以内1点+寝返り誘発2点、安静時めまいなし)で尤度比6.8、事前オッズ約0.67に掛けて事後オッズ約4.5、事後確率は約82%となります。確率に尤度比を直接掛けると100%を超えるなどの破綻が起こり、スコアの数え漏れは47%や65%といった誤答につながります。尤度比が1より大きければ事後確率は上がり、1未満なら下がるという見当をつけておくと検算に役立ち、陽性尤度比=感度÷(1-特異度)、陰性尤度比=(1-感度)÷特異度の関係もあわせて押さえておきましょう。事前確率を所見で更新していくベイズ的な考え方は、日常の診断推論や検査の選び方を支える基本です。

解答・解説

正解はeです

症例の整理

65歳女性。寝返りや振り向きといった頭の位置の変化をきっかけに回転性めまい(天井がぐるぐる回る)と悪心が起こり、約1分で治まっている。安静時のめまいはなく、頭痛・耳鳴・難聴もない。意識清明、バイタルサインは正常で、神経診察にも異常がない。頭位変換で誘発される短時間の回転性めまいで、蝸牛症状(耳鳴・難聴)や中枢神経症状を欠くことから、臨床的には良性発作性頭位めまい症(BPPV)が強く疑われる。

解き方の流れ

本問は、提示された診断予測スコアと尤度比を使って、事前確率から事後確率を求める問題である。手順は次の4段階である。 (1) スコアを合計し、対応する陽性尤度比を表2から選ぶ。 (2) 事前確率を事前オッズに変換する。 (3) 事前オッズに尤度比を掛けて事後オッズを求める。 (4) 事後オッズを事後確率に戻す。

(1) スコアの合計

・めまいの持続時間2分以内:約1分で消失しているので該当 → 1点 ・寝返りで誘発される:起床時の寝返りで出現しているので該当 → 2点 ・安静時にめまいがある:安静時のめまいはないので該当しない → 0点(-1点は加えない) 合計は1+2=3点であり、表2より陽性尤度比は6.8である。

(2) 事前オッズ

事前オッズ=事前確率÷(1-事前確率)=0.4÷0.6=2/3≒0.667

(3) 事後オッズ

事後オッズ=事前オッズ×尤度比=0.667×6.8≒4.53

(4) 事後確率

事後確率=事後オッズ÷(1+事後オッズ)=4.53÷5.53≒0.819 分数のまま計算すると、(2/3×6.8)÷(1+2/3×6.8)=13.6÷16.6≒0.819となり、約82%である。

注意点

尤度比は確率ではなくオッズに掛ける値である。事前確率40%にそのまま6.8を掛けると272%となり、確率として成り立たない。確率→オッズ→確率という変換を必ず経由する。

選択肢考察

  1. ×a.  8%

    事後確率が事前確率40%を大きく下回るのは、尤度比が1未満となる場合である。本例のスコアは3点で尤度比6.8と1を大きく上回るため、事後確率は40%より高くなるはずであり、8%は誤りである。参考までに、事前確率0.4に尤度比0.2を直接掛けると0.08(8%)になるが、確率に尤度比を直接掛ける計算そのものが誤りである(正しくオッズで計算しても、尤度比0.2なら約12%である)。

  2. ×b.  19%

    事前確率より低い値であり、尤度比が1未満となるスコア(-1点や0点)を想定しない限り生じない。本例は寝返りで誘発され、持続2分以内、安静時めまいなしでスコア3点(尤度比6.8)であるから、事後確率は事前確率40%を上回る。19%は誤りである。

  3. ×c.  47%

    スコアを1点(尤度比1.3)と誤って評価した場合の値である。事前オッズ0.667×1.3≒0.867、事後確率は0.867÷1.867≒46%となり、約47%に近い。例えば「持続時間2分以内」の1点しか数えず、「寝返りで誘発される」2点を加え忘れるとこの値になる。本例は寝返りで誘発されており、合計3点で計算しなければならない。

  4. ×d.  65%

    スコアを2点(尤度比2.8)と誤って評価した場合の値である。事前オッズ0.667×2.8≒1.87、事後確率は1.87÷2.87≒65%となる。「寝返りで誘発される」の2点のみを数え、持続時間約1分(2分以内)の1点を加え忘れるとこの値になる。正しくは合計3点である。

  5. ○e.  82%

    持続時間2分以内(1点)+寝返りで誘発(2点)、安静時めまいなし(減点なし)で合計3点、陽性尤度比は6.8である。事前オッズ0.4÷0.6≒0.667に6.8を掛けて事後オッズ≒4.53、これを確率に戻すと4.53÷5.53≒0.819となり、約82%で本選択肢が最も近い。

尤度比とは

・尤度比は、ある検査結果(ここではスコアの値)が、疾患のある人で得られる確率と、疾患のない人で得られる確率の比である。 ・陽性/陰性の2分割の検査では次の式で表される。  陽性尤度比=感度÷(1-特異度)  陰性尤度比=(1-感度)÷特異度 ・本問のようにスコアを段階ごとに区切る場合は、各スコア区分ごとに尤度比が定められる(多段階尤度比)。 ・尤度比が1より大きいほど疾患の存在を支持し、1より小さいほど否定する。1ならその結果は診断に役立たない。目安として10以上や0.1以下は診断への影響が大きいとされる。

オッズと確率の変換

・オッズ=確率÷(1-確率) ・確率=オッズ÷(1+オッズ) ・例:確率50%はオッズ1、確率80%はオッズ4、確率20%はオッズ0.25である。

ベイズの考え方

・事前確率(検査前確率):病歴や有病率などから推定した、検査前の時点での疾患の可能性。 ・事後オッズ=事前オッズ×尤度比 ・同じ検査結果でも、事前確率が異なれば事後確率は大きく変わる。尤度比は検査固有の性質であり、有病率(事前確率)の影響を受けにくい点が、陽性的中率などとの違いである。

良性発作性頭位めまい症(BPPV)

・耳石器(卵形嚢)から剝がれた耳石の破片が半規管に入り込むことで、特定の頭位変換時に短時間(多くは1分以内)の回転性めまいが起こる。中高年の女性に多く、末梢性めまいの中で最も頻度が高い。 ・耳鳴・難聴などの蝸牛症状は伴わず、神経学的異常もない。 ・後半規管型が最も多く、Dix-Hallpike法で回旋性の眼振が誘発される。外側(水平)半規管型の診断には仰臥位での頭部回旋(supine roll test)を用いる。 ・治療は浮遊耳石置換法(後半規管型ではEpley法など)が有効で、自然軽快することも多い。 ・鑑別:Ménière病(めまい発作が数十分~数時間続き、耳鳴・難聴・耳閉感を伴う)、前庭神経炎(めまいが数日持続し、蝸牛症状なし)、小脳・脳幹梗塞(構音障害・運動失調などの神経症状、頭位と無関係な持続性めまい)など。

POINT

・尤度比は「確率」ではなく「オッズ」に掛ける。確率→オッズ→(×尤度比)→オッズ→確率の手順で計算する。 ・オッズ=p÷(1-p)、確率=オッズ÷(1+オッズ)。 ・本問:スコア1+2=3点 → 尤度比6.8 → 事前オッズ0.667×6.8≒4.53 → 事後確率≒82%。 ・陽性尤度比=感度÷(1-特異度)、陰性尤度比=(1-感度)÷特異度。 ・BPPVは頭位変換で誘発され1分程度で治まる回転性めまいで、蝸牛症状や神経症状を伴わない。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。