見逃しを最小にするなら右上へ―ROC曲線で読み解く偽陰性率と感度の関係
第119回医師国家試験 E問題 第23問
国試問題にチャレンジ
ある検査におけるReceiver Operating Characteristic 〈ROC〉曲線を下に示す。これを参考にカットオフ値を設定することとした。 偽陰性率が最も低いのはどれか。

- a.①
- b.②
- c.③
- d.④
- e.⑤
対話形式の解説
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ドクターまとめ
ROC曲線は、検査のカットオフ値を変えたときの感度と特異度の組み合わせを、縦軸に感度(真陽性率)、横軸に1−特異度(偽陽性率)をとって描いた曲線で、曲線上の各点が一つのカットオフ値に対応します。偽陰性率は疾患がある人のうち陰性と判定される割合で1−感度に等しいため、偽陰性率が最も低い点は感度が最も高い点、すなわち曲線上で最も上(右上)にある点です。ただしその点は偽陽性率も最大となり、感度と特異度はカットオフ値の設定によってトレードオフの関係にあります。見逃しを避けたいスクリーニングでは感度重視、確定診断では特異度重視とするなど、目的に応じてカットオフを選び、検査全体の性能は曲線の左上への近さやAUCで評価します。こうした指標の関係を理解することは、検査結果を正しく解釈し、適切な臨床判断を下すための基礎となります。
解答・解説
正解はaです
ROC曲線(Receiver Operating Characteristic curve、受信者動作特性曲線)は、検査の陽性・陰性を分けるカットオフ値を少しずつ変えたときの感度と特異度の組み合わせを、縦軸に感度(真陽性率)、横軸に1−特異度(偽陽性率)をとって描いた曲線である。曲線上の各点が、それぞれ一つのカットオフ値に対応している。 本問の図では、曲線上に①〜⑤の5点が示されており、①が最も右上(感度が最も高く、偽陽性率も最も高い)に位置し、②、③、④と進むにつれて左下へ移り、⑤が最も左下(感度が最も低く、偽陽性率も最も低い)に位置している。 問われている偽陰性率とは、実際に疾患がある人のうち検査で陰性と判定されてしまう人の割合である。疾患がある人は検査で「陽性(真陽性)」か「陰性(偽陰性)」のどちらかに分かれるので、 偽陰性率 = 偽陰性 ÷(真陽性+偽陰性)= 1 − 感度 となる。したがって、偽陰性率が最も低い点とは感度が最も高い点、すなわちROC曲線上で縦軸の値が最も大きい点であり、①がこれにあたる。 なお、感度を最大にするカットオフ値(①)は、そのぶん偽陽性率も最大となり特異度は最も低い。感度と特異度はカットオフ値の設定によって互いに引き換えの関係(トレードオフ)にあることを理解しておく必要がある。
選択肢考察
- ○a. ①
①は5点の中で縦軸(感度)の値が最も大きい。偽陰性率は1−感度で表されるため、感度が最大の①で偽陰性率は最小となる。カットオフ値を最も「陽性と判定しやすい」側に設定した状態に相当し、疾患のある人を見逃しにくい。その代わり横軸(偽陽性率)の値も最大であり、疾患のない人を誤って陽性とする割合が最も高い点でもある。
- ×b. ②
②の感度は①より低い位置にあるため、偽陰性率(1−感度)は①より高い。①と比べると偽陽性率は低くなる(特異度は上がる)が、偽陰性率が最も低い点ではない。
- ×c. ③
③は曲線の中ほどに位置し、感度と特異度のバランスをとった点に近い。しかし感度は①・②より低いため、偽陰性率は①より高く、最も低い点ではない。
- ×d. ④
④は③よりさらに左下にあり、感度が低くなっている。偽陽性率は低い(特異度は高い)が、そのぶん偽陰性率は高く、最小ではない。
- ×e. ⑤
⑤は最も左下に位置し、感度が5点の中で最も低い。偽陰性率(1−感度)は最も高くなる。一方で偽陽性率は最も低く特異度が最も高い点であり、本問の問いとは正反対の性質をもつ。
2×2表と各指標
疾患あり・なし(実際の状態)と、検査陽性・陰性を組み合わせると、真陽性(TP)、偽陽性(FP)、偽陰性(FN)、真陰性(TN)の4つに分かれる。 ・感度(真陽性率)= TP ÷(TP+FN):疾患がある人を正しく陽性とする割合 ・特異度(真陰性率)= TN ÷(TN+FP):疾患がない人を正しく陰性とする割合 ・偽陰性率 = FN ÷(TP+FN)= 1 − 感度 ・偽陽性率 = FP ÷(TN+FP)= 1 − 特異度 ・陽性的中率 = TP ÷(TP+FP)、陰性的中率 = TN ÷(TN+FN):これらは有病率の影響を受ける。
ROC曲線の読み方
・曲線上の点を右上へ動かす(陽性と判定しやすいカットオフにする)と、感度は上がり特異度は下がる。左下へ動かすとその逆になる。 ・曲線が左上の角(感度1、偽陽性率0)に近づくほど診断能の高い検査である。 ・曲線下面積(AUC: area under the curve)は0.5〜1.0の値をとり、1に近いほど優れた検査である。AUC=0.5(左下と右上を結ぶ対角線)は偶然と同じで、診断の役に立たない。 ・最適なカットオフ値の一つの決め方として、左上の角に最も近い点や、Youden指数(感度+特異度−1)が最大となる点を選ぶ方法がある。
カットオフ値の選び方と臨床的な目的
・見逃しを避けたいスクリーニングや、見逃すと重大な結果を招く疾患では、感度を重視したカットオフ(偽陰性を減らす)を選ぶ。感度の高い検査が陰性であれば疾患を除外しやすい(SnNout)。 ・確定診断や、偽陽性が侵襲的な精密検査・治療につながる場面では、特異度を重視したカットオフ(偽陽性を減らす)を選ぶ。特異度の高い検査が陽性であれば疾患を確定しやすい(SpPin)。
POINT
・ROC曲線は縦軸が感度(真陽性率)、横軸が1−特異度(偽陽性率)。 ・偽陰性率=1−感度、偽陽性率=1−特異度。 ・偽陰性率が最も低い点=感度が最も高い点=ROC曲線上で最も上(右上)の点。 ・感度と特異度はカットオフ値によりトレードオフの関係にある。 ・AUCが1に近く、曲線が左上に近いほど診断能が高い。
