StudyMed医師国家試験

健診の血尿、その正体は?―日本で最も多い慢性腎炎、IgA腎症を押さえる

第112回医師国家試験 B問題 第21問

国試問題にチャレンジ

第112回 B問題 第21問

慢性腎炎症候群のうち最も頻度が高いのはどれか。

  1. a.IgA腎症
  2. b.膜性腎症
  3. c.膜性増殖性糸球体腎炎
  4. d.巣状分節性糸球体硬化症
  5. e.基底膜菲薄化症候群〈良性家族性血尿〉

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、慢性腎炎症候群の原因として最も頻度が高い疾患を問う問題だ。ポイントは2つ。「慢性腎炎症候群」が病理診断名ではなく臨床症候による分類であること、そしてわが国の腎生検データでどの組織型が多いかを知っていることだ。
医学生医学生
腎臓内科の講義で、ネフローゼ症候群と腎炎症候群の区別がややこしかった記憶があります。慢性腎炎症候群って、どういう状態を指すんでしたっけ。
ドクタードクター
蛋白尿と血尿がおおむね1年以上続き、高血圧や腎機能低下を伴いながらゆっくり進行しうる病態のことだ。症候に基づく呼び名だから、その背景にはIgA腎症、膜性増殖性糸球体腎炎、巣状分節性糸球体硬化症など、いろいろな組織型が含まれる。どれなのかを確定するには腎生検が必要になる。
医学生医学生
症候分類と組織分類は別物で、一つの症候群の中に複数の組織型がある、という関係ですね。
ドクタードクター
その通り。WHOの臨床症候分類では、ほかに急性腎炎症候群、急速進行性腎炎症候群、反復性または持続性血尿症候群、ネフローゼ症候群がある。さて、その中で最も多い原因はどれだと思う?
医学生医学生
膜性腎症かなと思いました。成人で多いと習った気がして。
ドクタードクター
惜しい、そこがよくある混同ポイントだ。膜性腎症が最多なのは「成人の一次性ネフローゼ症候群」の原因としてなんだ。基底膜の上皮下に免疫複合体が沈着して基底膜が肥厚する疾患で、中高年に多く、悪性腫瘍や薬剤、B型肝炎、SLEに伴う二次性もある。主な臨床像は高度蛋白尿によるネフローゼで、慢性腎炎症候群の原因として最多ではない。
医学生医学生
ということは、正解はIgA腎症ですか。病理実習で、メサンギウムに沿ってIgAが光る蛍光抗体の写真を見ました。
ドクタードクター
正解。IgA腎症はわが国の腎生検例の約3割、一次性糸球体疾患に限るとその約半数を占めていて、慢性腎炎症候群の原因として群を抜いて多い。日本では学校検尿や職場の健診で、無症状の血尿や蛋白尿として見つかることが多いのも特徴だね。
医学生医学生
上気道感染のあとに肉眼的血尿が出る、というのも有名ですよね。溶連菌感染後急性糸球体腎炎とよく比べられました。
ドクタードクター
いいところを突いたね。IgA腎症では感染の直後、1〜3日程度で肉眼的血尿が出ることがある。一方、溶連菌感染後急性糸球体腎炎は感染から1〜2週間ほどの潜伏期を経て発症し、補体が低下する。IgA腎症では補体は通常正常で、血清IgAが高いのは約半数だ。
医学生医学生
残りの選択肢も確認させてください。膜性増殖性糸球体腎炎は低補体が特徴でしたよね。
ドクタードクター
そう。メサンギウム細胞の増殖と、基底膜の二重化、いわゆるdouble contourが特徴で、C型肝炎ウイルスやクリオグロブリン血症に伴う二次性もある。ネフローゼにも腎炎症候群にもなりうるけれど、頻度は腎生検例の数%にとどまる。巣状分節性糸球体硬化症は、一部の糸球体の一部分に硬化が起こる病気で、ステロイド抵抗性のネフローゼを示しやすく、腎機能が進行性に低下しやすい。こちらもネフローゼの原因として重要な位置づけだ。
医学生医学生
基底膜菲薄化症候群は「良性家族性血尿」という名前のとおり、血尿だけで進行しないんですよね。
ドクタードクター
その理解でいい。糸球体基底膜が薄くなって持続性の顕微鏡的血尿を示し、家族歴があることが多い。IV型コラーゲン遺伝子の異常が関わる例もある。蛋白尿や腎機能障害は通常なく、腎生検に至る例も少ないから、頻度という点では候補にならない。
医学生医学生
整理すると、慢性腎炎ならIgA腎症、成人ネフローゼなら膜性腎症、ステロイド抵抗性ネフローゼなら巣状分節性糸球体硬化症、という対応ですね。
ドクタードクター
完璧だ。最後に臨床での注意点。IgA腎症はかつて予後良好と考えられていたけれど、診断後20年で約3〜4割が末期腎不全に至るとされ、決して良性の病気ではない。治療はレニン・アンギオテンシン系阻害薬、副腎皮質ステロイドに加え、わが国では口蓋扁桃摘出術とステロイドパルス療法の併用も広く行われている。
医学生医学生
健診で血尿を指摘されても放置する人は多そうです。蛋白尿も一緒に出ていたら、腎臓内科への紹介を考えるべきですね。
ドクタードクター
その通り。血尿に蛋白尿が加わる、腎機能が落ちてくる、といった場合は腎生検を含めた精査が必要だ。それから、IgA血管炎に伴う紫斑病性腎炎は組織学的にIgA腎症とよく似ていることも合わせて覚えておこう。

まとめ

慢性腎炎症候群は、蛋白尿・血尿が持続し、高血圧や腎機能低下を伴って緩徐に進行しうる臨床症候による分類で、その原因として最も多いのはIgA腎症です。IgA腎症はわが国の腎生検例の約3割、一次性糸球体疾患の約半数を占め、健診での無症候性血尿・蛋白尿や上気道感染直後の肉眼的血尿を契機に見つかり、蛍光抗体法でメサンギウムへのIgA沈着を認め、補体は通常正常です。膜性腎症は成人の一次性ネフローゼ症候群で最多、巣状分節性糸球体硬化症はステロイド抵抗性ネフローゼの代表、膜性増殖性糸球体腎炎は低補体と基底膜の二重化が特徴、基底膜菲薄化症候群は予後良好な家族性血尿と、それぞれの位置づけを区別しておきましょう。IgA腎症は診断後20年で3〜4割が末期腎不全に至りうるため、健診の尿異常を軽視せず早期に専門医へつなぐ姿勢が臨床では重要です。

解答・解説

正解はaです

慢性腎炎症候群とは

慢性腎炎症候群は、糸球体疾患の臨床症候分類の一つで、蛋白尿・血尿が持続し(おおむね1年以上)、高血圧や腎機能低下を伴いながら緩徐に進行しうる病態をいう。臨床症候に基づく呼び名であり、その背景にはさまざまな病理組織型(IgA腎症、膜性増殖性糸球体腎炎、巣状分節性糸球体硬化症など)が含まれる。確定診断には腎生検による組織診断が必要である。

頻度の考え方

日本腎臓学会の腎生検レジストリー(J-RBR)など、わが国の腎生検データでは、IgA腎症が腎生検で診断される疾患のなかで最も多く、全腎生検例のおよそ3割を占める。一次性(原発性)糸球体疾患に限るとその約半数を占め、慢性腎炎症候群の原因としては群を抜いて多い。わが国では学校検尿や職場の健診で無症候性の血尿・蛋白尿として発見されることが多く、これも頻度の高さに関係している。 膜性腎症・巣状分節性糸球体硬化症は主にネフローゼ症候群の原因として重要であり、膜性増殖性糸球体腎炎は頻度が低い。基底膜菲薄化症候群は血尿を示すが通常は進行しない良性疾患であり、腎生検に至る例も少ない。以上より、最も頻度が高いのはIgA腎症である。

選択肢考察

  1. ○a.  IgA腎症

    糸球体のメサンギウム領域にIgAが優位に沈着する慢性糸球体腎炎で、わが国の腎生検例の約3割、一次性糸球体疾患の約半数を占め、慢性腎炎症候群の原因として最も多い。持続的な血尿(顕微鏡的血尿が中心)と蛋白尿を示し、上気道感染の直後(1〜3日程度)に肉眼的血尿が出現することがある。従来は予後良好と考えられていたが、診断後20年で約3〜4割が末期腎不全に至るとされ、決して良性の疾患ではない。

  2. ×b.  膜性腎症

    糸球体基底膜の上皮下に免疫複合体が沈着し、基底膜が肥厚する疾患である。中高年に多く、臨床的には主にネフローゼ症候群として発症し、成人の一次性ネフローゼ症候群の原因として最も多い。悪性腫瘍、薬剤(ブシラミンなど)、B型肝炎、SLEなどによる二次性もある。慢性腎炎症候群の原因として最多ではない。

  3. ×c.  膜性増殖性糸球体腎炎

    メサンギウム細胞の増殖と、メサンギウムの基底膜内皮下への入り込みによる基底膜の二重化(double contour)を特徴とする。低補体血症を伴うことが多く、C型肝炎ウイルス感染やクリオグロブリン血症などに伴う二次性のものもある。ネフローゼ症候群や腎炎症候群を呈しうるが、頻度は低く、腎生検例の数%にとどまる。

  4. ×d.  巣状分節性糸球体硬化症

    一部の糸球体(巣状)の一部分(分節性)に硬化病変がみられる疾患で、ステロイド抵抗性のネフローゼ症候群を示すことが多く、腎機能が進行性に低下しやすい。ネフローゼ症候群の原因としては重要だが、慢性腎炎症候群の原因として最も多いわけではない。

  5. ×e.  基底膜菲薄化症候群〈良性家族性血尿〉

    糸球体基底膜がびまん性に薄くなることで持続性の顕微鏡的血尿を示す疾患で、常染色体顕性(優性)遺伝の家族歴を認めることが多い。Ⅳ型コラーゲン遺伝子(COL4A3/COL4A4)の異常が関与する例がある。蛋白尿や腎機能障害は通常みられず予後良好であり、腎生検で診断される頻度は低い。

糸球体疾患の臨床症候分類(WHO分類)

・急性腎炎症候群:血尿・蛋白尿・浮腫・高血圧が急激に出現(溶連菌感染後急性糸球体腎炎など)。 ・急速進行性腎炎症候群:数週〜数か月で腎機能が急速に低下(ANCA関連血管炎、抗GBM病など)。 ・反復性または持続性血尿症候群:血尿が主体。 ・慢性腎炎症候群:蛋白尿・血尿が持続し、高血圧・腎機能低下を伴い緩徐に進行。 ・ネフローゼ症候群:高度蛋白尿(3.5 g/日以上)と低アルブミン血症(3.0 g/dL以下)が必須。

IgA腎症の要点

・好発:小児〜若年成人に多いが、どの年齢でも発症する。 ・検査:血清IgA高値(約半数)。補体は通常正常。 ・病理:光顕でメサンギウム増殖性糸球体腎炎、蛍光抗体法でメサンギウムへのIgA(とC3)の顆粒状沈着、電顕でメサンギウム領域の高電子密度沈着物。 ・治療:レニン・アンギオテンシン系阻害薬、副腎皮質ステロイド、口蓋扁桃摘出術+ステロイドパルス療法(わが国で広く行われている)など。 ・紫斑病性腎炎(IgA血管炎に伴う腎炎)は組織学的にIgA腎症とよく似る。

主な一次性ネフローゼ症候群の原因(成人)

微小変化型ネフローゼ症候群(若年者に多い)、膜性腎症(中高年に多い)、巣状分節性糸球体硬化症、膜性増殖性糸球体腎炎。

POINT

・慢性腎炎症候群の原因として最も多いのはIgA腎症(腎生検例の約3割、一次性糸球体疾患の約半数)。 ・IgA腎症:上気道感染直後の肉眼的血尿、メサンギウムへのIgA沈着、補体正常。 ・膜性腎症は成人の一次性ネフローゼ症候群で最多、巣状分節性糸球体硬化症はステロイド抵抗性ネフローゼの代表。 ・基底膜菲薄化症候群は予後良好の家族性血尿。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。