扁桃炎から2週間後の浮腫と血尿―「時間差」が指し示す補体C3の低下
第118回医師国家試験 A問題 第44問
国試問題にチャレンジ
22歳の女性。頭痛と浮腫を主訴に来院した。2週間前から発熱と咽頭痛があり,自宅近くの診療所で扁桃炎と診断された。一昨日から頭痛および下肢の浮腫が出現し,次第に増悪したため受診した。これまでに学校と職場の健診で異常を指摘されたことはない。身長156cm,体重45kg。脈拍84/分,整。血圧156/76mmHg。顔面に皮疹はない。心音と呼吸音とに異常を認めない。両下腿に浮腫を認める。神経診察に異常を認めない。尿所見:蛋白2+,潜血3+。 この患者で認められる可能性が高いのはどれか。
- a.C3低下
- b.IgE高値
- c.M蛋白陽性
- d.抗核抗体陽性
- e.抗リン脂質抗体陽性
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
扁桃炎などの上気道感染から1〜3週間の潜伏期をおいて浮腫・高血圧・血尿が出現した場合は、溶連菌感染後急性糸球体腎炎を考えます。溶連菌抗原の免疫複合体が糸球体に沈着して補体を消費するため、血清C3・CH50が一過性に低下し、C4は正常のことが多く、ASO・ASKの上昇が先行感染の裏付けになります。感染と同時期の肉眼的血尿ならIgA腎症(補体正常)、皮疹などSLE症状を伴えばループス腎炎を考え、低補体が8週を超えて続く場合は膜性増殖性糸球体腎炎やC3腎症を疑います。治療は塩分・水分制限と利尿薬・降圧薬による対症療法が中心で、抗菌薬は菌の除去が目的です。先行感染からの時間差と補体の推移を組み合わせて読む力は、腎炎の鑑別全般に役立つ基本となります。
解答・解説
正解はaです
所見の整理
・22歳女性。2週間前に発熱・咽頭痛があり扁桃炎と診断された(先行する上気道感染)。 ・その約2週間後(一昨日)から、頭痛と両下肢の浮腫が出現し増悪している。 ・血圧156/76mmHgと、若年女性としては明らかな高血圧(Ⅰ度高血圧)である。頭痛は高血圧によるものと考えられる。 ・心音・呼吸音に異常はなく、心不全を示す所見はない。顔面の皮疹もない。 ・尿所見は蛋白2+、潜血3+で、血尿が目立つ(腎炎性の尿所見)。 ・これまでの健診では異常がなく、もともと腎臓病があったわけではない。
診断へのプロセス
浮腫・高血圧・血尿(+蛋白尿)がそろうと、糸球体の炎症による急性腎炎症候群が考えられる。糸球体の炎症で濾過量が減り、ナトリウムと水が体にたまるため、浮腫と高血圧が生じる。 扁桃炎から約2週間(1〜3週間)の潜伏期をおいて発症している経過は、溶血性連鎖球菌(A群β溶血性連鎖球菌、いわゆる溶連菌)感染後急性糸球体腎炎(PSAGN)に典型的である。 鑑別として、IgA腎症は上気道感染と同時か数日以内に肉眼的血尿が出現するのが特徴で、2週間の潜伏期は合わない。ループス腎炎はSLEの他の症状(蝶形紅斑などの皮疹、関節炎など)を伴うことが多いが、本例では皮疹はない。急速進行性糸球体腎炎(RPGN)であれば数週から数か月で腎機能が急速に悪化するが、そのような記載はない。 以上から、溶連菌感染後急性糸球体腎炎(または感染後急性糸球体腎炎)と考えられる。
設問の考え方
本症では、糸球体に沈着した免疫複合体(溶連菌の抗原と抗体の複合体)が補体を活性化して消費するため、血清補体(C3、CH50)が一過性に低下する。これが本症を裏付ける代表的な検査所見である。
選択肢考察
- ○a. C3低下
溶連菌感染後急性糸球体腎炎では、主に第二経路(副経路)を介した補体の活性化・消費により、血清C3と補体価(CH50)が低下する。古典経路の成分であるC4は正常のことが多い。この補体低下は一過性で、通常は発症後6〜8週間以内に正常化する。8週を過ぎても低補体血症が続く場合は、膜性増殖性糸球体腎炎(MPGN)、C3腎症、ループス腎炎など他の疾患を考える。本例の経過は溶連菌感染後急性糸球体腎炎に合致するため、C3低下が認められる可能性が高い。
- ×b. IgE高値
血清IgE高値は、気管支喘息、アトピー性皮膚炎、アレルギー性鼻炎などのアレルギー疾患や寄生虫感染で認める。腎疾患では微小変化型ネフローゼ症候群でIgEが上昇することがあるが、この疾患は高度の蛋白尿が主体で血尿や高血圧は目立たない。血尿が強く高血圧を伴う本例の臨床像とは合わない。
- ×c. M蛋白陽性
M蛋白(単クローン性免疫グロブリン)は、多発性骨髄腫、原発性マクログロブリン血症、ALアミロイドーシス、MGUS(意義不明の単クローン性ガンマグロブリン血症)など、形質細胞やB細胞の単クローン性増殖で検出される。これらは主に中高年に生じ、腎障害としては円柱腎症(骨髄腫腎)やアミロイド腎症などを起こす。先行感染後に急性発症した22歳の腎炎とは関係しない。
- ×d. 抗核抗体陽性
抗核抗体は、全身性エリテマトーデス(SLE)、全身性強皮症、多発性筋炎・皮膚筋炎、混合性結合組織病(MCTD)、Sjögren症候群などの膠原病で陽性となる。若年女性の腎炎ではループス腎炎も鑑別に挙がり、SLEでも低補体血症を伴うが、本例は顔面の皮疹など他のSLE症状がなく、扁桃炎から2週間後の発症という経過は感染後急性糸球体腎炎を強く示唆するため、可能性は低い。
- ×e. 抗リン脂質抗体陽性
抗リン脂質抗体(抗カルジオリピン抗体、ループスアンチコアグラント、抗β2グリコプロテインⅠ抗体など)は、抗リン脂質抗体症候群(APS)やSLEで陽性となる。APSでは動静脈の血栓症や習慣流産などが問題となる。本例には血栓症や妊娠合併症、SLEを示す症状の記載はなく、考えにくい。
溶連菌感染後急性糸球体腎炎(PSAGN)の概要
・A群β溶血性連鎖球菌による咽頭炎・扁桃炎(または皮膚感染症の膿痂疹)の後、1〜3週間(咽頭炎後は約10日〜2週間、皮膚感染後は約3〜6週間)の潜伏期を経て発症する。 ・小児(特に学童期)に多いが、成人にも起こる。 ・病態:溶連菌の抗原に対する免疫複合体が糸球体に沈着し、補体が活性化されて糸球体に炎症が起こる(Ⅲ型アレルギー)。
臨床像
・急性腎炎症候群:血尿(肉眼的血尿のことも多い)、蛋白尿、浮腫(特に眼瞼・顔面)、高血圧、乏尿。 ・重症例では体液貯留による心不全・肺水腫や、高血圧性脳症(頭痛、けいれん、意識障害)を起こすことがある。
検査
・尿:血尿、赤血球円柱、蛋白尿。 ・血液:C3・CH50の一過性低下(C4は正常のことが多い)、ASO(抗ストレプトリジンO抗体)・ASK(抗ストレプトキナーゼ抗体)の上昇(感染から時間差で上昇)。咽頭培養や迅速抗原検査で溶連菌を証明できることもある。 ・腎生検(典型例では通常不要):光学顕微鏡で管内増殖性糸球体腎炎(糸球体内に好中球などが浸潤し細胞が増える)、電子顕微鏡で上皮下の大きなこぶ状沈着物(hump)、蛍光抗体法でC3とIgGの顆粒状沈着。
治療と予後
・安静、塩分・水分制限、浮腫や高血圧に対してループ利尿薬・降圧薬などの対症療法が中心である。 ・溶連菌感染が残っていればペニシリン系抗菌薬を投与する(腎炎そのものを治すためではなく、菌の除去と周囲への伝播防止のため)。 ・小児の予後は良好で、大部分が自然に治癒する。成人や高齢者では腎機能障害が残ることがある。
低補体血症を示す主な腎疾患
・感染後急性糸球体腎炎(C3低下が一過性、多くは8週以内に回復) ・膜性増殖性糸球体腎炎、C3腎症(持続性の低補体) ・ループス腎炎(C3・C4ともに低下することが多い) ・クリオグロブリン血症性腎炎(C4低下が目立つ) ・感染性心内膜炎やシャント感染に伴う腎炎
POINT
・上気道感染(扁桃炎)から1〜3週間後に浮腫・高血圧・血尿 → 溶連菌感染後急性糸球体腎炎 ・感染後急性糸球体腎炎では血清C3・CH50が一過性に低下し、C4は正常のことが多い。通常6〜8週で正常化する ・ASO・ASKの上昇は溶連菌感染の証拠となる ・感染と同時〜数日以内の肉眼的血尿はIgA腎症を考える(補体は正常) ・低補体が8週を超えて続く場合は膜性増殖性糸球体腎炎、C3腎症、ループス腎炎を考える
