咽頭炎から2週間後の顔のむくみ―溶連菌感染後急性糸球体腎炎で「まず減らすべきもの」
第120回医師国家試験 E問題 第28問
国試問題にチャレンジ
6歳の男児。血尿と浮腫を主訴に両親に連れられて来院した。2週間前に咽頭痛があった。3日前から起床時に上眼瞼浮腫が出現し,昨日から肉眼的血尿も伴ったため受診した。身長115cm,体重24kg(2週間前から2kg増加)。体温36.7℃。脈拍100/分,整。血圧120/70mmHg。呼吸数24/分。SpO2 99%(room air)。上眼瞼および下腿に浮腫を認める。心音と呼吸音とに異常を認めない。皮疹は認めない。尿所見:蛋白2+,潜血3+。血液所見:赤血球430万,Hb 12.4g/dL,白血球8,700,血小板42万。血液生化学所見:アルブミン4.1g/dL,尿素窒素23mg/dL,クレアチニン0.7mg/dL,Na 139mEq/L,K 4.2mEq/L,Cl 108mEq/L,Ca 10.5mg/dL(基準8.5~11),P 6.0mg/dL(基準4.5~6.5),Mg 2.1 mg/dL(基準1.7~2.5)。免疫血清学所見:ASO 698単位(基準250以下),C3 21mg/dL(基準52~112),C4 27mg/dL(基準16~51),血清補体価(CH50)15U/mL未満(基準25~35),CRP 0.4mg/dL。 最初に制限すべきなのはどれか。
- a.リン
- b.カリウム
- c.カルシウム
- d.ナトリウム
- e.マグネシウム
対話形式の解説
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ドクターまとめ
咽頭炎の1〜2週間後に血尿・浮腫・高血圧傾向が出現し、ASO高値とC3低下(C4正常)を伴えば溶連菌感染後急性糸球体腎炎を考えます。浮腫や高血圧の主因は、GFR低下によりナトリウムと水が体内に貯留して循環血漿量が増えることであり、急性期の食事療法ではまず食塩(ナトリウム)を制限します。血清Na値が正常でも体内の総ナトリウム量は過剰であり、カリウム制限は乏尿や高カリウム血症がある場合、リン制限は慢性腎臓病などで高リン血症がある場合に考慮します。治療は安静・食塩制限・利尿薬・降圧薬による対症療法が中心で多くは自然に回復しますが、低補体血症が8週間を超えて続く場合は他の腎炎を疑うことが重要です。
解答・解説
正解はdです
所見の整理
・6歳男児:学童期の小児 ・2週間前に咽頭痛 → 先行する上気道感染(咽頭炎) ・その後、潜伏期を経て朝の上眼瞼浮腫、続いて肉眼的血尿が出現 ・体重が2週間で2 kg増加、上眼瞼と下腿の浮腫 → 体液(水・ナトリウム)の貯留 ・血圧120/70 mmHg:6歳児としては高めであり、体液過剰による血圧上昇を示唆 ・脈拍100/分、呼吸数24/分:やや速いが、心音・呼吸音に異常はなく、SpO2も保たれており、現時点で明らかな心不全や肺水腫の所見はない ・尿蛋白2+、尿潜血3+ → 糸球体性の血尿と蛋白尿 ・血清アルブミン4.1 g/dL → 低アルブミン血症はなく、浮腫の原因はネフローゼ症候群ではない ・尿素窒素23 mg/dL、クレアチニン0.7 mg/dL:6歳児のクレアチニンの基準値(おおむね0.3〜0.4 mg/dL程度)と比べると高く、糸球体濾過量(GFR)の低下がうかがえる ・Na・K・Clはいずれも基準範囲内で、高カリウム血症はない。Ca・P・Mgも基準範囲内 ・ASO(抗ストレプトリジンO抗体)698単位と高値 → A群β溶血性レンサ球菌(溶連菌)の先行感染 ・C3 21 mg/dLと著明低値、CH50低値、一方でC4は正常 → 補体の第二経路(副経路)が主に活性化・消費されている
診断へのプロセス
小児で、咽頭炎の約1〜2週間後に血尿・浮腫・高血圧傾向が出現し、ASO高値と、C4正常でC3が低下する低補体血症を伴っていることから、溶連菌感染後急性糸球体腎炎(PSAGN)と診断できる。低アルブミン血症がないことからネフローゼ症候群は否定的である。IgA腎症の肉眼的血尿は上気道感染の直後(数日以内)に出現することが多く、補体は通常低下しない点で区別される。
浮腫・高血圧の機序と設問の考え方
PSAGNでは、糸球体に免疫複合体が沈着して炎症が起こり、GFRが低下する。一方で尿細管でのナトリウム再吸収は保たれるため、ナトリウムと水が体内に貯留し、循環血漿量が増加する。これが浮腫、高血圧、体重増加の原因であり、重症化すると心不全・肺水腫や高血圧性脳症をきたしうる。 PSAGNは多くが自然に回復する予後良好な疾患であり、治療の中心は、回復までの間の体液過剰を管理する対症療法である。体液過剰の根本にあるのはナトリウムの貯留であるため、まず制限すべきなのは食塩(ナトリウム)である。
選択肢考察
- ×a. リン
本例の血清リンは6.0 mg/dLで小児の基準範囲内である。リンの制限は、慢性腎臓病が進行して高リン血症をきたした場合などに必要となるが、PSAGNの急性期に最初に行う食事療法ではない。
- ×b. カリウム
PSAGNで乏尿・無尿や高度の腎機能低下が起こると、カリウムの排泄が障害されて高カリウム血症をきたすことがあり、その場合はカリウム制限が必要となる。しかし本例の血清カリウムは4.2 mEq/Lと正常であり、現時点でカリウム制限を最優先する根拠はない。経過中は尿量と血清カリウム値を注意深く観察する。
- ×c. カルシウム
血清カルシウムは10.5 mg/dLで基準範囲内である。PSAGNの病態においてカルシウムの貯留が問題になることはなく、制限の必要はない。
- ○d. ナトリウム
PSAGNの浮腫・高血圧・体重増加は、GFRの低下に伴うナトリウムと水の貯留による循環血漿量の増加が原因である。食塩(ナトリウム)摂取を制限すると、体液のさらなる貯留を防ぎ、浮腫や高血圧の悪化、心不全・肺水腫、高血圧性脳症といった合併症を予防できる。本例は血清Naが正常でも、体内の総ナトリウム量は過剰になっていることに注意する。急性期には食塩制限に加え、尿量に応じた水分制限や安静を併用し、必要に応じてループ利尿薬や降圧薬を用いる。
- ×e. マグネシウム
血清マグネシウムは2.1 mg/dLで基準範囲内である。マグネシウムは高度の腎不全で蓄積することがあるが、本例では異常はなく、PSAGNの急性期に制限を要する電解質ではない。
溶連菌感染後急性糸球体腎炎(PSAGN)の概要
・好発:3〜10歳ごろの小児に多く、男児にやや多い。 ・先行感染:A群β溶血性レンサ球菌による咽頭炎(約1〜2週間後に発症)や皮膚感染症(膿痂疹、約3〜6週間後に発症)。 ・病態:溶連菌由来の抗原とそれに対する抗体からなる免疫複合体が糸球体に沈着し、補体が活性化されて炎症が起こる(Ⅲ型アレルギー)。 ・症状:血尿(肉眼的血尿のことも多い)、浮腫(特に朝の眼瞼浮腫)、高血圧が三主徴。乏尿を伴うこともある。 ・検査:ASOやASK(抗ストレプトキナーゼ抗体)の上昇、C3・CH50の低下(C4は正常のことが多い)。低補体血症は通常6〜8週間以内に正常化する。 ・病理:光学顕微鏡で管内増殖性糸球体腎炎、蛍光抗体法でC3やIgGの顆粒状沈着、電子顕微鏡で上皮下の大きな沈着物(hump)が特徴。 ・予後:小児では大部分が自然に回復する。尿潜血の消失には数か月かかることがある。低補体血症が8週間を超えて続く場合は、膜性増殖性糸球体腎炎やループス腎炎など他の疾患を考える。
急性期の治療
・安静 ・食事療法:食塩制限が基本。乏尿や高窒素血症がある時期には水分制限、蛋白制限、高カリウム血症があればカリウム制限を加える。十分なエネルギーは確保する。 ・薬物療法:体液過剰に対してループ利尿薬、高血圧に対してカルシウム拮抗薬などの降圧薬。溶連菌が残存していればペニシリン系などの抗菌薬を投与する(腎炎の経過自体を変えるものではないが、感染の拡大防止を目的とする)。 ・重症例:利尿薬に反応しない高度の体液過剰や高カリウム血症、尿毒症では透析を考慮する。 ・ステロイドや免疫抑制薬は原則として用いない。
浮腫をきたす小児の腎疾患の鑑別
・PSAGN:血尿・高血圧が目立ち、アルブミンは保たれ、低補体血症を伴う。 ・微小変化型ネフローゼ症候群:高度の蛋白尿と低アルブミン血症が主体で、血尿や高血圧は目立たず、補体は正常。
POINT
・咽頭炎の1〜2週間後の血尿・浮腫・高血圧+ASO高値+C3低値(C4正常)→ 溶連菌感染後急性糸球体腎炎 ・浮腫・高血圧の主因はGFR低下によるナトリウムと水の貯留 ・急性期の食事療法はまず食塩(ナトリウム)制限。乏尿時は水分制限、高カリウム血症ではカリウム制限を追加 ・治療は安静・食塩制限・利尿薬・降圧薬による対症療法が中心で、多くは自然治癒する ・低補体血症は6〜8週間以内に正常化するのが典型
