「起こしてもすぐ眠る」は危険信号―発熱乳児の重症度を見抜く目
第112回医師国家試験 B問題 第25問
国試問題にチャレンジ
8か月の乳児。今朝からの発熱を主訴に母親に連れられて休日診療所に来院した。①体をさすると開眼するが,②すぐに寝てしまう。③皮膚色はピンク色で④ツルゴールは軽度低下している。⑤口唇の乾燥は軽度である。 この児において,重篤な疾患を疑う所見は下線のどれか。
- a.①
- b.②
- c.③
- d.④
- e.⑤
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
発熱した乳児の重症度評価では、熱の高さよりも意識状態や活気といった全身状態を最も重視します。刺激で開眼しても覚醒を維持できずすぐ眠り込むのは傾眠、すなわち意識障害であり、細菌性髄膜炎、脳炎・脳症、敗血症などの重篤な疾患を疑う所見です。一方、ピンク色の皮膚は正常所見で、軽度のツルゴール低下や口唇乾燥は軽度脱水を示すにとどまり、それだけでは意識障害を説明できません。蒼白・網状皮斑、呻吟、大泉門膨隆、紫斑、生後3か月未満の発熱なども危険なサインとして押さえておくべきです。所見同士の釣り合いから「説明のつかない意識障害」に気づく視点は、救急・小児診療で重症疾患を見逃さないための基本となります。
解答・解説
正解はbです
所見の整理
・8か月の乳児:言葉で症状を訴えられないため、保護者の観察と医師の診察所見から重症度を見積もる必要がある。 ・今朝からの発熱:急性の発熱性疾患である。休日診療所に連れてこられたこと自体、保護者がいつもと違う様子を感じている可能性を示す。 ・①体をさすると開眼する:刺激に反応して目を開ける。 ・②すぐに寝てしまう:刺激をやめると再び眠り込む=覚醒を維持できない。 ・③皮膚色はピンク色:チアノーゼや蒼白はなく、末梢循環や酸素化は保たれていると考えられる。 ・④ツルゴール(皮膚の張り)は軽度低下、⑤口唇の乾燥は軽度:いずれも軽度の脱水を示す。
重症度の考え方
発熱した乳幼児をみるときには、重篤な疾患(細菌性髄膜炎、脳炎・脳症、敗血症など)が隠れていないかを最優先で見きわめる。その際に重視されるのが、全身状態、とりわけ意識状態と活気である。乳児が「刺激すると目を開けるが、刺激をやめるとすぐ眠ってしまう」のは単なる眠気ではなく傾眠、すなわち意識障害を示唆する。刺激で覚醒しても覚醒を保てない状態は、Japan Coma Scale〈JCS〉でいえば刺激によって覚醒する群(Ⅱ桁)に相当すると考えられ、軽視できない。 本例では、皮膚色は保たれ、脱水は軽度にとどまる。軽度の脱水だけで意識が低下することは考えにくく、循環・呼吸の異常が目立たないのに意識障害があることから、中枢神経系の感染症(細菌性髄膜炎、脳炎・脳症)や敗血症などの重篤な疾患を念頭に置き、速やかに高次医療機関で精査(血液検査、血液培養、必要に応じて髄液検査など)を進めるべき状況である。 したがって、下線部のうち重篤な疾患を疑わせる所見は②「すぐに寝てしまう」である。
選択肢考察
- ×a. ①
誤り。「体をさすると開眼する」は、外からの刺激に反応できていることを示し、刺激しても全く反応しない深い昏睡ではないことを意味する。この記載だけでは重篤な疾患を示す所見とはいえない。問題となるのは、開眼した後に覚醒を維持できない点(②)である。
- ○b. ②
刺激で開眼してもすぐに眠り込んでしまうのは傾眠であり、意識障害の存在を示す。発熱した乳児において、意識状態の低下や活気の乏しさ(あやしても反応が乏しい、起こしても起きていられない)は、細菌性髄膜炎、脳炎・脳症、敗血症などの重篤な疾患を疑う重要なサインである。本例では皮膚色が保たれ脱水も軽度であり、それだけでは意識障害を説明できないため、なおさら重篤な疾患を考えるべき所見である。
- ×c. ③
誤り。皮膚がピンク色であるのは正常所見であり、チアノーゼ(低酸素血症)や蒼白・網状皮斑(末梢循環不全、ショック)がないことを示す。重症を示す皮膚色の変化は、蒼白、まだら状の皮膚、チアノーゼなどである。
- ×d. ④
誤り。ツルゴールは皮膚をつまんで離したときに元に戻る速さで評価する皮膚の張りであり、低下は脱水を示唆する。本例では「軽度」の低下で、口唇乾燥も軽度であることと合わせ、脱水は軽度と判断される。軽度の脱水は経口補液などで対応できることが多く、これ自体は重篤な疾患を強く疑う根拠とはならない。ただし脱水の程度は経過で悪化しうるので、尿量や哺乳量も併せて評価する。
- ×e. ⑤
誤り。口唇(口腔粘膜)の乾燥も脱水の指標であるが、本例では軽度であり、ツルゴールの所見と同様に軽度の脱水を示すにとどまる。発熱による不感蒸泄の増加や哺乳量の低下でも起こりうる所見で、これだけで重篤な疾患を疑う所見とはいえない。
発熱した乳幼児で重篤な疾患を疑う所見
・意識・活気:傾眠、刺激しても覚醒を維持できない、あやしても笑わない・反応が乏しい、弱々しい泣き声または甲高い泣き声、ぐったりしている ・皮膚色:蒼白、まだら状(網状皮斑)、チアノーゼ ・呼吸:呻吟(うめくような呼気)、多呼吸、陥没呼吸、無呼吸 ・循環:頻脈、毛細血管再充満時間〈CRT〉の延長、尿量の減少 ・神経:大泉門膨隆、項部硬直、けいれん、局所神経症状 ・その他:点状出血・紫斑(髄膜炎菌感染症などを示唆) ・年齢:生後3か月未満の発熱は、それだけで重症細菌感染症の精査対象となる
乳児の意識障害の評価
乳児は言葉で応答できないため、成人用のJCSやGCS〈Glasgow Coma Scale〉をそのまま使えない。乳児用に改変したJCS(乳首を吸う、視線で追う、あやすと笑うなどの反応で評価)や、小児用GCS(言語反応を泣き声や喃語で評価)が用いられる。
脱水の評価
脱水の程度は、体重減少率、ツルゴール、口腔粘膜の乾燥、大泉門の陥凹、涙の有無、尿量、CRT、意識状態などを組み合わせて判断する。重度の脱水になると循環不全に伴い意識障害やショックが生じるが、軽度の脱水では意識は保たれるのが通常である。
POINT
・発熱した乳児の重症度評価では、意識状態・活気(全身状態)を最も重視する。 ・刺激で開眼してもすぐ眠り込む(傾眠)=意識障害であり、細菌性髄膜炎・脳炎・脳症・敗血症などの重篤な疾患を疑う。 ・ピンク色の皮膚は正常、軽度のツルゴール低下や口唇乾燥は軽度脱水の所見である。 ・軽度脱水では意識障害は説明できず、意識障害があれば中枢神経系感染症などを積極的に検索する。
