StudyMed医師国家試験

熱が下がって発疹が出た―突発性発疹の「良性」の裏にひそむ急性脳症

第120回医師国家試験 A問題 第64問

国試問題にチャレンジ

第120回 A問題 第64問

7か月の男児。発熱を主訴に母親に連れられて来院した。2日前の昼過ぎから発熱があり就寝前の体温は39.0℃であった。昨日も38.9℃の発熱があったが他に目立った症状はなかった。食欲は良好で,普段より軟らかい便が2回あった。元気に泣いている。体重6,500g。体温39.1℃。脈拍148/分,整。SpO2 99%(room air)。眼球結膜に充血を認めない。口蓋垂近くの軟口蓋に紅斑を認める。口蓋扁桃に腫脹や白苔を認めない。頸部リンパ節を触知しない。心音と呼吸音とに異常を認めない。腹部は平坦,軟で,肝・脾を触知しない。皮疹を認めない。尿所見に異常を認めない。血液所見:赤血球466万,Hb 12.9g/dL,Ht 42%,白血球3,500,血小板18万。CRP 0.5mg/dL。特に治療することなく経過観察したところ,受診翌日の体温は36.6℃で腹部に皮疹が出現した。  この患児で注意すべき合併症はどれか。

  1. a.難聴
  2. b.急性脳症
  3. c.急性小脳失調症
  4. d.亜急性硬化性全脳炎
  5. e.免疫性血小板減少症

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、乳児の発熱の経過から原因疾患を見抜き、その疾患で注意すべき合併症を選ぶ問題だ。ポイントは2段階。まず「解熱と入れ替わるように発疹が出た」経過から診断をつけること、次に各選択肢の合併症がどの感染症と結びつくかを整理することだよ。
医学生医学生
7か月で、高熱が続いたあとに熱が下がって発疹が出たので、突発性発疹だと思いました。
ドクタードクター
いい読みだね。でも診断の前に、乳児の発熱で必ず考えるべきものがある。何だと思う?
医学生医学生
尿路感染症や菌血症、髄膜炎などの重症細菌感染症と、川崎病でしょうか。小児科の実習で、乳児の発熱では必ず尿を調べるよう言われました。
ドクタードクター
その通り。今回は尿所見が正常で、CRPの上昇は軽く、白血球はむしろ少なめ。何より高熱のわりに食欲があって元気に泣いている。重症細菌感染症は考えにくいね。眼球結膜充血や頸部リンパ節腫脹がなく、自然に解熱していることから川崎病も否定的だ。
医学生医学生
軟口蓋の紅斑は何を意味しているんですか。
ドクタードクター
口蓋垂の付け根付近に見られるこの赤い粘膜疹は永山斑と呼ばれ、突発性発疹でよくみられる所見なんだ。ほかにも軟便や白血球減少、高熱のわりに機嫌がよいことが特徴で、今回はそれがそろっている。生後6か月から2歳ごろの子が、気道症状のない高熱を3〜4日出し、解熱とほぼ同時に体幹中心の発疹が出る――これが突発性発疹の典型的な経過だ。
医学生医学生
原因はヒトヘルペスウイルス6でしたよね。
ドクタードクター
そう、主にHHV-6Bの初感染で、一部はHHV-7による。母体からの移行抗体が減る生後6か月ごろからかかりやすく、多くは親の唾液中に排出されるウイルスから感染する。では本題。突発性発疹で注意すべき合併症はどれだろう。
医学生医学生
突発性発疹は自然に治る良性の病気というイメージで、合併症はけいれんくらいしか思いつきません。
ドクタードクター
熱性けいれんの合併が多いのは確かだ。HHV-6は神経系に親和性が高いウイルスでね、まれではあるけれど急性脳症を起こすことがある。日本の小児急性脳症の原因として、インフルエンザウイルスと並んで上位を占めるんだ。だから正解は急性脳症になる。
医学生医学生
熱性けいれんと急性脳症は、どうやって見分ければいいんでしょう。
ドクタードクター
そこが臨床で一番難しいところだ。日本で最も多い病型であるけいれん重積型(二相性)急性脳症、略してAESDの原因として最も多いのがHHV-6なんだ。発熱当日から翌日に長いけいれんが起き、いったん意識が回復傾向を示したあと、4〜6日目ごろに再びけいれんの群発や意識障害が出てくる。初回のけいれんは熱性けいれんと区別しにくいから、けいれんが長い、けいれん後の意識の戻りが悪い、といったときは脳症を疑って慎重に経過を追うことが大切だ。
医学生医学生
一度よくなったように見えて、また悪くなるから二相性なんですね。画像所見はありますか。
ドクタードクター
2相目のころのMRI拡散強調画像で、皮質下白質が木の枝のように高信号になるbright tree appearanceが特徴的だ。知的障害やてんかんなどの後遺症を残すこともあるから、軽く見てはいけない。では、ほかの選択肢がどの感染症の合併症かも確認しよう。まず難聴は?
医学生医学生
ムンプスの一側性の感音難聴が有名です。先天性風疹症候群や先天性サイトメガロウイルス感染症でも難聴が出ますね。
ドクタードクター
正確だね。突発性発疹で難聴は通常起こらない。急性小脳失調症はどうかな。
医学生医学生
CBTの勉強で、水痘のあとにふらつきが出るのが急性小脳失調症だと覚えました。
ドクタードクター
そうだね。水痘の発疹が出て数日から1週間ほど後に、体幹失調や眼振などが急に出るのが典型で、多くは自然に回復する。亜急性硬化性全脳炎は麻疹ウイルスの変異株が中枢神経に持続感染して起こり、麻疹罹患から平均6〜8年ほど経って発症する予後不良の病気だ。2歳未満で麻疹にかかった子に起こりやすい。
医学生医学生
免疫性血小板減少症は、ウイルス感染の数週間後に起こるものですよね。今回は血小板数も正常です。
ドクタードクター
その通り。先行感染として特徴的なのは風疹で、麻疹や水痘でもみられる。こうして並べると、発疹性ウイルス感染症と合併症の組み合わせを整理しておくことが、この問題の鍵だとわかるね。
医学生医学生
麻疹ならSSPE、風疹なら血小板減少性紫斑病、水痘なら小脳失調、ムンプスなら難聴、突発性発疹なら熱性けいれんと急性脳症、という対応表で覚えます。
ドクタードクター
完璧だ。最後に臨床での注意点を。突発性発疹そのものは対症療法だけで治るけれど、家族には「けいれんが5分以上続く、けいれん後に意識がなかなか戻らない、ぐったりしている」ときはすぐ受診するよう伝えておこう。良性疾患だからこそ、まれな重症合併症のサインを見逃さないことが大切なんだ。

まとめ

生後6か月〜2歳ごろの乳幼児が、気道症状のない3〜4日間の高熱を示し、解熱とほぼ同時に体幹中心の発疹が出る経過は、HHV-6B(またはHHV-7)の初感染による突発性発疹の典型です。高熱のわりに機嫌がよいこと、永山斑、軟便、白血球減少も診断の手がかりになります。自然軽快する良性疾患ですが、HHV-6は神経親和性が高く、熱性けいれんに加えて、まれに急性脳症、特にけいれん重積型(二相性)急性脳症(AESD)を起こす点に注意が必要です。麻疹とSSPE、風疹と血小板減少性紫斑病、水痘と急性小脳失調症、ムンプスと難聴のように、発疹性ウイルス感染症と合併症を対応づけて整理しておくと鑑別に強くなります。ありふれた小児の発熱疾患でも重篤な合併症の徴候を見逃さない姿勢が、家族への適切な説明と早期対応につながります。

解答・解説

正解はbです

所見の整理

・7か月の男児。39℃前後の高熱が受診日を含めて3日間続いているが、食欲は良好で元気に泣いており、高熱のわりに全身状態が良い。 ・咳・鼻汁などの気道症状はなく、軟便が2回ある程度。 ・眼球結膜充血なし、口蓋扁桃の腫脹・白苔なし、頸部リンパ節腫脹なし、心音・呼吸音・腹部・尿所見に異常なし。 ・口蓋垂の近くの軟口蓋に紅斑がある(永山斑と考えられる)。 ・白血球3,500/μLとやや少なく、CRP 0.5mg/dLと軽度上昇にとどまる。 ・無治療で翌日(発熱4日目)に36.6℃へ解熱し、それと入れ替わるように腹部に皮疹が出現した。

診断に至る過程

乳児の発熱では、重症細菌感染症(尿路感染症、菌血症、髄膜炎など)や川崎病をまず念頭に置く。本例は尿所見が正常で、CRP上昇が軽く、白血球はむしろ減少しており、全身状態も良好なので、重症細菌感染症は考えにくい。眼球結膜充血・頸部リンパ節腫脹・発疹(発熱期)がなく、自然に解熱していることから、川崎病も考えにくい。 生後6か月〜2歳ごろの乳幼児が、気道症状を伴わない3〜4日間の高熱を示し、機嫌は保たれ、解熱と同時に(または解熱後に)体幹中心の発疹が出る、という経過は突発性発疹の典型である。軟口蓋の永山斑、軟便、白血球減少も突発性発疹でよくみられる所見である。原因はヒトヘルペスウイルス6(HHV-6、主にHHV-6B)またはHHV-7の初感染である。

設問の考え方

突発性発疹そのものは自然に治る良性疾患であるが、HHV-6は神経系に親和性が高く、熱性けいれんの合併が多い。さらに、まれではあるが急性脳症を起こすことがあり、日本の小児急性脳症の原因ウイルスとしてインフルエンザウイルスと並んで上位を占める。したがって本児で注意すべき合併症は急性脳症である。各選択肢の合併症がどの感染症と結びつくかを整理しておくことが解答の鍵となる。

選択肢考察

  1. ×a.  難聴

    誤り。ウイルス感染に伴う難聴として重要なのは、ムンプス(流行性耳下腺炎)による一側性の高度感音難聴(ムンプス難聴)、先天性風疹症候群、先天性サイトメガロウイルス感染症である。突発性発疹で難聴を合併することは通常ない。

  2. ○b.  急性脳症

    正解。HHV-6の初感染は急性脳症の主要な原因であり、特に日本で最も多い病型である「けいれん重積型(二相性)急性脳症(AESD)」の原因病原体として最も頻度が高い。AESDでは、発熱当日〜翌日に長いけいれん(けいれん重積)が起こり、いったん意識が回復傾向を示した後、4〜6日目ごろに再びけいれんの群発や意識障害が出現する。初回のけいれんは熱性けいれんと区別しにくいため、けいれんが長い、けいれん後の意識の回復が悪いといった場合は急性脳症を疑って注意深く観察する。知的障害やてんかんなどの後遺症を残すことがある。

  3. ×c.  急性小脳失調症

    誤り。急性小脳失調症は、ウイルス感染後に体幹失調(ふらつき、歩行障害)、眼振、構音障害などが急に出現するもので、多くは自然に回復する。原因としては水痘が代表的で、発疹出現の数日〜1週間ほど後に起こることが多い。ほかにムンプスやエンテロウイルスなどでもみられるが、突発性発疹に特徴的な合併症ではない。

  4. ×d.  亜急性硬化性全脳炎

    誤り。亜急性硬化性全脳炎(SSPE)は、麻疹ウイルスの変異株が中枢神経に持続感染して起こる遅発性の進行性脳炎である。麻疹罹患から平均6〜8年ほど経って、性格変化や学業成績の低下で始まり、ミオクローヌスなどを経て進行し、予後は極めて不良である。2歳未満で麻疹にかかった児に起こりやすい。突発性発疹とは関係がない。

  5. ×e.  免疫性血小板減少症

    誤り。小児の免疫性血小板減少症(ITP)は、ウイルス感染や予防接種の数週間後に、血小板に対する自己抗体ができて急性に発症することが多い。先行感染として特徴的なのは風疹(発疹出現後の血小板減少性紫斑病)で、麻疹や水痘などでもみられる。突発性発疹で注意すべき代表的な合併症ではない。本例の血小板数も18万/μLと正常範囲である。

突発性発疹

・病原体:HHV-6B(大部分)およびHHV-7。HHV-7による場合はHHV-6より少し遅い年齢でかかり、2回目の突発性発疹として経験されることがある。 ・好発年齢:母体からの移行抗体が減る生後6か月ごろから2歳ごろまで。多くは家族(主に親)の唾液中に排出されるウイルスから感染する。 ・経過:38〜40℃の高熱が3〜4日続き、解熱とほぼ同時に体幹を中心に小さな紅斑・丘疹が出現し、顔面や四肢に広がって数日で色素沈着を残さず消える。 ・随伴所見:高熱のわりに機嫌がよいことが多い。永山斑(口蓋垂の付け根付近の軟口蓋に見られる赤い粘膜疹)、軟便・下痢、大泉門膨隆、眼瞼浮腫、頸部リンパ節腫脹などを伴うことがある。 ・検査:白血球減少(特に好中球の減少)、CRPは陰性〜軽度上昇。 ・治療:対症療法のみで、特異的な治療は不要。 ・合併症:熱性けいれん(比較的多い)、急性脳症(まれだが重篤)。ほかに肝機能障害、血小板減少などの報告もある。

発疹性ウイルス感染症と代表的な合併症の整理

・麻疹:肺炎、中耳炎、脳炎、亜急性硬化性全脳炎(SSPE) ・風疹:血小板減少性紫斑病、脳炎、関節炎。妊娠初期の感染で先天性風疹症候群(白内障、先天性心疾患、難聴) ・水痘:皮膚の細菌二次感染、急性小脳失調症、脳炎、Reye症候群(アスピリン使用時) ・ムンプス:無菌性髄膜炎、ムンプス難聴、精巣炎、膵炎 ・突発性発疹:熱性けいれん、急性脳症 ・伝染性紅斑(パルボウイルスB19):溶血性貧血患者での無形成発作、胎児水腫

けいれん重積型(二相性)急性脳症(AESD)

日本で最も多い小児急性脳症の病型で、HHV-6が最も多い原因である。発熱早期のけいれん重積(1相目)の後に意識がいったん改善し、数日後にけいれん群発・意識障害(2相目)が出現する。2相目の頃にMRI拡散強調画像で皮質下白質に高信号(bright tree appearance)を認めるのが特徴である。

POINT

・乳児の3〜4日の高熱が下がると同時に発疹が出現→突発性発疹(HHV-6B/HHV-7)。 ・高熱のわりに機嫌がよい、永山斑、軟便、白血球減少が手がかり。 ・注意すべき合併症は熱性けいれんと急性脳症(特にけいれん重積型〈二相性〉急性脳症=AESD)。 ・合併症の対応:SSPE→麻疹、ITP→風疹、急性小脳失調→水痘、難聴→ムンプス・先天性風疹・先天性CMV。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。