冬に赤く腫れる子どもの指―「色が変わらない」「消えない」が導くしもやけの診断
第120回医師国家試験 A問題 第63問
国試問題にチャレンジ
8歳の女児。両手指の瘙痒と疼痛を主訴に母親に連れられて来院した。冬になり外で遊ぶ機会が増えた1か月前から,手指全体が紅色に腫脹して瘙痒と疼痛を感じるようになった。暖かい室内に入ると症状はやや軽減するが,完全には消失しない。指先が蒼白になったり,紫色になったりするエピソードはない。両手指の遠位指節間関節から近位指節間関節背側にかけて,境界不明瞭な浮腫性紅斑を認める。圧痛はない。爪周囲の紅斑や毛細血管拡張は認めない。赤沈10mm/1時間。免疫血清学所見:CRP 0.1mg/dL,抗核抗体陰性。 診断はどれか。
- a.凍瘡
- b.蕁麻疹
- c.多形滲出性紅斑
- d.Raynaud症候群
- e.全身性エリテマトーデス
対話形式の解説
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ドクターまとめ
寒冷曝露をきっかけに、小児の手指などへ境界不明瞭な浮腫性紅斑がかゆみ・痛みを伴って持続し、温めると軽くなるが消えない場合は凍瘡を考えます。凍瘡は寒冷による末梢血管の収縮とその後のうっ血で生じる炎症で、小児では手指全体が腫れる樽柿型が典型です。Raynaud現象は発作的な三相性の色調変化、蕁麻疹は24時間以内に消える膨疹、多形滲出性紅斑は境界明瞭な標的状紅斑で、いずれも本例の持続する浮腫性紅斑とは異なります。爪囲紅斑や爪郭部毛細血管拡張、抗核抗体陽性があればSLEなどの膠原病を疑い、季節外れや成人発症の凍瘡様皮疹では凍瘡状ループスなどの基礎疾患を検索することが重要です。ありふれた疾患の典型像と、見逃してはならない鑑別疾患の手がかりを併せて押さえることが、日常診療での確かな判断につながります。
解答・解説
正解はaです
所見の整理
・8歳女児。冬になって屋外で遊ぶ機会が増えた1か月前から、両手指が赤く腫れ、かゆみと痛みが続いている。 ・暖かい室内に入ると症状はやや軽くなるが、完全には消えない。 ・指先が白くなる(蒼白)、紫色になる(チアノーゼ)といった発作的な色調変化はない。 ・両手指のDIP関節(遠位指節間関節)からPIP関節(近位指節間関節)の背側に、境界不明瞭な浮腫性紅斑(むくみを伴う赤み)がある。圧痛はない。 ・爪周囲の紅斑や爪郭部の毛細血管拡張はない。 ・赤沈10mm/1時間、CRP 0.1mg/dL と炎症反応はなく、抗核抗体(ANA)も陰性。
診断に至る過程
(1)発症の契機:冬季に屋外で寒冷にさらされる機会が増えてから発症しており、寒冷との関連が明らかである。 (2)皮疹の性状と部位:手指という末梢の部位に、境界のはっきりしない浮腫性紅斑が数週間にわたって持続している。出たり消えたりする皮疹ではなく、同じ場所にとどまる皮疹である。 (3)温度による変化:暖めると軽くなるが消えない。寒冷による末梢循環障害(血管の収縮とその後のうっ血)で生じた炎症が、組織に残っていることを示している。 (4)除外すべき疾患:発作的な色調変化がないことから血管攣縮を本態とするRaynaud現象は考えにくい。爪囲紅斑・爪郭部毛細血管拡張がなく、炎症反応・抗核抗体も陰性であることから、全身性エリテマトーデス(SLE)や皮膚筋炎などの膠原病の皮膚症状も考えにくい。 以上から、寒冷による局所の循環障害で起こる凍瘡(しもやけ)と診断できる。小児で手指全体がソーセージ状に赤紫色に腫れるのは、凍瘡のうち「樽柿型」と呼ばれる典型像である。
選択肢考察
- ○a. 凍瘡
正解。凍瘡は、寒冷にさらされて手指・足趾・耳介・頬などの末梢の細い血管が収縮し、その後に血流がうっ滞して血漿成分が血管外へ漏れ出すことで、浮腫性紅斑とかゆみ・痛みを生じる疾患である。小児や女性に多く、気温が氷点下になるほどではない晩秋〜冬の、昼夜の寒暖差が大きい時期に起こりやすい。本例は、寒冷曝露を契機とする発症、手指背側の境界不明瞭な浮腫性紅斑、かゆみと痛み、暖めると軽くなる経過、膠原病を示唆する所見や検査異常がないこと、のいずれも凍瘡に合致する。
- ×b. 蕁麻疹
誤り。蕁麻疹は真皮の一過性の浮腫による膨疹で、かゆみを伴い、個々の皮疹は通常24時間以内(多くは数時間)に跡を残さず消え、場所を変えて出没を繰り返すのが特徴である。寒冷で誘発される寒冷蕁麻疹もあるが、寒冷刺激を受けた部位に短時間で膨疹が出て、温まるとすぐ消える。本例のように同じ部位に1か月にわたり浮腫性紅斑が持続し、痛みも伴う経過は蕁麻疹に合わない。
- ×c. 多形滲出性紅斑
誤り。多形滲出性紅斑は、単純ヘルペスウイルスやマイコプラズマなどの感染、薬剤などに対する反応として生じる。辺縁が明瞭で、中心部が暗赤色〜水疱状・その外側に淡い輪、さらに紅色の外輪という多層構造をもつ標的状(target/虹彩状)の円形紅斑が、四肢伸側や手背・手掌を中心に左右対称に多発する。境界明瞭な類円形の皮疹である点、寒冷とは関係がない点で、本例の境界不明瞭な手指のびまん性腫脹とは異なる。
- ×d. Raynaud症候群
誤り。Raynaud現象は、寒冷や精神的ストレスで手指の細動脈が発作的に攣縮し、指先が蒼白→紫色(チアノーゼ)→赤色(反応性充血)と色調が変化し、しびれや痛みを伴うものである。基礎疾患のない一次性と、全身性強皮症・SLE・混合性結合組織病などの膠原病、クリオグロブリン血症、振動工具の使用などに続発する二次性がある。発作は数分〜数十分で戻るのが典型で、本例には色調変化のエピソードがなく、持続性の浮腫性紅斑という所見とも合わない。
- ×e. 全身性エリテマトーデス
誤り。SLEは若年女性に多い自己免疫疾患で、蝶形紅斑、円板状皮疹、光線過敏、口腔潰瘍、関節炎、腎炎などを呈し、抗核抗体はほぼ全例で陽性となる。手指では爪囲紅斑やRaynaud現象、凍瘡に似た皮疹(凍瘡状ループス)を示すこともあるため鑑別が必要だが、本例は抗核抗体陰性で、爪囲紅斑や毛細血管拡張も、発熱・関節痛などの全身症状もなく、否定的である。
凍瘡(しもやけ)
・病態:寒冷刺激による末梢の細動脈の収縮と、その後の細静脈側のうっ血によって血管透過性が高まり、局所に浮腫と炎症が起こる。組織が凍結するわけではない。 ・好発:小児・女性。手指、足趾、耳介、頬、鼻尖など。1日の寒暖差が大きい初冬や早春に多く、体質的な要因(家族内発生)もある。 ・症状:浮腫性紅斑〜暗紫紅色の腫脹。かゆみと痛みを伴い、入浴などで温まるとかゆみが強く感じられることも多い。重症では水疱、びらん、潰瘍を形成する。 ・病型:手指全体が熟した柿のように腫れる「樽柿型(T型)」は小児に多く、指先などに多形滲出性紅斑に似た小紅斑が散在する「多形紅斑型(M型)」は成人に多い。 ・治療・予防:保温(手袋・靴下)、濡れたままにしない、マッサージや温浴で血行を促す。ビタミンE(トコフェロール)の内服・外用、ヘパリン類似物質外用、炎症が強ければステロイド外用を用いる。
凍傷との違い
凍傷は氷点下の低温(高山、寒冷地での遭難など)で皮膚や皮下組織そのものが凍結して起こる組織障害である。重症例では筋肉や骨まで壊死し、壊死部の切断を要することもある。凍瘡とは病態も重症度も異なる。
成人や非典型例で注意すべきこと
季節を問わず続く、暖かくなっても治らない、成人で初発する、といった凍瘡様皮疹では、凍瘡状ループス(SLEの皮膚病変)、クリオグロブリン血症、抗リン脂質抗体症候群などの基礎疾患を検索する。爪囲紅斑や爪郭部毛細血管の異常(拡張・出血点)は膠原病を疑う手がかりになる。
POINT
・寒冷曝露後に手指・足趾などに境界不明瞭な浮腫性紅斑+かゆみ・痛み→凍瘡。小児では手指全体が腫れる樽柿型が典型。 ・Raynaud現象は「蒼白→紫→赤」の発作的な色調変化、蕁麻疹は24時間以内に消える膨疹で、いずれも持続する浮腫性紅斑ではない。 ・爪囲紅斑・爪郭部毛細血管拡張・抗核抗体陽性があれば膠原病(SLE、皮膚筋炎など)を考える。 ・凍瘡(循環障害)と凍傷(組織の凍結)を区別する。
