StudyMed医師国家試験

「感じすぎる」人は褥瘡にならない―動けない・感じない・組織が弱いで整理する危険因子

第110回医師国家試験 I問題 第16問

国試問題にチャレンジ

第110回 I問題 第16問

褥瘡の発生に関与しないのはどれか。

  1. a.低栄養
  2. b.関節拘縮
  3. c.知覚過敏
  4. d.皮膚の乾燥
  5. e.全身麻酔下での手術

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は褥瘡の発生要因の問題だ。「関与しないもの」を選ぶ形式だから、まず褥瘡がなぜできるのかという仕組みを押さえて、その仕組みに当てはまらないものを探していこう。そもそも褥瘡はどんな病態だと思う?
医学生医学生
寝たきりの人の仙骨部にできる、圧迫による皮膚の傷というイメージです。
ドクタードクター
大筋はその通り。もう少し正確に言うと、骨突出部に体重による圧迫やずれ(剪断力)が持続的に加わって血流が途絶え、皮膚や皮下組織が虚血性に壊死する病態なんだ。だから発生には「外から加わる力の大きさと持続時間」と「その力に組織がどれだけ耐えられるか」の両面が関わる。
医学生医学生
力の側と組織の側、両方を考えるということですね。
ドクタードクター
そう。整理しやすいように、危険因子を「動けない」「感じない」「組織が弱い」の3系統に分けてみよう。まず関節拘縮はどれに当たるかな。
医学生医学生
寝返りが打てなくなるので「動けない」ですね。
ドクタードクター
正解。自力で体位変換できないと同じ部位が長時間圧迫される。さらに拘縮で手足が不自然な肢位に固定されると、膝の内側やくるぶし、大転子部など普段とは違う骨突出部に圧が集中して、体圧分散も難しくなるんだ。
医学生医学生
全身麻酔下での手術も、動けないという意味では同じでしょうか。麻酔科を回ったとき、長時間手術で踵にクッションを入れているのを見ました。
ドクタードクター
よく観察していたね。全身麻酔中は意識も知覚もなく、自発的な体動もないから、手術台の上で同じ体位が何時間も続く。加えて麻酔薬による血圧低下や末梢循環の低下、低体温も組織の虚血を助長する。腹臥位の手術なら顔面や胸部、腸骨部も要注意だ。
医学生医学生
次に低栄養は「組織が弱い」ですね。低アルブミン血症で浮腫が出るからでしょうか。
ドクタードクター
それも一因だ。たんぱく質が不足すると組織の修復力と耐久性が落ちる。さらに皮下脂肪や筋肉が減ると骨が浮き出て、クッションがなくなった部分に圧が集中する。浮腫も組織への酸素供給を悪くする。栄養管理は予防にも治療にも欠かせないんだ。
医学生医学生
皮膚の乾燥は少し意外でした。褥瘡は失禁でじめじめしている方が危ない印象があって。
ドクタードクター
いいところに気づいたね。実はどちらも危険因子なんだ。失禁や発汗による過度の湿潤は皮膚をふやけさせて脆くする。一方、高齢者では皮脂分泌が減って皮膚が薄く乾燥し、角層のバリア機能が落ちて摩擦やずれで傷つきやすくなる。乾きすぎず湿りすぎない状態に保つのがスキンケアの基本だ。
医学生医学生
そうすると残る知覚過敏が答えですね。でも「感じない」が危険因子なら、知覚の異常という点では関与しそうな気もしてしまいます。
ドクタードクター
そこが引っかけのポイントだ。人は圧迫で痛みやしびれを感じると、無意識に体をずらして除圧している。脊髄損傷や糖尿病性神経障害、意識障害などで知覚が鈍麻・脱失していると、この反応が起きずに圧迫が続いてしまう。逆に知覚過敏なら圧迫の不快感をむしろ強く自覚して除圧行動をとりやすいから、危険因子にはならないんだ。
医学生医学生
問題なのは知覚の「異常」ではなく「低下」ということですね。脊髄損傷の患者さんの坐骨部に褥瘡ができやすいのも納得です。
ドクタードクター
その通り。発展として、リスク評価のブレーデンスケールも覚えておこう。知覚の認知、湿潤、活動性、可動性、栄養状態、摩擦とずれの6項目で評価して、点数が低いほど高リスクになる。今日の3系統の考え方とそのまま対応しているのがわかるかな。
医学生医学生
知覚の認知が「感じない」、活動性と可動性が「動けない」、栄養や湿潤、摩擦とずれが「組織が弱い」側ですね。看護学の講義で名前だけ聞いた気がします。
ドクタードクター
医師も知っておくべき指標だよ。好発部位は仰臥位なら仙骨部・踵部・後頭部、側臥位なら大転子部や外果部、座位なら坐骨結節部。予防は定期的な体位変換、エアマットレスなどの体圧分散寝具、保湿と失禁対策、栄養管理、そしてずれを生じさせない移乗やポジショニングが柱になる。病棟では医師・看護師・栄養士がチームで関わる領域なんだ。

まとめ

褥瘡は骨突出部に圧迫やずれが持続的に加わり、血流途絶によって皮膚・皮下組織が虚血性に壊死する病態です。危険因子は「動けない」(関節拘縮、全身麻酔下の手術など)、「感じない」(知覚鈍麻・脱失、意識障害)、「組織が弱い」(低栄養、浮腫、皮膚の乾燥や過度の湿潤)の3系統で整理すると理解しやすくなります。知覚で問題になるのは低下であり、知覚過敏ではむしろ圧迫の不快感を自覚して除圧行動をとりやすいため危険因子にはなりません。リスク評価にはブレーデンスケールが用いられ、体位変換、体圧分散寝具、スキンケア、栄養管理が予防の柱です。発生機序から危険因子を導く考え方は、病棟での予防ケアや多職種連携の基盤になります。

解答・解説

正解はcです

褥瘡(pressure ulcer / pressure injury)は、骨突出部などの一定部位に体重による圧迫やずれ(剪断力)が持続的に加わり、その部位の血流が途絶えて皮膚や皮下組織が虚血性に壊死する病態である。発生には「外から加わる力の大きさと持続時間」と「その力に組織がどれだけ耐えられるか(組織耐久性)」の両方が関わる。 本問は「関与しないもの」を選ぶ問題である。考え方の軸は次の二つである。 1) 圧迫が長く続く状況を作るか:自分で体を動かせない(不動・体位変換困難)、痛みや不快感に気付かない(知覚低下)など。 2) 組織が圧迫・摩擦・湿潤に弱くなっているか:低栄養、浮腫、皮膚の乾燥や過度の湿潤、加齢による皮膚の菲薄化など。 知覚については、圧迫による痛みやしびれを感じられないこと(知覚鈍麻・脱失)がリスクとなる。痛みを感じれば人は無意識に体位を変えて除圧するためである。知覚がむしろ過敏であれば圧迫の不快感を自覚しやすく、褥瘡の危険因子とはならない。したがって正解は「知覚過敏」である。

選択肢考察

  1. ×a.  低栄養

    関与する。低栄養、特に低アルブミン血症ではたんぱく質不足により組織の修復力と耐久性が落ちる。さらに皮下脂肪や筋肉が減って骨突出が目立つようになり、クッションが失われた部位に圧が集中する。低アルブミン血症に伴う浮腫も組織の酸素供給を悪化させる。栄養状態の評価と改善は褥瘡の予防・治療の両面で重要である。

  2. ×b.  関節拘縮

    関与する。関節拘縮があると自力での寝返りや体位変換が難しくなり、同じ部位が長時間圧迫される。また拘縮により四肢や体幹が不自然な肢位で固定されるため、膝の内側・くるぶし・大転子部など通常とは異なる骨突出部に過剰な圧がかかりやすく、体圧分散も困難になる。

  3. ○c.  知覚過敏

    関与しない(正解)。褥瘡の危険因子となるのは知覚の「低下」、すなわち知覚鈍麻や知覚脱失である。脊髄損傷、糖尿病性神経障害、意識障害などで圧迫による痛みや不快感を感じられないと、体位を変えようとする反応が起こらず圧迫が持続する。知覚過敏ではむしろ圧迫刺激を強く自覚して除圧行動をとりやすく、褥瘡発生の要因とはならない。

  4. ×d.  皮膚の乾燥

    関与する。高齢者などでは皮脂分泌の低下や皮膚の菲薄化により皮膚が乾燥し、角層のバリア機能が落ちて摩擦やずれによる損傷を受けやすくなる。なお、反対に失禁や発汗による過度の湿潤も皮膚を浸軟させて脆弱化させるため危険因子である。皮膚は乾燥しすぎず湿りすぎない状態に保つことが予防の基本となる。

  5. ×e.  全身麻酔下での手術

    関与する。全身麻酔中は意識と知覚がなく、自発的な体動もないため、手術台上で同一体位が長時間保たれ、骨突出部(仙骨部、踵部、腹臥位なら顔面・胸部・腸骨部など)に圧迫が続く。麻酔薬による血圧低下や末梢循環の低下、低体温なども組織の虚血を助長する。長時間手術では体位の工夫や除圧用具の使用により褥瘡を予防する必要がある。

褥瘡の発生要因

局所的要因:持続的な圧迫、摩擦、ずれ(剪断力)、皮膚の湿潤(失禁・発汗)、皮膚の乾燥、骨突出 全身的要因:低栄養(低アルブミン血症)、浮腫、貧血、るい痩、加齢、基礎疾患(糖尿病、末梢動脈疾患など)、薬剤(ステロイドなど) 社会的要因:介護力不足、体位変換・ケアの不足

好発部位

仰臥位:仙骨部、尾骨部、踵部、後頭部、肩甲骨部 側臥位:大転子部、腸骨部、外果部、耳介部 座位:坐骨結節部

リスク評価

ブレーデンスケールは、知覚の認知、湿潤、活動性、可動性、栄養状態、摩擦とずれの6項目で褥瘡発生リスクを評価する代表的な指標である。点数が低いほど高リスクとなる。「知覚の認知」は圧迫による不快感に反応できるかを評価する項目であり、知覚が低下しているほどリスクが高いと判定される点が本問と対応する。

予防の基本

定期的な体位変換、体圧分散寝具(エアマットレスなど)の使用、スキンケア(保湿と失禁対策)、栄養管理、ずれを生じさせない移乗・ポジショニングが柱となる。

POINT

・褥瘡は持続的な圧迫・ずれによる虚血性の組織壊死である。 ・危険因子は「動けない」「感じない」「組織が弱い」の3系統で整理する。 ・知覚は「鈍麻・脱失」がリスクであり、知覚過敏はリスクではない。 ・皮膚は乾燥も過度の湿潤もリスクとなる。 ・低栄養(低アルブミン血症)、関節拘縮、長時間の全身麻酔手術はいずれも危険因子である。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。