StudyMed医師国家試験

乾かさず、圧をかけず、栄養で支える―褥瘡ケアの3本柱

第109回医師国家試験 G問題 第19問

国試問題にチャレンジ

第109回 G問題 第19問

褥瘡の治療とケアについて正しいのはどれか。

  1. a.創面は洗浄しない。
  2. b.体位は変換しない。
  3. c.黒色壊死は温存する。
  4. d.創面の湿潤環境を保つ。
  5. e.亜鉛製剤の投与は控える。

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は褥瘡の治療とケアの基本原則を問う問題だ。褥瘡は骨突出部に持続的な圧迫やずれ力が加わって血流が途絶え、組織が虚血・壊死に陥ることで生じる。だから管理も、原因の除去、局所治療、全身管理の3本柱で整理すると判断しやすい。この視点で選択肢を見ていこう。
医学生医学生
昔の傷の手当てというと、消毒してガーゼを当てて乾かすイメージがあります。褥瘡も同じでしょうか。
ドクタードクター
そこが今回のいちばんの落とし穴だね。現在は、創面を適度に湿潤に保つmoist wound healing、つまり湿潤環境下療法が基本だ。創が乾くとかさぶたができて、細胞が創面を移動しにくくなり、治癒が遅れてしまうんだ。
医学生医学生
湿らせておくと、具体的に何がよくなるんですか。
ドクタードクター
滲出液には血小板由来増殖因子などの増殖因子が含まれていて、湿潤環境では白血球や線維芽細胞、表皮細胞がよく働く。その結果、肉芽形成と上皮化が促進される。ハイドロコロイドやポリウレタンフォームといった創傷被覆材で乾燥を防ぐのはこのためだ。だから正解は創面の湿潤環境を保つ、になる。
医学生医学生
でも、湿らせすぎると皮膚がふやけそうです。
ドクタードクター
鋭いね。滲出液が過剰だと周囲の皮膚が浸軟してかえって治りが悪くなる。滲出液の量に応じて吸収性の高い被覆材を選ぶなど、過不足のない湿潤を目指すのがポイントだ。では、創面は洗浄しない、という選択肢はどうだろう。
医学生医学生
湿潤を保つなら洗わないほうがいいのかと一瞬思いましたが、汚れたままだと感染しそうです。
ドクタードクター
その通り、洗浄は必要だ。生理食塩水や水道水で十分に洗い流して、細菌や壊死組織、残った外用薬を物理的に取り除く。一方で消毒薬は肉芽や表皮の細胞まで傷つけて治癒を遅らせるおそれがあるから、明らかな感染がなければルーチンには使わない。洗うけれど消毒はしない、と覚えておこう。
医学生医学生
体位変換しない、は明らかに誤りですよね。臨床実習で病棟を回ったとき、看護師さんが夜中も定期的に体の向きを変えていました。
ドクタードクター
そうだね。褥瘡の根本原因は圧迫だから、除圧は予防にも治療にも欠かせない。一般には2時間を超えない間隔での体位変換が原則で、体圧分散マットレスを併用すれば間隔を延ばせる。30度側臥位で骨突出部への圧を分散し、ベッドの頭側挙上は30度以下にしてずれ力を減らす工夫も大切だ。
医学生医学生
黒色壊死は、かさぶたのように蓋になって傷を守っているのかと思っていました。
ドクタードクター
そう考える人は多いけれど、黒色の壊死組織は細菌が増える温床になり、肉芽形成や創の収縮も妨げる。だから外科的デブリドマンや、蛋白分解酵素を含む外用薬による化学的デブリドマンで可能な範囲で除去する。壊死の下に膿がたまっていれば速やかに切開・排膿が必要だ。例外として、虚血肢の踵部などで感染のない乾いた安定した壊死は経過観察とすることもあるが、温存が原則ではない。
医学生医学生
亜鉛製剤を控える、というのも違和感があります。生化学で亜鉛は多くの酵素の補因子だと習いました。
ドクタードクター
まさにそこだ。亜鉛はDNAや蛋白質、コラーゲンの合成、細胞増殖、免疫機能に関わる、創傷治癒に欠かせない微量元素だ。褥瘡の患者さんは低栄養を伴うことが多いから、欠乏があれば補充する。蛋白質やエネルギーに加えて、アルギニンやビタミンCも創傷治癒を支える栄養素として重視されている。
医学生医学生
除圧、局所治療、栄養の3つがそろって初めて治る、ということですね。
ドクタードクター
その通り。発展として、創の色で治療方針を考える方法も押さえておこう。黒色期は壊死組織の除去と感染制御、黄色期は不良肉芽やスラフの除去と滲出液管理、赤色期と白色期は湿潤環境を保って肉芽形成と上皮化を促す。評価には日本褥瘡学会のDESIGN-Rが使われ、深さ、滲出液、大きさ、炎症・感染、肉芽、壊死組織、ポケットを点数化して経過を追う。
医学生医学生
予防の段階でリスクを評価する方法もありましたよね。
ドクタードクター
ブレーデンスケールだね。知覚の認知、湿潤、活動性、可動性、栄養状態、摩擦とずれの6項目で評価する。失禁や発汗による皮膚の浸軟、低アルブミン血症、知覚障害なども発生要因になるから、医師も看護師や管理栄養士と連携して、チームで予防と治療に取り組むことが大切だ。

まとめ

褥瘡は骨突出部への持続的な圧迫とずれ力による虚血性の組織壊死であり、治療とケアは原因の除去、局所治療、全身管理の3本柱で考えます。局所では創面を洗浄して清潔にしつつ消毒はルーチンに行わず、黒色壊死はデブリドマンで除去し、創面は適度な湿潤環境に保って肉芽形成と上皮化を促します(moist wound healing)。除圧のため2時間を超えない間隔での体位変換や体圧分散寝具を用い、亜鉛を含む栄養素は創傷治癒に必要なので欠乏時には補充します。創の色調に応じた治療選択やDESIGN-R、ブレーデンスケールによる評価も含め、多職種で継続的に関わる視点が、高齢化が進む臨床現場で褥瘡を防ぎ治すための土台となります。

解答・解説

正解はdです

褥瘡(pressure ulcer、いわゆる床ずれ)は、骨突出部の皮膚・軟部組織に持続的な圧迫やずれ力が加わって血流が途絶え、組織が虚血・壊死に陥ることで生じる。仙骨部、大転子部、踵部、坐骨部などに好発し、寝たきりの高齢者、脊髄損傷患者、低栄養の患者などで起こりやすい。本問は、褥瘡の治療とケアの基本原則を問う一般問題である。 褥瘡の管理は、大きく次の3本柱で考えると整理しやすい。 1. 原因の除去:体位変換や体圧分散寝具により、圧迫とずれを取り除く 2. 局所治療:洗浄で創面を清潔にし、壊死組織をデブリドマン(壊死組織の除去)し、適度な湿潤環境を保って肉芽形成と上皮化を促す(moist wound healing:湿潤環境下療法) 3. 全身管理:栄養状態(蛋白質、エネルギー、亜鉛などの微量元素)や貧血、基礎疾患を改善し、創傷治癒を支える 創面が乾燥すると、表面にかさぶたが形成されて細胞の遊走が妨げられ、治癒が遅れる。適度に湿潤した創面では、滲出液に含まれる増殖因子が働き、線維芽細胞や表皮細胞が移動しやすくなるため、治癒が促進される。この3本柱に照らせば、各選択肢の正誤は判断できる。

選択肢考察

  1. ×a.  創面は洗浄しない。

    誤り。創面や周囲の皮膚は、生理食塩水や水道水などで十分に洗浄し、付着した細菌・壊死組織・残留した外用薬などを物理的に取り除いて清潔に保つ。一方、創面への消毒薬の使用は、肉芽組織や表皮の細胞にも障害を与えて治癒を遅らせる可能性があるため、明らかな感染がない限りルーチンには行わないのが現在の考え方である。

  2. ×b.  体位は変換しない。

    誤り。褥瘡の根本原因は局所への持続的な圧迫であり、体位変換による除圧は予防・治療の両方で欠かせない。一般には2時間を超えない間隔での体位変換が原則とされ、体圧分散マットレスを併用すれば間隔を延ばすことも許容される(高機能の体圧分散マットレスを使う場合はおおむね4時間以内)。体位変換時には30度側臥位などで骨突出部への圧を分散し、ベッドの頭側挙上は30度以下に抑えてずれ力を減らす工夫も重要である。

  3. ×c.  黒色壊死は温存する。

    誤り。黒色の壊死組織(エスカー)は細菌が増殖する温床となり、感染の原因になるうえ、創の収縮や肉芽形成を妨げる。そのため、外科的デブリドマン(メスや剪刀による切除)や、蛋白分解酵素を含む外用薬などによる化学的デブリドマンで、可能な範囲で除去する。とくに壊死組織の下に膿の貯留や感染徴候がある場合は、速やかに切開・排膿とデブリドマンを行う。なお、虚血肢の踵部などで感染のない乾燥した安定した壊死は、例外的に経過観察とする場合もある。

  4. ○d.  創面の湿潤環境を保つ。

    正しい。適度な湿潤環境では、滲出液に含まれる血小板由来増殖因子(PDGF)などの増殖因子や、白血球・線維芽細胞・表皮細胞がよく機能し、肉芽形成と上皮化が促進される。このため、ハイドロコロイドやポリウレタンフォームなどの創傷被覆材(ドレッシング材)や外用薬を用いて、創面を乾燥させないよう管理する。ただし、滲出液が過剰であると周囲皮膚が浸軟して治癒が遅れるため、滲出液の量に応じて吸収性の高い被覆材を選ぶなど、過不足のない湿潤を保つことが大切である。

  5. ×e.  亜鉛製剤の投与は控える。

    誤り。亜鉛は多数の酵素の構成成分(補因子)であり、DNA・蛋白質の合成や細胞増殖、コラーゲン合成、免疫機能に関わるため、創傷治癒に欠かせない微量元素である。褥瘡患者は低栄養を伴うことが多く、亜鉛欠乏があれば治癒が遅れるので、必要に応じて亜鉛を含む栄養補助食品や亜鉛製剤で補充する。蛋白質・エネルギーのほか、アルギニン、アスコルビン酸(ビタミンC)なども創傷治癒を支える栄養素として重視される。

褥瘡の発生要因

・外的要因:圧迫、ずれ力、摩擦、湿潤(失禁や発汗による皮膚の浸軟) ・内的要因:低栄養(低アルブミン血症)、貧血、知覚障害、自力での体動困難、骨突出、浮腫、糖尿病などの基礎疾患 発生リスクの評価にはブレーデンスケール(知覚の認知、湿潤、活動性、可動性、栄養状態、摩擦とずれの6項目)などが用いられる。

深達度による分類(NPUAP分類の概要)

ステージⅠ:消退しない発赤(皮膚は保たれている) ステージⅡ:真皮までの部分欠損(びらん、浅い潰瘍、水疱) ステージⅢ:皮下脂肪組織に達する全層欠損 ステージⅣ:筋・腱・骨に達する全層欠損 判定不能:壊死組織に覆われて深さが分からないもの 深部損傷褥瘡(DTI):皮膚表面の変化は軽いが深部組織が損傷しているもの

DESIGN-R

日本褥瘡学会が作成した褥瘡状態の評価ツールで、Depth(深さ)、Exudate(滲出液)、Size(大きさ)、Inflammation/Infection(炎症・感染)、Granulation(肉芽組織)、Necrotic tissue(壊死組織)、Pocket(ポケット)の項目で評価し、経過観察や治療方針の決定に用いる(現在はDESIGN-R2020に改訂されている)。

創の状態に応じた局所治療の考え方

黒色期(壊死組織あり)→デブリドマン、感染制御 黄色期(不良肉芽・スラフあり)→壊死組織の除去、感染制御、滲出液の管理 赤色期(良好な肉芽形成)→湿潤環境の維持で肉芽形成を促す 白色期(上皮化)→湿潤環境の維持と創の保護 ポケットを形成している場合は、切開して開放することもある。

POINT

・褥瘡治療の基本は、除圧(体位変換・体圧分散寝具)、局所治療、全身管理(栄養改善)の3本柱 ・創面は洗浄して清潔に保つ。消毒はルーチンには行わない ・黒色壊死は感染の温床となるためデブリドマンで除去する ・創面は適度な湿潤環境に保つ(moist wound healing) ・亜鉛は創傷治癒に必要な微量元素であり、欠乏時は補充する ・体位変換は2時間を超えない間隔が原則(体圧分散マットレス併用時は延長可)

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。