鼻血は「赤血球」のせいじゃない―出血のパターンで読み解く止血の二段構え
第109回医師国家試験 G問題 第20問
国試問題にチャレンジ
出血傾向と疾患の組合せで誤っているのはどれか。
- a.下肢の点状出血 ―― 免疫性血小板減少性紫斑病〈特発性血小板減少性紫斑病〉
- b.関節内出血 ―― 血友病A
- c.口腔内粘膜の紫斑 ―― 再生不良性貧血
- d.歯肉出血 ―― 急性前骨髄球性白血病
- e.鼻出血 ―― 赤芽球癆
対話形式の解説
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ドクターまとめ
出血のパターンからは、障害されている止血機構を推定できます。血小板の数や機能の異常(一次止血の障害)では点状出血・紫斑・鼻出血・歯肉出血などの表在性・粘膜出血が、血友病のような凝固因子の異常(二次止血の障害)では関節内出血や筋肉内血腫などの深部出血が特徴となり、DICでは両者が混在します。ITP、再生不良性貧血、APLはいずれも血小板減少(APLはさらにDIC)による出血傾向をきたしますが、赤芽球癆は赤血球系のみが選択的に減少する疾患で、血小板や凝固系は保たれるため出血傾向は呈しません。病名に惑わされず「どの血球・どの止血段階が障害されているか」から症状を考える習慣は、血液疾患の鑑別と病棟での迅速な初期対応の両方に役立ちます。
解答・解説
正解はeです
出血症状の現れ方(出血のタイプ)から、障害されているのが一次止血(血小板)なのか二次止血(凝固因子)なのかを推定できる、という止血学の基本を問う問題である。 【一次止血の異常】血小板の数が減る、あるいは血小板の機能が低下すると、毛細血管レベルの小さな破綻が塞がれず、皮膚の点状出血・斑状出血(紫斑)、口腔粘膜の紫斑(血疱)、鼻出血、歯肉出血、性器出血など「表在性・粘膜」の出血が目立つ。 【二次止血の異常】凝固因子が欠乏すると、いったん血小板血栓ができても安定したフィブリン網が形成されないため、関節内出血・筋肉内血腫など「深部」の出血や、抜歯後・外傷後の遷延性出血が特徴となる。 【混合型】播種性血管内凝固(DIC)では血小板と凝固因子の両方が消費され、さらに線溶が亢進するため、表在性と深部の両方の出血をきたしうる。 したがって各選択肢では「その疾患に出血傾向があるか」「あるとすれば血小板系か凝固系か」を考え、示された出血症状と整合するかを判断する。赤血球系のみが障害される赤芽球癆には出血傾向の原因となる異常がないため、鼻出血との組合せが誤りである。
選択肢考察
- ×a. 下肢の点状出血 ―― 免疫性血小板減少性紫斑病〈特発性血小板減少性紫斑病〉
組合せは正しい。免疫性血小板減少性紫斑病(ITP)は、血小板膜糖蛋白(GPⅡb/Ⅲa など)に対する自己抗体が結合した血小板が脾臓などで破壊されて血小板数が減少する疾患である(検査では血小板結合性IgG〈PAIgG〉の上昇がみられるが特異性は低い)。血小板減少による一次止血障害のため、皮膚の点状出血・紫斑が典型的で、静水圧のかかる下肢に出やすい。歯肉出血・鼻出血・月経過多などの粘膜出血も伴いうる。
- ×b. 関節内出血 ―― 血友病A
組合せは正しい。血友病Aは X連鎖潜性(劣性)遺伝により第Ⅷ因子活性が先天的に低下する凝固異常症で、主に男性に発症する。二次止血の障害であるため、膝・肘・足関節などの関節内出血や筋肉内出血といった深部出血を繰り返すのが特徴である。関節内出血を反復すると滑膜炎から関節軟骨の破壊が進み、血友病性関節症(関節の変形・拘縮)に至る。検査では APTT(活性化部分トロンボプラスチン時間)が延長し、PT(プロトロンビン時間)と血小板数は正常である。
- ×c. 口腔内粘膜の紫斑 ―― 再生不良性貧血
組合せは正しい。再生不良性貧血は、造血幹細胞が(主に免疫学的機序により)障害されて骨髄が低形成となり、汎血球減少(赤血球・白血球・血小板すべての減少)をきたす疾患である。貧血症状、好中球減少による易感染性に加え、血小板減少による一次止血障害で皮膚の点状出血・紫斑、口腔粘膜の紫斑(血疱)、歯肉出血、鼻出血などの表在性・粘膜出血を認める。
- ×d. 歯肉出血 ―― 急性前骨髄球性白血病
組合せは正しい。急性前骨髄球性白血病(APL、FAB分類M3)は t(15;17)(q24;q21) による PML::RARA 融合遺伝子を特徴とする急性骨髄性白血病の一病型である。白血病細胞による正常造血の抑制で血小板が減少するうえ、白血病細胞の顆粒に含まれる組織因子などにより、線溶亢進が著しいDICを高率に合併する。このため歯肉出血、鼻出血、皮下出血などが強く、重篤な場合は頭蓋内出血や肺出血をきたし、早期死亡の主因となる。
- ○e. 鼻出血 ―― 赤芽球癆
誤った組合せであり、これが正解である。赤芽球癆(pure red cell aplasia)は、骨髄で赤芽球系の産生だけが選択的に著減する疾患で、白血球数・血小板数は原則として保たれる。原因には特発性のほか、胸腺腫、パルボウイルスB19感染、大顆粒リンパ球性白血病、薬剤などがあり、多くは赤芽球系前駆細胞に対する免疫学的な抑制が関与する。症状は貧血によるもの(動悸、息切れ、易疲労感など)が主体で、血小板や凝固系の異常はないため、鼻出血のような出血傾向は呈さない。
出血のパターンと止血障害の関係
・血小板異常(数の減少・機能異常)および血管の異常: 点状出血、斑状出血(紫斑)、鼻出血、歯肉出血、口腔粘膜の血疱、月経過多、消化管出血など。出血は外傷直後から始まる。 ・凝固因子異常(血友病A/B、ビタミンK欠乏など): 関節内出血、筋肉内血腫、外傷・抜歯後の遅発性・遷延性出血。点状出血は目立たない。 ・混合型(DIC、重症肝障害など): 表在性出血と深部出血の両方。DICでは採血部位・点滴刺入部からの止血困難も特徴的である。
血球減少と症状の対応
・赤血球減少 → 貧血症状(顔色不良、動悸、息切れ、易疲労感) ・好中球減少 → 易感染性、発熱 ・血小板減少 → 出血傾向(表在性・粘膜出血) 赤芽球癆は赤血球系のみ、再生不良性貧血は三系統すべての減少であり、症状の違いはここから説明できる。
APLとDIC
APLは診断時からDICを合併していることが多く、線溶亢進型のため出血症状が強い。全トランス型レチノイン酸(ATRA)による分化誘導療法の導入により予後は大きく改善したが、早期の出血死を防ぐことが治療上の重要課題である。
POINT
・血小板の異常 → 点状出血・紫斑・粘膜出血(鼻出血、歯肉出血)など表在性出血 ・凝固因子の異常(血友病など) → 関節内出血・筋肉内血腫など深部出血 ・DIC → 表在性と深部の混合型。APLはDICを高率に合併し出血が強い ・赤芽球癆は赤血球系のみの低下で、出血傾向はない
