環状鉄芽球は「どこで」見る?―赤血球形態と疾患の組合せを機序で解く
第120回医師国家試験 C問題 第8問
国試問題にチャレンジ
疾患と末梢血所見の組合せで誤っているのはどれか。
- a.骨髄線維症 ―― 涙滴赤血球
- b.サラセミア ―― 標的赤血球
- c.ビタミンB12欠乏症 ―― 環状鉄芽球
- d.高ガンマグロブリン血症 ―― 赤血球連銭形成
- e.血栓性血小板減少性紫斑病 ―― 破砕赤血球
対話形式の解説
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医学生まとめ
赤血球形態異常は機序とセットで覚えると整理しやすく、骨髄線維症では髄外造血に伴う涙滴赤血球、サラセミアでは膜の相対的過剰による標的赤血球、高ガンマグロブリン血症では荷電反発の低下による連銭形成、TTPでは微小血栓による機械的破壊で生じる破砕赤血球がみられます。一方、環状鉄芽球はミトコンドリアに鉄が沈着した赤芽球で、骨髄の鉄染色で評価する所見であり、鉄芽球性貧血や骨髄異形成症候群を示唆するもので、ビタミンB12欠乏症の所見ではありません。ビタミンB12欠乏症の末梢血では大球性貧血、好中球の過分葉、Howell-Jolly小体、汎血球減少が特徴で、神経症状は貧血の程度と相関しない点にも注意が必要です。所見の「成り立ち」と「観察する場所(末梢血か骨髄か)」を意識することが、形態学の問題を確実に解き、実際の血液像を読み解く力につながります。
解答・解説
正解はcです
末梢血塗抹標本でみられる赤血球の形態異常は、背景にある病態を推定する重要な手がかりになる。本問は代表的な「疾患と赤血球形態」の対応を問うもので、誤っている組合せを一つ選ぶ。 考え方のポイントは二つある。第一に、それぞれの形態異常がどのような機序で生じるかを押さえること。例えば、骨髄が線維化すると造血の場が脾臓などへ移り(髄外造血)、狭い骨髄から押し出された赤血球が涙のしずく形に変形する。微小血管内に血栓ができると、赤血球がフィブリン網で切り裂かれて破砕赤血球になる。第二に、その所見が「末梢血」でみられるのか「骨髄」でみられるのかを区別することである。環状鉄芽球は有核の赤芽球に関する所見であり、骨髄穿刺標本を鉄染色して初めて確認されるものである。さらに、環状鉄芽球が特徴となるのは鉄芽球性貧血(骨髄異形成症候群に伴うものを含む)であり、ビタミンB12欠乏症の典型所見ではない。この二重の誤りに気づけば正解は c と判断できる。
選択肢考察
- ×a. 骨髄線維症 ―― 涙滴赤血球
正しい組合せである。原発性骨髄線維症では骨髄に線維組織が増え、脾臓や肝臓で髄外造血が起こる。線維化した骨髄や髄外造血巣から赤血球が無理に放出される過程で、一端が尾のように伸びた涙滴赤血球(dacrocyte)が出現する。同時に、骨髄から幼若な赤芽球と未熟な顆粒球が末梢血に出る白赤芽球症(leukoerythroblastosis)を伴うことも特徴であり、骨髄穿刺では検体が吸引できない dry tap になりやすい。
- ×b. サラセミア ―― 標的赤血球
正しい組合せである。サラセミアはグロビン鎖(α鎖またはβ鎖)の合成が遺伝的に低下する疾患で、ヘモグロビン量が少ないわりに赤血球膜が相対的に余る。そのため中央部と辺縁部にヘモグロビンが集まり、弓の的のように見える標的赤血球(target cell)が生じる。小球性低色素性貧血を示すが、鉄欠乏性貧血と異なり血清フェリチンは低下せず、赤血球数は比較的保たれる点が鑑別に役立つ。標的赤血球は閉塞性黄疸などの肝疾患やヘモグロビンC症、脾摘後でもみられる。
- ○c. ビタミンB12欠乏症 ―― 環状鉄芽球
誤った組合せであり、これが正解である。環状鉄芽球(ring sideroblast)は、ヘム合成に利用されなかった鉄が赤芽球のミトコンドリアに沈着し、鉄染色で核の周囲を輪のように取り囲む顆粒として見える赤芽球をいう。有核細胞である赤芽球の所見なので、通常は骨髄標本で評価するものであり、末梢血所見ではない。また、これを特徴とするのは鉄芽球性貧血(先天性、骨髄異形成症候群に伴うもの、アルコール・鉛・抗結核薬イソニアジドなどの薬剤、銅欠乏など)である。 ビタミンB12欠乏症は DNA 合成障害による巨赤芽球性貧血を起こし、末梢血では大球性(MCV 高値)の赤血球、大型の楕円赤血球、好中球の過分葉(核が6分葉以上)、核の断片が残った Howell-Jolly 小体などがみられる。汎血球減少を伴うことも多い。骨髄では巨赤芽球が増えるが、環状鉄芽球は典型像ではない。
- ×d. 高ガンマグロブリン血症 ―― 赤血球連銭形成
正しい組合せである。赤血球の表面は負に荷電しており、通常は互いに反発してばらばらに分散している。血漿中に免疫グロブリンやフィブリノゲンなどの蛋白が増えると、この反発が弱まって赤血球が硬貨を積み重ねたように連なる連銭形成(rouleaux formation)が起こる。多発性骨髄腫や原発性マクログロブリン血症などの単クローン性の増加でも、慢性炎症・肝硬変・膠原病などに伴う多クローン性の増加でも生じうる。連銭形成が起こると赤血球が速く沈むため、赤沈(赤血球沈降速度)が亢進する。
- ×e. 血栓性血小板減少性紫斑病 ―― 破砕赤血球
正しい組合せである。血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)は、von Willebrand 因子を切断する酵素 ADAMTS13 の活性が著しく低下(先天性または自己抗体による)し、超高分子量の von Willebrand 因子が残って全身の細小血管に血小板血栓が生じる疾患である。狭くなった血管を赤血球が通過する際に機械的に壊され、ヘルメット状・三角形・断片状の破砕赤血球(schistocyte)が出現する。これは微小血管症性溶血性貧血の特徴で、溶血性尿毒症症候群(HUS)や播種性血管内凝固(DIC)、人工弁による溶血でもみられる。
主な赤血球形態異常と代表的な疾患
・涙滴赤血球:骨髄線維症、骨髄へのがん転移など骨髄が置き換えられる病態(骨髄癆) ・標的赤血球:サラセミア、閉塞性黄疸・肝疾患、ヘモグロビンC症、脾摘後 ・破砕赤血球:TTP、HUS、DIC、人工弁、悪性高血圧など ・球状赤血球:遺伝性球状赤血球症、温式自己免疫性溶血性貧血 ・楕円赤血球:遺伝性楕円赤血球症、巨赤芽球性貧血(大型の楕円赤血球) ・有棘赤血球:重症肝障害、無βリポ蛋白血症 ・鎌状赤血球:鎌状赤血球症 ・連銭形成:多発性骨髄腫、原発性マクログロブリン血症、慢性炎症などの高ガンマグロブリン血症
赤血球封入体
・Howell-Jolly 小体:核の遺残。脾摘後・無脾症、巨赤芽球性貧血 ・好塩基性斑点:リボソームの凝集。鉛中毒、サラセミア ・Heinz 小体:変性ヘモグロビン。G6PD 欠乏症(超生体染色で確認) ・Pappenheimer 小体(鉄顆粒を含む):鉄芽球性貧血、脾摘後
鉄芽球性貧血
ヘム合成の障害によりミトコンドリアに鉄が蓄積し、骨髄で環状鉄芽球が出現する。先天性(X 連鎖性の ALAS2 遺伝子異常など)と後天性(骨髄異形成症候群、アルコール、鉛中毒、イソニアジドなどの薬剤、銅欠乏、亜鉛過剰による二次的な銅欠乏)がある。血清鉄やフェリチンは高値になりやすい。骨髄異形成症候群では環状鉄芽球の割合や SF3B1 遺伝子変異の有無が病型分類に用いられる。
ビタミンB12欠乏症
胃全摘後、悪性貧血(抗内因子抗体・抗胃壁細胞抗体による内因子欠乏)、回腸末端切除などが原因となる。巨赤芽球性貧血のほか、Hunter 舌炎による舌の痛み、食欲不振などの消化器症状、亜急性連合性脊髄変性症(後索・側索障害による深部感覚障害、しびれ、歩行障害)、認知機能低下をきたす。神経症状の程度は貧血の程度と必ずしも相関せず、貧血や MCV 上昇がなくても本症は否定できない。高齢者では治療可能な認知症の原因として重要である。骨髄内で血球が壊れる無効造血のため、LDH 高値、間接ビリルビン高値、ハプトグロビン低下を示す。
POINT
・環状鉄芽球は骨髄(鉄染色)でみる赤芽球の所見であり、鉄芽球性貧血・骨髄異形成症候群を示唆する。ビタミンB12欠乏症の所見ではない。 ・ビタミンB12欠乏症の末梢血:大球性貧血、好中球の過分葉、Howell-Jolly 小体、汎血球減少。 ・骨髄線維症=涙滴赤血球、サラセミア=標的赤血球、高ガンマグロブリン血症=連銭形成(赤沈亢進)、TTP=破砕赤血球、は頻出の組合せ。
