「努力義務」は誰のもの?―予防接種法の定期接種を主語で整理する
第120回医師国家試験 C問題 第7問
国試問題にチャレンジ
予防接種法に規定されている定期接種で正しいのはどれか。
- a.実施主体は都道府県である。
- b.子宮頸癌ワクチンは対象外である。
- c.全ての定期接種の費用は全額公費で負担される。
- d.MRワクチンは接種対象者に接種を受ける努力義務がある。
- e.接種対象者は副反応を疑う症状が発生した時に報告する義務がある。
対話形式の解説
ドクター
医学生
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医学生
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ドクターまとめ
予防接種法の定期接種は市町村(市町村長)が実施主体であり、都道府県が関わるのは主に臨時接種です。対象疾病はA類(麻しん、風しん、HPV感染症など集団予防・重篤化予防が中心)とB類(高齢者のインフルエンザ、肺炎球菌感染症など個人予防が中心)に分かれ、A類のみ対象者に努力義務があり行政が接種を勧奨するため、MRワクチンには努力義務があります。HPVワクチンは2013年からA類の定期接種で、勧奨差し控え期間も定期接種のままでした。費用は市町村負担ですが実費徴収が可能で、B類では一部自己負担が一般的です。副反応疑い報告の義務は医師・医療機関の開設者にあり、「誰が・何を・どの義務を負うか」という主語で整理することが、制度問題の確実な得点と、臨床での適切な説明・報告につながります。
解答・解説
正解はdです
問われていること
予防接種法に基づく予防接種には、平時から計画的に行う「定期接種」と、まん延予防上緊急の必要があるときに行う「臨時接種」がある。本問は定期接種の仕組み(実施主体、対象疾病の分類、費用負担、接種を受ける側の努力義務、副反応疑い報告の義務者)を問うている。
定期接種の骨格
・実施主体: 市町村(市町村長が対象者に接種を行う)。 ・対象疾病の分類: A類疾病…人から人へ伝染する疾病のまん延予防、または罹患すると重篤化するおそれのある疾病の予防を目的とする(集団予防に重点)。主に小児期の接種。 B類疾病…個人の発病・重症化を防ぎ、あわせてまん延予防に資することを目的とする(個人予防に重点)。主に高齢者の接種。 ・努力義務と勧奨: A類疾病では、対象者(未成年では保護者)に「接種を受けるよう努める」努力義務があり、行政は接種を勧奨する。B類疾病には努力義務も勧奨もなく、本人の意思で接種する。 ・副反応疑い報告: 医師等(病院・診療所の開設者または医師)が厚生労働大臣に報告する義務を負う。
考え方
「誰が実施するか(市町村)」「誰に努力義務があるか(A類の対象者)」「誰に報告義務があるか(医師等)」という主語の対応を正確に押さえていれば解ける。MRワクチン(麻しん風しん混合ワクチン)の対象疾病である麻しん・風しんはA類疾病であるため、接種対象者に努力義務がある。
選択肢考察
- ×a. 実施主体は都道府県である。
定期接種の実施主体は、住民に最も身近な自治体である市町村である。市町村長が対象者の把握、予診票の送付、委託医療機関での接種体制の整備などを行う。なお、臨時接種では都道府県知事が実施主体となる場合や、都道府県知事の指示を受けて市町村長が行う場合がある。
- ×b. 子宮頸癌ワクチンは対象外である。
子宮頸癌ワクチン(ヒトパピローマウイルス〈HPV〉ワクチン)は、2013年4月にA類疾病の定期接種に位置づけられている。対象は小学校6年生から高校1年生相当の女子である。接種後の多様な症状の報告を受けて2013年6月から積極的な勧奨が差し控えられたが、その間も定期接種であることに変わりはなかった。安全性・有効性の評価を経て2022年4月から積極的勧奨が再開され、勧奨差し控え期間に接種機会を逃した世代へのキャッチアップ接種も行われた。2023年4月からは9価ワクチンも定期接種で使用できる。
- ×c. 全ての定期接種の費用は全額公費で負担される。
定期接種の費用は実施主体の市町村が負担するが、法律上は経済的理由で負担できない者を除き実費を徴収できるとされている。A類疾病の接種は実際には大部分の市町村で無料(公費負担)となっているのに対し、B類疾病(高齢者のインフルエンザ、肺炎球菌感染症など)は一部自己負担が設定されるのが一般的である。したがって「全ての定期接種が全額公費」は誤りである。
- ○d. MRワクチンは接種対象者に接種を受ける努力義務がある。
MRワクチン(麻しん風しん混合ワクチン)が予防する麻しんと風しんは、いずれもA類疾病である。A類疾病の定期接種では、対象者は接種を受けるよう努めなければならない(努力義務)と予防接種法に規定されており、対象者が16歳未満などの場合は保護者が接種を受けさせるよう努める。MRワクチンの定期接種は、第1期が1歳児、第2期が小学校就学前の1年間(いわゆる年長児)の2回接種である。なお努力義務は罰則を伴う強制ではなく、最終的には本人・保護者の同意に基づいて接種が行われる。
- ×e. 接種対象者は副反応を疑う症状が発生した時に報告する義務がある。
予防接種法の副反応疑い報告制度で報告義務を負うのは、病院・診療所の開設者または医師である。定められた症状(アナフィラキシー、けいれん、脳炎・脳症など)が、接種後一定期間内に生じたことを知った場合、厚生労働大臣(実務上は医薬品医療機器総合機構〈PMDA〉)へ報告しなければならない。接種を受けた本人や保護者には報告義務はなく、症状があれば医療機関を受診・相談する。健康被害が生じた場合には、本人や家族が予防接種健康被害救済制度に基づき市町村に給付を請求できる。
定期接種の対象疾病(主なもの)
・A類疾病: ジフテリア、百日せき、急性灰白髄炎(ポリオ)、破傷風、麻しん、風しん、日本脳炎、結核(BCG)、Hib(インフルエンザ菌b型)感染症、小児の肺炎球菌感染症、HPV感染症、水痘、B型肝炎、ロタウイルス感染症など。 ・B類疾病: 高齢者のインフルエンザ、高齢者の肺炎球菌感染症、新型コロナウイルス感染症(2024年度から)、帯状疱疹(2025年度から)など。
A類とB類の比較
・目的: A類は集団予防(社会防衛)と重篤化予防、B類は個人予防に重点。 ・努力義務: A類あり、B類なし。 ・接種勧奨: A類あり、B類なし。 ・費用: A類は多くの市町村で無料、B類は一部自己負担が一般的。 ・健康被害救済: どちらも予防接種法に基づく救済制度の対象だが、給付水準はA類のほうが手厚い。
定期接種と任意接種
・定期接種以外のワクチン接種(例: 流行性耳下腺炎〈おたふくかぜ〉ワクチン)は任意接種であり、原則として自己負担となる。健康被害の救済は予防接種法ではなく、医薬品副作用被害救済制度(PMDA)による。
臨時接種
・疾病のまん延予防上、緊急の必要がある場合に行われる。都道府県知事が実施するか、市町村長に指示して行わせる。
POINT
・定期接種の実施主体は市町村(市町村長)。 ・A類疾病(麻しん、風しん、HPVなど)は対象者に努力義務があり、行政は接種を勧奨する。B類疾病(高齢者インフルエンザ、高齢者肺炎球菌など)には努力義務がない。 ・MRワクチンは1歳と就学前1年間の2回接種。 ・HPVワクチンは2013年から定期接種(A類)。2022年に積極的勧奨再開。 ・副反応疑い報告の義務を負うのは医師・医療機関の開設者であり、被接種者ではない。 ・費用負担は市町村。B類では一部自己負担が一般的。
