StudyMed医師国家試験

「努力義務」は誰のもの?―予防接種法の定期接種を主語で整理する

第120回医師国家試験 C問題 第7問

国試問題にチャレンジ

第120回 C問題 第7問

予防接種法に規定されている定期接種で正しいのはどれか。

  1. a.実施主体は都道府県である。
  2. b.子宮頸癌ワクチンは対象外である。
  3. c.全ての定期接種の費用は全額公費で負担される。
  4. d.MRワクチンは接種対象者に接種を受ける努力義務がある。
  5. e.接種対象者は副反応を疑う症状が発生した時に報告する義務がある。

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は予防接種法の定期接種の仕組みを問う問題だ。制度問題は暗記に見えるけれど、「誰が実施するのか」「誰に義務があるのか」「誰が報告するのか」という主語を正しく対応させれば、すっきり解けるよ。まず、予防接種法に基づく接種には大きく2種類あるけれど、覚えているかな。
医学生医学生
定期接種と臨時接種ですよね。公衆衛生の講義で、臨時接種はまん延予防のために緊急で行うものだと習いました。
ドクタードクター
その通り。定期接種は平時から計画的に行うもの、臨時接種は緊急時に行うものだ。では定期接種の実施主体はどこだと思う?
医学生医学生
感染症対策というと保健所のイメージなので、都道府県かと思ってしまいました。
ドクタードクター
そこがよくある誤解だね。定期接種の実施主体は、住民に最も身近な市町村なんだ。市町村長が対象者を把握して予診票を送り、委託医療機関で接種できる体制を整える。小児科を回ったとき、保護者が自治体から届いた予診票を持ってきていたのを見なかったかな。
医学生医学生
見ました!あれは市町村から送られてくるものだったんですね。都道府県が主体になるのは臨時接種のほうでしょうか。
ドクタードクター
そう。臨時接種では都道府県知事が実施したり、市町村長に指示して行わせたりする。ここを混同しないようにしよう。次に押さえたいのが、対象疾病のA類とB類の区別だ。
医学生医学生
A類は子どもの集団予防、B類は高齢者の個人予防、というざっくりした理解です。
ドクタードクター
いい整理だ。A類は人から人へ広がる病気のまん延予防や重篤化予防が目的で、麻しん、風しん、百日せき、BCG、HPV感染症などが入る。B類は高齢者のインフルエンザや肺炎球菌感染症など、個人の発病・重症化予防に重点がある。そして決定的な違いが努力義務だ。A類では対象者、子どもなら保護者に「接種を受けるよう努める」努力義務があり、行政も接種を勧奨する。B類には努力義務も勧奨もない。
医学生医学生
MRワクチンは麻しんと風しんなのでA類、だから接種対象者に努力義務がある。これが正解ですね。
ドクタードクター
正解。MRワクチンは1歳と小学校就学前の1年間の2回接種だ。ただし努力義務は罰則つきの強制ではなく、最終的には本人や保護者の同意に基づいて接種することも理解しておこう。では、子宮頸癌ワクチンが対象外という記述はどうかな。
医学生医学生
積極的勧奨が止まっていた時期があったので、定期接種から外れていたのかと思っていました。
ドクタードクター
それが狙われるポイントだね。HPVワクチンは2013年4月にA類の定期接種になった。直後に接種後の多様な症状が報告されて積極的勧奨が差し控えられたけれど、その間も定期接種のままだったんだ。2022年4月に勧奨が再開され、接種機会を逃した世代へのキャッチアップ接種も行われた。
医学生医学生
費用はどうでしょう。定期接種ならすべて無料というイメージがあります。
ドクタードクター
費用を負担するのは実施主体の市町村だけれど、法律上は経済的に困難な人を除いて実費を徴収できる。実際にはA類はほとんどの市町村で無料だが、高齢者のインフルエンザなどB類では一部自己負担を求めるのが一般的だ。だから「全て全額公費」は誤り。
医学生医学生
最後の副反応の報告義務は、接種を受けた本人ではなく医師側ですよね。
ドクタードクター
その通り。副反応疑い報告の義務を負うのは病院・診療所の開設者または医師で、定められた症状を知ったら厚生労働大臣に報告する。実務上はPMDAが窓口になる。本人や保護者に報告義務はなく、症状があれば受診して相談すればいい。
医学生医学生
主語で整理すると、実施は市町村、努力義務はA類の対象者、報告は医師ということですね。
ドクタードクター
完璧だ。発展として、健康被害が出たときの救済も押さえておこう。定期接種なら予防接種法に基づく救済制度があり、本人や家族が市町村に給付を請求する。給付水準はA類のほうが手厚い。一方、おたふくかぜワクチンのような任意接種では、PMDAの医薬品副作用被害救済制度が使われる。また、新型コロナウイルス感染症や帯状疱疹がB類に加わるなど、対象疾病は改正で変わっていくので、最新の情報を確認する習慣が大切だ。
医学生医学生
臨床に出たら、自分が報告する立場になるんですね。接種後の症状を診たら制度のことも思い出すようにします。
ドクタードクター
その意識が大事だよ。保護者から接種の相談を受けたときにも、努力義務の意味や救済制度を説明できると信頼につながる。

まとめ

予防接種法の定期接種は市町村(市町村長)が実施主体であり、都道府県が関わるのは主に臨時接種です。対象疾病はA類(麻しん、風しん、HPV感染症など集団予防・重篤化予防が中心)とB類(高齢者のインフルエンザ、肺炎球菌感染症など個人予防が中心)に分かれ、A類のみ対象者に努力義務があり行政が接種を勧奨するため、MRワクチンには努力義務があります。HPVワクチンは2013年からA類の定期接種で、勧奨差し控え期間も定期接種のままでした。費用は市町村負担ですが実費徴収が可能で、B類では一部自己負担が一般的です。副反応疑い報告の義務は医師・医療機関の開設者にあり、「誰が・何を・どの義務を負うか」という主語で整理することが、制度問題の確実な得点と、臨床での適切な説明・報告につながります。

解答・解説

正解はdです

問われていること

予防接種法に基づく予防接種には、平時から計画的に行う「定期接種」と、まん延予防上緊急の必要があるときに行う「臨時接種」がある。本問は定期接種の仕組み(実施主体、対象疾病の分類、費用負担、接種を受ける側の努力義務、副反応疑い報告の義務者)を問うている。

定期接種の骨格

・実施主体: 市町村(市町村長が対象者に接種を行う)。 ・対象疾病の分類:  A類疾病…人から人へ伝染する疾病のまん延予防、または罹患すると重篤化するおそれのある疾病の予防を目的とする(集団予防に重点)。主に小児期の接種。  B類疾病…個人の発病・重症化を防ぎ、あわせてまん延予防に資することを目的とする(個人予防に重点)。主に高齢者の接種。 ・努力義務と勧奨: A類疾病では、対象者(未成年では保護者)に「接種を受けるよう努める」努力義務があり、行政は接種を勧奨する。B類疾病には努力義務も勧奨もなく、本人の意思で接種する。 ・副反応疑い報告: 医師等(病院・診療所の開設者または医師)が厚生労働大臣に報告する義務を負う。

考え方

「誰が実施するか(市町村)」「誰に努力義務があるか(A類の対象者)」「誰に報告義務があるか(医師等)」という主語の対応を正確に押さえていれば解ける。MRワクチン(麻しん風しん混合ワクチン)の対象疾病である麻しん・風しんはA類疾病であるため、接種対象者に努力義務がある。

選択肢考察

  1. ×a.  実施主体は都道府県である。

    定期接種の実施主体は、住民に最も身近な自治体である市町村である。市町村長が対象者の把握、予診票の送付、委託医療機関での接種体制の整備などを行う。なお、臨時接種では都道府県知事が実施主体となる場合や、都道府県知事の指示を受けて市町村長が行う場合がある。

  2. ×b.  子宮頸癌ワクチンは対象外である。

    子宮頸癌ワクチン(ヒトパピローマウイルス〈HPV〉ワクチン)は、2013年4月にA類疾病の定期接種に位置づけられている。対象は小学校6年生から高校1年生相当の女子である。接種後の多様な症状の報告を受けて2013年6月から積極的な勧奨が差し控えられたが、その間も定期接種であることに変わりはなかった。安全性・有効性の評価を経て2022年4月から積極的勧奨が再開され、勧奨差し控え期間に接種機会を逃した世代へのキャッチアップ接種も行われた。2023年4月からは9価ワクチンも定期接種で使用できる。

  3. ×c.  全ての定期接種の費用は全額公費で負担される。

    定期接種の費用は実施主体の市町村が負担するが、法律上は経済的理由で負担できない者を除き実費を徴収できるとされている。A類疾病の接種は実際には大部分の市町村で無料(公費負担)となっているのに対し、B類疾病(高齢者のインフルエンザ、肺炎球菌感染症など)は一部自己負担が設定されるのが一般的である。したがって「全ての定期接種が全額公費」は誤りである。

  4. ○d.  MRワクチンは接種対象者に接種を受ける努力義務がある。

    MRワクチン(麻しん風しん混合ワクチン)が予防する麻しんと風しんは、いずれもA類疾病である。A類疾病の定期接種では、対象者は接種を受けるよう努めなければならない(努力義務)と予防接種法に規定されており、対象者が16歳未満などの場合は保護者が接種を受けさせるよう努める。MRワクチンの定期接種は、第1期が1歳児、第2期が小学校就学前の1年間(いわゆる年長児)の2回接種である。なお努力義務は罰則を伴う強制ではなく、最終的には本人・保護者の同意に基づいて接種が行われる。

  5. ×e.  接種対象者は副反応を疑う症状が発生した時に報告する義務がある。

    予防接種法の副反応疑い報告制度で報告義務を負うのは、病院・診療所の開設者または医師である。定められた症状(アナフィラキシー、けいれん、脳炎・脳症など)が、接種後一定期間内に生じたことを知った場合、厚生労働大臣(実務上は医薬品医療機器総合機構〈PMDA〉)へ報告しなければならない。接種を受けた本人や保護者には報告義務はなく、症状があれば医療機関を受診・相談する。健康被害が生じた場合には、本人や家族が予防接種健康被害救済制度に基づき市町村に給付を請求できる。

定期接種の対象疾病(主なもの)

・A類疾病: ジフテリア、百日せき、急性灰白髄炎(ポリオ)、破傷風、麻しん、風しん、日本脳炎、結核(BCG)、Hib(インフルエンザ菌b型)感染症、小児の肺炎球菌感染症、HPV感染症、水痘、B型肝炎、ロタウイルス感染症など。 ・B類疾病: 高齢者のインフルエンザ、高齢者の肺炎球菌感染症、新型コロナウイルス感染症(2024年度から)、帯状疱疹(2025年度から)など。

A類とB類の比較

・目的: A類は集団予防(社会防衛)と重篤化予防、B類は個人予防に重点。 ・努力義務: A類あり、B類なし。 ・接種勧奨: A類あり、B類なし。 ・費用: A類は多くの市町村で無料、B類は一部自己負担が一般的。 ・健康被害救済: どちらも予防接種法に基づく救済制度の対象だが、給付水準はA類のほうが手厚い。

定期接種と任意接種

・定期接種以外のワクチン接種(例: 流行性耳下腺炎〈おたふくかぜ〉ワクチン)は任意接種であり、原則として自己負担となる。健康被害の救済は予防接種法ではなく、医薬品副作用被害救済制度(PMDA)による。

臨時接種

・疾病のまん延予防上、緊急の必要がある場合に行われる。都道府県知事が実施するか、市町村長に指示して行わせる。

POINT

・定期接種の実施主体は市町村(市町村長)。 ・A類疾病(麻しん、風しん、HPVなど)は対象者に努力義務があり、行政は接種を勧奨する。B類疾病(高齢者インフルエンザ、高齢者肺炎球菌など)には努力義務がない。 ・MRワクチンは1歳と就学前1年間の2回接種。 ・HPVワクチンは2013年から定期接種(A類)。2022年に積極的勧奨再開。 ・副反応疑い報告の義務を負うのは医師・医療機関の開設者であり、被接種者ではない。 ・費用負担は市町村。B類では一部自己負担が一般的。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。