コプリック斑を見たらすぐ電話―5類なのに「直ちに」届け出る麻疹の特別ルール
第120回医師国家試験 C問題 第36問
国試問題にチャレンジ
救急外来で小児を診察した研修医から指導医への報告を以下に示す。 研修医:「1歳の女児です。3日前から発熱,咳嗽,鼻汁,眼脂が続き,本日から四肢,体幹に皮疹が出現したため来院しました。意識は清明で,体温39.9℃。咽頭発赤があり,頰粘膜に白い斑点があります。咳嗽がひどくroom airでSpO2が92%です。10日前に家族で東南アジアに旅行に行き,5日前に帰国しています」 指導医:「保健所への対応はどうしますか」 これに続く研修医の返答で最も適切なのはどれか。
- a.「届け出る必要はありません」
- b.「直ちに届け出る必要があります」
- c.「3日以内に届け出る必要があります」
- d.「7日以内に届け出る必要があります」
- e.「症状の改善後に届け出る必要があります」
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
発熱とカタル症状の後にコプリック斑と発疹が現れ、流行地への渡航歴がある小児では麻疹を考えます。麻疹は感染症法の5類全数把握疾患ですが、風疹・侵襲性髄膜炎菌感染症とともに例外的に診断後「直ちに」届け出る疾患であり、ほかの5類全数把握疾患の「7日以内」と区別して覚える必要があります。届出期限は「直ちに」と「7日以内」のみで「3日以内」や「症状改善後」という区分はなく、検査確定を待たず臨床診断の時点で届け出ます。麻疹は空気感染で感染力がきわめて強く、肺炎や脳炎、亜急性硬化性全脳炎などの重篤な合併症もあるため、疑った時点での隔離と迅速な届出が接触者へのワクチン接種などの公衆衛生対応につながります。診断から届出・感染対策までを一体として理解することが、臨床現場で流行を防ぐ力になります。
解答・解説
正解はbです
所見の整理
・1歳女児。3日前から発熱に加えて咳嗽・鼻汁・眼脂というカタル症状(気道や眼の粘膜の炎症による症状)が先行している。 ・本日、四肢と体幹に皮疹が出現し、体温は39.9℃と高熱である。 ・頰粘膜の白い斑点は Koplik斑(コプリック斑:臼歯に対面する頰粘膜にみられる、紅暈を伴う小さな白色斑)と考えられ、麻疹に特徴的な所見である。 ・咳嗽が強く、室内気(room air)で SpO2 92%と低酸素血症を呈しており、肺炎の合併が疑われる。麻疹では肺炎が主要な合併症であり、死亡原因としても重要である。 ・10日前から東南アジアへ渡航し、5日前に帰国している。麻疹の潜伏期間は通常10〜12日程度で、渡航中に感染したとして矛盾しない。国内の麻疹は輸入例を発端とすることが多く、渡航歴は重要な手がかりとなる。
診断
カタル期(発熱・カタル症状)→ Koplik斑 → 発疹期という経過、高熱、肺炎合併、流行地への渡航歴から麻疹が最も考えられる。母子健康手帳で予防接種歴(定期接種の第1期は1歳になったら早期に行う)を確認し、検体を採取して保健所を通じた遺伝子検査(PCR)などで確定させる。
設問の考え方
問われているのは感染症法(感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律)に基づく届出の時期である。麻疹は5類感染症の全数把握疾患であるが、5類のなかでも例外的に「直ちに」届け出る疾患に指定されている。麻疹は感染力がきわめて強く、1例の発生でも周囲への迅速な対応(接触者の調査、発症予防のためのワクチン接種や免疫グロブリン投与の検討など)が必要になるためである。また、臨床的に麻疹と診断した段階で届け出る(検査確定を待たない)のが原則である。
選択肢考察
- ×a. 「届け出る必要はありません」
麻疹は感染症法の5類感染症のうち全数把握の対象で、診断したすべての医師に届出義務がある。2008年に定点把握から全数把握に変更されている。届出不要とするのは誤りである。
- ○b. 「直ちに届け出る必要があります」
麻疹は5類感染症であるが、風疹・侵襲性髄膜炎菌感染症と並んで、診断後「直ちに」最寄りの保健所長を経由して都道府県知事に届け出る疾患である(麻疹・風疹はかつて7日以内の届出であったが、麻疹は2015年〈平成27年5月21日施行〉、風疹は2018年〈平成30年1月1日施行〉にそれぞれ「直ちに」届出へ変更された)。本症例はKoplik斑を伴う典型的経過で臨床的に麻疹と診断できるため、検査結果を待たずに直ちに届け出るのが適切である。
- ×c. 「3日以内に届け出る必要があります」
感染症法の医師の届出期限は「直ちに」または「7日以内」であり、「3日以内」という区分はない。なお、突発性発疹や伝染性紅斑のような小児科定点把握の5類感染症は、指定された定点医療機関が週単位で患者数を報告するもので、本症例とは扱いが異なる。
- ×d. 「7日以内に届け出る必要があります」
7日以内の届出は、麻疹・風疹・侵襲性髄膜炎菌感染症を除く5類全数把握疾患(例:梅毒、後天性免疫不全症候群、急性脳炎、百日咳など)が該当する。麻疹は2015年5月の省令改正以降「直ちに」届け出る疾患であり誤りである。
- ×e. 「症状の改善後に届け出る必要があります」
感染症法には、症状の改善を待ってから届け出るという規定をもつ疾患はない。届出は感染拡大防止のための迅速な公衆衛生対応を目的としており、診断時点を起点に行う。
感染症法による医師の届出の整理
・1〜4類感染症:全数把握で、診断後直ちに届出。 ・新型インフルエンザ等感染症、指定感染症:直ちに届出。 ・5類感染症(全数把握):原則7日以内。ただし麻疹・風疹・侵襲性髄膜炎菌感染症は直ちに届出。 ・5類感染症(定点把握):指定届出機関(定点医療機関)が週単位または月単位で報告する(例:インフルエンザ、RSウイルス感染症、突発性発疹、伝染性紅斑、手足口病、水痘など)。
麻疹の臨床経過
・原因:麻疹ウイルス(パラミクソウイルス科)。空気感染・飛沫感染・接触感染を起こし、感染力はきわめて強い。不顕性感染はまれである。 ・潜伏期:約10〜12日。 ・カタル期(約3〜4日):38℃前後の発熱、咳嗽、鼻汁、結膜充血・眼脂。この時期の終わりに Koplik斑が出現し、発疹出現後まもなく消える。感染力が最も強い時期である。 ・発疹期:カタル期の後半にいったん熱が下がりかけ、再び高熱となる(二峰性発熱)と同時に、耳後部・顔面から体幹・四肢へと発疹が広がる。発疹は癒合傾向がある。 ・回復期:解熱し、発疹は色素沈着を残して消退する。 ・合併症:肺炎(ウイルス性・二次性細菌性)、中耳炎、クループ、脳炎、まれに数年後の亜急性硬化性全脳炎(SSPE)。
鑑別すべき発疹性疾患
・風疹:発熱とほぼ同時に発疹が出現し、耳後部・後頭部リンパ節腫脹を伴う。発疹は癒合しにくい。 ・突発性発疹:ヒトヘルペスウイルス6/7が原因。3〜4日の高熱が解熱した後に発疹が出る。熱性けいれんを合併しやすい。 ・伝染性紅斑:ヒトパルボウイルスB19が原因。かぜ様症状の後に両頰の平手打ち様紅斑と四肢のレース状紅斑。成人では関節炎を起こしうる。
予防と排除
定期接種は MR(麻疹風疹混合)ワクチン2回(第1期:1歳、第2期:小学校入学前の1年間)。日本は2015年に WHO 西太平洋地域事務局から麻疹排除状態と認定されたが、海外からの輸入例を発端とする集団発生は続いており、接種率95%以上の維持が目標とされている。
POINT
・カタル症状 → Koplik斑 → 発疹、流行地への渡航歴があれば麻疹を考える。 ・麻疹は5類全数把握だが、診断後「直ちに」届け出る(風疹・侵襲性髄膜炎菌感染症も同様)。 ・その他の5類全数把握疾患は7日以内、1〜4類は直ちに。「3日以内」という区分はない。 ・臨床診断の時点で届け出て、検査による確定を並行して進める。 ・麻疹の重要な合併症は肺炎と脳炎、晩期の SSPE。
