「聞こえた」と言えなくても測れる―耳音響放射と聴性脳幹反応が担う他覚的聴力検査
第120回医師国家試験 C問題 第35問
国試問題にチャレンジ
他覚的な聴力検査はどれか。2つ選べ。
- a.音叉検査
- b.耳音響放射〈OAE〉
- c.語音聴力検査
- d.純音聴力検査
- e.聴性脳幹反応〈ABR〉
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
聴力検査は、被検者の応答を必要とする自覚的検査と、耳や神経の反応を機器で直接記録する他覚的検査に分けられます。音叉検査、純音聴力検査、語音聴力検査は自覚的検査であり、耳音響放射(蝸牛の外有毛細胞の機能)と聴性脳幹反応(聴神経から脳幹の聴覚路)が代表的な他覚的検査です。他覚的検査は新生児・乳幼児の聴力評価、意識障害例、機能性難聴や詐聴の診断で力を発揮し、自覚的検査との食い違いが診断の手がかりになります。OAE正常でABR異常ならオーディトリーニューロパチーを考えるなど、各検査が評価する部位を押さえておくことが大切です。検査の原理と評価部位を理解しておくと、難聴の部位診断や新生児聴覚スクリーニングの意義を臨床で正しく判断できるようになります。
解答・解説
正解はb, eです
聴力検査は、被検者自身の応答が必要かどうかで2つに分けられる。
自覚的聴力検査
被検者が音を聞き、「聞こえた」「聞こえない」と合図したり、聞き取った言葉を答えたりする必要がある検査である。被検者の協力と理解が欠かせない。そのため、乳幼児、意識障害のある人、意思疎通が難しい人には正確に行えない。詐聴(わざと聞こえないふりをする)や機能性難聴(心因性難聴)では、本当の聴力と結果が食い違うことがある。
他覚的聴力検査
音を聞かせたときに耳や神経に生じる物理的・電気的な反応を、機器で直接記録する検査である。被検者の応答を必要としない。このため上記のような場面で、聴覚の状態を客観的に評価できる。 本問の選択肢のうち、音叉検査、語音聴力検査、純音聴力検査はいずれも被検者の応答に頼る自覚的検査である。耳音響放射(OAE)と聴性脳幹反応(ABR)は、それぞれ蝸牛が出す音と、脳幹の電気的反応を記録する他覚的検査である。
選択肢考察
- ×a. 音叉検査
振動させた音叉の音が聞こえるかどうか、どちらの耳で大きく聞こえるかを被検者に答えてもらう自覚的検査である。代表的なものとして、Weber試験とRinne試験がある。Weber試験は額の中央など頭部の正中に音叉を当て、左右どちらに偏って聞こえるかをみる。Rinne試験は骨導(乳突部に当てる)と気導(耳の前にかざす)のどちらが長く聞こえるかを比べる。これらを組み合わせ、伝音難聴か感音難聴かを簡便に見分ける。
- ○b. 耳音響放射〈OAE〉
耳音響放射(otoacoustic emission)は、音の刺激に応じて蝸牛の外有毛細胞が伸び縮みすることで生じる微弱な音である。この音は中耳を逆向きに伝わり、外耳道に入れた小型マイクで記録される。被検者が応答する必要がないため、他覚的検査に当たる。短時間で痛みもなく行えるので、新生児聴覚スクリーニングに広く使われる。外有毛細胞が障害される内耳性難聴では反応が出なくなる。中耳炎や中耳の滲出液など中耳に異常があっても記録しにくくなる。一方、OAEは蝸牛の機能を反映するため、外有毛細胞は正常でそれより中枢の聴神経に障害があるオーディトリーニューロパチーでは、ABRが異常なのにOAEは正常という乖離がみられる。
- ×c. 語音聴力検査
「ア」「キ」などの単音節を聞かせ、被検者が聞き取ったものを書いたり答えたりする自覚的検査である。音の大きさを変えながら正答率(語音明瞭度)を測り、最も高い値を最高語音明瞭度とする。純音の聞こえ(閾値)に比べて言葉の聞き取りが特に悪い場合、内耳より中枢側の障害(聴神経腫瘍などの後迷路性難聴)を疑う手がかりとなる。補聴器の効果の予測や調整にも使われる。
- ×d. 純音聴力検査
オージオメータで単一の周波数の音(純音)を聞かせ、被検者が聞こえたらボタンなどで合図する自覚的検査である。気導聴力は125Hzから8,000Hzまでの7つの周波数で、骨導聴力は250Hzから4,000Hzの範囲で、それぞれ最小可聴閾値(dB)を測ってオージオグラムに記録する。気導と骨導の閾値の差(気骨導差)から、伝音難聴、感音難聴、混合性難聴を区別する。聴力評価の最も基本となる検査であるが、被検者の応答に依存する。
- ○e. 聴性脳幹反応〈ABR〉
聴性脳幹反応(auditory brainstem response)は、クリック音などの音刺激を繰り返し与え、聴神経から脳幹の聴覚路に生じる電位を頭皮に付けた電極で記録し、加算平均して得る検査である。音刺激から約10ミリ秒以内にⅠ〜Ⅴ波が現れる。Ⅰ波は蝸牛神経、Ⅴ波は下丘付近の反応とされる。被検者の応答を必要とせず、睡眠中や鎮静下でも記録できるため、他覚的検査に当たる。乳幼児の聴力評価、新生児聴覚スクリーニング(自動ABR)、機能性難聴や詐聴の診断、聴神経腫瘍などの後迷路性病変の評価(波の潜時の延長など)、脳死判定の補助に用いられる。なおクリック音によるABRは主に2,000〜4,000Hz付近の高音域の聴力を反映し、低音域の評価には向かない。
聴力検査の分類
・自覚的検査: 純音聴力検査、語音聴力検査、音叉検査(Weber試験、Rinne試験)、自記オージオメトリー、乳幼児向けの聴性行動反応聴力検査(BOA)・条件詮索反応聴力検査(COR)・遊戯聴力検査など。 ・他覚的検査: 耳音響放射(OAE)、聴性脳幹反応(ABR)、聴性定常反応(ASSR)、蝸電図(ECochG)、ティンパノメトリー、アブミ骨筋反射(耳小骨筋反射)。
主な他覚的検査が評価する部位
・ティンパノメトリー: 外耳道の圧を変えて鼓膜の動きやすさを測り、中耳の状態(滲出性中耳炎、耳管機能など)を評価する。 ・アブミ骨筋反射: 大きな音で反射的にアブミ骨筋が収縮する反応をみる。顔面神経麻痺の障害部位の推定にも使われる。 ・OAE: 蝸牛の外有毛細胞の機能。 ・ABR: 聴神経から脳幹までの聴覚路。 ・ASSR: 周波数ごとの聴力閾値を他覚的に推定でき、ABRで評価しにくい低音域も含めて評価できる。
新生児聴覚スクリーニング
先天性難聴は出生約1,000人に1〜2人とされ、早期に見つけて補聴や療育を始めることが言語発達にとって重要である。スクリーニングには自動ABR(AABR)またはOAEが用いられる。OAEはオーディトリーニューロパチーを見逃すおそれがあるため、自動ABRが推奨されることが多い。
機能性難聴(心因性難聴)・詐聴
純音聴力検査で難聴を示すのに、ABRやOAEなどの他覚的検査では正常範囲の反応が得られる、という食い違いが診断の手がかりとなる。学童期の機能性難聴は学校健診をきっかけに見つかることが多い。
POINT
・他覚的聴力検査=被検者の応答を必要とせず、耳や神経の反応を機器で記録する検査。 ・代表例: OAE(蝸牛の外有毛細胞)、ABR(聴神経〜脳幹)、ASSR、ティンパノメトリー、アブミ骨筋反射。 ・自覚的検査: 純音聴力検査、語音聴力検査、音叉検査。 ・他覚的検査の主な用途: 新生児・乳幼児の聴力評価、機能性難聴・詐聴の診断、意識障害例の評価。 ・OAE正常かつABR異常 → オーディトリーニューロパチーを考える。
