耳に水を入れると目が揺れる―カロリックテストが映し出す「外側半規管」
第118回医師国家試験 C問題 第21問
国試問題にチャレンジ
温度眼振(カロリックテスト)で機能評価できるのはどれか。
- a.外側半規管
- b.外有毛細胞
- c.球形嚢
- d.後半規管
- e.卵形嚢
対話形式の解説
ドクター
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ドクターまとめ
温度眼振検査(カロリックテスト)は、外耳道からの温度刺激によって内リンパに対流を起こし、クプラを偏位させて前庭動眼反射による眼振を誘発する検査です。中耳腔に最も近い外側半規管が刺激を受けやすく、頭部30度前屈の仰臥位で垂直に立てて評価し、温水では刺激側向き、冷水では反対側向きの水平眼振が出て、左右差から半規管麻痺(CP)を判定します。前・後半規管はvHIT、球形嚢はcVEMP(下前庭神経)、卵形嚢はoVEMP(上前庭神経)、蝸牛の外有毛細胞はOAEで評価し、これらを組み合わせると障害部位を推定できます。鼓膜穿孔例では送気法を用い、意識障害例では氷水刺激で脳幹機能を確認するなど応用も広く、内耳の構造と検査の対応を理解することはめまい診療の基本となります。
解答・解説
正解はaです
テーマ
内耳の各感覚器(3つの半規管、2つの耳石器、蝸牛)と、それぞれの機能を調べる検査法との対応を問う問題である。
温度眼振検査(カロリックテスト)の原理
外耳道に体温と異なる温度の水(または空気)を注入すると、その温度変化が鼓膜・中耳を通して内耳に伝わる。半規管のなかで外側半規管(水平半規管)は中耳腔に最も近く、温度の影響を受けやすい。被検者を仰臥位にして頭部を約30度前屈させると、外側半規管がほぼ垂直に立つ。この状態で外側半規管の一部が温められたり冷やされたりすると、内リンパに比重差による対流が生じてクプラ(膨大部の感覚装置)が偏位し、前庭動眼反射を介して水平性の眼振が誘発される。 ・温水(通常44℃):刺激側の外側半規管が興奮し、急速相が刺激側に向かう眼振が出る。 ・冷水(通常30℃):抑制され、急速相が反対側に向かう眼振が出る。 左右の反応を比べることで一側の外側半規管(およびそれを支配する上前庭神経)の機能低下を判定でき、半規管麻痺〈CP:canal paresis〉と呼ぶ。
考え方
カロリックテストで刺激されるのは外側半規管であり、前・後半規管や耳石器(卵形嚢・球形嚢)、蝸牛の有毛細胞は評価できない。それぞれには別の検査が対応している。
選択肢考察
- ○a. 外側半規管
外側半規管は中耳腔の内側壁に接しており、外耳道からの温度刺激が最も伝わりやすい。頭部を30度前屈させた仰臥位では外側半規管が垂直方向に向き、温度差による内リンパの対流がクプラを効率よく動かすため、水平性の温度眼振が生じる。左右の眼振反応の差から一側の外側半規管機能低下(半規管麻痺)を判定でき、前庭神経炎やメニエール病、聴神経腫瘍などの評価に用いられる。
- ×b. 外有毛細胞
外有毛細胞は蝸牛のコルチ器にあり、音刺激に応じて伸縮し、基底板の振動を増幅して聴覚感度と周波数選択性を高めている。前庭系ではないので温度眼振検査では評価できない。外有毛細胞の機能は耳音響放射〈OAE〉、とくに歪成分耳音響放射〈DPOAE〉で評価し、新生児聴覚スクリーニングにも用いられる。
- ×c. 球形嚢
球形嚢は耳石器の一つで、感覚上皮(平衡斑)がほぼ垂直面に位置するため、主に上下方向(重力方向)の直線加速度を感知する。下前庭神経に支配される。温度刺激では評価できず、音刺激を与えて胸鎖乳突筋の筋電位変化を記録する頸部前庭誘発筋電位〈cVEMP:cervical vestibular evoked myogenic potential〉で評価する。
- ×d. 後半規管
後半規管は中耳から離れた位置にあり、カロリックテストの温度刺激ではほとんど反応しないため評価できない。各半規管の機能を個別に評価するには、頭部をすばやく小さく回旋させて前庭動眼反射を観察するヘッドインパルス検査〈HIT〉が用いられ、近年は眼球運動をビデオで定量するvideo HIT〈vHIT〉が普及している。なお、後半規管は良性発作性頭位めまい症〈BPPV〉で最も障害されやすく、Dix-Hallpike法で誘発される回旋性眼振で診断する。
- ×e. 卵形嚢
卵形嚢も耳石器であり、平衡斑がほぼ水平面に位置するため、水平面内(前後・左右方向)の直線加速度や頭部の傾きを感知する。上前庭神経に支配される。温度眼振検査では評価できず、骨導振動や音刺激を与えて対側の下斜筋付近から筋電位を記録する眼前庭誘発筋電位〈oVEMP:ocular VEMP〉で評価する。
内耳の構造と検査の対応
・外側半規管:カロリックテスト、vHIT(上前庭神経支配) ・前半規管:vHIT(上前庭神経支配) ・後半規管:vHIT(下前庭神経支配)、BPPVではDix-Hallpike法 ・卵形嚢:oVEMP(上前庭神経支配) ・球形嚢:cVEMP(下前庭神経支配) ・蝸牛:純音聴力検査、OAE(外有毛細胞)、聴性脳幹反応〈ABR〉(聴神経〜脳幹) 左右にそれぞれ3つの半規管と2つの耳石器があり、これらの検査を組み合わせることで、障害部位(上前庭神経・下前庭神経のどちらか、半規管か耳石器か)を推定できる。
半規管と耳石器の役割
半規管は頭部の回転(角加速度)を、耳石器は直線加速度と重力(頭部の傾き)を感知する。半規管の膨大部にはクプラ、耳石器の平衡斑には耳石(炭酸カルシウムの結晶)を載せた耳石膜がある。
カロリックテストの補足
・眼振は暗所開眼やフレンツェル眼鏡下、または電気眼振図〈ENG〉・ビデオ眼振計で記録する。 ・温水で刺激側向き、冷水で反対側向きの眼振が出る(英語圏では "COWS:Cold Opposite, Warm Same" と覚える)。 ・左右差の指標である半規管麻痺〈CP〉%は、一般に20%以上で異常と判定される。両側とも無反応であれば両側前庭機能低下を示す。 ・意識障害例では氷水を用いた温度刺激で前庭動眼反射を確認し、脳幹機能の評価(脳死判定の項目の一つ)にも用いる。 ・鼓膜穿孔がある場合は水を用いず送気法で行う。 ・カロリックテストは低周波数域の回転刺激に相当する反応をみる検査であり、高周波数の頭部運動をみるvHITとは評価する周波数帯が異なるため、両者の結果が乖離することがある。
POINT
・カロリックテストで評価できるのは外側半規管(上前庭神経)。中耳に近く温度刺激が伝わりやすい。 ・頭部30度前屈の仰臥位で外側半規管を垂直にして刺激する。温水→刺激側向き、冷水→反対側向きの水平眼振。 ・各半規管はvHIT、球形嚢はcVEMP(下前庭神経)、卵形嚢はoVEMP(上前庭神経)、外有毛細胞はDPOAEで評価する。
