出血の「場所」が病態を語る―血小板・凝固因子・血管壁で読み解く出血症状
第116回医師国家試験 F問題 第26問
国試問題にチャレンジ
出血症状と疾患の組合せで誤っているのはどれか。
- a.鼻出血 ―― 遺伝性出血性末梢血管拡張症〈Osler病〉
- b.歯肉出血 ―― IgA血管炎〈Schönlein-Henoch紫斑病〉
- c.点状出血 ―― 免疫性血小板減少性紫斑病
- d.関節内出血 ―― 血友病A
- e.口腔内出血 ―― 再生不良性貧血
対話形式の解説
ドクター
医学生
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医学生まとめ
止血は血小板による一次止血、凝固因子による二次止血、血管壁の健全性の3要素に支えられ、どこが障害されるかで出血のパターンが変わります。ITPや再生不良性貧血のような血小板の異常では点状出血・紫斑や歯肉出血・口腔内出血などの表在性出血が、血友病Aのような凝固因子の異常では関節内出血・筋肉内血腫などの深部出血が特徴的です。血管壁の異常のうち、Osler病では脆弱な拡張血管からの反復する鼻出血が、IgA血管炎では血管炎による触知可能な紫斑がみられ、後者は血小板数や凝固検査が正常なため歯肉出血は典型的ではありません。出血部位とタイプから障害部位を推定し、血小板数・PT・APTTで確認する考え方は、出血傾向の患者を診るときの基本となります。
解答・解説
正解はbです
本問は、出血傾向をきたす代表的疾患と、それぞれに典型的な出血症状の組合せを問う問題である。「誤っているもの」を選ぶ形式であることに注意する。
出血傾向の3要素で整理する
止血は大きく、(1) 血小板(数と機能)による一次止血、(2) 凝固因子によるフィブリン形成(二次止血)、(3) 血管壁の健全性、の3つに支えられている。どこが障害されるかによって、出やすい出血のタイプが異なる。 ・血小板の異常(数の減少・機能低下):皮膚の点状出血(直径数mm以下の小さな出血斑)、斑状出血、歯肉出血・鼻出血・口腔内出血などの粘膜出血、月経過多が中心となる「表在性出血」が多い。 ・凝固因子の異常(血友病など):関節内出血、筋肉内血腫など「深部出血」が特徴的である。一度止まったように見えて再出血する遅延性出血もみられる。 ・血管壁の異常:血管炎(IgA血管炎など)では炎症による血管透過性亢進のため触知可能な紫斑が、遺伝性出血性末梢血管拡張症では脆弱な拡張血管からの鼻出血・消化管出血が反復する。
考え方
各選択肢の疾患がどの要素の障害かを判断し、それに見合った出血症状かを確認すればよい。IgA血管炎は血管壁の炎症が主体で、血小板数や凝固能は基本的に保たれるため、歯肉出血のような血小板減少型の粘膜出血は典型的ではない。したがって組合せとして誤っているのはbである。
選択肢考察
- ×a. 鼻出血 ―― 遺伝性出血性末梢血管拡張症〈Osler病〉
組合せとして正しい。遺伝性出血性末梢血管拡張症〈Osler病、HHT: hereditary hemorrhagic telangiectasia〉は常染色体顕性(優性)遺伝の血管形成異常で、鼻粘膜・口唇・舌・指先などに毛細血管拡張が多発する。拡張した血管は壁が薄く破れやすいため、繰り返す鼻出血が最も頻度の高い症状であり、しばしば初発症状となる。消化管出血を伴うこともあり、反復する出血から鉄欠乏性貧血をきたしやすい。
- ○b. 歯肉出血 ―― IgA血管炎〈Schönlein-Henoch紫斑病〉
組合せとして誤っているため、これが正解である。IgA血管炎はIgAを含む免疫複合体が小血管壁に沈着して生じる小型血管炎で、主に小児に多い。症状は、下腿・臀部を中心とする左右対称性のやや隆起した触知可能な紫斑、関節痛、腹痛(消化管出血を伴うことがある)、腎炎(IgA血管炎腎炎)が代表的である。紫斑は血管壁の炎症と透過性亢進によるもので、血小板数や一般的な凝固検査(PT、APTT)は正常である。なお、本症では血漿第XIII因子活性の低下がしばしばみられ、腹部症状の強い例では第XIII因子製剤が用いられることもある。いずれにしても、歯肉出血は血小板減少や血小板機能異常の際にみられる粘膜出血の典型であり、IgA血管炎の特徴的な症状ではない。
- ×c. 点状出血 ―― 免疫性血小板減少性紫斑病
組合せとして正しい。免疫性血小板減少性紫斑病〈ITP: immune thrombocytopenia〉は血小板に対する自己抗体により血小板が脾臓などで破壊され、また産生も抑制されて血小板数が減少する疾患である。血小板減少による出血は皮膚・粘膜の表在性出血が中心で、特に重力のかかる下肢に点状出血や紫斑が多発しやすい。四肢の点状出血をきっかけに受診・診断されることも多い。
- ×d. 関節内出血 ―― 血友病A
組合せとして正しい。血友病Aは第VIII因子の先天的欠乏(X連鎖潜性遺伝で主に男性に発症)による凝固障害である。凝固因子異常では深部出血が特徴で、膝・肘・足関節などの関節内出血や筋肉内血腫を繰り返す。関節内出血の反復は滑膜炎や関節破壊(血友病性関節症)につながるため、予防的な因子補充療法などが行われる。検査ではAPTTが延長し、PTと血小板数は正常である。
- ×e. 口腔内出血 ―― 再生不良性貧血
組合せとして正しい。再生不良性貧血は骨髄の造血幹細胞が減少し、赤血球・白血球・血小板がすべて減る(汎血球減少)疾患である。血小板減少に伴い、皮膚の点状出血・紫斑に加えて、歯肉出血や口腔粘膜の血疱などの口腔内出血、鼻出血といった粘膜出血がみられる。貧血症状や好中球減少による感染症とともに、受診契機となることが多い。
出血傾向の病態別の整理
・血小板の異常:ITP、再生不良性貧血、急性白血病、血小板無力症など。点状出血・紫斑・粘膜出血(鼻出血、歯肉出血、口腔内出血)、月経過多。出血時間延長、血小板数低下(数の異常の場合)。 ・凝固因子の異常:血友病A(第VIII因子)、血友病B(第IX因子)、ビタミンK欠乏、肝不全など。関節内出血、筋肉内血腫、外傷・抜歯後の遷延出血。血友病ではAPTT延長。 ・血管壁の異常:IgA血管炎、遺伝性出血性末梢血管拡張症、壊血病(ビタミンC欠乏)、老人性紫斑など。血小板数・凝固検査は原則正常。 ・両者にまたがるもの:von Willebrand病(血小板粘着障害に加え第VIII因子も低下しうる)、播種性血管内凝固〈DIC〉など。
IgA血管炎の要点
小児に好発し、上気道感染後に発症することが多い。触知可能な紫斑(下肢・臀部に左右対称)、関節症状、腹痛、腎炎が4徴。皮膚生検で白血球破砕性血管炎とIgA沈着がみられる。血小板数・凝固時間は正常で、第XIII因子活性が低下することがある。
遺伝性出血性末梢血管拡張症の要点
繰り返す鼻出血、皮膚・粘膜の毛細血管拡張、内臓の動静脈奇形(肺・肝・脳・脊髄)、家族歴、の4項目で臨床診断する。肺動静脈奇形は奇異性塞栓による脳梗塞・脳膿瘍の原因となる。
POINT
・血小板・血管壁の異常→点状出血・紫斑・粘膜出血などの表在性出血。 ・凝固因子の異常(血友病)→関節内出血・筋肉内血腫などの深部出血。 ・IgA血管炎の紫斑は血管炎による触知可能な紫斑で、血小板数・凝固検査は正常。歯肉出血は典型的でない。 ・Osler病は反復する鼻出血が代表症状。 ・ITP・再生不良性貧血は血小板減少による点状出血・口腔内出血をきたす。
