StudyMed医師国家試験

糸球体のふるいを通れない分子は?―サイズとチャージで読み解く濾過障壁

第116回医師国家試験 F問題 第25問

国試問題にチャレンジ

第116回 F問題 第25問

正常糸球体で最も濾過されにくいのはどれか。

  1. a.IgG
  2. b.イヌリン
  3. c.グルコース
  4. d.ナトリウム
  5. e.クレアチニン

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、正常な糸球体がどんな物質を通しにくいかを問う問題だ。カギは糸球体濾過障壁の性質、特に「分子の大きさ」。選択肢それぞれのサイズ感をイメージしながら考えていこう。
医学生医学生
グルコースやナトリウムは普通は尿にほとんど出ないので、濾過されにくいのかなと一瞬思いました。
ドクタードクター
そこがこの問題の一番の落とし穴だね。「濾過されるかどうか」と「尿中にどれだけ出るか」は別の話なんだ。まずは障壁の構造から確認しよう。糸球体毛細血管の壁は何層からできていたかな。
医学生医学生
組織学の実習で電顕写真を見ました。窓のある内皮細胞、糸球体基底膜、足細胞の足突起の間のスリット膜、の3層です。
ドクタードクター
その通り。この障壁は2つの性質で物質を選別している。1つは分子が大きいほど通りにくいサイズバリア、もう1つは基底膜や内皮表面がヘパラン硫酸などで陰性に荷電しているために、陰性荷電の分子が通りにくくなるチャージバリアだ。
医学生医学生
サイズの目安はどのくらいでしょうか。
ドクタードクター
分子量がおよそ7,000以下ならほぼ自由に濾過され、大きくなるにつれて通りにくくなり、アルブミンの約66kDaあたりでほとんど濾過されなくなる。アルブミンは大きさに加えて陰性荷電の影響も受けているんだ。では選択肢を見ていこう。IgGの分子量は?
医学生医学生
免疫学で習った抗体の構造からすると、約150kDaですね。アルブミンの倍以上です。
ドクタードクター
そう。だから正常な糸球体ではサイズバリアによってほとんど濾過されない。選択肢の中で最も濾過されにくいのはIgGだ。ほかの選択肢がなぜ自由に濾過されるかも押さえておこう。グルコースはどうかな。
医学生医学生
分子量180と小さいので濾過されて、近位尿細管のSGLT2でほぼ全部再吸収される、ということですね。さっきの勘違いの正体がわかりました。
ドクタードクター
その理解で正解。血糖値が腎の再吸収閾値、おおよそ160〜180mg/dLを超えると再吸収しきれずに尿糖が出る。SGLT2阻害薬はこの再吸収を抑えて血糖を下げる薬だね。ナトリウムも同じ考え方だ。
医学生医学生
ナトリウムもイオンなので自由に濾過されて、99%以上が尿細管で再吸収されるんですよね。
ドクタードクター
そう。約3分の2が近位尿細管、約25%がHenleループの太い上行脚で再吸収され、最終的な微調整はアルドステロンが作用する集合管のENaCで行われる。次はイヌリンだ。
医学生医学生
腎生理の講義で、GFR測定のゴールドスタンダードと習いました。でも多糖類なので、意外と大きいのではないかと少し心配になります。
ドクタードクター
いいところに目をつけたね。イヌリンは果糖の重合体だけど分子量は約5,000で、サイズバリアの目安より小さい。自由に濾過され、尿細管で再吸収も分泌もされず、代謝もされない。だからイヌリンクリアランスがGFRそのものになるんだ。
医学生医学生
クレアチニンは分子量113で自由に濾過されますが、一部が尿細管から分泌されるんでしたよね。
ドクタードクター
その通り。そのためクレアチニンクリアランスは真のGFRより10〜30%程度大きくなり、腎機能が落ちるほど分泌の割合が増えてGFRを過大評価しやすい。クリアランスで言えば、再吸収される物質はGFRより小さく、分泌される物質はGFRより大きくなる、と整理しておこう。
医学生医学生
では、IgGが尿に出てくるのはどんなときですか。
ドクタードクター
ネフローゼ症候群などで濾過障壁が強く障害されたときだ。そこで臨床で使うのが選択指数、つまりIgGクリアランスをトランスフェリンクリアランスで割った値だ。小さい、一般に0.2以下なら大分子が漏れにくい高選択性蛋白尿で、微小変化型ネフローゼ症候群に特徴的。ステロイド反応性が良い目安になる。
医学生医学生
腎臓内科の実習で、若い患者さんの微小変化型を担当して選択指数が低かったのを覚えています。値が大きければ膜性腎症や巣状分節性糸球体硬化症などを考える、ということですね。
ドクタードクター
そういうことだ。もう一つ、β2ミクログロブリンのような低分子量蛋白はかなり濾過されるけれど、近位尿細管でほぼ再吸収・分解される。だから尿中に増えていれば尿細管障害を疑うマーカーになる。糸球体性か尿細管性かを見分ける視点として役立つよ。

まとめ

糸球体濾過障壁は、窓のある内皮細胞、糸球体基底膜、足細胞のスリット膜の3層からなり、分子の大きさによるサイズバリアと陰性荷電によるチャージバリアで物質を選別します。ナトリウム、グルコース、クレアチニン、イヌリン(分子量約5,000)などの小分子は自由に濾過される一方、分子量約150kDaのIgGは正常ではほとんど濾過されません。グルコースやナトリウムが尿にほとんど出ないのは濾過後に尿細管で再吸収されるためであり、「濾過」と「尿中排泄」を区別することが大切です。イヌリンはGFR測定の標準物質で、クレアチニンは尿細管分泌があるためクリアランスがGFRより大きくなります。ネフローゼ症候群ではIgGとトランスフェリンのクリアランス比である選択指数が病型推定やステロイド反応性の目安となり、濾過障壁の理解は蛋白尿の臨床評価に直結します。

解答・解説

正解はaです

本問は、糸球体の濾過障壁(バリア)がどのような物質を通しにくいかを問う問題である。

糸球体濾過障壁の構造

血液は糸球体毛細血管の壁を通ってBowman腔へ濾過される。この壁は内側から、(1) 小孔(窓)をもつ毛細血管内皮細胞、(2) 糸球体基底膜(GBM)、(3) 足細胞(ポドサイト)の足突起の間にあるスリット膜、の3層からなる。この障壁は2種類の性質で物質の通過を制限している。 ・サイズバリア: 分子が大きいほど通りにくい。分子量がおよそ7,000以下(数kDa程度)の物質はほぼ自由に濾過され、分子量が大きくなるにつれて濾過されにくくなり、アルブミン(約66kDa)程度でほとんど濾過されなくなる。 ・チャージバリア: 基底膜や内皮表面がヘパラン硫酸などにより陰性に荷電しているため、陰性荷電をもつ分子は同じ大きさの中性分子より通りにくい。アルブミンが濾過されにくいのは、大きさに加えて陰性荷電の影響もある。

考え方

選択肢のうち、ナトリウム(イオン)、グルコース(分子量180)、クレアチニン(分子量113)、イヌリン(分子量約5,000)はいずれも小さく、糸球体で自由に濾過される。これに対しIgGは分子量約150kDaの大きな蛋白であり、サイズバリアによって正常ではほとんど濾過されない。したがって最も濾過されにくいのはIgGである。 なお、「濾過されるかどうか」と「尿中にどれだけ出るか」は別の問題であり、グルコースやナトリウムは濾過されたのちに尿細管でほとんど再吸収されるため尿中排泄は少ないが、濾過自体は自由に行われている点に注意する。

選択肢考察

  1. ○a.  IgG

    IgGは分子量約150kDa(15万)の免疫グロブリンで、アルブミン(約66kDa)よりはるかに大きい。正常な糸球体ではサイズバリアにより濾過がほぼ阻まれるため、選択肢の中で最も濾過されにくい。ネフローゼ症候群などで濾過障壁が強く障害されると、アルブミンだけでなくIgGのような大分子も尿中へ漏れるようになり、これを低選択性蛋白尿という。

  2. ×b.  イヌリン

    イヌリンは植物(キクイモやゴボウなど)がつくる果糖の重合体(多糖類)で、分子量は約5,000である。糸球体で自由に濾過され、尿細管で再吸収も分泌もされず、体内で代謝もされない。このためイヌリンクリアランスは糸球体濾過量(GFR)そのものに等しく、GFR測定のゴールドスタンダード(標準物質)として用いられる。

  3. ×c.  グルコース

    グルコース(分子量180)は糸球体で自由に濾過される。濾過されたグルコースは近位尿細管で主にナトリウム・グルコース共輸送体(SGLT2、一部はSGLT1)によってほぼ全量が再吸収されるため、正常では尿中にほとんど出ない。血糖値が腎の再吸収閾値(おおよそ160〜180mg/dL)を超えると再吸収しきれずに尿糖が出現する。SGLT2阻害薬はこの再吸収を抑えて尿糖排泄を増やし、血糖を下げる薬である。

  4. ×d.  ナトリウム

    ナトリウムイオンは小さく、糸球体で自由に濾過される。濾過されたナトリウムの99%以上が尿細管で再吸収され、その内訳はおおよそ近位尿細管で約3分の2、Henleループ(太い上行脚)で約25%、遠位尿細管で数%、集合管で数%である。最終的な尿中排泄量の微調整は、アルドステロンの作用を受ける接合尿細管・皮質集合管の上皮型ナトリウムチャネル(ENaC)で行われる。

  5. ×e.  クレアチニン

    クレアチニン(分子量113)は筋肉のクレアチンの代謝産物で、糸球体で自由に濾過され、再吸収はほとんど受けない。ただし近位尿細管から一部が分泌されるため、クレアチニンクリアランスは真のGFR(イヌリンクリアランス)より10〜30%程度大きい値となる。この分泌の割合は腎機能が低下するほど大きくなり、GFRの過大評価につながる。

糸球体での濾過されやすさの目安

・分子量約7,000以下(水、電解質、尿素、グルコース、クレアチニン、イヌリンなど): ほぼ自由に濾過され、濾液中の濃度は血漿とほぼ等しい。 ・低分子量蛋白(β2ミクログロブリン:約12kDa、α1ミクログロブリン:約30kDaなど): かなり濾過されるが、近位尿細管でほとんど再吸収・分解される。尿細管障害があると尿中に増加するため、尿細管障害のマーカーとなる。 ・アルブミン(約66kDa): 大きさと陰性荷電のため、正常ではごくわずかしか濾過されない。 ・IgG(約150kDa)、IgM(約900kDa): 正常ではほとんど濾過されない。

蛋白尿の選択性(selectivity index:SI)

ネフローゼ症候群で、大分子のIgGと中分子のトランスフェリン(約80kDa)のクリアランスの比、すなわちSI=IgGクリアランス/トランスフェリンクリアランスを求める。値が小さい(一般に0.2以下)ほど大分子が漏れにくく、高選択性蛋白尿とされる。高選択性は微小変化型ネフローゼ症候群に特徴的で、ステロイド反応性が良いことの目安になる。値が大きい低選択性蛋白尿は、膜性腎症や巣状分節性糸球体硬化症など、濾過障壁の障害が強い病型でみられやすい。

クリアランスの考え方

ある物質のクリアランス=(尿中濃度×尿量)÷血漿濃度。自由に濾過され、再吸収も分泌もされない物質(イヌリン)のクリアランスはGFRに等しい。再吸収される物質(グルコース、ナトリウム)はGFRより小さく、分泌される物質(クレアチニン、パラアミノ馬尿酸)はGFRより大きくなる。

POINT

・糸球体濾過障壁はサイズバリアとチャージバリア(陰性荷電)で物質を選別する。 ・小分子(Na、グルコース、クレアチニン、イヌリン)は自由に濾過され、大分子のIgG(約150kDa)はほとんど濾過されない。 ・イヌリン: 濾過のみで再吸収・分泌なし→GFR測定の標準物質。 ・クレアチニン: 一部尿細管分泌あり→CcrはGFRより大きくなる。 ・グルコース・ナトリウム: 濾過後に尿細管でほぼ全量再吸収される。 ・選択指数(SI)=IgGクリアランス/トランスフェリンクリアランス。小さいほど高選択性(微小変化型に特徴的)。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。