糸球体のふるいを通れない分子は?―サイズとチャージで読み解く濾過障壁
第116回医師国家試験 F問題 第25問
国試問題にチャレンジ
正常糸球体で最も濾過されにくいのはどれか。
- a.IgG
- b.イヌリン
- c.グルコース
- d.ナトリウム
- e.クレアチニン
対話形式の解説
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ドクターまとめ
糸球体濾過障壁は、窓のある内皮細胞、糸球体基底膜、足細胞のスリット膜の3層からなり、分子の大きさによるサイズバリアと陰性荷電によるチャージバリアで物質を選別します。ナトリウム、グルコース、クレアチニン、イヌリン(分子量約5,000)などの小分子は自由に濾過される一方、分子量約150kDaのIgGは正常ではほとんど濾過されません。グルコースやナトリウムが尿にほとんど出ないのは濾過後に尿細管で再吸収されるためであり、「濾過」と「尿中排泄」を区別することが大切です。イヌリンはGFR測定の標準物質で、クレアチニンは尿細管分泌があるためクリアランスがGFRより大きくなります。ネフローゼ症候群ではIgGとトランスフェリンのクリアランス比である選択指数が病型推定やステロイド反応性の目安となり、濾過障壁の理解は蛋白尿の臨床評価に直結します。
解答・解説
正解はaです
本問は、糸球体の濾過障壁(バリア)がどのような物質を通しにくいかを問う問題である。
糸球体濾過障壁の構造
血液は糸球体毛細血管の壁を通ってBowman腔へ濾過される。この壁は内側から、(1) 小孔(窓)をもつ毛細血管内皮細胞、(2) 糸球体基底膜(GBM)、(3) 足細胞(ポドサイト)の足突起の間にあるスリット膜、の3層からなる。この障壁は2種類の性質で物質の通過を制限している。 ・サイズバリア: 分子が大きいほど通りにくい。分子量がおよそ7,000以下(数kDa程度)の物質はほぼ自由に濾過され、分子量が大きくなるにつれて濾過されにくくなり、アルブミン(約66kDa)程度でほとんど濾過されなくなる。 ・チャージバリア: 基底膜や内皮表面がヘパラン硫酸などにより陰性に荷電しているため、陰性荷電をもつ分子は同じ大きさの中性分子より通りにくい。アルブミンが濾過されにくいのは、大きさに加えて陰性荷電の影響もある。
考え方
選択肢のうち、ナトリウム(イオン)、グルコース(分子量180)、クレアチニン(分子量113)、イヌリン(分子量約5,000)はいずれも小さく、糸球体で自由に濾過される。これに対しIgGは分子量約150kDaの大きな蛋白であり、サイズバリアによって正常ではほとんど濾過されない。したがって最も濾過されにくいのはIgGである。 なお、「濾過されるかどうか」と「尿中にどれだけ出るか」は別の問題であり、グルコースやナトリウムは濾過されたのちに尿細管でほとんど再吸収されるため尿中排泄は少ないが、濾過自体は自由に行われている点に注意する。
選択肢考察
- ○a. IgG
IgGは分子量約150kDa(15万)の免疫グロブリンで、アルブミン(約66kDa)よりはるかに大きい。正常な糸球体ではサイズバリアにより濾過がほぼ阻まれるため、選択肢の中で最も濾過されにくい。ネフローゼ症候群などで濾過障壁が強く障害されると、アルブミンだけでなくIgGのような大分子も尿中へ漏れるようになり、これを低選択性蛋白尿という。
- ×b. イヌリン
イヌリンは植物(キクイモやゴボウなど)がつくる果糖の重合体(多糖類)で、分子量は約5,000である。糸球体で自由に濾過され、尿細管で再吸収も分泌もされず、体内で代謝もされない。このためイヌリンクリアランスは糸球体濾過量(GFR)そのものに等しく、GFR測定のゴールドスタンダード(標準物質)として用いられる。
- ×c. グルコース
グルコース(分子量180)は糸球体で自由に濾過される。濾過されたグルコースは近位尿細管で主にナトリウム・グルコース共輸送体(SGLT2、一部はSGLT1)によってほぼ全量が再吸収されるため、正常では尿中にほとんど出ない。血糖値が腎の再吸収閾値(おおよそ160〜180mg/dL)を超えると再吸収しきれずに尿糖が出現する。SGLT2阻害薬はこの再吸収を抑えて尿糖排泄を増やし、血糖を下げる薬である。
- ×d. ナトリウム
ナトリウムイオンは小さく、糸球体で自由に濾過される。濾過されたナトリウムの99%以上が尿細管で再吸収され、その内訳はおおよそ近位尿細管で約3分の2、Henleループ(太い上行脚)で約25%、遠位尿細管で数%、集合管で数%である。最終的な尿中排泄量の微調整は、アルドステロンの作用を受ける接合尿細管・皮質集合管の上皮型ナトリウムチャネル(ENaC)で行われる。
- ×e. クレアチニン
クレアチニン(分子量113)は筋肉のクレアチンの代謝産物で、糸球体で自由に濾過され、再吸収はほとんど受けない。ただし近位尿細管から一部が分泌されるため、クレアチニンクリアランスは真のGFR(イヌリンクリアランス)より10〜30%程度大きい値となる。この分泌の割合は腎機能が低下するほど大きくなり、GFRの過大評価につながる。
糸球体での濾過されやすさの目安
・分子量約7,000以下(水、電解質、尿素、グルコース、クレアチニン、イヌリンなど): ほぼ自由に濾過され、濾液中の濃度は血漿とほぼ等しい。 ・低分子量蛋白(β2ミクログロブリン:約12kDa、α1ミクログロブリン:約30kDaなど): かなり濾過されるが、近位尿細管でほとんど再吸収・分解される。尿細管障害があると尿中に増加するため、尿細管障害のマーカーとなる。 ・アルブミン(約66kDa): 大きさと陰性荷電のため、正常ではごくわずかしか濾過されない。 ・IgG(約150kDa)、IgM(約900kDa): 正常ではほとんど濾過されない。
蛋白尿の選択性(selectivity index:SI)
ネフローゼ症候群で、大分子のIgGと中分子のトランスフェリン(約80kDa)のクリアランスの比、すなわちSI=IgGクリアランス/トランスフェリンクリアランスを求める。値が小さい(一般に0.2以下)ほど大分子が漏れにくく、高選択性蛋白尿とされる。高選択性は微小変化型ネフローゼ症候群に特徴的で、ステロイド反応性が良いことの目安になる。値が大きい低選択性蛋白尿は、膜性腎症や巣状分節性糸球体硬化症など、濾過障壁の障害が強い病型でみられやすい。
クリアランスの考え方
ある物質のクリアランス=(尿中濃度×尿量)÷血漿濃度。自由に濾過され、再吸収も分泌もされない物質(イヌリン)のクリアランスはGFRに等しい。再吸収される物質(グルコース、ナトリウム)はGFRより小さく、分泌される物質(クレアチニン、パラアミノ馬尿酸)はGFRより大きくなる。
POINT
・糸球体濾過障壁はサイズバリアとチャージバリア(陰性荷電)で物質を選別する。 ・小分子(Na、グルコース、クレアチニン、イヌリン)は自由に濾過され、大分子のIgG(約150kDa)はほとんど濾過されない。 ・イヌリン: 濾過のみで再吸収・分泌なし→GFR測定の標準物質。 ・クレアチニン: 一部尿細管分泌あり→CcrはGFRより大きくなる。 ・グルコース・ナトリウム: 濾過後に尿細管でほぼ全量再吸収される。 ・選択指数(SI)=IgGクリアランス/トランスフェリンクリアランス。小さいほど高選択性(微小変化型に特徴的)。
