StudyMed医師国家試験

ネフロンの地図を描けるか―利尿薬は「どこで何を止めるか」で覚える

第119回医師国家試験 A問題 第10問

国試問題にチャレンジ

第119回 A問題 第10問

薬剤と尿細管作用部位の組合せで正しいのはどれか。

  1. a.SGLT2阻害薬 ―― 近位尿細管
  2. b.抗アルドステロン薬 ―― Henleの上行脚
  3. c.サイアザイド系利尿薬 ―― 集合管
  4. d.バソプレシンV2受容体拮抗薬 ―― 遠位尿細管
  5. e.ループ利尿薬 ―― Henleの下行脚

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、腎臓に作用する薬とその作用部位を結びつける問題だ。ポイントは、原尿が流れていく順番に沿ってネフロンを頭の中で描き、それぞれの場所にどんな輸送体があるかを思い出すこと。薬は輸送体や受容体を狙い撃ちしているから、標的がわかれば作用部位も自然に決まるよ。
医学生医学生
近位尿細管、Henleループ、遠位尿細管、集合管の順ですよね。生理学の講義で図を何度も描かされましたが、薬と結びつけるとなると途端に自信がなくなります。
ドクタードクター
大丈夫、一つずつ確認しよう。まず近位尿細管。ここはろ過されたNa+の6〜7割、ブドウ糖やアミノ酸のほぼ全量を再吸収する「大口の再吸収工場」だ。ブドウ糖はどうやって取り込まれていたかな。
医学生医学生
Na+と一緒に運ぶSGLTですね。あ、だからSGLT2阻害薬は近位尿細管に効くんですね。
ドクタードクター
その通り、これが正解だ。SGLT2は近位尿細管の前半にあって、ろ過されたブドウ糖の約9割を再吸収している。これを阻害すると尿にブドウ糖が出て、インスリンに頼らずに血糖が下がる。単独では低血糖を起こしにくいのも特徴だね。
医学生医学生
糖尿病内科の実習で、糖尿病がない心不全の患者さんにも処方されていて驚いたことがあります。
ドクタードクター
いいところに気づいたね。Na+排泄も増えて軽い利尿がかかることなどから、今では心不全や慢性腎臓病の治療薬としても使われている。ただし性器・尿路感染症、脱水、そして血糖があまり高くないのにケトアシドーシスになる正常血糖ケトアシドーシスには注意が必要だ。では次、ループ利尿薬はHenleの下行脚でいいかな。
医学生医学生
名前に「ループ」とあるので、ループのどこかだとは思うんですが……下行脚と上行脚で迷います。
ドクタードクター
そこが引っかけだね。下行脚は水をよく通し、溶質はほとんど通さない。ここを標的にする利尿薬はないんだ。ループ利尿薬が効くのは水を通さない太い上行脚で、Na+-K+-2Cl-共輸送体、いわゆるNKCC2を阻害する。ここはろ過Na+の約25%を再吸収しているから、ループ利尿薬は最も強力な利尿薬になる。
医学生医学生
上行脚は抗アルドステロン薬の組合せに出てきていましたが、そちらも違うということですね。
ドクタードクター
そう。アルドステロンが働くのは遠位尿細管の後半から接合尿細管・集合管の主細胞だ。ミネラルコルチコイド受容体を介してENaCやNa+/K+-ATPaseを増やし、Na+を取り込んでK+を捨てさせる。スピロノラクトンやエプレレノンはこれを遮断するから、Na+は出るけれどK+は体に残る。
医学生医学生
だからカリウム保持性利尿薬と呼ばれて、高カリウム血症に注意なんですね。CBTの勉強で「ループとスピロノラクトンを併用するとKのバランスがとれる」と覚えました。
ドクタードクター
その理解でいい。次はサイアザイド系。集合管と書かれているけど、どうだろう。
医学生医学生
サイアザイドは遠位尿細管のNa+-Cl-共輸送体だったと思います。集合管ではないですよね。
ドクタードクター
正解。遠位尿細管のNCCを阻害する。ここで再吸収されるNa+は5〜7%程度だから利尿効果はループより弱いけれど、降圧薬として長く使われている。副作用は低カリウム血症、低ナトリウム血症、高尿酸血症、耐糖能低下、そして高カルシウム血症。ループ利尿薬は逆に尿中Ca排泄を増やすから、対比で覚えると忘れにくい。
医学生医学生
最後のバソプレシンV2受容体拮抗薬は遠位尿細管とありますが、バソプレシンが働くのは集合管ですよね。
ドクタードクター
その通り。バソプレシンは集合管主細胞のV2受容体に結合して、アクアポリン2を管腔側に移動させ水を再吸収させる。トルバプタンはこれを止めて、電解質をほとんど出さずに自由水だけを排泄させる「水利尿薬」なんだ。
医学生医学生
水だけ出るなら、低ナトリウム血症の治療に向いていそうです。
ドクタードクター
そう、SIADHなどによる低ナトリウム血症や、他の利尿薬で効果不十分な心不全・肝硬変の体液貯留、常染色体顕性多発性嚢胞腎の進行抑制に使われる。ただし血清Naが急に上がりすぎると浸透圧性脱髄症候群を起こしうるので、導入時は血清Naをこまめに測るのが鉄則だ。
医学生医学生
流れに沿って並べると、近位尿細管がSGLT2阻害薬、太い上行脚がループ、遠位尿細管がサイアザイド、集合管が抗アルドステロン薬とV2拮抗薬、という地図になりますね。
ドクタードクター
完璧だ。補足すると、近位尿細管には炭酸脱水酵素阻害薬のアセタゾラミドも作用するし、集合管のENaCを直接ふさぐトリアムテレンもK保持性利尿薬の仲間だ。臨床では、ループやサイアザイドで低カリウム、抗アルドステロン薬で高カリウムと、作用部位からカリウムの動きを予測できることが大事。利尿薬を始めたら電解質と腎機能を定期的に確認する習慣をつけよう。

まとめ

腎作用薬は、ネフロンの部位ごとに異なる輸送体や受容体を標的にしており、SGLT2阻害薬は近位尿細管のSGLT2を阻害して尿糖排泄を促す薬です。ループ利尿薬はHenleループの太い上行脚のNKCC2、サイアザイド系利尿薬は遠位尿細管のNCCを阻害し、抗アルドステロン薬は遠位尿細管後半〜集合管主細胞のミネラルコルチコイド受容体を、バソプレシンV2受容体拮抗薬は集合管のV2受容体を遮断します。Henleの下行脚は水の再吸収が主体で、ここを標的とする利尿薬はありません。作用部位がわかれば、ループやサイアザイドによる低カリウム血症、抗アルドステロン薬による高カリウム血症、V2受容体拮抗薬による急速なNa上昇といった副作用も論理的に予測できます。ネフロンの地図と薬を結びつけて理解することは、心不全・高血圧・低ナトリウム血症などの日常診療で薬を安全に使いこなす土台になります。

解答・解説

正解はaです

ネフロン(腎臓の機能単位)は、糸球体でろ過された原尿が、近位尿細管 → Henle(ヘンレ)ループ(下行脚 → 上行脚)→ 遠位尿細管 → 接合尿細管 → 集合管 の順に流れる間に、部位ごとに異なる輸送体によって水や電解質・ブドウ糖などが再吸収される構造になっている。利尿薬をはじめとする腎作用薬は、それぞれ特定の部位の特定の輸送体・受容体を標的としており、「どの部位の何を阻害するか」を整理しておくと、作用の強さや副作用(電解質異常)まで理解しやすい。 本問の5薬剤の作用部位と標的を整理すると次のようになる。 ・SGLT2阻害薬:近位尿細管のNa+-グルコース共輸送体2(SGLT2) ・ループ利尿薬:Henleループの太い上行脚のNa+-K+-2Cl-共輸送体(NKCC2) ・サイアザイド系利尿薬:遠位尿細管のNa+-Cl-共輸送体(NCC) ・抗アルドステロン薬(ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬):遠位尿細管後半〜接合尿細管・集合管の主細胞にあるミネラルコルチコイド受容体 ・バソプレシンV2受容体拮抗薬:集合管主細胞のV2受容体 この対応と照らし合わせると、組合せとして正しいのは「SGLT2阻害薬 ― 近位尿細管」のみである。

選択肢考察

  1. ○a.  SGLT2阻害薬 ―― 近位尿細管

    正しい。SGLT2(sodium-glucose cotransporter 2)は近位尿細管の起始部(S1〜S2分節)の管腔側膜に存在し、糸球体でろ過されたブドウ糖の大部分(約90%)をNa+と共に再吸収する輸送体である。残りは近位尿細管後半のSGLT1が再吸収する。SGLT2阻害薬はこの再吸収を阻害して尿中へのブドウ糖排泄を増やし、インスリンに依存せずに血糖を下げる。インスリン分泌を直接促進しないため単独では低血糖を起こしにくい。Na+排泄の増加による軽度の浸透圧利尿・ナトリウム利尿作用も持ち、近年は糖尿病の有無を問わず心不全や慢性腎臓病(CKD)の治療薬としても用いられている。副作用として性器・尿路感染症、脱水、正常血糖ケトアシドーシスに注意する。

  2. ×b.  抗アルドステロン薬 ―― Henleの上行脚

    誤り。アルドステロンは遠位尿細管後半から接合尿細管・集合管の主細胞にあるミネラルコルチコイド受容体に結合し、上皮型Na+チャネル(ENaC)やNa+/K+-ATPaseを増やしてNa+の再吸収とK+の排泄を促進する。抗アルドステロン薬(スピロノラクトン、エプレレノンなど)はこの受容体を遮断し、Na+と水の排泄を増やす一方でK+の排泄を減らす(カリウム保持性利尿薬)。このため高カリウム血症に注意が必要であり、K+を低下させるループ利尿薬と併用されることが多い。Henleの上行脚はループ利尿薬の作用部位である。

  3. ×c.  サイアザイド系利尿薬 ―― 集合管

    誤り。サイアザイド系利尿薬は遠位尿細管(遠位曲尿細管)の管腔側にあるNa+-Cl-共輸送体(NCC)を阻害する。この部位でのNa+再吸収はろ過量の5〜7%程度と少ないため、利尿効果はループ利尿薬より弱いが、持続的な降圧作用があり高血圧治療に広く使われる。副作用として低カリウム血症、低ナトリウム血症、高尿酸血症、耐糖能低下、高カルシウム血症(Ca2+再吸収の促進による)がある。集合管は抗アルドステロン薬やバソプレシンV2受容体拮抗薬の作用部位である。

  4. ×d.  バソプレシンV2受容体拮抗薬 ―― 遠位尿細管

    誤り。バソプレシン(抗利尿ホルモン、ADH)は集合管主細胞の基底膜側にあるV2受容体に結合し、水チャネルであるアクアポリン2を管腔側膜へ移動させて水の再吸収を促す。V2受容体拮抗薬(トルバプタン)はこれを阻害し、電解質をほとんど排泄させずに自由水のみを排泄させる(水利尿)。そのため、ほかの利尿薬で効果不十分な心不全や肝硬変の体液貯留、SIADH(抗利尿ホルモン不適合分泌症候群)などによる低ナトリウム血症、常染色体顕性(優性)多発性嚢胞腎の進行抑制に用いられる。急激な血清Na上昇による浸透圧性脱髄症候群を避けるため、導入時は血清Na値の綿密なモニタリングが必要である。

  5. ×e.  ループ利尿薬 ―― Henleの下行脚

    誤り。ループ利尿薬(フロセミドなど)の作用部位はHenleループの太い上行脚であり、管腔側のNa+-K+-2Cl-共輸送体(NKCC2)を阻害する。この部位はろ過されたNa+の約25%を再吸収するため、ループ利尿薬は最も強力な利尿薬であり、腎機能が低下した例でも効果が期待できる。副作用は低カリウム血症、低ナトリウム血症、代謝性アルカローシス、高尿酸血症、聴器毒性などで、長期投与では電解質の定期的なモニタリングが必要である。なお、Henleの下行脚は水の透過性が高く主に水が再吸収される部位で、ここを標的とする利尿薬はない。

ネフロンの部位別の主な輸送と作用薬

・近位尿細管:ろ過Na+の約60〜70%、ブドウ糖・アミノ酸のほぼ全量、HCO3-の大部分を再吸収。作用薬はSGLT2阻害薬、炭酸脱水酵素阻害薬(アセタゾラミド)、浸透圧利尿薬(マンニトール:近位尿細管とHenleループで水の再吸収を抑える)。 ・Henleループ下行脚:水の再吸収が主体(溶質はほとんど通さない)。 ・Henleループ太い上行脚:水を通さず、NKCC2でNa+・K+・Cl-を再吸収(ろ過Na+の約25%)。尿の希釈と髄質の浸透圧勾配形成を担う。作用薬はループ利尿薬。 ・遠位尿細管:NCCでNa+・Cl-を再吸収(約5〜7%)。Ca2+再吸収の調節部位でもある。作用薬はサイアザイド系利尿薬。 ・接合尿細管〜集合管:主細胞のENaCによるNa+再吸収とK+分泌(アルドステロンで促進)、アクアポリン2による水再吸収(バソプレシンで促進)。作用薬は抗アルドステロン薬、トリアムテレン(ENaC阻害)、バソプレシンV2受容体拮抗薬。

利尿薬とカリウム

・K+を下げる:ループ利尿薬、サイアザイド系利尿薬(集合管へのNa+到達量の増加とアルドステロン分泌亢進によりK+分泌が増える)。 ・K+を上げる(K保持性):抗アルドステロン薬、トリアムテレン。 ・ほぼ影響しない:バソプレシンV2受容体拮抗薬(自由水のみ排泄)。

POINT

・SGLT2阻害薬:近位尿細管のSGLT2を阻害し尿糖排泄を促進。低血糖を起こしにくく、心不全・CKDにも用いる。 ・ループ利尿薬:Henleの太い上行脚のNKCC2を阻害。最も強力。 ・サイアザイド系利尿薬:遠位尿細管のNCCを阻害。低K、高尿酸、高Ca血症。 ・抗アルドステロン薬:集合管(接合尿細管)のミネラルコルチコイド受容体を遮断。高K血症に注意。 ・バソプレシンV2受容体拮抗薬:集合管のV2受容体を遮断し水利尿。低Na血症に用いるが急速補正に注意。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。