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クレアチニンは「遅れてくる」―イヌリンが金字塔であり続けるGFR評価の基本

第117回医師国家試験 B問題 第23問

国試問題にチャレンジ

第117回 B問題 第23問

糸球体濾過量〈GFR〉について正しいのはどれか。

  1. a.GFRの軽度低下で血清クレアチニン値は上昇する。
  2. b.イヌリンクリアランスは正確なGFR評価に用いられる。
  3. c.健常者において加齢によるGFR低下は80歳まで起こらない。
  4. d.筋肉量が少ない場合はeGFRが実測GFRより低くなることが多い。
  5. e.成人のeGFRは血清クレアチニン値,身長および年齢から計算される。

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は腎機能の最も基本的な指標、糸球体濾過量、つまりGFRについての問題だ。カギは「GFRをどうやって測るのか」と「日常で使う血清クレアチニンやeGFRにどんな限界があるのか」の2点。この2つを押さえれば、選択肢はすっきり整理できるよ。
医学生医学生
GFRは、両方の腎臓の糸球体で1分間に濾過される血漿量のことですよね。でも、直接は測れないと生理学で習った気がします。
ドクタードクター
その通り。だから「クリアランス」という考え方を使う。ある物質の尿中濃度に尿量を掛けて血漿中濃度で割ると、その物質を1分間に完全に除去したとみなせる血漿量が出る。もしその物質が糸球体で自由に濾過され、尿細管で再吸収も分泌もされず、腎臓で代謝されず、蛋白とも結合しなければ、クリアランスはGFRそのものになる。
医学生医学生
その条件を満たすのがイヌリンですね。CBTの勉強で何度も出てきました。
ドクタードクター
そう、だから正解は「イヌリンクリアランスは正確なGFR評価に用いられる」だ。イヌリンは植物由来のフルクトースの重合体で、ヒトの体内では作られない。GFR測定のゴールドスタンダードとされている。ただ、持続点滴をしながら採尿と採血を繰り返す必要があって手間がかかるから、腎移植ドナーの評価や、極端な体格でeGFRが当てにならない患者など、正確さが必要な場面で使われる。
医学生医学生
日常的にはクレアチニンを使いますよね。GFRが少し下がれば、クレアチニンもすぐ上がるものだと思っていました。
ドクタードクター
そこが誤りのポイントなんだ。血清クレアチニンとGFRは反比例に近い双曲線の関係にある。GFRが正常から下がりはじめた段階では、クレアチニンはわずかしか上がらず、基準範囲内にとどまることが多い。おおむね半分くらいまで落ちて、ようやく明らかに上昇してくる。この見逃しやすい範囲をクレアチニン・ブラインド領域とよぶんだ。
医学生医学生
GFRが下がると尿細管からのクレアチニン分泌が相対的に増える、というのも上昇を目立たなくさせる理由でしたっけ。
ドクタードクター
よく覚えているね。だから血清クレアチニンの上昇は、GFR低下に対して特異性は高いけれど感度は低い。早期の低下を捉えたいなら、筋肉量の影響を受けにくい血清シスタチンCが役立つ。
医学生医学生
筋肉量が少ないとeGFRが実測より低くなる、という選択肢も迷いました。筋肉が少ないと腎機能も悪く見えそうな気がして。
ドクタードクター
向きが逆なんだ。クレアチニンは筋肉中のクレアチンから作られるから、筋肉量が少ない人では血清クレアチニンが低く出る。eGFRの式は平均的な筋肉量を前提にしているので、その低いクレアチニンから計算すると、eGFRは実測GFRより高く、つまり過大評価されやすい。
医学生医学生
臨床実習で老年科を回ったとき、寝たきりの方のクレアチニンが0.5くらいで「この数字を信用しすぎないように」と言われたのはそういうことだったんですね。
ドクタードクター
まさにそれ。るい痩や長期臥床、四肢切断、サルコペニアでは要注意で、シスタチンCによるeGFRを使うのがいい。逆に筋肉の多いアスリートでは過小評価されやすい。次は加齢の選択肢だ。
医学生医学生
80歳まで低下しない、というのは言い過ぎですよね。高齢者は腎機能が落ちているイメージがあります。
ドクタードクター
そうだね。腎臓に病気がなくても、中年期以降はネフロン数の減少や糸球体硬化、腎血管の動脈硬化などで、GFRは年に約1 mL/分/1.73m²前後のペースで緩やかに下がっていく。日本のeGFR式に年齢の項が入っているのも、この加齢変化を反映しているんだ。
医学生医学生
そのeGFRの式ですが、身長を使うというのはどうですか。体格で補正しているなら身長も入りそうですが。
ドクタードクター
成人のeGFRは血清クレアチニン、年齢、性別の3つで計算し、身長や体重は使わない。結果は体表面積1.73m²あたりに補正した値で表される。身長を使う推算式は小児のものにあるから、混同しないようにね。
医学生医学生
整理すると、測定の基準はイヌリン、クレアチニンは遅れて上がり筋肉量に左右される、加齢でGFRは自然に下がる、成人のeGFRは身長不要、ですね。
ドクタードクター
完璧だ。臨床での注意点も加えておこう。24時間蓄尿で測るクレアチニンクリアランスは、尿細管分泌のぶんGFRより2〜3割ほど高めに出るし、腎機能が悪いほどその差は広がる。また腎排泄型の薬の量を決めるときは、体表面積補正をしない、その人自身のGFRを使うのが原則だ。
医学生医学生
体の小さい高齢の方だと、補正したeGFRのまま投与量を決めると多すぎる可能性があるわけですね。
ドクタードクター
その通り。クレアチニンが基準範囲内でも腎機能が落ちていることがある、という感覚を持っておくと、薬の副作用を防ぐ場面で必ず役に立つよ。

まとめ

GFRは糸球体で1分間に濾過される血漿量で、糸球体で自由に濾過され、再吸収・分泌・代謝を受けないイヌリンのクリアランスが測定のゴールドスタンダードです。日常診療で使う血清クレアチニンはGFRがおおむね半分程度に低下するまで明らかに上昇せず、筋肉量の影響を受けるため、筋肉量が少ない人ではeGFRが過大評価されやすく、こうした場合はシスタチンCが有用です。成人のeGFRは血清クレアチニン、年齢、性別から算出し身長は用いず、健常者でもGFRは加齢とともに緩やかに低下します。クレアチニンクリアランスが尿細管分泌によりGFRを過大に示すことや、腎排泄型薬剤の投与量は体表面積補正をしない個々のGFRで考えることも重要です。各指標の成り立ちと限界を理解することは、CKDの早期発見や高齢者の安全な薬物療法に直結します。

解答・解説

正解はbです

糸球体濾過量(GFR:glomerular filtration rate)は、両側の腎臓の糸球体で1分間に濾過される血漿量であり、腎機能を表す最も基本的な指標である。慢性腎臓病(CKD)の重症度分類や、腎排泄型薬剤の投与量調節の基準として用いられる。 GFRは直接測ることができないため、「クリアランス」の考え方で求める。ある物質のクリアランスは、尿中濃度×尿量÷血漿中濃度で計算され、その物質を1分間に完全に除去したとみなせる血漿量を意味する。もしその物質が、①糸球体で自由に濾過され、②尿細管で再吸収も分泌もされず、③腎臓で代謝されず、④血漿蛋白と結合しない、という条件を満たせば、そのクリアランスはGFRに一致する。これを満たす代表的な物質がイヌリンである。 一方、日常診療では手間のかかるイヌリンクリアランスの代わりに、血清クレアチニン(Cr)値から計算する推算GFR(eGFR)が広く使われる。本問を解くには、次の3点を理解しておくことが必要である。 ・血清Crは、GFRがかなり低下するまで上昇しにくい(GFR低下の初期を見逃しやすい)。 ・Crは筋肉で作られるため、筋肉量の影響を受ける(筋肉量が少ないと血清Crが低く、eGFRは実際より高めに出る)。 ・成人のeGFRは血清Cr、年齢、性別から計算し、身長は用いない。 これらを踏まえると、正しいのはbである。

選択肢考察

  1. ×a.  GFRの軽度低下で血清クレアチニン値は上昇する。

    誤り。血清Cr値とGFRは反比例に近い双曲線の関係にある。GFRが正常域から低下しはじめる段階では、血清Crはわずかにしか上昇せず、基準範囲内にとどまることが多い。GFRがおおむね正常の半分程度まで低下して、ようやく血清Crの明らかな上昇が認められる(このGFR軽度低下の範囲をクレアチニン・ブラインド領域とよぶ)。さらに、GFRが下がると尿細管からのCr分泌が相対的に増えることも、血清Crの上昇を目立たなくさせる。したがって血清Crの上昇はGFR低下に対して特異性は高いが感度は低い。早期の腎機能低下を捉えるには、筋肉量の影響を受けにくい血清シスタチンCが有用である。

  2. ○b.  イヌリンクリアランスは正確なGFR評価に用いられる。

    正しい。イヌリンは植物(キクイモ、ゴボウ、チコリなど)がもつフルクトースの重合体(多糖類)で、ヒトの体内では合成されない。静脈内に投与すると、血漿蛋白と結合せず、糸球体で自由に濾過され、尿細管では再吸収も分泌もされず、代謝も受けない。そのため、イヌリンクリアランスはGFRそのものを表し、GFR測定の国際的な標準法(ゴールドスタンダード)とされている。ただし、持続点滴をしながら時間を区切って採尿・採血を繰り返す必要があり手間がかかるため、日常診療ではeGFRが、正確な評価が必要な場合(腎移植ドナーの評価、eGFRが当てにならない極端な体格の患者など)にイヌリンクリアランスが用いられる。

  3. ×c.  健常者において加齢によるGFR低下は80歳まで起こらない。

    誤り。腎臓に病気がない人でも、GFRは中年期以降、加齢とともに緩やかに低下していく。ネフロン数の減少、糸球体硬化、腎血管の動脈硬化などがその背景にあり、低下速度はおおむね年に約1mL/分/1.73m²前後とされる。このため高齢者では、自覚症状がなくてもGFRが若年者よりかなり低いことが多い。日本のeGFR計算式に年齢の項が含まれ、年齢が高いほどeGFRが低く算出されるのも、この加齢変化を反映している。高齢者に腎排泄型の薬剤を用いる際には、血清Crが基準範囲内でもGFRの低下を考慮して投与量を調節する必要がある。

  4. ×d.  筋肉量が少ない場合はeGFRが実測GFRより低くなることが多い。

    誤り。向きが逆である。Crは筋肉中のクレアチンが代謝されて産生されるため、血清Cr値は筋肉量に比例する。eGFRの計算式は平均的な筋肉量の人を前提としているので、るい痩・長期臥床・四肢切断・高齢者のサルコペニアなどで筋肉量が少ない人では、血清Crが本来より低く出て、eGFRは実測GFRより高く(過大に)評価されやすい。逆に、筋肉量の多いアスリートなどではeGFRが過小評価されやすい。筋肉量が少ない場合には、筋肉量の影響を受けにくい血清シスタチンCによるeGFR(eGFRcys)を用いるのがよい。

  5. ×e.  成人のeGFRは血清クレアチニン値,身長および年齢から計算される。

    誤り。日本人成人(18歳以上)のeGFRは、酵素法で測定した血清Cr値、年齢、性別の3つから計算し、身長や体重は用いない。計算式は eGFRcreat(mL/分/1.73m²)=194×Cr^(−1.094)×年齢^(−0.287)(女性はさらに×0.739)である。結果は標準体表面積1.73m²あたりに補正された値で表される。なお、小児のeGFR推算式では身長を用いるものがあり、混同しないよう注意する。

GFRの評価法

・イヌリンクリアランス:GFR測定のゴールドスタンダード。正確だが手技が煩雑。 ・クレアチニンクリアランス(Ccr):24時間蓄尿などで測定する。Crは糸球体で濾過されるだけでなく近位尿細管からも一部分泌されるため、CcrはGFRより高めの値になる(おおむね2〜3割程度高い)。腎機能が低下すると分泌の割合が増え、過大評価の程度は大きくなる。 ・eGFRcreat:血清Cr、年齢、性別から計算。簡便で日常診療の基本だが、筋肉量の影響を受ける。 ・eGFRcys:血清シスタチンC、年齢、性別から計算。シスタチンCはほぼすべての有核細胞から一定速度で産生される低分子蛋白で、筋肉量や食事の影響を受けにくい。軽度のGFR低下も反映しやすく、筋肉量が極端な人で有用である。一方、甲状腺機能異常、副腎皮質ステロイド投与、妊娠などで値が変動し、GFRが高度に低下すると上昇が頭打ちになる。 ・Cockcroft-Gault式:血清Cr、年齢、体重、性別からCcrを推算する。薬剤投与量の調節に用いられることがある。

クリアランスの式

C=U×V/P(U:尿中濃度、V:1分間の尿量、P:血漿中濃度)

CKDのGFR区分(mL/分/1.73m²)

G1:90以上、G2:60〜89、G3a:45〜59、G3b:30〜44、G4:15〜29、G5:15未満 CKDは、GFR 60未満または尿蛋白などの腎障害所見が3か月以上続く状態と定義され、原疾患・GFR区分・蛋白尿区分を組み合わせて重症度を評価する。

薬剤投与時の注意

腎排泄型薬剤の投与量を決めるときは、体表面積補正をしない「個々人のGFR(mL/分)」を用いるのが原則である。eGFR(mL/分/1.73m²)に本人の体表面積/1.73を掛けて換算する。

POINT

・GFR測定のゴールドスタンダードはイヌリンクリアランス(濾過のみされ、再吸収・分泌・代謝を受けない)。 ・血清CrはGFRがおおむね半分程度に低下するまで明らかに上昇しない(感度が低い)。早期発見にはシスタチンCが有用。 ・筋肉量が少ないとeGFRcreatは過大評価される → eGFRcysを用いる。 ・成人のeGFRcreatは血清Cr・年齢・性別で計算する(身長は不要)。 ・GFRは健常者でも加齢とともに徐々に低下する。 ・Ccrは尿細管分泌のためGFRより高めに出る。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。