熱が下がらない1歳児、全身のサインがそろったら―川崎病で真っ先に見るべきは「心臓」
第119回医師国家試験 F問題 第54問
国試問題にチャレンジ
1歳の女児。発熱と皮疹を主訴に母親に連れられて来院した。5日前から39~40℃の発熱が続いていたが,活気良好であったため自宅で様子をみていた。昨夜,母親が皮疹に気付いたという。意識は清明。体温39.4℃。脈拍144/分,整。血圧84/62mmHg。呼吸数28/分。SpO2 100%(room air)。受診時の患児の顔面,上腕および背部の写真(A)~(C)を下に示す。口唇と舌に発赤を認める。咽頭に発赤を認めない。両側の頸部に径2.5cmのリンパ節を数個ずつ触知する。心音と呼吸音とに異常を認めない。腹部は平坦,軟で,肝・脾を触知しない。四肢末端に紅斑と浮腫を認める。血液所見:赤血球400万,Hb 11.5g/dL,Ht 34%,白血球17,600(桿状核好中球5%,分葉核好中球62%,単球4%,リンパ球29%),血小板45万,フィブリノゲン420mg/dL(基準186~355)。血液生化学所見:総蛋白6.0g/dL,アルブミン3.0g/dL,総ビリルビン0.9mg/dL,AST 240U/L,ALT 225U/L,LD 380U/L(基準202~437),尿素窒素10mg/dL,クレアチニン0.4mg/dL,尿酸4.0mg/dL,血糖98mg/dL,Na 131mEq/L,K 4.2mEq/L,Cl 99mEq/L。CRP 7.8mg/dL。 必要な検査はどれか。

- a.眼底検査
- b.皮膚生検
- c.頸部造影CT
- d.心エコー検査
- e.心筋血流シンチグラフィ
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
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医学生まとめ
乳幼児の発熱に、両側眼球結膜充血、口唇紅潮・いちご舌、BCG接種痕の発赤を含む発疹、四肢末端の紅斑・浮腫、非化膿性頸部リンパ節腫脹がそろえば、川崎病と臨床診断できます。川崎病は中型動脈、とくに冠動脈を侵す全身性血管炎で、予後を左右する冠動脈拡張・冠動脈瘤を評価するため、診断したら直ちに心エコー検査を行い、治療後も繰り返します。心筋血流シンチグラフィは冠動脈瘤が残った例の遠隔期の虚血評価に用いる検査で、眼底検査や皮膚生検、頸部造影CTは診断にも合併症評価にも寄与しません。急性期治療はIVIGとアスピリンが基本で、不応予測例ではステロイドなどを併用します。主要症状を確実に拾い、「血管炎だから冠動脈を見る」と病態から次の一手を導く考え方は、小児の発熱診療全般に通じる基本です。
解答・解説
正解はdです
所見の整理
・1歳の女児。39~40℃の発熱が5日間持続し、その後に皮疹が出現した。活気は保たれている。 ・顔面の写真(A):両側の眼球結膜充血(眼脂を伴わないタイプ)。 ・上腕の写真(B):BCG接種部位の発赤。 ・背部の写真(C):形の定まらない紅斑(不定形発疹)。 ・口唇と舌の発赤(口唇紅潮・いちご舌)。咽頭発赤はない。 ・両側頸部に径2.5cmのリンパ節を複数触知(1.5cm以上の非化膿性頸部リンパ節腫脹に相当)。 ・四肢末端の紅斑と浮腫(急性期の手足の硬性浮腫)。 ・検査:好中球優位の白血球増多(17,600/μL)、血小板増多(45万/μL)、フィブリノゲン上昇、CRP 7.8mg/dLと強い炎症反応。AST・ALT上昇(肝機能障害)、低アルブミン血症(3.0g/dL)、低ナトリウム血症(131mEq/L)。
診断へのプロセス
乳幼児の発熱+発疹では、まず突発性発疹、麻疹、風疹、水痘、伝染性紅斑、手足口病などのウイルス性発疹症や、溶連菌感染症(猩紅熱)、伝染性単核球症(EBウイルス感染症)などが鑑別に挙がる。しかし本例では、咽頭発赤がなく溶連菌感染症やアデノウイルス感染症は考えにくく、肝脾腫や咽頭・扁桃所見がないことから伝染性単核球症も合わない。また、ウイルス性発疹症としては白血球(特に好中球)増多やCRP上昇が強すぎる。 一方、本例は川崎病の主要症状6項目(①発熱、②両側眼球結膜充血、③口唇・口腔所見、④発疹〔BCG接種部位の発赤を含む〕、⑤四肢末端の変化、⑥急性期の非化膿性頸部リンパ節腫脹)をすべて満たしており、川崎病(完全型)と診断できる。好中球優位の白血球増多、血小板増多、CRP上昇、AST・ALT上昇、低アルブミン血症、低ナトリウム血症も川崎病急性期に典型的な検査所見である。
設問の考え方
川崎病は全身の中型動脈を中心とする血管炎であり、予後を左右する最大の合併症は冠動脈病変(冠動脈拡張・冠動脈瘤)である。したがって、診断がついた時点で直ちに行うべきなのは、非侵襲的にベッドサイドで冠動脈の内径や形態、心機能、心膜液、弁逆流を評価できる心エコー検査である。急性期の初回評価に加え、治療後の経過中にも繰り返し行い、冠動脈病変の出現・推移を追跡する。
選択肢考察
- ×a. 眼底検査
川崎病でみられる眼所見は、眼脂を伴わない両側の眼球結膜充血(球結膜の血管拡張)であり、急性期に前部ぶどう膜炎を伴うこともあるが、眼底出血や網膜病変は通常みられない。診断にも重症度・合併症評価にも眼底検査は必要とされない。
- ×b. 皮膚生検
川崎病の皮疹を組織学的に調べると、真皮乳頭層の血管拡張と浮腫、単核球浸潤などがみられるが、川崎病に特異的な所見ではなく診断の根拠にはならない。川崎病は主要症状の組み合わせによる臨床診断であり、侵襲的な皮膚生検を行う意義はない。
- ×c. 頸部造影CT
頸部リンパ節腫脹があると、化膿性リンパ節炎(膿瘍形成)、咽後膿瘍、悪性リンパ腫などの鑑別に画像検査が検討されることはある。しかし本例は川崎病の主要症状をすべて満たしており、頸部造影CTで川崎病に特異的な情報は得られない。小児では被曝や造影剤、鎮静の負担もあり、優先される検査ではない。
- ○d. 心エコー検査
川崎病の最も重要な合併症は冠動脈病変であり、無治療では約25%に冠動脈瘤が生じるとされる。免疫グロブリン大量静注療法(IVIG)の普及で頻度は大きく低下したが、現在でも一部の患者に冠動脈病変が残る。心エコー検査は非侵襲的に冠動脈の拡張・瘤の有無や大きさ(体表面積で補正したZスコアで評価)を確認でき、心機能低下、心膜液貯留、僧帽弁逆流などもあわせて評価できる。診断時の基準値の把握と、治療後の経過観察の両方に必須の検査である。
- ×e. 心筋血流シンチグラフィ
心筋血流シンチグラフィは、冠動脈瘤が残存した患者の遠隔期に、瘤内血栓や狭窄による心筋虚血を評価する目的で用いられる検査である。急性期の冠動脈病変そのものの評価には適さず、放射性同位元素の使用や鎮静の負担もある。急性期の第一選択は心エコー検査である。
川崎病の概要
主に4歳以下(特に1歳前後)の乳幼児に好発する原因不明の全身性血管炎である。日本を含む東アジアで頻度が高く、中型の筋性動脈、とりわけ冠動脈が侵されやすい。
診断の手引き(改訂第6版)の主要症状
1. 発熱 2. 両側眼球結膜の充血 3. 口唇・口腔所見:口唇の紅潮、いちご舌、口腔咽頭粘膜のびまん性発赤 4. 発疹(BCG接種痕の発赤を含む) 5. 四肢末端の変化:急性期の手足の硬性浮腫・手掌足底または指趾先端の紅斑、回復期の指先からの膜様落屑 6. 急性期における非化膿性頸部リンパ節腫脹 6項目中5項目以上で川崎病(完全型)と診断する。4項目以下でも、心エコーで冠動脈病変を認め他疾患が除外されれば川崎病とする。主要症状が少なくても他疾患が否定される場合は不全型川崎病として扱う。なお、以前の版では発熱は「5日以上続く」ことが要件であったが、改訂第6版では日数を問わなくなった。また、BCG接種部位の発赤は日本の乳幼児で特徴的な所見であり、主要症状の「発疹」に含められている。
川崎病でみられる主な検査所見
好中球優位の白血球増多、CRP上昇、赤沈亢進、回復期の血小板増多、AST・ALT上昇、低アルブミン血症、低ナトリウム血症、無菌性膿尿など。低ナトリウム血症やAST上昇、高い好中球比率、高CRP、病初期の血小板低値などはIVIG不応予測スコアの項目にも用いられている。
治療
急性期の標準治療はIVIG(免疫グロブリン大量静注療法、2g/kgを単回投与)とアスピリン内服の併用である。IVIG不応が予測される重症例では、初期からステロイド(プレドニゾロンやメチルプレドニゾロン)やシクロスポリンを併用することがある。初回治療に反応しない場合は、IVIG再投与、インフリキシマブ、ステロイド、シクロスポリン、血漿交換などが選択肢となる。
冠動脈病変のフォロー
心エコーで急性期から回復期まで繰り返し評価し、冠動脈瘤が残った症例では、遠隔期に心臓カテーテル検査、冠動脈CT・MRI、負荷心筋シンチグラフィなどで狭窄や虚血を評価し、抗血小板薬・抗凝固薬で血栓予防を行う。
POINT
・川崎病の主要症状6項目(発熱、両側眼球結膜充血、口唇・口腔所見、BCG接種痕の発赤を含む発疹、四肢末端の変化、非化膿性頸部リンパ節腫脹)を確実に覚える。 ・川崎病と診断したら、冠動脈病変の評価のため直ちに心エコー検査を行う。経過中も繰り返す。 ・心筋血流シンチグラフィは冠動脈瘤残存例の遠隔期の虚血評価に用いる検査であり、急性期の評価には用いない。 ・好中球優位の白血球増多、CRP上昇、AST・ALT上昇、低アルブミン血症、低ナトリウム血症は川崎病急性期の典型的所見である。
