StudyMed医師国家試験

健診で高血圧―職場の健康づくり「THP」にできること、できないこと

第119回医師国家試験 F問題 第53問

国試問題にチャレンジ

第119回 F問題 第53問

45歳の女性。会社の定期健康診断で高血圧を指摘された。この結果を踏まえて,会社の産業保健チームでトータルヘルスプロモーションプラン〈THP〉を検討することになった。  このプランに含まれないのはどれか。

  1. a.降圧薬の処方
  2. b.運動の計画立案
  3. c.塩分制限食の調理指導
  4. d.飲酒と健康に関する講演会
  5. e.生活習慣の改善に伴う精神的ストレスのケア

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は産業保健の問題だ。健診で高血圧が見つかった労働者に対して、職場の産業保健チームが立てるトータルヘルスプロモーションプラン、つまりTHPに何が含まれて何が含まれないかを問うている。着眼点は「THPは治療なのか、健康づくりなのか」という一点だ。
医学生医学生
THPって公衆衛生の講義で名前だけ聞いた気がしますが、正直中身はぼんやりしています。
ドクタードクター
じゃあ基礎から整理しよう。THPは労働安全衛生法第69条に基づいて1988年に策定された「事業場における労働者の健康保持増進のための指針」に沿った、職場での健康づくり活動だ。目的は心とからだの両面の健康の保持増進で、病気になる前に防ぐ一次予防が中心になる。
医学生医学生
一次予防ということは、生活習慣を良くする取り組みが中心なんですね。
ドクタードクター
その通り。具体的な措置としては運動指導、栄養指導、保健指導、メンタルヘルスケア、口腔保健指導などが挙げられる。個人への指導だけでなく、講演会や研修といった集団への健康教育も含まれるんだ。
医学生医学生
そうすると、運動の計画を立てるのは運動指導そのものですし、THPに入りますね。
ドクタードクター
うん。体力や健康状態に合わせて、有酸素運動など安全に続けられるプログラムを作るのはTHPの中核だ。定期的な運動には降圧効果もあるから、高血圧の生活習慣修正としても理にかなっている。
医学生医学生
塩分制限食の調理指導は栄養指導ですよね。臨床実習の循環器内科で、減塩は1日6g未満が目標と教わりました。
ドクタードクター
よく覚えているね。わが国の高血圧治療ガイドラインの目標がそれだ。調理方法まで含めて具体的に助言するのは栄養指導として立派なTHPの措置になる。では、飲酒と健康に関する講演会は?
医学生医学生
講演会は個別指導じゃないので、少し迷います。THPは個人向けのイメージがあって……。
ドクタードクター
そこは誤解しやすいポイントだ。2020年の指針改正で、ハイリスク者への個別対応に加えて、事業場全体を対象にするポピュレーションアプローチの視点が強調された。講演会はまさに集団への働きかけの例で、過度の飲酒は血圧を上げる要因だから、節酒の啓発は高血圧対策としても意味がある。
医学生医学生
なるほど。生活習慣を変えるときのストレスへのケアも、メンタルヘルスケアとして含まれるわけですね。
ドクタードクター
そう。THPは心身両面の健康づくりだから、ストレスへの気づきや対処法、リラクセーションの指導も含まれる。生活を変えるのは意外と負担が大きいから、心理面の支えは継続のためにも大事なんだ。
医学生医学生
残るのは降圧薬の処方ですが、これは産業医が出すわけではないんですか。
ドクタードクター
降圧薬の処方は、診断のついた疾病に対して医療機関で行う個別の治療行為だ。健康保持増進措置であるTHPの枠には入らない。だからこれが「含まれないもの」として正解になる。産業医の役割は、健診結果をみて必要なら医療機関への受診を勧め、就業上の配慮や生活習慣改善を支援すること。治療そのものは主治医が担う、という役割分担だね。
医学生医学生
THPは非薬物的な健康づくり、治療は主治医、と線を引けばいいんですね。
ドクタードクター
その理解で十分だ。関連制度との区別も押さえておこう。一般健康診断は事業者の実施義務で、疾病の早期発見という二次予防に関わる。ストレスチェックは常時50人以上の労働者を使用する事業場で実施が義務で、メンタルヘルス不調の未然防止が主な目的だ。一方、THPは事業者の努力義務という位置づけになっている。
医学生医学生
特定健診・特定保健指導とも混同しそうです。CBTのときにも根拠法でひっかけられました。
ドクタードクター
特定健診は高齢者の医療の確保に関する法律に基づいて、医療保険者が40〜74歳を対象に行うメタボリックシンドロームに着目した健診だ。実施主体が事業者ではなく保険者だという点が違う。根拠法と実施主体をセットで覚えると混乱しにくいよ。
医学生医学生
法律、主体、目的の3点で整理しておきます。
ドクタードクター
いいね。臨床医になっても、患者さんの職場で何ができるかを知っておくと、産業医との連携がぐっとスムーズになるよ。

まとめ

トータルヘルスプロモーションプラン(THP)は、労働安全衛生法第69条と健康保持増進の指針に基づく職場の健康づくり活動で、心身両面の健康の保持増進、すなわち一次予防を目的とします。運動指導、減塩などの栄養指導、飲酒・喫煙・睡眠を含む保健指導、メンタルヘルスケア、口腔保健指導が主な措置で、2020年の改正では講演会などの集団へのポピュレーションアプローチも強調されました。一方、降圧薬の処方のような治療行為は医療機関の主治医が担うもので、THPには含まれず、産業医は受診勧奨や就業上の配慮で関わります。一般健康診断、ストレスチェック、特定健診などの関連制度とは根拠法・実施主体・目的で区別して整理しておくと、産業保健分野の問題に強くなり、臨床現場での職場との連携にも役立ちます。

解答・解説

正解はaです

状況の整理

・45歳の女性労働者が、職場の定期健康診断(労働安全衛生法に基づく一般健康診断)で高血圧を指摘された。 ・これを受けて、産業医・保健師などからなる産業保健チームがトータルヘルスプロモーションプラン(THP)を検討する場面である。 ・設問は「THPに含まれないもの」を問う否定型である。

THPとは

THPは、労働安全衛生法第69条に基づき1988年に策定された「事業場における労働者の健康保持増進のための指針」に沿って行われる、職場での健康づくり活動である。目的は、労働者の心とからだの両面にわたる健康の保持増進であり、病気を未然に防ぐ一次予防(健康増進・生活習慣の改善)を中心とする。具体的な健康保持増進措置として、運動指導、栄養指導、保健指導、メンタルヘルスケア(心理面の支援)、口腔保健指導などが挙げられ、個人への指導だけでなく、講演会・研修など集団への健康教育も含まれる。2020年の指針改正では、ハイリスク者への個別対応に加え、事業場全体の労働者を対象とするポピュレーションアプローチの視点が強調され、PDCAサイクルに沿って計画的に取り組むことが求められている。

設問の考え方

THPの柱は、生活習慣の改善による健康づくりという非薬物的な取り組みである。運動・食事(減塩)・飲酒・心理面の支援はいずれも高血圧の生活習慣修正に直結し、THPの枠組みに含まれる。一方、降圧薬の処方は、診断のついた疾病に対して医療機関で行われる個別の治療行為であり、健康保持増進措置であるTHPには含まれない。高血圧の程度によって薬物治療が必要と判断されれば、産業医は医療機関への受診を勧奨し、治療は主治医が担うという役割分担になる。

選択肢考察

  1. ○a.  降圧薬の処方

    降圧薬の処方は、高血圧という疾病に対する医療機関での治療行為である。THPは生活習慣の改善を通じて心身の健康を保持増進する活動であり、薬物療法は含まれない。職場の産業保健チームの役割は、健診結果に基づく受診勧奨や就業上の配慮、生活習慣改善の支援であり、治療は主治医が担う。したがって本選択肢がTHPに含まれないものとして正解となる。

  2. ×b.  運動の計画立案

    THPの運動指導にあたる。個人の健康状態や体力に応じて、有酸素運動など安全で継続可能な運動プログラムを立案・指導することは、THPの中核的な措置である。定期的な運動は降圧効果があり、高血圧の生活習慣修正としても有用である。THPに含まれる。

  3. ×c.  塩分制限食の調理指導

    THPの栄養指導にあたる。食習慣を評価し、望ましい食生活に向けて具体的な助言を行う。減塩は高血圧の生活習慣修正の基本であり(わが国の高血圧治療ガイドラインでは食塩6g/日未満が目標)、調理方法を含めた指導はTHPに含まれる。

  4. ×d.  飲酒と健康に関する講演会

    飲酒・喫煙・睡眠など生活習慣全般についての健康教育や保健指導にあたる。講演会のような集団を対象とした取り組みは、2020年の指針改正で強調されたポピュレーションアプローチの例でもある。過度の飲酒は血圧上昇の要因であり、節酒の啓発は高血圧対策としても意義がある。THPに含まれる。

  5. ×e.  生活習慣の改善に伴う精神的ストレスのケア

    THPのメンタルヘルスケア(心理相談)にあたる。THPは身体面だけでなく心理面も含めた健康の保持増進を目的としており、生活習慣を変える際のストレスへの支援や、ストレスへの気づき・対処法の指導、リラクセーションの指導などが含まれる。THPに含まれる。

THP(トータルヘルスプロモーションプラン)の概要

・根拠:労働安全衛生法第69条(事業者は労働者の健康保持増進のために必要な措置を継続的・計画的に講ずるよう努める)および「事業場における労働者の健康保持増進のための指針」(1988年策定)。事業者の努力義務である。 ・対象:すべての労働者(若年期からの継続的な取り組みを重視)。 ・目的:心身両面にわたる健康の保持増進。一次予防が中心。 ・主な健康保持増進措置:運動指導、栄養指導、保健指導(飲酒・喫煙・睡眠など生活習慣全般)、メンタルヘルスケア、口腔保健指導。 ・従来は産業医が健康測定(生活状況調査・医学的検査・運動機能検査など)を行い、その結果に基づいて運動指導担当者、運動実践担当者、心理相談担当者、産業栄養指導担当者、産業保健指導担当者が指導を担う体制が示されていた。2020年の改正では、健康測定を前提とした個人中心の仕組みから、事業場の実情に応じて集団へのアプローチも含めて柔軟に取り組む形へ見直された。

関連する職場の制度との区別

・一般健康診断:労働安全衛生法に基づく事業者の実施義務。疾病の早期発見(二次予防)に関わる。 ・ストレスチェック制度:常時50人以上の労働者を使用する事業場で実施が義務。メンタルヘルス不調の未然防止が主目的。 ・特定健康診査・特定保健指導:高齢者の医療の確保に関する法律に基づき、医療保険者が40〜74歳を対象に実施するメタボリックシンドロームに着目した健診・保健指導。

高血圧の生活習慣修正

減塩(食塩6g/日未満)、野菜・果物の積極的摂取、適正体重の維持、有酸素運動を中心とした定期的な運動、節酒、禁煙などが基本となる。これらはTHPの各措置と重なる。

POINT

・THPは労働安全衛生法に基づく職場の健康づくりで、心身両面の健康保持増進(一次予防)が目的。 ・内容は運動指導、栄養指導、保健指導、メンタルヘルスケア、口腔保健指導など非薬物的な取り組み。 ・薬の処方などの治療行為は含まれず、医療機関の主治医が担う。 ・2020年改正でポピュレーションアプローチ(集団への働きかけ)の視点が強化された。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。