「眠れない」の奥にあるもの―中途覚醒からうつ病を見抜く次のひと言
第99回医師国家試験 A問題 第4問
国試問題にチャレンジ
43歳の女性。職場の産業医からの紹介状を持参して来院した。紹介状によると,主訴は不眠で,上司によれば業務はとどこおりなく遂行できているが,このところ口数が少なくなっており,はなはだ暗い雰囲気にみえるとのことである。診察時の最初の質問として「一番お困りのことは?」と訊ねたところ,患者は「夜中に目が覚めやすいことです」と答えた。 この後に続ける質問として最も適切なのはどれか。
- a.職場で悩みごとはありませんか。
- b.昼間の体調やご気分はいかがですか。
- c.ご自分ではどんな病気だとお感じですか。
- d.上司はあなたが受診することをご存知ですか。
- e.ご家族やご親戚で精神科を受診された方はいませんか。
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
不眠、特に中途覚醒や早朝覚醒を訴える中年患者で、周囲から口数の減少や暗い雰囲気が指摘されている場合は、身体症状を前面に出したうつ病を念頭に置く必要があります。医療面接では、開放型質問で主訴を聞いたあと、まず主訴を掘り下げて随伴症状を確認するのが基本であり、「昼間の体調やご気分はいかがですか」は日中の身体状態と気分・意欲、日内変動を抵抗感なく引き出せる最適な質問です。職場の悩み、解釈モデル、上司への告知、家族歴はいずれも大切な情報ですが、主訴の直後に尋ねる優先度は低く、症状の全体像を把握したあとで確認します。うつ病を疑った際には自殺念慮の確認も欠かせず、「眠れない」という訴えの奥にある気分の変化に気づく問診力は、どの診療科でも役立つ基本的な臨床能力です。
解答・解説
正解はbです
所見の整理
・43歳女性。産業医からの紹介で受診し、主訴は不眠。 ・上司によると、仕事はこなせているが、最近口数が減り、非常に暗い雰囲気に見える。 ・本人に「一番困っていること」を尋ねると「夜中に目が覚めやすい」(中途覚醒)と答えた。
背景にある病態の見立て
中年期の不眠、特に中途覚醒や早朝覚醒は、うつ病で非常に頻度の高い睡眠障害である。加えて、周囲から口数の減少や暗い雰囲気(抑うつ気分・精神運動抑制を示唆する変化)が指摘されている。一方、本人は不眠という身体的な訴えを前面に出しており、気分の落ち込みを自ら語っていない。うつ病の患者は、抑うつ気分よりも不眠・倦怠感・食欲低下などの身体症状を主訴として受診することが多い。したがって本例では、不眠が単独の睡眠障害なのか、うつ病の一症状なのかを見極めることが次の課題となる。
設問の考え方
医療面接では、開放型の質問で主訴を引き出したら、次はその主訴を掘り下げ、関連する症状を広げて確認していくのが基本の流れである。本例では、不眠の影響としての日中の状態(倦怠感、集中力、意欲)と、うつ病の中核症状である気分の状態を同時に確かめる質問が最も適切である。しかもそれを「昼間の体調や気分」という答えやすい開放型の形で尋ねれば、患者に「精神的な病気を疑われている」という抵抗感を与えずに、抑うつ気分・興味の喪失・日内変動(朝に症状が重く夕方に軽くなる)などの情報を引き出すことができる。心理的原因、解釈モデル、周囲への告知、家族歴などは、いずれも面接のどこかで確認してよい事項だが、主訴を掘り下げる前に尋ねる優先度は低い。
選択肢考察
- ×a. 職場で悩みごとはありませんか。
職場でのストレスなど心理的な誘因を尋ねる質問であり、面接の中では確認すべき内容である。しかし主訴(中途覚醒)の性質や随伴症状をまだ把握していない段階で原因探しに入るのは順序が早い。また、答えが「はい」か「いいえ」に限られやすい閉鎖型の質問であり、患者が構えてしまい情報が得にくい。まず症状の全体像を明らかにし、そのうえで誘因を聞くのが適切である。
- ○b. 昼間の体調やご気分はいかがですか。
主訴の不眠から自然につながる質問で、日中の眠気・倦怠感・集中力低下などの身体面と、抑うつ気分・意欲低下・興味の喪失といった気分面をまとめて尋ねることができる。開放型の質問であるため患者が自由に語りやすく、精神的な症状を直接問う抵抗感も少ない。うつ病に特徴的な気分の日内変動(朝方に悪く夕方にかけて軽快する)を把握する糸口にもなる。不眠がうつ病の一症状かどうかを見極めるうえで、この時点で最も有用な質問である。
- ×c. ご自分ではどんな病気だとお感じですか。
患者自身が症状をどう理解しているか(解釈モデル)を尋ねる質問である。患者中心の医療面接では大切な項目で、不安や期待を把握し治療方針の共有に役立つ。しかし通常は、症状についての情報収集がある程度進んだ面接の後半に尋ねるものであり、主訴を聞いた直後に続ける質問としては最適ではない。
- ×d. 上司はあなたが受診することをご存知ですか。
紹介状には上司からの情報が含まれているため、職場との情報共有や守秘義務の範囲を確認する意味はある。しかしこれは診断に直接かかわる情報ではなく、主訴を聞いた直後に尋ねる必要はない。また患者によっては職場から監視されているような印象を受け、信頼関係の形成を妨げるおそれもある。
- ×e. ご家族やご親戚で精神科を受診された方はいませんか。
気分障害(うつ病・双極性障害)には家族集積性があり、家族歴は精神科診療で重要な情報である。しかし主訴を聞いたばかりの段階で、本人の症状を確認する前に家族の精神科受診歴を尋ねるのは順序が不適切である。精神疾患を前提としているような印象を与え、患者の抵抗感を招くおそれもある。家族歴は現病歴を十分に聴取した後で確認する。
医療面接の基本的な流れ
1. 導入:挨拶、自己紹介、本人確認。 2. 主訴の聴取:「今日はどうされましたか」「一番お困りのことは」などの開放型質問で始める。 3. 現病歴の聴取:主訴について、いつから・どのように・程度・経過・増悪寛解因子・随伴症状を掘り下げる。はじめは開放型質問、必要に応じて焦点を絞った質問、最後に閉鎖型質問で確認する。 4. 既往歴、家族歴、生活歴・社会歴(職業、ストレス要因など)。 5. 解釈モデル(患者の考え・不安・期待)の確認と要約。
うつ病の症状(DSM-5の大うつ病性障害の診断項目)
以下のうち5つ以上が2週間以上ほぼ毎日続き、①または②のいずれかを含むこと。 ①抑うつ気分、②興味または喜びの著しい減退、③体重・食欲の変化、④不眠または過眠、⑤精神運動焦燥または制止、⑥易疲労性・気力の減退、⑦無価値感・過剰な罪責感、⑧思考力・集中力の減退や決断困難、⑨死についての反復思考・自殺念慮・自殺企図。
うつ病の特徴的な所見
・睡眠障害:入眠困難より中途覚醒や早朝覚醒が特徴的とされる。 ・日内変動:朝に最も調子が悪く、夕方から夜にかけて軽快する。 ・身体症状が前景に出る例(いわゆる仮面うつ病)が少なくなく、不眠・倦怠感・頭痛・食欲不振などを主訴に一般診療科を受診することが多い。 ・問診では、自殺念慮の有無を必ず確認する。直接尋ねても自殺を誘発することはなく、むしろ評価と介入の機会になる。
POINT
・医療面接は、開放型質問で主訴を聞く → 主訴を掘り下げ随伴症状を確認 → 誘因・既往歴・家族歴・解釈モデル、という順序が基本。 ・中途覚醒・早朝覚醒は、うつ病を疑う手がかりになる。 ・うつ病は身体症状(不眠・倦怠感など)を主訴に受診することが多く、日中の気分・意欲・日内変動を確認する。 ・解釈モデル、家族歴、職場の事情はいずれも重要だが、主訴の直後に聞く優先度は低い。
