下顎挙上もバッグ換気も効かない―深昏睡の患者に「まず」選ぶ確実な気道確保
第120回医師国家試験 F問題 第70問(連問)
国試問題にチャレンジ
連問の共通文
次の文を読み,70~72の問いに答えよ。 20歳台の女性。意識障害のため救急車で搬入された。 現病歴:自宅で倒れているのを友人が発見し,呼びかけても反応が乏しいため救急車を要請した。病院へ向かう途中で全身けいれんを認めたが,病院到着時は治まっていた。 既往歴:不明 生活歴:不明 現症:意識レベルはJCSⅢ-100。体温36.7℃。心拍数102/分,整。血圧90/50mmHg。呼吸数28/分。SpO2 89%(マスク5L/分酸素投与下)。 舌根沈下が強く下顎挙上してもSpO2は改善しない。バッグバルブマスクによる換気も不十分である。
この時点でまず行うのはどれか。
- a.気管挿管
- b.気管切開術
- c.声門上器具挿入
- d.輪状甲状靱帯切開
- e.非侵襲的陽圧換気〈NPPV〉
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
意識障害の救急初療では、原因検索より先にA(気道)→B(呼吸)→C(循環)の安定化を優先します。下顎挙上などの用手的気道確保やバッグバルブマスク換気が無効な深昏睡の患者では、気道の開通・陽圧換気・誤嚥防止を同時に達成できる気管挿管が、まず行うべき確実な気道確保です。声門上器具は挿管困難時の救済手段、輪状甲状靱帯切開は挿管も声門上器具も無効で酸素化できないCICO時の最終手段、気管切開は待機的処置であり、NPPVは意識障害や誤嚥リスクのある患者には適応外です。気道確保の手段を段階的に位置づけて理解しておくことは、中毒やけいれんなど原因を問わず、救急現場で迷わず行動するための土台になります。
解答・解説
正解はaです
所見の整理
20歳台の女性が自宅で倒れているところを発見され、搬送中に全身けいれんを起こした。来院時の状態をABCDEアプローチ(A:気道、B:呼吸、C:循環、D:中枢神経、E:体温・環境)で整理する。 A(Airway):舌根沈下が強く、下顎挙上という用手的気道確保を行ってもSpO2が上がらない。上気道の開通が保てていない。 B(Breathing):呼吸数28/分と頻呼吸で、マスク5L/分の酸素投与下でもSpO2 89%と低酸素血症が続いている。さらにバッグバルブマスク(BVM)で換気を補助しても十分に換気できない。 C(Circulation):心拍数102/分の頻脈、血圧90/50mmHgと若年女性としても低めで、軽い循環不全がある。 D(Dysfunction of CNS):JCSⅢ-100(刺激で払いのける動作はするが開眼しない)という深い昏睡状態で、けいれんも起こしている。 E(Environment):体温36.7℃で、高体温・低体温はない。
何を優先するか
意識障害の原因(薬物中毒、てんかん、頭蓋内病変、代謝異常など)はこの段階ではまだわからない。しかし救急初療では原因検索より先に、生命維持に直結するA→B→Cの安定化を行うのが原則である。本例ではAとBがともに破綻しており、用手的気道確保もBVM換気も有効でない。深昏睡(一般にGCS 8点以下が目安)で自ら気道を守れないうえ、けいれん後で嘔吐・誤嚥の危険も高い。したがって、確実に気道を確保し、陽圧換気と誤嚥防止を同時に達成できる方法を直ちに選ぶ必要がある。 救急外来で蘇生にあたる医師が最初に選ぶ確実な気道確保(definitive airway)は気管挿管である。声門上器具は挿管困難時のつなぎ(救済手段)、輪状甲状靱帯切開は挿管も声門上器具も無効で酸素化できない状況(CICO:cannot intubate, cannot oxygenate)での最終手段、気管切開は待機的な処置、と段階を分けて理解しておくことが本問のポイントである。
選択肢考察
- ○a. 気管挿管
チューブを声門を越えて気管内に留置するため、舌根沈下による上気道閉塞の影響を受けずに確実に換気でき、高濃度酸素の投与も可能になる。カフで気管を密閉するので、胃内容物の誤嚥も防げる。深昏睡で気道反射が低下し、用手的気道確保やBVM換気が無効な本例では、まず行うべき確実な気道確保である。侵襲があり、低酸素・低血圧の患者では導入時に状態が悪化する危険もあるため、準備(吸引・酸素化・循環の確認)を整えて実施する。挿管後は人工呼吸で換気を管理でき、後に明らかになる薬物中毒の治療(呼吸性アシドーシスの回避など)にも役立つ。
- ×b. 気管切開術
頸部を切開して気管に孔を開ける手術で、準備と時間を要し出血などの合併症もある。気管挿管による人工呼吸が長期化する場合や、上気道の器質的な閉塞が持続する場合などに待機的に行う処置であり、低酸素が進行している緊急時に最初に選ぶ方法ではない。
- ×c. 声門上器具挿入
声門上器具(ラリンゲアルマスクなど)は喉頭の上に留置して換気する器具で、挿入が比較的容易なため、心肺停止時や気管挿管が困難なときの一時的な気道確保(救済手段)として有用である。しかし、気管内を密閉しないので誤嚥を確実には防げず、換気の確実性も気管挿管に劣る。意識障害が長引くことが予想され、誤嚥の危険も高い本例で、救急外来の医師がまず選ぶ方法ではない。挿管が不成功だった場合に次に試みる手段と位置付けられる。
- ×d. 輪状甲状靱帯切開
甲状軟骨と輪状軟骨の間にある輪状甲状靱帯を切開して気道を確保する外科的気道確保である。気管挿管も声門上器具も不成功で酸素化できないCICOの状況で行う最終手段であり、侵襲も大きい。本例ではまだ気管挿管を試みておらず、最初に行う処置ではない。
- ×e. 非侵襲的陽圧換気〈NPPV〉
NPPVはマスクを介して陽圧をかける換気法で、患者が自ら気道を保ち、ある程度協力できることが前提となる。深い意識障害、上気道の閉塞、気道分泌物や嘔吐による誤嚥の危険がある場合は適応外(禁忌)である。本例はBVMですら換気が不十分であり、マスクによる陽圧換気の延長にあるNPPVで改善は期待できず、胃への送気で嘔吐・誤嚥を招くおそれもある。
気道確保の段階
1. 用手的気道確保:頭部後屈あご先挙上、下顎挙上(頸椎損傷が疑われるときは下顎挙上)。 2. 補助器具:経口・経鼻エアウェイで舌根沈下を補助し、BVMで換気する。 3. 確実な気道確保:気管挿管。意識障害でGCS 8点以下、気道の保護ができない、酸素化・換気が保てない、今後の悪化が予想される、といった場合が適応となる。 4. 救済手段:挿管困難時は声門上器具で酸素化を維持する。 5. 外科的気道確保:挿管も声門上器具も無効で酸素化できない(CICO)ときは輪状甲状靱帯切開(穿刺)を行う。 6. 気管切開:長期人工呼吸管理などで待機的に行う。
NPPVの主な適応と禁忌
適応はCOPDの急性増悪、心原性肺水腫など、意識が保たれ気道を自分で守れる患者の呼吸不全である。意識障害、気道確保困難、嘔吐・誤嚥の危険、気道分泌物が多い、循環動態が不安定、顔面の外傷などは禁忌または適応外となる。
若年者の意識障害とけいれん
若年者が倒れているところを発見され、けいれんを伴う場合は、薬物の過量服薬、てんかん、頭部外傷、脳動静脈奇形などの頭蓋内病変、低血糖などの代謝異常を鑑別する。ただし初療ではまずABCの安定化を優先し、原因検索はそれと並行して進める。
POINT
・意識障害の初療は原因検索より先にA(気道)→B(呼吸)→C(循環)の安定化を行う。 ・用手的気道確保やBVMで換気できない深昏睡の患者には、まず気管挿管で確実な気道確保を行う。 ・声門上器具は挿管困難時の救済手段、輪状甲状靱帯切開はCICO時の最終手段、気管切開は待機的処置である。 ・NPPVは意識障害・気道閉塞・誤嚥リスクのある患者には使わない。
