視野の「欠け方」は病変の住所―輪状暗点が語る網膜色素変性
第117回医師国家試験 F問題 第11問
国試問題にチャレンジ
疾患と視野異常の組合せで正しいのはどれか。
- a.緑内障 ―― 中心暗点
- b.視神経炎 ―― 求心性狭窄
- c.加齢黄斑変性 ―― 弓状暗点
- d.網膜色素変性 ―― 輪状暗点
- e.中心性漿液性網脈絡膜症 ―― らせん状視野
対話形式の解説
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ドクターまとめ
視野異常のパターンは、網膜・視神経・視路のどこが障害されたかを反映します。網膜色素変性では杆体の多い中間周辺部から視細胞が変性するため、まず輪状暗点が現れ、進行とともに求心性視野狭窄から管状視野へ移行し、夜盲や網膜電図の減弱を伴います。緑内障は神経線維束に沿ったBjerrum暗点や鼻側階段が特徴で中心視野は末期まで保たれやすく、視神経炎・加齢黄斑変性・中心性漿液性網脈絡膜症は中心暗点を呈し、らせん状視野は心因性視覚障害を示唆します。中心暗点では相対的瞳孔求心路障害や中心フリッカー値が視神経疾患、変視症やOCT所見が黄斑疾患の手がかりになります。「どこが壊れるとどこが欠けるか」という解剖に基づいた理解は、視野検査の解釈と病変部位の推定に欠かせない土台です。
解答・解説
正解はdです
視野異常のパターンは、網膜・視神経・視路のどこが障害されているかを反映するため、代表的な疾患と典型的な視野所見を対応させて覚えることが重要である。 整理の軸は次の3つである。 (1) 視野の中心が欠ける(中心暗点):黄斑部(網膜の中心で、視力を担う部分)の病変や、黄斑からの神経線維(乳頭黄斑線維束)を侵す視神経疾患で生じる。加齢黄斑変性、中心性漿液性網脈絡膜症、視神経炎などが代表で、多くは視力低下を伴う。 (2) 神経線維の走行に沿った欠損(弓状暗点・鼻側階段):網膜神経線維は視神経乳頭から上下に弓状に走行し、耳側の水平縫線で上下が分かれる。緑内障ではこの線維束単位で障害されるため、弓状の暗点や鼻側の段差状の欠損が生じる。 (3) 周辺から中心へ向かう狭窄(輪状暗点→求心性視野狭窄):網膜色素変性では、杆体(暗所で働く視細胞)が多い中間周辺部から障害が始まるため、まず輪状の暗点が現れ、進行とともに周辺視野が失われて求心性に狭窄する。 このほか、検査中に視野が徐々に狭くなって渦巻き状に記録される「らせん状視野」は器質的疾患では説明できず、心因性視覚障害(ヒステリー)などでみられる特徴的な所見である。 以上から、疾患と視野異常の組合せとして正しいのは、網膜色素変性と輪状暗点である。
選択肢考察
- ×a. 緑内障 ―― 中心暗点
緑内障は網膜神経節細胞とその軸索(網膜神経線維)が進行性に障害される視神経症である。視野異常は神経線維束の走行に一致して現れ、初期には固視点近くの傍中心暗点やBjerrum暗点(固視点の上方または下方を弓状に取り巻く暗点、弓状暗点)、鼻側階段(水平経線を境に鼻側の上下で感度が段差状に異なる)がみられる。進行すると求心性の視野狭窄となり、末期には中心部と耳側にわずかな視野が残る。中心視野は末期まで比較的保たれるのが特徴であり、中心暗点は典型的な所見ではない。
- ×b. 視神経炎 ―― 求心性狭窄
視神経炎(特発性視神経炎や多発性硬化症・視神経脊髄炎に伴うものなど)では、視力に直結する乳頭黄斑線維束が障害されやすく、急激な視力低下と中心暗点(あるいは中心暗点がMariotte盲点とつながった盲点中心暗点)が典型的である。眼球運動時痛、相対的瞳孔求心路障害(RAPD)、中心フリッカー値の低下を伴う。求心性狭窄は網膜色素変性や緑内障の進行例でみられる所見であり、視神経炎の典型像ではない。
- ×c. 加齢黄斑変性 ―― 弓状暗点
加齢黄斑変性は、加齢に伴って黄斑部に脈絡膜新生血管(滲出型)や網膜色素上皮・視細胞の萎縮(萎縮型)が生じる疾患である。黄斑が障害されるため、中心暗点、変視症(ものがゆがんで見える)、視力低下が主症状となる。変視症の検出にはAmslerチャートが用いられる。弓状暗点は神経線維束の障害を示す所見で、緑内障に特徴的である。
- ○d. 網膜色素変性 ―― 輪状暗点
網膜色素変性は、視細胞(主に杆体、のちに錐体)が遺伝的に進行性に変性する疾患である。杆体の密度が高い中間周辺部(固視点から約20〜30度付近)から障害が始まるため、初期には中心部と最周辺部が残り、その間が輪状に欠ける輪状暗点が特徴的にみられる。進行すると暗点が周辺側へ広がって周辺視野が失われ、求心性視野狭窄となり、最終的に中心部のみが残る(管状視野)。症状としては夜盲で始まることが多く、眼底には骨小体様色素沈着、網膜血管の狭細化、視神経乳頭の蝋様蒼白がみられ、網膜電図(ERG)は早期から減弱〜消失する。
- ×e. 中心性漿液性網脈絡膜症 ―― らせん状視野
中心性漿液性網脈絡膜症は、働き盛りの男性に多く、ストレスやステロイド使用が誘因となって黄斑部に漿液性網膜剝離が生じる疾患である。黄斑が障害されるため、比較的中心暗点(中心部がかすんで暗く見える)、変視症、小視症(ものが小さく見える)が主症状で、視力低下は軽度にとどまることが多い。らせん状視野は、Goldmann視野計などで測定中に視野がどんどん狭くなり渦巻き状に記録されるもので、器質的疾患では説明できず、心因性視覚障害でみられる所見である。
主な視野異常と代表的疾患
・中心暗点:視神経炎、Leber遺伝性視神経症、中毒性視神経症(エタンブトールなど)、加齢黄斑変性、中心性漿液性網脈絡膜症、黄斑円孔 ・盲点中心暗点(中心暗点とMariotte盲点がつながったもの):視神経炎、Leber遺伝性視神経症など ・弓状暗点(Bjerrum暗点)・鼻側階段:緑内障 ・輪状暗点:網膜色素変性(初期〜中期) ・求心性視野狭窄:網膜色素変性、緑内障の進行例 ・らせん状視野・管状視野(距離を変えても視野の大きさが変わらない):心因性視覚障害 ・両耳側半盲:視交叉の障害(下垂体腺腫、頭蓋咽頭腫など) ・同名半盲:視交叉より後方の視路の障害(脳梗塞、脳腫瘍など)。後頭葉障害では黄斑回避を伴うことがある
中心暗点の2大原因
中心暗点は、(1) 乳頭黄斑線維束を侵す視神経疾患と、(2) 黄斑部の網膜・脈絡膜疾患に大別される。前者ではRAPDや中心フリッカー値の低下がみられるのに対し、後者では変視症を伴いやすく、光干渉断層計(OCT)や眼底検査で黄斑部の異常が確認される点が鑑別に役立つ。
網膜色素変性の要点
夜盲、輪状暗点から求心性視野狭窄への進行、ERGの減弱〜消失(平坦化)が三本柱である。合併症として白内障(後嚢下白内障)や黄斑浮腫がみられる。
POINT
・網膜色素変性:夜盲で始まり、輪状暗点→求心性視野狭窄へ進行する。ERGは早期から減弱する。 ・緑内障:Bjerrum暗点(弓状暗点)、鼻側階段。中心視野は末期まで比較的保たれる。 ・視神経炎・加齢黄斑変性・中心性漿液性網脈絡膜症:中心暗点。 ・らせん状視野・管状視野:心因性視覚障害。
