瞳孔の奥が白く光る―2歳児の白色瞳孔で絶対に見逃せない病気
第115回医師国家試験 A問題 第67問
国試問題にチャレンジ
2歳の男児。左眼の瞳孔内が白いことに母親が気付いて来院した。発育に問題なく,普段の生活で見え方に不自由なさそうである。 考えられる疾患はどれか。2つ選べ。
- a.先天白内障
- b.先天緑内障
- c.瞳孔膜遺残
- d.先天角膜混濁
- e.網膜芽細胞腫
対話形式の解説
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ドクターまとめ
白色瞳孔は、瞳孔より奥にある水晶体・硝子体・網膜の白い病変によって生じる所見で、選択肢の中では先天白内障と網膜芽細胞腫が該当します。先天角膜混濁や先天緑内障は角膜が濁るため黒目全体がかすんで見え、瞳孔膜遺残の組織は虹彩と同じ茶褐色なので、いずれも「瞳孔内が白い」所見とは区別されます。網膜芽細胞腫はRB1遺伝子の異常による小児の悪性腫瘍で、生命にかかわるため小児の白色瞳孔ではまず除外すべき疾患であり、先天白内障は放置すると形態覚遮断弱視をきたすため早期治療が重要です。片眼性の病変では子どもが健眼で生活できるため症状を訴えにくく、「見え方に不自由なさそう」でも安心できません。光の通り道に沿って病変部位を考える習慣は、白色瞳孔に限らず眼科疾患の鑑別全般に役立ちます。
解答・解説
正解はa, eです
所見の整理
・2歳の男児 ・母親が左眼の「瞳孔の中」が白いことに気付いた → 片眼性の白色瞳孔(leukocoria) ・発育は正常 → 全身疾患の一症状というより、眼局所の病変を考える ・日常生活で見え方に困っていない様子 → 痛みなどの自覚症状はなく、反対眼(右眼)の視機能は保たれていると推測される
考え方
白色瞳孔とは、本来黒く見える瞳孔の奥が白く見える状態であり、瞳孔より後方の光の通り道(水晶体・硝子体・網膜)に白い混濁や病変がある場合に生じる。光は角膜 → 前房 → 瞳孔 → 水晶体 → 硝子体 → 網膜の順に通るので、前から順に病変部位を考えると整理しやすい。 ・角膜や前房の混濁:「黒目」全体(角膜)が濁って見え、瞳孔の内側だけが白く見えるわけではない。 ・瞳孔そのものの異常(瞳孔膜遺残):瞳孔領に張る組織は虹彩と同じ茶褐色であり、白くはない。 ・水晶体の混濁:先天白内障。 ・硝子体の混濁:第一次硝子体過形成遺残など(本問の選択肢にはない)。 ・網膜の白色病変:網膜芽細胞腫、Coats病、未熟児網膜症の瘢痕期など。 したがって、選択肢の中で「瞳孔内が白い」を説明できるのは先天白内障と網膜芽細胞腫である。 片眼性の病変では、健眼でものを見るため、小児は不自由そうなそぶりを見せないことが多い。本症例の「見え方に不自由なさそう」は患眼の視力が保たれていることを意味せず、家族が写真やふとした角度で瞳孔の白さに気付いて受診する経過は、片眼性の白色瞳孔として典型的である。小児の白色瞳孔では、生命にかかわる網膜芽細胞腫を必ず念頭に置いて眼底検査を行う。
選択肢考察
- ○a. 先天白内障
生まれつき水晶体が混濁している状態である。水晶体は瞳孔の直後にあるため、混濁が強いと瞳孔の内側が白く見え、白色瞳孔の代表的な原因となる。原因には遺伝性、特発性のほか、妊娠中の母体の風疹感染(先天性風疹症候群)、ガラクトース血症などの代謝異常がある。片眼性で発育に問題がない本症例でも十分に考えられる。視覚の発達期に網膜へ鮮明な像が届かないと形態覚遮断弱視となるため、視力に影響する混濁は早期の手術と、その後の屈折矯正・弱視訓練が必要である。
- ×b. 先天緑内障
発達緑内障ともいい、隅角の形成異常で房水が流出しにくくなり眼圧が上がる疾患である。乳幼児の眼球壁は柔らかいため、高眼圧により眼球と角膜が拡大し(牛眼)、角膜浮腫による角膜混濁や流涙・羞明・眼瞼けいれんがみられる。角膜が濁って黒目全体がかすむことはあるが、瞳孔の内側だけが白く見える白色瞳孔の所見とは異なる。
- ×c. 瞳孔膜遺残
胎生期に瞳孔をふさいでいる瞳孔膜が完全に吸収されずに残ったもので、虹彩表面から瞳孔領にかけて糸状・膜状の組織が張って見える。この組織は虹彩と同じ茶褐色であり、瞳孔内が白く見えることはない。多くは視力に影響せず、経過観察でよい。
- ×d. 先天角膜混濁
角膜そのものが生まれつき濁っている状態で、Peters異常などの前眼部形成異常、先天緑内障による角膜浮腫、ムコ多糖症などの代謝疾患、分娩外傷などが原因となる。混濁は瞳孔より手前の角膜にあるため、黒目(角膜)が白っぽく濁って見え、瞳孔の奥が白く見える白色瞳孔とは区別される。
- ○e. 網膜芽細胞腫
網膜に発生する小児の悪性腫瘍で、多くは5歳までに、特に乳幼児期に発見される。白色の腫瘍が網膜から硝子体側へ隆起・増大すると、瞳孔を通して白い反射がみえ、白色瞳孔が最も多い初発症状となる(次いで斜視)。RB1がん抑制遺伝子の異常が原因で、遺伝性のものは両眼性・多発性になりやすい。眼底検査で白色隆起病変を確認し、CTや超音波で腫瘍内の石灰化を認めることが診断に役立つ。生命予後にかかわるため、小児の白色瞳孔では最初に除外すべき疾患である。
白色瞳孔をきたす主な疾患
・網膜芽細胞腫:小児の眼内悪性腫瘍で最多。RB1遺伝子(13番染色体長腕13q14)の異常。両眼性は遺伝性が多い。腫瘍内石灰化が特徴。治療は大きさや進展度に応じて眼球摘出、化学療法、局所療法(レーザー光凝固、冷凍凝固など)を選択する。遺伝性例では骨肉腫などの二次がんに注意する。 ・先天白内障:両眼性・片眼性がある。原因は遺伝性、子宮内感染(風疹など)、代謝異常(ガラクトース血症など)、染色体異常(Down症候群など)。 ・第一次硝子体過形成遺残:片眼性で小眼球を伴うことが多い。水晶体後方に白色の線維血管性組織がみられる。 ・Coats病:網膜血管の異常により網膜内・網膜下に黄白色の滲出物がたまる。男児・片眼に多い。 ・未熟児網膜症の瘢痕期:線維血管組織が増殖し網膜剝離をきたしたもの。 ・その他:眼トキソカラ症、網膜剝離、コロボーマなど。
小児の片眼性視覚障害の特徴
片眼に病変があっても健眼で生活できるため、本人の訴えや日常の行動から異常に気付かれにくい。白色瞳孔のほか、斜視(視力の悪い眼が外れる)がきっかけで発見されることが多い。家族の写真でフラッシュの反射が片眼だけ白く写ることで気付かれる例もある。
弱視との関連
視覚の感受性期(おおむね乳幼児期から8歳ごろまで)に網膜へ鮮明な像が届かないと、器質的異常を取り除いても視力が十分に発達しない弱視となる。先天白内障では早期発見・早期治療が重要である。
POINT
・白色瞳孔は瞳孔より後方(水晶体・硝子体・網膜)の白色病変で生じる。 ・小児の白色瞳孔ではまず網膜芽細胞腫を疑い、眼底検査を行う。次いで先天白内障を考える。 ・角膜の混濁(先天角膜混濁、先天緑内障)は黒目全体が濁り、白色瞳孔とは区別する。 ・瞳孔膜遺残は虹彩と同色で、白くは見えない。 ・片眼性病変では健眼で見えるため、小児は不自由を訴えにくい。
