眼科救急の初手を間違えない―病態と薬の作用を結びつける
第115回医師国家試験 D問題 第3問
国試問題にチャレンジ
眼科救急疾患と初期対応の組合せで正しいのはどれか。
- a.眼窩蜂巣炎 ―― 炭酸脱水酵素阻害薬の内服
- b.急性涙嚢炎 ―― アトロピン点眼
- c.急性ぶどう膜炎 ―― ピロカルピン点眼
- d.裂孔原性網膜剝離 ―― 副腎皮質ステロイド点眼
- e.網膜中心動脈閉塞症 ―― 眼球マッサージ
対話形式の解説
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ドクターまとめ
眼科救急の初期対応は、疾患の病態と薬の作用を結びつけて考えると整理できます。網膜中心動脈閉塞症は片眼の突然の無痛性視力低下を来し、網膜が虚血に弱いため、眼球マッサージ、前房穿刺、炭酸脱水酵素阻害薬による眼圧下降などを直ちに試みます。眼窩蜂巣炎や急性涙嚢炎は細菌感染なので抗菌薬の全身投与が基本で、急性ぶどう膜炎はステロイド点眼と散瞳薬で治療し、縮瞳薬のピロカルピンは虹彩後癒着を助長するため使いません。裂孔原性網膜剝離は物理的な病態であり、光凝固や手術が必要です。また網膜中心動脈閉塞症は塞栓性疾患として塞栓源検索や巨細胞性動脈炎の除外も重要であり、眼の救急を全身疾患の視点で捉える姿勢が臨床で役立ちます。
解答・解説
正解はeです
テーマ
眼科の救急疾患それぞれについて、最初に行うべき対応を正しく組み合わせる問題である。各薬剤の作用(眼圧下降・散瞳・縮瞳・抗炎症)を理解し、それが疾患の病態に合っているかを考えれば解ける。
各疾患の病態と初期対応の要点
・眼窩蜂巣炎・急性涙嚢炎:細菌感染による化膿性炎症であり、抗菌薬(主に全身投与)が治療の中心である。眼圧下降薬や散瞳薬は病態に関係しない。 ・急性ぶどう膜炎(前部ぶどう膜炎・虹彩毛様体炎):眼内の炎症であり、副腎皮質ステロイド点眼で炎症を抑え、散瞳薬で虹彩後癒着を防ぐ。縮瞳薬は逆効果である。 ・裂孔原性網膜剝離:網膜の裂孔から液化硝子体が網膜下に入り込んで網膜がはがれる物理的な病態であり、薬物では治らず手術(または裂孔周囲の光凝固)が必要である。 ・網膜中心動脈閉塞症:網膜の血流が途絶する疾患で、網膜は虚血に非常に弱いため一刻を争う。眼圧を下げて網膜の灌流圧を上げ、塞栓を末梢へ移動させることを狙って眼球マッサージなどを直ちに行う。 以上より、正しい組合せは網膜中心動脈閉塞症と眼球マッサージである。
選択肢考察
- ×a. 眼窩蜂巣炎 ―― 炭酸脱水酵素阻害薬の内服
眼窩蜂巣炎は眼窩隔膜より後方の眼窩内軟部組織に生じる急性化膿性炎症で、多くは副鼻腔炎(特に篩骨洞炎)からの波及による。眼瞼の発赤腫脹に加えて、眼球突出、眼球運動障害・眼球運動痛、視力低下を伴うことが眼瞼蜂巣炎(隔膜前蜂巣炎)との違いである。初期対応は造影CTなどで膿瘍の有無や副鼻腔病変を評価したうえでの抗菌薬の点滴静注であり、眼窩膿瘍や副鼻腔の膿貯留があれば外科的ドレナージを行う。炭酸脱水酵素阻害薬(アセタゾラミド)は房水産生を抑えて眼圧を下げる薬で、緑内障発作などに用いるものであり、感染症である眼窩蜂巣炎の初期対応ではないので誤りである。
- ×b. 急性涙嚢炎 ―― アトロピン点眼
急性涙嚢炎は、鼻涙管閉塞により涙嚢内に貯留した涙液に細菌が感染して起こる急性化膿性炎症で、内眼角下方(涙嚢部)の発赤・腫脹・圧痛を呈する。治療は抗菌薬の全身投与が基本で、膿瘍を形成すれば切開排膿を行い、炎症が落ち着いた後に涙嚢鼻腔吻合術などで閉塞を解除する。放置すると眼窩蜂巣炎などへ波及することがある。アトロピンは副交感神経遮断による散瞳・調節麻痺作用をもつ点眼薬で、涙嚢の感染には効果がなく、誤りである。
- ×c. 急性ぶどう膜炎 ―― ピロカルピン点眼
急性の前部ぶどう膜炎では、前房内の炎症によって虹彩が水晶体前面に癒着(虹彩後癒着)しやすい。癒着が瞳孔全周に及ぶと房水が後房から前房へ流れなくなり(瞳孔ブロック)、虹彩が前方に膨隆して眼圧が上昇する。治療は副腎皮質ステロイド点眼による消炎と、散瞳薬(トロピカミド・フェニレフリン、強い炎症ではアトロピン)による瞳孔の固定・毛様体筋の安静であり、眼圧上昇があれば眼圧下降薬を併用する。感染性ぶどう膜炎が疑われる場合は原因に応じた抗微生物薬を用いる。ピロカルピンは副交感神経刺激薬で縮瞳を起こし、虹彩と水晶体の接触面積を広げて虹彩後癒着を助長し、血液房水柵の破綻も強めるため禁忌的であり、誤りである。
- ×d. 裂孔原性網膜剝離 ―― 副腎皮質ステロイド点眼
裂孔原性網膜剝離は、網膜裂孔を通って液化した硝子体が網膜下に流入し、感覚網膜が網膜色素上皮からはがれる疾患である。飛蚊症や光視症が前駆し、視野欠損、黄斑に及ぶと急激な視力低下を来す。炎症性疾患ではないためステロイド点眼に治療効果はない。剝離を伴わない裂孔のみであれば網膜光凝固術で裂孔周囲を固め、剝離が生じていれば強膜内陥術(バックリング)や硝子体手術による復位が必要である。黄斑剝離前の手術が視力予後を左右するため、速やかに手術可能な施設へ紹介する。よって誤りである。
- ○e. 網膜中心動脈閉塞症 ―― 眼球マッサージ
網膜中心動脈閉塞症は、塞栓や血栓によって網膜中心動脈が閉塞し、片眼の突然の無痛性の高度視力低下を来す疾患である。網膜は虚血に弱く、発症からおおむね数時間以内に血流が再開しなければ不可逆的な障害となるため、直ちに初期対応を行う。眼球マッサージは、閉瞼した眼球を指で10秒前後圧迫しては急に離す操作を繰り返すもので、眼圧を変動・低下させて網膜の灌流圧を高め、塞栓をより末梢へ押し流すことを目的とする。同じ目的で前房穿刺、炭酸脱水酵素阻害薬(アセタゾラミド)の静注による眼圧下降、血管拡張薬の投与なども行われる。初期対応として正しい組合せである。
網膜中心動脈閉塞症(CRAO:central retinal artery occlusion)
・原因:頸動脈のアテローム性プラークや心房細動・弁膜症などに由来する塞栓が多い。高齢者では巨細胞性動脈炎(側頭動脈炎)も原因となるため、赤沈・CRPの確認が重要である。 ・症状:片眼の突然の無痛性視力低下(光覚弁〜手動弁程度まで低下することも多い)。患眼で相対的瞳孔求心路障害(RAPD)がみられる。 ・眼底所見:網膜の虚血性白濁と、中心窩だけが脈絡膜の色を透見して赤く見える桜実紅斑(cherry-red spot)。毛様網膜動脈が残っていれば、その灌流域だけ白濁を免れ視力が保たれることがある。 ・初期対応:眼球マッサージ、前房穿刺、炭酸脱水酵素阻害薬の静注、血管拡張薬など。いずれも効果のエビデンスは限られるが、時間との勝負であるため速やかに試みる。 ・全身管理:脳梗塞と同様の塞栓性疾患として扱い、頸動脈エコー、心電図・心エコーなどで塞栓源を検索し、脳卒中の予防を図る。
眼科で使う主な点眼薬の作用
・散瞳薬:アトロピン(副交感神経遮断、作用が強く長い)、トロピカミド(副交感神経遮断、短時間)、フェニレフリン(交感神経刺激)。ぶどう膜炎で虹彩後癒着の予防に使う。閉塞隅角眼では急性緑内障発作を誘発しうる。 ・縮瞳薬:ピロカルピン(副交感神経刺激)。急性閉塞隅角緑内障で隅角を開くために使う。ぶどう膜炎では禁忌的である。 ・眼圧下降薬:炭酸脱水酵素阻害薬(アセタゾラミドの内服・静注、ドルゾラミドなどの点眼)、β遮断薬、プロスタグランジン関連薬、高浸透圧薬(D-マンニトール静注)など。
その他の眼科救急
・急性閉塞隅角緑内障発作:高浸透圧薬・炭酸脱水酵素阻害薬・ピロカルピン点眼で眼圧を下げ、レーザー虹彩切開術や水晶体再建術で根治する。 ・化学外傷(特にアルカリ):受傷直後から大量の水で洗眼を続ける。 ・眼窩蜂巣炎:抗菌薬点滴、必要に応じてドレナージ。視神経障害・海綿静脈洞血栓症・髄膜炎に注意する。
POINT
・網膜中心動脈閉塞症は突然の片眼無痛性視力低下、桜実紅斑。初期対応は眼球マッサージ、前房穿刺、眼圧下降薬など(時間との勝負) ・眼窩蜂巣炎・急性涙嚢炎は抗菌薬の全身投与が基本 ・急性ぶどう膜炎はステロイド点眼+散瞳薬。ピロカルピン(縮瞳)は虹彩後癒着を助長するため使わない ・裂孔原性網膜剝離は手術(強膜内陥術・硝子体手術)、裂孔のみなら網膜光凝固 ・炭酸脱水酵素阻害薬は眼圧下降薬であり、緑内障発作や網膜中心動脈閉塞症で用いる
