「眼瞼下垂+瞳孔不同」は大きい側か小さい側か―交感・副交感で読み解く瞳孔異常
第117回医師国家試験 E問題 第5問
国試問題にチャレンジ
瞳孔異常をきたす原因と所見の組合せで誤っているのはどれか。
- a.急性緑内障発作 ―― 散瞳
- b.交感神経作動薬 ―― 散瞳
- c.Horner症候群 ―― 散瞳
- d.動眼神経麻痺 ―― 散瞳
- e.有機リン中毒 ―― 縮瞳
対話形式の解説
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医学生
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医学生まとめ
瞳孔の大きさは、副交感神経支配の瞳孔括約筋(縮瞳)と交感神経支配の瞳孔散大筋(散瞳)のバランスで決まり、交感神経優位や副交感神経の麻痺で散瞳、副交感神経優位や交感神経の麻痺で縮瞳となります。交感神経作動薬は散瞳、有機リン中毒はコリンエステラーゼ阻害による縮瞳、動眼神経麻痺は副交感神経線維の障害による散瞳、急性緑内障発作は括約筋の虚血性麻痺による中等度散瞳をきたします。Horner症候群は交感神経経路の障害で縮瞳となるため、「散瞳」との組合せは誤りです。眼瞼下垂を伴う瞳孔不同では、小さい側が患側で下垂が軽度ならHorner症候群、大きい側が患側で眼球運動障害を伴えば動眼神経麻痺と考え、後者では動脈瘤による圧迫を疑います。自律神経の原則から瞳孔所見を読み解く力は、脳卒中や中毒、頭蓋内圧亢進などの救急診療で危険なサインを見逃さないための基本となります。
解答・解説
正解はcです
瞳孔の大きさは、虹彩にある2種類の平滑筋のバランスで決まる。 ・瞳孔括約筋:瞳孔を縮める(縮瞳)。副交感神経支配で、Edinger-Westphal核から出た線維が動眼神経に乗って毛様体神経節に至り、そこで乗り換えて短毛様体神経として括約筋に達する。伝達物質はアセチルコリン(ムスカリン受容体)である。 ・瞳孔散大筋:瞳孔を広げる(散瞳)。交感神経支配で、視床下部から脳幹・頸髄を下行し、第1胸髄付近から出て上頸神経節で乗り換え、内頸動脈に沿って眼に達する。伝達物質はノルアドレナリン(α1受容体)である。 したがって、交感神経が優位になる(交感神経の刺激、または副交感神経の遮断・麻痺)と散瞳し、副交感神経が優位になる(副交感神経の刺激、または交感神経の遮断・麻痺)と縮瞳する。また、筋そのものが障害された場合は、括約筋の障害で散瞳、散大筋の障害で縮瞳となる。 各選択肢について、原因がどちらの神経・筋にどう作用するかを考えれば正誤を判定できる。Horner症候群は交感神経経路の障害であり、散大筋が働かなくなるため縮瞳となる。よって「Horner症候群 ― 散瞳」の組合せが誤りである。本問は「誤っているもの」を選ぶ形式である。
選択肢考察
- ×a. 急性緑内障発作 ―― 散瞳
正しい組合せである。急性緑内障発作(急性原発閉塞隅角症・緑内障)は、もともと隅角が狭い眼で、暗所や散瞳薬などにより瞳孔が中等度に開いたときに、虹彩根部が隅角をふさいで房水の流出が途絶え、眼圧が急上昇して起こる。激しい眼痛・頭痛、悪心・嘔吐、視力低下、毛様充血、角膜浮腫による角膜混濁を伴う。高眼圧によって虹彩の血流が障害され、瞳孔括約筋が虚血で麻痺するため、瞳孔は中等度散瞳の状態で固定し、対光反射が減弱・消失する。
- ×b. 交感神経作動薬 ―― 散瞳
正しい組合せである。交感神経作動薬(例:α1受容体刺激薬のフェニレフリン)は瞳孔散大筋を収縮させ、散瞳をきたす。眼底検査の際の散瞳薬として、副交感神経遮断薬(トロピカミドなど)とともに用いられる。なお、コカインやアンフェタミンなど交感神経系を刺激する薬物の中毒でも散瞳がみられる。
- ○c. Horner症候群 ―― 散瞳
誤った組合せであり、本問の正解である。Horner症候群は、視床下部から眼に至る交感神経経路のどこかが障害されて起こる。瞳孔散大筋が働かなくなるため患側は縮瞳し、瞳孔不同を生じる。散瞳がうまくできないため、暗所で健側の瞳孔が大きくなると左右差がより目立つ。ほかに、Müller筋(交感神経支配の瞼板筋)の麻痺による軽度の眼瞼下垂、瞼裂狭小、障害部位によっては患側顔面の発汗低下を伴う。原因として肺尖部腫瘍(Pancoast腫瘍)、Wallenberg症候群(延髄外側症候群)、内頸動脈解離などが重要である。
- ×d. 動眼神経麻痺 ―― 散瞳
正しい組合せである。動眼神経には瞳孔括約筋を支配する副交感神経線維が含まれるため、その麻痺により括約筋が働かなくなり患側は散瞳し、対光反射が減弱・消失する。明所で健側が縮瞳すると左右差がより目立つ。あわせて上眼瞼挙筋の麻痺による高度の眼瞼下垂と、外眼筋麻痺による外下方への眼位ずれ(複視)を伴う。副交感神経線維は動眼神経の表層を走るため、外から圧迫されると瞳孔異常が出やすく、散瞳を伴う動眼神経麻痺では内頸動脈-後交通動脈分岐部動脈瘤などの圧迫性病変をまず疑う。これに対し、糖尿病などによる虚血性の動眼神経麻痺では瞳孔が保たれることが多い。
- ×e. 有機リン中毒 ―― 縮瞳
正しい組合せである。有機リン(農薬などに含まれる)はアセチルコリンを分解するコリンエステラーゼを阻害するため、神経終末でアセチルコリンが蓄積し、ムスカリン作用・ニコチン作用が過剰となる。ムスカリン作用で瞳孔括約筋が強く収縮し、著明な縮瞳(針先瞳孔)をきたす。ほかに流涎、流涙、気道分泌増加、徐脈、下痢、発汗などのムスカリン症状と、筋線維束攣縮・筋力低下などのニコチン症状がみられる。治療にはアトロピンとプラリドキシム(PAM)が用いられる。
瞳孔を支配する神経と筋
・縮瞳:瞳孔括約筋/副交感神経(動眼神経経由)/アセチルコリン・ムスカリン受容体 ・散瞳:瞳孔散大筋/交感神経/ノルアドレナリン・α1受容体
散瞳をきたす主な原因
副交感神経遮断薬(アトロピン、トロピカミド)、交感神経刺激薬(フェニレフリン、コカイン、覚醒剤)、動眼神経麻痺、急性緑内障発作、瞳孔緊張症(Adie瞳孔)、外傷性散瞳、テント切痕ヘルニア(鉤ヘルニアによる動眼神経圧迫)
縮瞳をきたす主な原因
副交感神経刺激薬(ピロカルピン)、コリンエステラーゼ阻害(有機リン、サリン)、オピオイド(モルヒネなど)、Horner症候群、橋出血(両側の著明な縮瞳)、虹彩炎(炎症による括約筋の刺激)
Horner症候群と動眼神経麻痺の比較
・Horner症候群:患側縮瞳、軽度眼瞼下垂(Müller筋麻痺)、顔面発汗低下。暗所で瞳孔不同が目立つ。眼球運動は正常 ・動眼神経麻痺:患側散瞳、高度眼瞼下垂(上眼瞼挙筋麻痺)、眼球運動障害(外下方偏位)。明所で瞳孔不同が目立つ どちらも眼瞼下垂を伴う瞳孔不同だが、瞳孔の大きさが逆である点で区別できる。
Horner症候群の障害部位
1次ニューロン(視床下部〜脳幹・頸髄:Wallenberg症候群、頸髄病変)、2次ニューロン(胸髄〜上頸神経節:肺尖部腫瘍、頸部外傷・手術)、3次ニューロン(上頸神経節〜眼:内頸動脈解離、海綿静脈洞病変)に分けられる。
POINT
・交感神経(散大筋)優位で散瞳、副交感神経(括約筋)優位で縮瞳 ・Horner症候群=交感神経障害 → 縮瞳・軽度眼瞼下垂・顔面無汗 ・動眼神経麻痺=副交感神経障害 → 散瞳・高度眼瞼下垂・眼球運動障害(散瞳を伴えば動脈瘤による圧迫を疑う) ・急性緑内障発作は中等度散瞳で対光反射が消失する ・有機リン中毒はコリンエステラーゼ阻害で縮瞳(治療はアトロピン+PAM)
