右手首から始まる命の記録―トリアージタッグの「付け方」まで決まっている理由
第117回医師国家試験 E問題 第4問
国試問題にチャレンジ
トリアージタッグ〈識別札〉について誤っているのはどれか。
- a.傷病者識別のために使用する。
- b.我が国の規格は統一されている。
- c.装着はどの部位に付けても構わない。
- d.多数の傷病者が同時発生したときに使う。
- e.死亡している場合は黒色タッグを装着する。
対話形式の解説
ドクター
医学生
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医学生まとめ
トリアージタッグは、多数の傷病者が同時に発生し医療資源が不足する状況で、緊急度・重症度による区分と個人情報・処置・搬送先などを記録し、傷病者を識別・追跡するための道具です。わが国では阪神・淡路大震災の教訓から様式が統一され、黒(死亡・救命困難)、赤(最優先治療)、黄(待機的治療)、緑(軽症)の色で区分を示します。装着部位は右手首、左手首、右足首、左足首、首の順と決まっており、衣服や持ち物には付けないため、「どの部位でも構わない」は誤りです。一次トリアージではSTART法(歩行→呼吸→循環→意識)が代表的で、トリアージは各段階で繰り返し行い区分を見直します。災害時には誰もが医療者としてトリアージに関わる可能性があり、タッグの正しい使い方は医師として身につけておきたい基本です。
解答・解説
正解はcです
トリアージとは、災害や大事故などで傷病者が多数同時に発生し、医療資源(人員・資機材・搬送手段)が足りない状況で、傷病者を緊急度・重症度に応じてふるい分け、治療や搬送の優先順位を決めることである。その結果を傷病者に付けて示すのがトリアージタッグ(識別札)であり、現場から医療機関まで傷病者と一緒に移動する「災害時の簡易診療録」の役割を果たす。 わが国では、阪神・淡路大震災(1995年)の際に各機関がばらばらの様式を使って混乱した反省から、翌年に旧厚生省の主導で様式が標準化され、全国で統一された規格のタッグが使われている。タッグには氏名・年齢・性別・住所などの個人情報、トリアージ実施者・日時・場所、症状・傷病名、搬送機関や収容医療機関などを記入する欄があり、下端の色分けされたもぎり部分(黒・赤・黄・緑)を切り取って、残った最下段の色で区分を示す。 装着部位は決められており、原則として右手首、それができなければ左手首、右足首、左足首、首の順に付ける。部位を統一しておくことで、多数の傷病者が並ぶ現場でも救助者がタッグをすぐに見つけられ、取り違えや見落としを防ぐことができる。したがって「どの部位に付けても構わない」という記述が誤りである。本問は「誤っているもの」を選ぶ形式である点に注意する。
選択肢考察
- ×a. 傷病者識別のために使用する。
正しい記述である。タッグには氏名・年齢・性別などの個人情報を記入する欄があり、個々の傷病者を識別できる。同時に、色によって緊急度・重症度の区分も一目で識別できる。混乱した災害現場で、誰がどの区分に属し、どこへ搬送されたかを追跡するための重要な道具である。
- ×b. 我が国の規格は統一されている。
正しい記述である。阪神・淡路大震災の教訓を受けて1996年に標準様式が定められ、以後わが国では統一規格のトリアージタッグが用いられている。様式が統一されていることで、消防・医療機関・自治体など異なる組織間でも情報が正確に引き継がれる。
- ○c. 装着はどの部位に付けても構わない。
誤った記述であり、本問の正解である。装着部位には優先順位が定められており、原則は右手首で、負傷などで付けられない場合は左手首、右足首、左足首、首の順とする。衣服や持ち物に付けると、脱衣や移動の際に外れて傷病者と分離してしまうおそれがあるため避ける。部位を統一することで、救助者が速やかにタッグを確認でき、見落としや取り違えを防げる。
- ×d. 多数の傷病者が同時発生したときに使う。
正しい記述である。地震などの自然災害、多数の乗客が乗った交通機関の事故、テロなど、医療需要が医療資源を上回る多数傷病者発生事案(mass casualty incident)で使用する。通常の救急診療で一人ひとりに使うものではない。
- ×e. 死亡している場合は黒色タッグを装着する。
正しい記述である。黒(区分0)は、死亡している、または気道確保をしても自発呼吸がないなど、その時点の医療資源では救命が困難と判断される傷病者に付ける。なお、トリアージは繰り返し行うものであり、状況の変化に応じて区分は見直される。
トリアージ区分と色
・赤(区分I):最優先治療群。生命にかかわる重篤な状態で、直ちに処置が必要 ・黄(区分II):待機的治療群。早期の処置が必要だが、多少の待機が可能 ・緑(区分III):保留群。歩行可能な軽症者 ・黒(区分0):死亡、または救命困難
START法(一次トリアージの代表的方法)
1. 歩行可能か → 可能なら緑 2. 呼吸があるか → なければ気道確保し、それでも自発呼吸がなければ黒、再開すれば赤 3. 呼吸数が30回/分以上または10回/分未満 → 赤 4. 循環:橈骨動脈を触れない、または毛細血管再充満時間(CRT:爪床を圧迫して離した後に色調が戻るまでの時間)が2秒を超える → 赤 5. 意識:簡単な指示に従えない → 赤 6. 以上のいずれにも当てはまらなければ黄
タッグの構造
複写式の3枚綴りで、1枚目は災害現場用、2枚目は搬送機関用、3枚目(本体)は収容医療機関用として、それぞれの段階で記録が残るようになっている。
トリアージの原則
トリアージは一度で終わりではなく、現場、搬送前、病院到着時など各段階で繰り返し行う。区分が変わった場合は記録を修正し、必要に応じて新しいタッグに付け替える。
POINT
・トリアージタッグの装着部位は 右手首 → 左手首 → 右足首 → 左足首 → 首 の順(衣服や持ち物には付けない) ・わが国の様式は統一されている(阪神・淡路大震災の教訓) ・色:赤=最優先治療、黄=待機的治療、緑=軽症(保留)、黒=死亡・救命困難 ・START法:歩行→呼吸→循環(橈骨動脈・CRT)→意識の順で評価する
