瓦礫の下から救われた命に何色をつけるか―START法で迷わないトリアージ
第118回医師国家試験 C問題 第40問
国試問題にチャレンジ
身元不明の中年男性。30分前に震度7の地震で倒壊した建物の下敷きになっているところを救出された。呼びかけに反応がない。呼吸数32/分,浅い。毛細血管再充満時間は3秒。両側下腿は挫滅による大量の出血がある。末梢は冷感が著明である。被災地は広域であり,建物の下敷きになった負傷者が多数いる。 この患者につけるトリアージタッグの色で適切なのはどれか。
- a.緑
- b.黄
- c.赤
- d.白
- e.黒
対話形式の解説
ドクター
医学生
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医学生まとめ
多数傷病者が発生した災害現場では、一次トリアージとしてSTART法を用い、歩行・呼吸・循環・意識の順に評価して優先順位を決めます。呼吸数30/分超または10/分未満、毛細血管再充満時間2秒超または橈骨動脈触知不能、簡単な指示に従えないのいずれかがあれば赤(区分I、最優先治療群)とし、気道確保後も呼吸がなければ黒、歩けるなら緑、バイタルが安定し待機できるなら黄とします。タッグは黒・赤・黄・緑の4色で白は存在せず、重症であっても救命の可能性があれば黒ではなく赤をつけることが重要です。倒壊建物から救出された傷病者では挫滅症候群による高カリウム血症や急性腎障害に備える必要があり、トリアージは状況の変化に合わせて繰り返し行います。限られた資源で最大多数を救うという災害医療の原則を、具体的な基準とともに身につけておくことが現場での迷いを減らします。
解答・解説
正解はcです
状況の整理
震度7の地震で広い範囲が被災し、建物の下敷きになった負傷者が多数いる。医療資源(人手・物資・搬送手段)に対して傷病者の数が明らかに多い災害現場であり、全員に通常どおりの診療はできない。このため、傷病の緊急度と重症度から治療と搬送の優先順位を決めるトリアージを行い、結果をトリアージタッグで示す。
患者の所見
・呼びかけに反応がない:意識障害があり、簡単な指示に従えない。 ・呼吸数32/分で浅い:呼吸はあるが、30/分を超える頻呼吸である。 ・毛細血管再充満時間(CRT)3秒:爪床を圧迫して離した後、赤みが戻るまでの時間で、正常は2秒以内である。延長は末梢循環不全を示す。 ・両下腿の挫滅による大量出血と、末梢の著明な冷感:出血性ショックの状態と考えられる。 ・倒壊した建物の下敷きからの救出:四肢が長時間圧迫されていた場合、圧迫が解除された後に挫滅症候群(クラッシュ症候群)を起こす危険もある。
一次トリアージ(START法)に当てはめる
災害現場の一次トリアージで広く使われるSTART(Simple Triage and Rapid Treatment)法では、次の順に評価する。 1. 歩けるか → 歩ければ緑。本患者は意識がなく歩けない。 2. 気道を確保しても呼吸がないか → 呼吸がなければ黒。本患者は呼吸している。 3. 呼吸数が30/分を超える、または10/分未満か → 当てはまれば赤。本患者は32/分で当てはまる。 4. 循環:橈骨動脈が触れない、またはCRTが2秒を超えるか → 当てはまれば赤。本患者はCRT 3秒で当てはまる。 5. 意識:簡単な指示に従えないか → 当てはまれば赤。本患者は呼びかけに反応しない。 このように、呼吸・循環・意識のいずれの段階でも赤(緊急治療群)の基準に当てはまる。出血性ショックで今すぐ止血と輸液を行わなければ命に関わるが、まだ救命の可能性がある患者であり、赤のタッグをつけて最優先で治療・搬送する。
選択肢考察
- ×a. 緑
緑(区分III、保留群)は、歩くことができ、軽い外傷などで専門的な治療を急がなくてよい傷病者につける。救護所での処置や外来での対応で十分な群である。本患者は意識がなく、ショックの状態にあり、緑にはまったく当てはまらない。
- ×b. 黄
黄(区分II、待機的治療群)は、歩けないものの呼吸・循環・意識は保たれていてバイタルサインが安定しており、治療開始まで数時間待っても命に関わらない傷病者につける。本患者は頻呼吸、CRT延長、意識障害があり、ショックの状態でバイタルサインが不安定なので、黄ではない。
- ○c. 赤
赤(区分I、最優先治療群・緊急治療群)は、生命が危険な状態にあり直ちに治療しなければならないが、治療すれば救命が期待できる傷病者につける。本患者はSTART法で、呼吸数30/分超、CRT 2秒超、指示に従えない意識障害のいずれにも当てはまり、大量出血による出血性ショックが疑われる。止血、輸液、輸血、さらに挫滅症候群への対策を急ぐ必要があり、最優先で治療・搬送すべき患者である。
- ×d. 白
日本で使われるトリアージタッグの色は、黒・赤・黄・緑の4色である。白という区分は存在しない。
- ×e. 黒
黒(区分0、死亡群・救命困難群)は、すでに死亡している傷病者、または気道を確保しても呼吸が再開しないなど、その場の医療資源では救命が極めて難しい傷病者につける。本患者は自発呼吸があり、循環も保たれており、治療すれば救命できる可能性があるので黒ではない。
トリアージタッグの区分
・黒(区分0):死亡、または救命の見込みがない。 ・赤(区分I):最優先治療群。生命に関わる状態で、直ちに処置が必要。 ・黄(区分II):待機的治療群。早めの治療が必要だが、数時間の待機に耐えられる。 ・緑(区分III):保留群。軽症で、歩くことができる。 タッグは原則として右手首に(傷があれば左手首、足首、首の順で)つけ、下の色が残るように切り取って区分を示す。状態は時間とともに変わるため、トリアージは一度で終わりにせず繰り返し行い、区分が変われば付け替える。
一次トリアージと二次トリアージ
・一次トリアージ(START法):災害現場で、大勢の傷病者を短時間(1人30秒程度)でふるい分ける方法。歩行、呼吸、循環(CRTまたは橈骨動脈触知)、意識(従命反応)の順に評価する。 ・二次トリアージ(PAT法:生理学的・解剖学的評価法):救護所や病院で、生理学的評価(意識レベル、呼吸、脈拍、血圧、SpO2など)、解剖学的評価(重い損傷の部位など)、受傷機転、災害時要援護者(小児、高齢者、妊婦など)の視点から、より詳しく区分を決め直す。
毛細血管再充満時間(CRT)
爪床を5秒ほど圧迫して離し、赤みが戻るまでの時間を測る。正常は2秒以内で、2秒を超えると末梢の循環不全(ショック、脱水など)を示す。寒い環境では長くなりやすいので注意する。
挫滅症候群(クラッシュ症候群)
四肢などが長時間(目安として数時間以上)圧迫された後に圧迫が解除されると、傷んだ筋肉からカリウム、ミオグロビン、乳酸などが一気に血液中に流れ込む。その結果、高カリウム血症による致死的不整脈、ミオグロビン尿による急性腎障害、筋肉のむくみによる循環血液量減少性ショックやコンパートメント症候群などを起こす。救出前からの大量輸液(カリウムを含まない生理食塩液など)、心電図の監視、必要に応じた血液透析が治療の柱となる。救出直後は元気そうに見えても急に悪化することがあるため、地震などの災害時には特に注意が必要である。
POINT
・トリアージタッグは、黒(0:死亡・救命困難)、赤(I:最優先治療)、黄(II:待機的治療)、緑(III:保留・軽症)の4色であり、白はない。 ・START法では、歩行→呼吸→循環→意識の順に評価する。 ・呼吸数30/分超(または10/分未満)、CRT 2秒超(または橈骨動脈が触れない)、指示に従えない、のいずれかがあれば赤とする。 ・気道を確保しても呼吸がなければ黒とする。 ・倒壊建物の下敷きから救出された傷病者では、挫滅症候群(高カリウム血症、急性腎障害)に注意する。
