帰国者の「もしかして」に備える―海外感染症の情報はWHOにあり
第118回医師国家試験 C問題 第41問
国試問題にチャレンジ
56歳の男性。海外で多発している感染症Xに罹患していることを心配し検査目的で来院した。感染症Xが多発している国に半年間滞在し2週間前に帰国した。これまで特段の症状はないという。感染症Xの国外の発生動向および診断と治療に関する情報を入手したい。 入手先として適切なホームページを運営しているのはどれか。
- a.入国管理局
- b.国際協力機構〈JICA〉
- c.世界保健機関〈WHO〉
- d.救急医療情報センター
- e.地域医療支援センター
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
海外で流行する感染症について、国外の発生動向と診断・治療の情報を得るには、世界保健機関(WHO)のホームページが適切です。WHOは国際連合の保健分野の専門機関で、国際保健規則(IHR)に基づき世界の感染症情報を集約・評価し、発生情報や疾患ごとの診療指針を公開しています。入国管理局(現・出入国在留管理庁)は出入国管理、JICAはODAの実施、救急医療情報センターは国内の救急医療情報、地域医療支援センターは医師の偏在対策を担う機関であり、役割が異なります。渡航者向けの情報は検疫所のFORTH、国内外の情報はJIHSや海外のCDC・ECDCも活用できます。帰国者の診療では、渡航歴の聴取と潜伏期間の照合、必要に応じた感染症法の届出までを一連の流れとして理解しておくことが大切です。
解答・解説
正解はcです
問題の状況
56歳の男性が、海外で流行している感染症Xにかかっていないか心配して、検査を希望して受診した。流行国に半年間滞在して2週間前に帰国しており、今のところ症状はない。医師としては、この感染症の国外での発生状況(どこで、どれくらい流行しているか)と、診断法・治療法の最新情報を確認したい場面である。
考え方
本問は診断そのものではなく、海外の感染症に関する信頼できる情報をどこから得るかを問う、公衆衛生の知識問題である。各機関がどのような役割を担っているかを知っていれば答えられる。 世界の感染症の発生動向をまとめ、診断・治療・予防に関する技術的な指針を国際的に示しているのは、国際連合の専門機関である世界保健機関(WHO)である。WHOは国際保健規則(IHR)に基づき、加盟国から報告される感染症の情報を集めて評価し、ホームページで発生情報(Disease Outbreak News)や疾患ごとの解説・診療指針を公開している。したがって、WHOのホームページが適切な情報源である。 ほかの選択肢は、出入国の管理、国際協力の実施、国内の救急医療体制、地域の医師確保などを担う機関であり、海外の感染症の発生動向や診療情報を提供する役割はもっていない。
臨床上の留意点
実際の診療では、感染症Xの潜伏期間と帰国後の経過日数を照らし合わせて、感染の可能性や検査の時期を判断する。また、その感染症が感染症法の届出対象(一類〜五類感染症、新型インフルエンザ等感染症、指定感染症、新感染症など)にあたる場合、診断した医師は保健所を通じて都道府県知事へ届け出る義務がある。
選択肢考察
- ×a. 入国管理局
入国管理局は、外国人の出入国の審査や在留の管理を担う機関であり、2019年4月に法務省の外局として出入国在留管理庁に改組された。医療や感染症の発生動向、診療に関する情報を提供する機関ではない。なお、海外から帰国した人の健康状態の確認など、水際での感染症対策を担うのは厚生労働省の検疫所であり、入国管理局ではない。
- ×b. 国際協力機構〈JICA〉
国際協力機構(JICA:Japan International Cooperation Agency)は、日本の政府開発援助(ODA)を一元的に実施する独立行政法人である。開発途上国への技術協力、資金協力、ボランティア派遣などを行い、保健医療分野の支援も含むが、世界の感染症の発生動向や診断・治療の情報をまとめて提供する機関ではない。
- ○c. 世界保健機関〈WHO〉
世界保健機関(WHO:World Health Organization)は、国際連合の保健分野の専門機関であり、感染症対策は中心的な業務の一つである。国際保健規則(IHR)に基づき各国から感染症の情報を集めて、世界の発生状況を把握し、ホームページで流行状況や疾患ごとの診断・治療・予防の指針を公開している。国外での感染症の発生動向と診療情報の両方を入手できる、最も適切な情報源である。
- ×d. 救急医療情報センター
救急医療情報センターは、都道府県などが設置し、地域の医療機関から受け入れ可能な診療科や空き病床などの情報を集めて、住民、救急隊、医療機関に提供する。国内の救急医療を円滑に進めるための仕組みであり、海外の感染症の情報は扱わない。
- ×e. 地域医療支援センター
地域医療支援センターは、医療法に基づいて都道府県が設置する。医師が地域ごとに偏っている問題を解消するため、医師が不足している医療機関への医師の派遣調整や、地域で働く医師のキャリア形成支援などを行う。感染症の情報提供を行う機関ではない。
海外の感染症情報の主な入手先
・世界保健機関(WHO):世界の感染症の発生情報、疾患ごとの解説、診断・治療・予防の技術的な指針。 ・厚生労働省検疫所(FORTH):海外渡航者向けに、国や地域ごとの感染症の流行情報や予防接種の情報を提供している。 ・国立感染症研究所:国内外の感染症の情報と、国内の感染症発生動向調査の結果を公表してきた。2025年4月に国立国際医療研究センターと統合し、国立健康危機管理研究機構(JIHS)となった。 ・外務省海外安全ホームページ:渡航先の安全情報の一部として感染症の情報を掲載している。 ・各国の公衆衛生機関:米国疾病予防管理センター(CDC)、欧州疾病予防管理センター(ECDC)なども、詳しい情報を公開している。
WHOの概要
1948年に設立された国際連合の専門機関で、本部はスイスのジュネーブにある。WHO憲章の前文には、健康の定義として「身体的、精神的、社会的に完全に良好な状態であり、単に病気や虚弱でないことではない」と書かれている。主な活動は、感染症対策、国際保健規則(IHR)の運用、国際疾病分類(ICD)の作成、必須医薬品リストの作成、健康に関する国際基準の策定などである。国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態(PHEIC)を宣言するのもWHOである。
帰国者の感染症を疑うときの流れ
1. 渡航先、滞在期間、現地での活動内容(動物との接触、淡水への曝露、性交渉、虫刺されなど)、予防接種歴を確認する。 2. 疑う感染症の潜伏期間と、帰国してからの日数を照らし合わせる。 3. 流行状況と診断方法を確認し、必要な検査を行う。 4. 感染症法の届出対象であれば、保健所を通じて都道府県知事へ届け出る(一類〜四類感染症と五類の一部は直ちに届け出る)。
POINT
・海外での感染症の発生動向と、診断・治療の情報を得るなら、WHO(世界保健機関)のホームページが適切である。 ・WHOは国際連合の専門機関であり、国際保健規則(IHR)に基づいて世界の感染症情報を集めて発信している。 ・入国管理局(現・出入国在留管理庁)は出入国の管理、JICAはODAの実施機関、救急医療情報センターは地域の救急医療の情報、地域医療支援センターは医師の偏在対策を担当する。 ・国内の水際対策と渡航者向けの感染症情報は、厚生労働省検疫所(FORTH)が担う。
