StudyMed医師国家試験

世界では「下痢」が子どもの命を奪う―5歳未満児死亡から見るグローバルヘルス

第120回医師国家試験 C問題 第13問

国試問題にチャレンジ

第120回 C問題 第13問

2019年時点の世界の5歳未満児死亡原因で,下記のうち最も高い割合を占めるのはどれか。

  1. a.下痢
  2. b.熱傷
  3. c.白血病
  4. d.急性肝炎
  5. e.乳幼児突然死症候群〈SIDS〉

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は国際保健、いわゆるグローバルヘルスの基本統計を問う問題だ。ポイントは、日本の感覚ではなく「世界全体」、特に子どもの死亡が集中している低・中所得国の視点で考えられるかどうかだよ。
医学生医学生
日本の乳児の死因だと先天奇形や乳幼児突然死症候群が上位だったと思うので、SIDSを選びたくなってしまいます。
ドクタードクター
そう考える人は多いね。でも2019年に世界で亡くなった5歳未満児は約520万人で、その大部分はサハラ以南のアフリカと南アジアに集中している。そこでの死亡の構造は日本とまったく違うんだ。
医学生医学生
低所得国だと、やはり感染症が中心になるのでしょうか。
ドクタードクター
その通り。まず、5歳未満児死亡のほぼ半数は生後28日未満の新生児期に起こる。原因は早産合併症、新生児仮死などの分娩時合併症、新生児敗血症だ。そして新生児期を過ぎると、肺炎、下痢症、マラリアという3つの感染症が主要な死因になる。
医学生医学生
選択肢の中でその3つに入るのは下痢だけですね。
ドクタードクター
正解だ。下痢症は2019年の5歳未満児死亡の約1割、年間50万人規模を占めると推計されている。主な病原体はロタウイルス、毒素原性大腸菌、赤痢菌、コレラ菌などで、安全な水やトイレ・手洗いなどの衛生設備の不足、低栄養が背景にある。
医学生医学生
下痢で亡くなるというのは、日本ではあまり実感がわきません。死因は何になるのですか。
ドクタードクター
主な機序は脱水だ。子どもは体重当たりの水分の割合が高く、喪失にも弱い。逆に言えば、経口補水療法(ORS)、亜鉛の補充、母乳育児、ロタウイルスワクチン、上下水道の整備で、その多くは防げるし救える。安価な介入で救える命が多いという点が、この問題の本質なんだ。
医学生医学生
小児科の臨床実習で、胃腸炎の子に経口補水液を少しずつ飲ませる指導を見ました。あれが世界では命を救う治療なんですね。
ドクタードクター
まさにそう。では他の選択肢も見ておこう。白血病はどうかな。
医学生医学生
小児がんでは一番多いと習いましたが、そもそも小児がん自体がまれなので、世界全体の割合は小さいということでしょうか。
ドクタードクター
その理解でいい。ちなみに日本のように感染症死亡が少ない国では、1〜4歳の死因の上位に悪性新生物が入る。どの国を見ているかで順位が変わる好例だね。熱傷は調理用の火や熱湯による家庭内事故として低所得国でも起こるけれど、外傷・事故の一部にすぎず、感染症に比べればずっと少ない。
医学生医学生
急性肝炎も感染症ですが、こちらは違うのですか。
ドクタードクター
乳幼児のB型肝炎ウイルス感染は、急性肝炎で亡くなるよりも慢性化してキャリアになることが問題で、肝硬変や肝癌による死亡は成人期に起こる。だから5歳未満児の死因としての割合は低いんだ。SIDSは、感染症死亡が少ない先進国だからこそ相対的に上位に見えるけれど、世界全体での割合は小さい。
医学生医学生
日本の上位死因と世界の上位死因は、背景がまったく違うということですね。
ドクタードクター
そう。発展として、低栄養にも触れておこう。低栄養は直接の死因として数えられるより、5歳未満児死亡のおよそ45%に関与する基盤要因とされている。栄養が悪いと感染症にかかりやすく、重症化しやすいからね。
医学生医学生
指標としては5歳未満児死亡率もよく出てきますよね。
ドクタードクター
出生1,000人当たり5歳までに死亡する数で、国の保健水準を示す代表的な指標だ。世界全体では1990年の約93から2019年には約38まで下がったけれど、地域差は大きい。SDGsの目標3.2では、2030年までに各国で25以下にすることを掲げている。対策は予防接種、ORSと亜鉛、殺虫剤処理された蚊帳、母乳育児、安全な水と衛生、熟練者の立ち会う分娩など、プライマリヘルスケアの考え方に基づく比較的安価なものが中心なんだ。
医学生医学生
高度な医療よりも、基本的な予防と衛生の積み重ねが子どもの命を救うということがよくわかりました。

まとめ

2019年の世界の5歳未満児死亡は約520万人で、ほぼ半数が新生児期(早産合併症、分娩時合併症、新生児敗血症)に起こり、それ以降は肺炎・下痢症・マラリアが三大死因となります。下痢症は死亡の約1割を占め、主な機序は脱水であるため、経口補水療法、亜鉛補充、ロタウイルスワクチン、安全な水と衛生の確保で多くが予防・救命可能です。白血病やSIDSは先進国では相対的に目立ちますが、世界全体での割合は小さく、低栄養は約45%の死亡に関与する基盤要因とされます。日本の死因統計の感覚に引きずられず、世界の地域差と安価な介入の意義を理解することは、国際保健やSDGsを学ぶうえでの基本となります。

解答・解説

正解はaです

国際保健(グローバルヘルス)の基本的な統計を問う一般問題である。 2019年に世界で亡くなった5歳未満児は約520万人とされ、その大部分はサハラ以南のアフリカと南アジアの低・中所得国に集中している。WHO(世界保健機関)やUNICEF(国連児童基金)の推計では、死亡のほぼ半数が生後28日未満の新生児期に起こり、その原因は早産合併症、分娩時の合併症(新生児仮死など)、新生児敗血症などである。新生児期を過ぎた乳幼児では、肺炎(下気道感染症)、下痢症、マラリアという3つの感染症が主要な死因となる。 したがって選択肢を見る際は「低所得国で多数の子どもの命を奪っている、予防・治療可能な感染症はどれか」と考えればよい。選択肢の中でこれに該当するのは下痢であり、他の選択肢(熱傷、白血病、急性肝炎、SIDS)はいずれも世界全体の5歳未満児死亡に占める割合は小さい。

選択肢考察

  1. ○a.  下痢

    正しい。下痢症は肺炎と並ぶ乳幼児の代表的な感染症死因で、2019年の5歳未満児死亡の約1割(年間約50万人規模)を占めると推計されている。主な病原体はロタウイルス、毒素原性大腸菌、赤痢菌、コレラ菌などで、安全な飲料水の不足や不十分な衛生設備(トイレ・手洗い)、低栄養が発症と重症化の背景にある。死亡の主な機序は脱水であり、経口補水療法(ORS)、亜鉛の補充、母乳育児、ロタウイルスワクチン、上下水道の整備で多くが予防・救命できる。

  2. ×b.  熱傷

    誤り。熱傷は調理用の火や熱湯による家庭内事故として低所得国の乳幼児にも起こるが、外傷・事故(不慮の事故)の一部にすぎず、世界の5歳未満児死亡に占める割合は感染症に比べてごく小さい。

  3. ×c.  白血病

    誤り。白血病は小児がんの中で最も多いが、小児がん自体の発生がまれであるため、世界全体の5歳未満児死亡に占める割合は肺炎・下痢・マラリアなどの感染症よりはるかに少ない。なお、我が国のように感染症死亡が少ない国では、1〜4歳の死因の上位に悪性新生物が入る。

  4. ×d.  急性肝炎

    誤り。乳幼児のB型肝炎ウイルス感染は急性肝炎よりも慢性化(キャリア化)が問題となり、肝硬変・肝癌による死亡は成人期に起こる。急性肝炎が5歳未満児の死因として占める割合は低い。

  5. ×e.  乳幼児突然死症候群〈SIDS〉

    誤り。SIDS(それまでの健康状態や既往歴から予測できず、死亡状況調査と解剖でも原因が特定できない乳児の突然死)は、感染症死亡が少ない先進国で乳児死因の上位を占めるため注目される。我が国でも乳児の死因の上位に入るが、世界全体の5歳未満児死亡に占める割合は小さい。予防策として仰向け寝、母乳育児、妊娠中・育児中の禁煙が推奨される。

世界の5歳未満児死亡の主要原因(2019年頃のWHO・UNICEF推計)

・新生児期の原因:早産合併症、分娩時の合併症(新生児仮死・分娩外傷)、新生児敗血症など。新生児死亡が5歳未満児死亡の約半数を占める。 ・新生児期以降の主な原因:肺炎(約14%)、下痢症(約9%)、マラリア(約7〜8%)。 ・その他:先天異常、外傷・事故、麻疹、HIV/AIDSなど。 ・低栄養(栄養不良)は直接の死因として数えられるよりも、5歳未満児死亡のおよそ45%に関与する基盤要因とされる。 【5歳未満児死亡率(U5MR)】出生1,000人当たり、5歳に達するまでに死亡する数。国の保健水準を示す代表的な指標で、SDGs(持続可能な開発目標)の目標3.2では2030年までに各国で25以下にすることが掲げられている。世界全体では1990年の約93から2019年には約38まで低下したが、地域差が大きい。 【主な対策】予防接種(肺炎球菌、Hib、ロタウイルス、麻疹など)、経口補水療法と亜鉛、殺虫剤処理された蚊帳、母乳育児と栄養改善、安全な水と衛生(WASH)、熟練者の立ち会う分娩と新生児ケア。これらはプライマリヘルスケアの考え方に基づく比較的安価な介入である。

POINT

・世界の5歳未満児死亡の約半数は新生児期の死亡(早産、分娩時合併症、敗血症)。 ・新生児期以降の三大死因は肺炎・下痢・マラリア。 ・低栄養は多くの死亡の基盤要因。 ・SIDSや小児がんは先進国で相対的に目立つが、世界全体での割合は小さい。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。