StudyMed医師国家試験

「3つの病気」だけじゃない―非感染性疾患(NCDs)の正しい輪郭をつかむ

第118回医師国家試験 E問題 第11問

国試問題にチャレンジ

第118回 E問題 第11問

非感染性疾患で誤っているのはどれか。

  1. a.遺伝要因は発症に関係する。
  2. b.生活習慣は発症に関係する。
  3. c.予防は健康日本21の目標である。
  4. d.がん,循環器疾患,糖尿病の総称である。
  5. e.社会的な環境を踏まえた対策が必要である。

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は公衆衛生の問題で、非感染性疾患、いわゆるNCDsの定義と対策の考え方を問うものだ。「誤っているもの」を選ぶ形式なので、一つひとつの記述が本当に正しいかを丁寧に確かめていこう。着眼点は、NCDsにどの疾患が含まれるか、そして発症にどんな要因が関わるかの2つだ。
医学生医学生
非感染性疾患というと、感染症以外の病気全部という意味でしょうか。なんだか範囲が広すぎる気がします。
ドクタードクター
文字どおりにはそうだけど、公衆衛生でNCDsと言うときは、病原体ではなく、遺伝素因に喫煙・不健康な食事・運動不足・有害な飲酒といった生活習慣や環境要因が長年積み重なって起こる慢性疾患をまとめて指すことが多い。日本の「生活習慣病」とほぼ重なる概念だと考えるとイメージしやすいよ。
医学生医学生
では、遺伝要因が関係するという記述は正しいですね。衛生学の講義で、2型糖尿病は多因子疾患だと習いました。
ドクタードクター
その通り。高血圧や2型糖尿病、脂質異常症、家族性腫瘍のような一部のがんでは、遺伝素因が発症のしやすさに関わる。ただし遺伝だけで決まるわけではなく、生活習慣や環境との相互作用で発症する点が大事だ。
医学生医学生
生活習慣が関係するという記述も、名前からして当然正しいですよね。
ドクタードクター
正しい。そして予防の観点で重要なのは、遺伝要因と違って生活習慣は介入で変えられること。喫煙、不健康な食事、身体活動不足、有害な飲酒は「修正可能なリスク因子」と呼ばれ、予防の中心的な標的になる。WHOはこれに大気汚染を加えた枠組みも示しているよ。
医学生医学生
健康日本21の目標というのも、CBTの公衆衛生分野で出てきました。生活習慣病の予防が柱だったと思います。
ドクタードクター
よく覚えているね。健康日本21は健康増進法に基づく国民健康づくり運動で、2000年に始まった。2024年度からの第三次では、健康寿命の延伸と健康格差の縮小を全体目標に、がん・循環器病・糖尿病・COPDなどの発症予防と重症化予防を掲げている。だからこの記述も正しい。
医学生医学生
社会的な環境を踏まえた対策が必要、というのはどうでしょう。生活習慣って結局は個人の努力の問題だと思っていました。
ドクタードクター
そこは誤解しやすいところだね。実は生活習慣は、所得、教育、労働環境、住んでいる地域、食品の手に入りやすさといった社会的決定要因に強く左右される。NCDsによる死亡の多くは低・中所得国で生じていて、同じ国の中でも社会経済的に不利な集団ほど負担が大きい。だから、たばこ税や受動喫煙防止の法規制、減塩しやすい食環境づくりなど、社会環境そのものを変える対策が必要なんだ。第三次健康日本21でも「社会環境の質の向上」が基本的方向の一つになっている。
医学生医学生
なるほど、個人に「頑張れ」と言うだけでは格差は縮まらないんですね。そうすると、がん・循環器疾患・糖尿病の総称、という記述が残ります。代表的な病気なので正しい気もしますが……。
ドクタードクター
ここが落とし穴だ。WHOが示す主要なNCDsは、循環器疾患、がん、糖尿病に加えて、COPDや喘息などの慢性呼吸器疾患を含む4つの疾患群なんだ。最近は精神疾患を加えた枠組みもある。3疾患だけの総称とするのは不正確で、これが誤っている記述、つまり正解になる。
医学生医学生
慢性呼吸器疾患が抜けているんですね。呼吸器内科の実習で、COPDの患者さんがほぼ全員重喫煙者だったのを思い出しました。まさに生活習慣が関わる病気ですね。
ドクタードクター
いい結びつけ方だ。疾患が4つ、リスク因子が喫煙・食事・運動・飲酒の4つで「4×4」、そこに精神疾患と大気汚染を加えて「5×5」と覚えておくと整理しやすい。
医学生医学生
NCDsは世界的にどのくらい問題になっているんですか。
ドクタードクター
世界の死亡の7割以上を占め、日本でも死因の約8割がNCDsによるとされる。SDGsでも、30〜69歳のNCDsによる若年死亡を2030年までに3分の1減らすことが目標に掲げられている。臨床の現場では、目の前の患者さんの禁煙や減塩を支援することが、そのまま国全体のNCDs対策につながっていると意識しておくといいよ。

まとめ

非感染性疾患(NCDs)は、遺伝素因に喫煙・不健康な食事・身体活動不足・有害な飲酒などの生活習慣や環境要因が積み重なって発症する慢性疾患の総称で、WHOは循環器疾患・がん・糖尿病・慢性呼吸器疾患の4疾患群を主要なものとし、近年は精神疾患を加えた枠組みも示しています。したがって「がん、循環器疾患、糖尿病の3つの総称」とするのは誤りです。生活習慣は所得や教育、居住環境などの社会的決定要因に左右されるため、個人の行動変容だけでなく、たばこ税や食環境の整備など社会環境を含めた対策が必要です。日本では健康増進法に基づく健康日本21(第三次は2024年度開始)が、健康寿命の延伸・健康格差の縮小とともに生活習慣病の発症予防・重症化予防を掲げています。NCDsの範囲と対策の考え方を押さえることは、公衆衛生の出題対策だけでなく、日常診療での予防的な関わりの意義を理解する土台になります。

解答・解説

正解はdです

非感染性疾患(NCDs:non-communicable diseases)は、病原体の感染によって人から人へ伝わるのではなく、遺伝素因に、喫煙・不健康な食事・運動不足・有害な飲酒などの生活習慣や環境要因が長期間積み重なって発症する慢性疾患の総称である。WHO(世界保健機関)は主要なNCDsとして、循環器疾患(心疾患・脳卒中)、がん、慢性呼吸器疾患(COPDなど)、糖尿病の4つを挙げ、近年はこれに精神疾患(メンタルヘルス)を加えた枠組みも用いている。 NCDsは世界の死亡の7割以上を占め、日本でも死因の約8割がNCDsによるとされる。高所得国だけでなく低・中所得国でも大きな問題になっており、所得・教育・居住環境などの社会的要因によって罹患や死亡に格差が生じることが知られている。そのため、個人の行動変容に頼るだけでなく、社会環境の整備を含めた対策が求められる。日本では健康日本21(国民健康づくり運動)が、生活習慣病(=NCDs)の発症予防と重症化予防を主要な目標に掲げている。 本問は「誤っているもの」を選ぶ問題である。NCDsを「がん、循環器疾患、糖尿病」の3つだけと限定した記述は、慢性呼吸器疾患などが抜けており不正確である。

選択肢考察

  1. ×a.  遺伝要因は発症に関係する。

    記述は正しい。NCDsの多くは多因子疾患であり、高血圧・2型糖尿病・脂質異常症・一部のがん(家族性腫瘍など)のように、遺伝素因が発症のしやすさに関与する。ただし遺伝要因だけで決まるのではなく、生活習慣や環境要因との相互作用で発症する。

  2. ×b.  生活習慣は発症に関係する。

    記述は正しい。喫煙、不健康な食事(塩分・脂肪・糖分の過剰摂取、野菜不足)、身体活動不足、有害な飲酒はNCDsの主要な修正可能リスク因子であり、WHOはこれに大気汚染を加えている。遺伝要因と違い、生活習慣は介入によって変えられるため、予防の中心的な標的となる。日本で「生活習慣病」と呼ばれるのもこのためである。

  3. ×c.  予防は健康日本21の目標である。

    記述は正しい。健康日本21は厚生労働省が推進する国民健康づくり運動で、2000年に開始された。2024年度からの第三次(2035年度までの12年間)では、健康寿命の延伸と健康格差の縮小を全体目標とし、その下で、がん・循環器病・糖尿病・COPD(慢性閉塞性肺疾患)といった生活習慣病の発症予防と重症化予防を掲げている。

  4. ○d.  がん,循環器疾患,糖尿病の総称である。

    誤った記述であり、これが正解である。WHOが示す主要なNCDsは、がん、循環器疾患、糖尿病に加えて、COPDや喘息などの慢性呼吸器疾患を含む4疾患群であり、さらに精神疾患(メンタルヘルス)を含める枠組みもある。慢性腎臓病なども生活習慣が関与する非感染性疾患である。したがってNCDsを3疾患のみの総称とするのは誤りである。

  5. ×e.  社会的な環境を踏まえた対策が必要である。

    記述は正しい。生活習慣は所得、教育、労働環境、居住地域、食品の入手しやすさなどの社会的決定要因の影響を強く受ける。NCDsの死亡の多くは低・中所得国で生じ、各国内でも社会経済的に不利な集団ほど負担が大きい。このため、たばこ税や受動喫煙防止の法規制、減塩しやすい食環境の整備など、社会環境の改善を含む対策が必要とされる。第三次健康日本21でも「社会環境の質の向上」が基本的方向の一つとされている。

WHOのNCDs対策の枠組み

・主要疾患:循環器疾患、がん、慢性呼吸器疾患、糖尿病(いわゆる4×4。リスク因子は喫煙、不健康な食事、身体活動不足、有害な飲酒) ・近年は疾患に精神疾患、リスク因子に大気汚染を加えた5×5の枠組みも示されている。 ・持続可能な開発目標(SDGs)では、NCDsによる若年死亡(30〜69歳)を2030年までに3分の1減少させることが目標とされている(ターゲット3.4)。

健康日本21の変遷

・第一次(2000〜2012年度):一次予防の重視、具体的な数値目標の設定 ・第二次(2013〜2023年度):健康寿命の延伸と健康格差の縮小、生活習慣病の発症予防と重症化予防(がん、循環器疾患、糖尿病、COPD) ・第三次(2024〜2035年度):全ての国民が健やかで心豊かに生活できる持続可能な社会の実現を目指し、「健康寿命の延伸と健康格差の縮小」「個人の行動と健康状態の改善」「社会環境の質の向上」「ライフコースアプローチを踏まえた健康づくり」を基本的方向とする。 ・法的根拠は健康増進法である。

POINT

・NCDs=がん、循環器疾患、糖尿病、慢性呼吸器疾患(+精神疾患)。3疾患だけではない。 ・発症には遺伝要因と生活習慣・環境要因が関与し、修正可能なのは生活習慣(喫煙、食事、運動、飲酒)である。 ・健康格差の背景には社会的決定要因があり、社会環境の整備を含めた対策が必要。 ・健康日本21(第三次は2024年度開始)は生活習慣病の発症予防・重症化予防を目標に掲げる。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。