感染症は国境を越える―「どの国際機関が何を担うか」でWHOの目的を見抜く
第119回医師国家試験 F問題 第1問
国試問題にチャレンジ
世界保健機関〈WHO〉の目的で正しいのはどれか。
- a.疾病の国際的伝播を最大限防止する。
- b.人道的かつ秩序ある移住を推進する。
- c.開発途上国の経済・社会の発展,生活水準を持続的に発展させる。
- d.世界中の子供たちが「子供の基本的人権」を享受できるようにする。
- e.人々が健全で活発な生活を送るために十分な量・質の食糧を供給する。
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
WHO(世界保健機関)は1948年に設立された国連の専門機関で、「すべての人々が可能な最高の健康水準に到達すること」を目的とし、その中核的任務として国際保健規則(IHR)に基づく疾病の国際的伝播の防止を担います。IHRは2005年の改正で対象をあらゆる国際的な公衆衛生上の脅威に広げ、事務局長はPHEICを宣言できます。人道的で秩序ある移住はIOM、開発途上国の開発支援はUNDP、子どもの権利はUNICEF、食料の確保はFAOの目的であり、「健康に関わるか」ではなく「その目的を掲げる機関はどこか」で判断することが重要です。ICDやたばこ規制枠組条約、健康の定義などWHO関連事項も併せて整理しておくと、国際保健の問題に幅広く対応でき、新興感染症への備えなど臨床の視点にもつながります。
解答・解説
正解はaです
テーマ
国際連合(国連)と連携して活動する国際機関には、それぞれ固有の目的・担当分野がある。本問は、5つの選択肢に示された目的のうち、世界保健機関(WHO:World Health Organization)のものを選ぶ問題である。
WHOの目的
WHOは1948年に設立された国連の専門機関で、本部はスイスのジュネーブにある。WHO憲章第1条は、その目的を「すべての人々が可能な最高の健康水準に到達すること」と定めている。この目的を果たすための任務の一つに感染症対策があり、憲章第21条は、疾病の国際的なまん延を防ぐための衛生・検疫上の規則を世界保健総会が採択できると規定している。これに基づいて作られた国際規則が国際保健規則(IHR:International Health Regulations)であり、国境を越えた感染症の広がりを防ぐことはWHOの中核的な役割である。
解き方
各選択肢の目的を、それを担う国際機関に結び付けて考える。移住(移民)は国際移住機関(IOM)、開発途上国の経済・社会開発は国連開発計画(UNDP)、子どもの権利は国連児童基金(UNICEF)、食料・農業は国連食糧農業機関(FAO)が担当である。保健、とりわけ感染症の国際的な伝播の防止を扱うのはWHOである。
選択肢考察
- ○a. 疾病の国際的伝播を最大限防止する。
WHO憲章第21条に基づいて採択された国際保健規則(IHR)は、国際交通への干渉を最小限にとどめつつ、疾病の国際的な伝播を最大限防ぐことを目的としてきた。現行のIHR(2005年改正、2007年発効)では、対象を特定の感染症に限らず、あらゆる「国際的な公衆衛生上の脅威」に広げ、加盟国にその発生を通報する義務を課している。WHO事務局長は重大な事態に対して「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態(PHEIC)」を宣言できる。このように感染症の国際的伝播の防止はWHOの目的・任務そのものであり、正しい。
- ×b. 人道的かつ秩序ある移住を推進する。
これは国際移住機関(IOM:International Organization for Migration)の目的である。IOMは「人道的で秩序ある移住は移民と社会の双方に利益をもたらす」という基本理念のもと、移民・避難民への支援や各国の移民政策への協力を行う。2016年に国連の関連機関となった。WHOの目的ではない。
- ×c. 開発途上国の経済・社会の発展,生活水準を持続的に発展させる。
開発途上国の経済・社会開発を持続可能な形で支援することは、主に国連開発計画(UNDP:United Nations Development Programme)の役割である。UNDPは貧困の撲滅、格差の是正、持続可能な開発目標(SDGs)の達成支援などに取り組む。世界銀行グループなども開発途上国の経済発展を支援している。保健を専門とするWHOの目的ではない。
- ×d. 世界中の子供たちが「子供の基本的人権」を享受できるようにする。
これは国連児童基金(UNICEF:United Nations Children's Fund)の目的である。UNICEFは1946年に設立され、児童の権利に関する条約(子どもの権利条約、1989年国連採択)を活動の指針として、子どもの保健・栄養・教育・保護などを支援する。予防接種の普及などで保健分野にも関わるが、子どもの権利の実現を目的とするのはUNICEFであり、WHOではない。
- ×e. 人々が健全で活発な生活を送るために十分な量・質の食糧を供給する。
これは国連食糧農業機関(FAO:Food and Agriculture Organization of the United Nations)の目的である。FAOは食料安全保障、すなわちすべての人が健康で活動的な生活を送るのに十分な量と質の食料を確保できる状態の実現を目指し、農業・林業・水産業の振興や飢餓の撲滅に取り組む。食品の安全基準(コーデックス規格)はFAOとWHOが合同で定めているが、食料供給の確保はFAOの目的であり、WHOの目的ではない。
WHO(世界保健機関)の概要
・1948年4月7日にWHO憲章が発効して設立された(この日が世界保健デー)。本部はジュネーブ。 ・最高意思決定機関は全加盟国で構成される世界保健総会。地域事務局が6つあり、日本は西太平洋地域事務局(マニラ)に属する。 ・憲章前文で健康を「肉体的、精神的及び社会的に完全に良好な状態であり、単に疾病又は病弱の存在しないことではない」と定義している。 ・主な活動:感染症対策(IHRの運用、天然痘根絶の達成、ポリオ根絶計画)、国際疾病分類(ICD)や国際生活機能分類(ICF)の作成、たばこ規制枠組条約(FCTC)、必須医薬品リストの作成、ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)の推進など。
国際保健規則(IHR)
・WHO憲章第21条に基づき世界保健総会が採択する国際規則で、加盟国を法的に拘束する。 ・旧規則はコレラ・ペスト・黄熱など特定の感染症を対象としていたが、2005年の改正で、原因を問わず国際的な公衆衛生上の脅威となりうる事象すべてを対象とし、発生から24時間以内のWHOへの通報を求めるようになった。 ・PHEIC(国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態)の宣言例:2009年の新型インフルエンザ、ポリオ、エボラ出血熱、ジカ熱、新型コロナウイルス感染症、エムポックスなど。
保健医療に関わる主な国際機関
・WHO:保健全般(国連の専門機関) ・UNICEF:子どもの権利・保健・栄養・教育 ・FAO:食料・農業、飢餓の撲滅 ・WFP(国連世界食糧計画):食料の緊急援助 ・UNDP:開発途上国の開発支援 ・UNHCR(国連難民高等弁務官事務所):難民の保護 ・IOM:移住・移民 ・ILO(国際労働機関):労働条件、労働安全衛生 ・UNAIDS(国連合同エイズ計画):HIV/AIDS対策 ・UNFPA(国連人口基金):人口問題、リプロダクティブ・ヘルス ・JICA(国際協力機構):日本の政府開発援助(ODA)の実施機関(国際機関ではなく日本の独立行政法人)
POINT
・WHOの目的は「すべての人々が可能な最高の健康水準に到達すること」(憲章第1条)。 ・感染症の国際的伝播の防止は、憲章第21条に基づく国際保健規則(IHR)を通じたWHOの中核的な任務である。 ・各国際機関の担当:移住=IOM、途上国開発=UNDP、子どもの権利=UNICEF、食料・農業=FAO、難民=UNHCR、労働=ILO。 ・WHO憲章前文の健康の定義、ICD・FCTC・PHEICなどWHO関連事項も頻出。
