横向き・細い針・L3/L4以下―腰椎穿刺の基本は「理由」で覚える
第118回医師国家試験 E問題 第12問
国試問題にチャレンジ
腰椎穿刺による脳脊髄液検査で正しいのはどれか。
- a.患者を腹臥位にする。
- b.滅菌手袋を着用して穿刺する。
- c.できるだけ太い穿刺針を用いる。
- d.患者のL1とL2の椎間を穿刺する。
- e.患者は脳脊髄液採取後に一定時間座位を保つようにする。
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
腰椎穿刺は、無菌のくも膜下腔に針を刺して脳脊髄液を採取する侵襲的手技であり、医原性髄膜炎を防ぐため滅菌手袋・マスクの着用と広範な消毒による清潔操作が必須です。体位は棘突起間が開き初圧も正確に測れる側臥位で背中を丸めるのが基本で、穿刺部位は脊髄円錐(成人でL1〜L2の高さ)を避け、ヤコビー線を目安にL3/L4またはL4/L5椎間を選びます。腰椎穿刺後頭痛は硬膜の穿刺孔からの髄液漏出による低髄液圧が原因で、起立で増悪し臥位で軽快するため、細い針や非外傷性針を用い、穿刺後は頭を高くしない臥位で観察します。頭蓋内圧亢進が疑われる場合は脳ヘルニアの危険があるため事前に画像検査を行い、出血傾向や穿刺部の感染にも注意が必要です。各手順を解剖と病態生理に基づく理由とセットで理解しておくことが、試験だけでなく安全な手技の実践にも直結します。
解答・解説
正解はbです
腰椎穿刺(lumbar puncture)は、腰部のくも膜下腔に針を刺して脳脊髄液(cerebrospinal fluid:CSF)を採取し、初圧の測定や細胞数・蛋白・糖・培養・細胞診などの検査を行う手技である。髄膜炎・脳炎、くも膜下出血(CTで検出できない場合)、ギラン・バレー症候群、多発性硬化症などの診断に用いられる。 本問は手技の基本を問うている。押さえるべき項目は次の5つである。 (1) 体位:側臥位で膝を抱え、背中を丸めて棘突起間を開く(座位で行うこともある)。 (2) 清潔操作:くも膜下腔は本来無菌の腔であり、手技による髄膜炎を防ぐため、マスク・滅菌手袋を着用し、皮膚を広く消毒する。 (3) 穿刺針:硬膜の穴が小さいほど髄液の漏れが少ないため、細い針を用いる。 (4) 穿刺部位:成人の脊髄下端(脊髄円錐)はおおむねL1〜L2椎体の高さにあるため、それより下のL3/L4またはL4/L5椎間を穿刺する。 (5) 穿刺後の管理:頭を高くしない臥位でしばらく安静にし、穿刺後頭痛の有無を観察する。 これらの原則に合うのは、滅菌手袋の着用を述べた選択肢である。
選択肢考察
- ×a. 患者を腹臥位にする。
誤り。腰椎穿刺の標準的な体位は側臥位である。ベッドの端に寄せて横向きに寝かせ、両膝を胸に引き寄せて抱え、顎を引いて背中をエビのように丸めると、腰椎の棘突起の間が広がり針を進めやすくなる。また側臥位では、髄液圧(初圧)を正確に測定できる(成人の正常はおおむね60〜180 mmH2O程度)。腹臥位では腰椎が伸展して棘突起間が狭くなり、穿刺も圧測定も行いにくい。なお、肥満などで正中が分かりにくい場合は座位で行うこともあるが、その場合は圧測定の値が側臥位とは異なる。
- ○b. 滅菌手袋を着用して穿刺する。
正しい。針を無菌のくも膜下腔に直接到達させる侵襲的手技であるため、皮膚の常在菌などを持ち込むと医原性の髄膜炎や硬膜外膿瘍を起こしうる。これを防ぐため、清潔操作が必須であり、術者は手指衛生のうえで滅菌手袋(およびマスク)を着用し、穿刺部位を中心から外側へ向かって広く消毒し、滅菌の穴あき覆布をかけて行う。
- ×c. できるだけ太い穿刺針を用いる。
誤り。穿刺で硬膜に開いた穴から髄液が漏れ続けると、髄液圧が低下して腰椎穿刺後頭痛(低髄液圧性頭痛)を生じる。穴は針が太いほど大きくなり、頭痛の頻度も上がる。したがって検査に必要な髄液が採取できる範囲で、できるだけ細い針を用いる。また、先端が鈍い非外傷性針(ペンシルポイント針など)は硬膜線維を切らずに押し分けるため、切断型の針よりも頭痛が起こりにくいとされる。
- ×d. 患者のL1とL2の椎間を穿刺する。
誤り。成人では脊髄は第1〜第2腰椎の高さで終わる(脊髄円錐)。L1/L2椎間を穿刺すると脊髄円錐を損傷する危険がある。そこで、脊髄が存在せず馬尾神経が髄液中に浮遊しているL3/L4またはL4/L5椎間を穿刺する。目安として、左右の腸骨稜の最上端を結ぶヤコビー線(Jacoby線)が第4腰椎棘突起あるいはL4/L5椎間付近を通ることを利用する。
- ×e. 患者は脳脊髄液採取後に一定時間座位を保つようにする。
誤り。穿刺後に座位や立位をとると、頭蓋内の髄液圧が下がり、穿刺孔からの漏出も増えて頭痛が出やすくなる。腰椎穿刺後頭痛は起立で増悪し臥位で軽快するのが特徴である。そのため、穿刺後は枕を外すなど頭部を高くしない仰臥位で1〜2時間程度安静とし、頭痛や穿刺部からの漏れ・出血の有無を観察するのが一般的な看護手順である。なお、近年の研究では臥床安静そのものの頭痛予防効果は乏しいとする報告も多いが、少なくとも座位を保たせる根拠はない。
腰椎穿刺の手順の概略
1. 説明と同意、必要物品の準備、穿刺前のバイタルサイン測定。 2. 側臥位で背中を丸めさせ、ヤコビー線を参考に穿刺部位(L3/L4またはL4/L5)を決める。 3. 滅菌手袋を着用し、穿刺部位を中心から外側へ広く消毒し、覆布をかける。 4. 局所麻酔のあと穿刺し、髄液の流出を確認したら初圧を測定する。 5. 髄液を滅菌容器に採取し、量・色調・性状を観察する。終圧を測定する。 6. 抜針後は穿刺部を圧迫し、髄液漏れと止血を確認して消毒・保護する。 7. 頭部を高くしない臥位で1〜2時間程度安静とし、頭痛などを観察する。
禁忌・注意
・頭蓋内圧亢進が疑われる場合(脳腫瘍・脳膿瘍などの占拠性病変、うっ血乳頭など):穿刺により脳ヘルニアを誘発するおそれがあるため、事前に頭部CTなどで確認する。 ・穿刺部位の皮膚感染:髄膜炎の原因となる。 ・出血傾向(血小板減少、抗凝固薬使用など):脊髄硬膜外血腫の危険がある。
腰椎穿刺後頭痛(硬膜穿刺後頭痛)
穿刺後数日以内に起こる、起立や座位で増悪し臥位で軽快する頭痛で、悪心や項部痛を伴うことがある。細い針・非外傷性針の使用で頻度が下がる。多くは安静・補液・鎮痛薬で自然軽快し、遷延する場合は自家血による硬膜外ブラッドパッチが行われる。
POINT
・腰椎穿刺は側臥位で背中を丸めて行う(腹臥位ではない)。 ・無菌腔に針を入れるため、滅菌手袋・消毒による清潔操作が必須。 ・穿刺部位はL3/L4またはL4/L5(成人の脊髄下端はL1〜L2の高さ)。目安はヤコビー線。 ・穿刺後頭痛予防のため細い針(非外傷性針)を用いる。 ・穿刺後は頭部を挙上しない臥位で安静・観察する。 ・頭蓋内圧亢進が疑われるときは脳ヘルニアの危険があり、事前に画像検査を行う。
