「うつぶせ」は誤り―腰椎穿刺の説明で押さえる体位・事前確認・合併症
第119回医師国家試験 E問題 第6問
国試問題にチャレンジ
腰椎穿刺法による脳脊髄液検査を行う。 成人患者への説明で誤っているのはどれか。
- a.「うつぶせの姿勢で行います」
- b.「事前に血液検査を行います」
- c.「下肢に痛みが走ることがあります」
- d.「事前に眼底検査か頭部画像検査を行います」
- e.「検査後に立位で悪化する頭痛が起きることがあります」
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
腰椎穿刺は、脊髄円錐(成人で概ねL1〜L2)より下のL3/4またはL4/5椎間から、ヤコビー線を目安に穿刺して脳脊髄液を採取する検査です。体位は側臥位で膝を抱えて背中を丸め、椎間を広げて行うのが原則で、うつぶせ(腹臥位)は腰椎が伸展して椎間が狭くなるため通常用いません。事前に眼底検査や頭部CT・MRIで頭蓋内圧亢進(脳ヘルニアの危険)を、血液検査で出血傾向(脊柱管内血腫の危険)を確認し、合併症として神経根刺激による下肢への放散痛や、低髄液圧による立位で増悪し臥位で軽快する硬膜穿刺後頭痛を説明します。穿刺後頭痛の予防には細い針や非外傷性針が有効とされ、遷延例にはブラッドパッチが行われます。体位・禁忌・合併症をセットで理解しておくことは、安全な手技と患者への適切な説明の両方に直結します。
解答・解説
正解はaです
腰椎穿刺(ルンバール)の手技と合併症についての患者説明を問う問題で、「誤っているもの」を一つ選ぶ。 腰椎穿刺は、脊髄の下端(成人では概ね第1〜2腰椎の高さ)より尾側の、馬尾神経が浮かぶクモ膜下腔に針を刺して脳脊髄液を採取する検査である。通常は左右両側の腸骨稜の最上部を結ぶ線(ヤコビー線、第4腰椎棘突起またはL4/5椎間の高さの目安)を手がかりに、L3/4 または L4/5 椎間から穿刺する。説明すべき内容は次の三つに整理できる。 (1) 体位:側臥位で膝を抱え、背中を丸めて椎間を広げる。 (2) 事前の安全確認:脳ヘルニアの危険(頭蓋内圧亢進・頭蓋内占拠性病変)と出血の危険(出血傾向・抗凝固療法)がないことを確かめる。 (3) 合併症:穿刺時の神経根刺激による下肢痛、穿刺後の低髄液圧による頭痛、まれに感染や脊柱管内血腫など。 この枠組みに照らすと、体位に関する説明が誤りを含んでいることがわかる。
選択肢考察
- ○a. 「うつぶせの姿勢で行います」
誤った説明であり、これが正解である。腰椎穿刺は原則として側臥位で行い、患者に膝を胸に引き寄せ、顎を引いて背中をエビのように丸めてもらう。腰椎を前屈させることで棘突起の間(椎間)が開き、針を進めやすくなる。また側臥位は髄液圧(初圧)を正しく測定できる体位でもある。右利きの術者では左側臥位(左側を下)が扱いやすいとされる。肥満などで正中が分かりにくい場合は座位で前屈して行うこともあるが、うつぶせ(腹臥位)では腰椎が伸展して椎間が狭くなるため、通常のベッドサイドでの腰椎穿刺には用いない。
- ×b. 「事前に血液検査を行います」
正しい説明である。出血傾向があると、穿刺によって硬膜外や硬膜下に血腫(脊柱管内血腫)ができ、馬尾・脊髄を圧迫して下肢麻痺や膀胱直腸障害を起こすおそれがある。そのため事前に血小板数や凝固能(PT-INR、APTT)を確認し、抗凝固薬・抗血小板薬の内服状況も確認する。また血糖値は髄液糖の評価(髄液糖/血糖比)に必要であり、炎症反応など鑑別診断の情報を得る目的でも血液検査を行う。
- ×c. 「下肢に痛みが走ることがあります」
正しい説明である。穿刺針がクモ膜下腔を浮遊する馬尾神経(神経根)に触れると、片側の下肢に電気が走るような痛み(放散痛)が生じることがある。この場合は針をいったん引き戻し、刺入の角度や位置を修正する。事前に伝えておくことで患者が急に体を動かすことを防ぎ、痛みが出たら知らせてもらうことができる。
- ×d. 「事前に眼底検査か頭部画像検査を行います」
正しい説明である。頭蓋内圧が亢進している状態(脳腫瘍、脳膿瘍、大きな脳出血などの占拠性病変)で腰部から髄液を抜くと、頭蓋内と脊柱管の間に圧較差が生じ、テント切痕ヘルニアや大後頭孔ヘルニアを起こして死亡する危険がある。頭蓋内圧亢進は腰椎穿刺の禁忌であり、事前に眼底検査でうっ血乳頭がないことや、頭部CT・MRIで占拠性病変や正中偏位がないことを確認する。
- ×e. 「検査後に立位で悪化する頭痛が起きることがあります」
正しい説明である。穿刺孔から硬膜外へ髄液が漏れ続けると低髄液圧となり、脳が下方へ牽引されて硬膜や血管が引き伸ばされ、頭痛が起こる(硬膜穿刺後頭痛)。座位・立位で増悪し、横になると軽快するのが特徴で、多くは穿刺後数日以内に出現し、通常1〜2週以内に自然軽快する。頸部痛、悪心、耳鳴などを伴うこともある。予防には細い針や先端が鈍な非外傷性針(ペンシルポイント針)の使用が有効とされる。穿刺後に一定時間臥床安静を指示する施設が多いが、安静臥床そのものの予防効果は明らかでない。治療は安静・補液・鎮痛薬で、遷延例には自家血硬膜外注入(ブラッドパッチ)を行う。
腰椎穿刺の目的
診断:髄膜炎・脳炎などの中枢神経感染症、くも膜下出血(CTで所見がはっきりしない場合)、ギラン・バレー症候群(蛋白細胞解離)、多発性硬化症(オリゴクローナルバンド、IgG index)、癌性髄膜炎、正常圧水頭症(タップテスト)など。 治療:薬剤の髄腔内投与(抗がん薬など)、髄液排除。
禁忌
・頭蓋内圧亢進(特に占拠性病変による):脳ヘルニアの危険。 ・出血傾向(血小板減少、凝固異常、抗凝固療法中):脊柱管内血腫の危険。 ・穿刺部位の皮膚・軟部組織の感染:髄膜炎の危険。
手技の要点
・体位:側臥位で膝を抱え、背中を丸める(または座位で前屈)。 ・穿刺部位:ヤコビー線を目安に L3/4 または L4/5 椎間。脊髄円錐(成人で概ねL1〜L2)より下で刺すため、脊髄を損傷しにくい。 ・初圧測定:側臥位で正常は概ね 60〜180 mmH2O 程度とされる。 ・正常髄液:水様透明、細胞数 5/μL 以下(主に単核球)、蛋白 15〜45 mg/dL 程度、糖は血糖の約 60〜80%。
合併症
硬膜穿刺後頭痛(最も多い)、神経根刺激による下肢痛、穿刺部痛・腰痛、感染(髄膜炎)、脊柱管内血腫、脳ヘルニア(禁忌を無視した場合)。
POINT
・腰椎穿刺は側臥位で背中を丸めて行う(うつぶせではない)。 ・事前に頭蓋内圧亢進(眼底のうっ血乳頭、頭部CT/MRI)と出血傾向(血小板・凝固能、抗凝固薬)を確認する。 ・穿刺中の下肢への放散痛は神経根刺激による。 ・穿刺後頭痛は低髄液圧によるもので、立位で増悪し臥位で軽快する。予防は細い針・非外傷性針、遷延例はブラッドパッチ。
