「自分のため」ではなく「患者と社会のため」―医師のプロフェッショナリズムの核心
第119回医師国家試験 E問題 第7問
国試問題にチャレンジ
医師のプロフェッショナリズムで誤っているのはどれか。
- a.科学的根拠を追究する。
- b.自己の利益を追求する。
- c.社会のニーズに応える。
- d.患者の感情に共感を示す。
- e.医療資源の有限性に配慮する。
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
医師のプロフェッショナリズムとは、専門職として社会から信頼を得るために守るべき価値観・行動規範であり、その核心は自らの利益より患者の福利を優先する利他主義にあります。2002年の医師憲章は「患者の福利優先」「患者の自律性の尊重」「社会正義」を3原則とし、科学的知識への責務、医療へのアクセス改善、有限な医療資源の公正な配分、利益相反の適切な管理などを責務として挙げています。したがって、科学的根拠の追究、社会のニーズへの対応、患者への共感、医療資源の有限性への配慮はいずれもプロフェッショナリズムに含まれ、自己の利益の追求はこれに反します。医療倫理の4原則やジュネーブ宣言とも重なる考え方であり、日々の診療で判断に迷ったときの拠り所として理解しておくことが大切です。
解答・解説
正解はbです
医師のプロフェッショナリズムの内容として「誤っているもの」を選ぶ問題である。 プロフェッショナリズムとは、専門職(プロフェッション)が社会から信頼を得て、その専門性を発揮するために守るべき価値観・行動規範のことである。医師は高度な専門知識と、医師免許による業務独占などの特権を社会から与えられている。その見返りとして、知識と技術を自らのためではなく患者と社会のために用いること(利他主義)が求められる、というのが基本的な考え方である。 代表的な指針である「新ミレニアムにおける医のプロフェッショナリズム:医師憲章」(2002年、米国内科専門医認定機構〈ABIM〉財団、米国内科学会〈ACP-ASIM〉財団、欧州内科連合の共同作成)では、三つの基本原則として「患者の福利優先」「患者の自律性の尊重」「社会正義」が掲げられている。これを軸に考えると、自己の利益を優先する姿勢は、患者の福利優先と利他主義に真っ向から反することがわかる。
選択肢考察
- ×a. 科学的根拠を追究する。
プロフェッショナリズムに含まれる正しい内容である。医師は科学的知識の進歩に貢献し、最新の科学的根拠(エビデンス)に基づいた医療(EBM:evidence-based medicine)を提供する責務を負う。医師憲章でも「科学的知識への責務」として挙げられており、生涯にわたり学び続けて専門的能力を維持・向上させることもこれと表裏一体である。
- ○b. 自己の利益を追求する。
プロフェッショナリズムに反するため、誤りであり、これが正解である。医師の専門職としての中核は利他主義、すなわち自らの利益よりも患者の利益(福利)を優先することにある。例えば、収入を増やすために不必要な検査や治療を行う、製薬企業などからの利益供与によって処方が左右される、といった行為は患者と社会の信頼を損なう。医師憲章でも、利益相反を適切に管理して信頼を維持することが責務として明記されている。
- ×c. 社会のニーズに応える。
プロフェッショナリズムに含まれる正しい内容である。医師の特権は社会との契約によって成り立っており、医師は目の前の患者だけでなく社会全体の健康に責任を負う。医療へのアクセスの改善、医療の質の向上、公衆衛生や地域医療への貢献などを通じて社会の要請に応えることが求められる。医師法第1条も、医師は医療と保健指導によって公衆衛生の向上と増進に寄与し、国民の健康な生活を確保すると定めている。
- ×d. 患者の感情に共感を示す。
プロフェッショナリズムに含まれる正しい内容である。患者を疾患としてではなく一人の人間として尊重し、不安や苦痛などの感情に配慮して共感的・思いやりのある態度で接することは、良好な医師患者関係の基盤となる。共感は患者の満足度や治療への協力(アドヒアランス)を高め、患者の自律的な意思決定を支えることにもつながる。
- ×e. 医療資源の有限性に配慮する。
プロフェッショナリズムに含まれる正しい内容である。医療費、医療従事者、病床、薬剤などの医療資源は有限であり、医師は個々の患者のニーズに応えつつ、不必要な検査や治療を避けて費用対効果の高い医療を提供する責務を負う。医師憲章でも「有限な医療資源の公正な配分」が責務として挙げられており、基本原則の「社会正義」に対応する。
医師憲章(2002年)の構成
基本原則(3つ) 1) 患者の福利優先の原則(利他主義) 2) 患者の自律性(自己決定)の尊重の原則 3) 社会正義の原則(医療資源の公正な配分、差別の排除) 専門職としての責務(10項目) ・専門的能力(職業上の能力)の維持・向上 ・患者に対する誠実さ ・患者情報の守秘 ・患者との適切な関係の維持 ・医療の質の向上 ・医療へのアクセスの改善 ・有限な医療資源の公正な配分 ・科学的知識への責務 ・利益相反の適切な管理による信頼の維持 ・専門職としての責任(相互評価、自律的な規律、後進の教育など)
関連事項
・医学教育モデル・コア・カリキュラムでも「プロフェッショナリズム」は医師に求められる基本的な資質・能力の最初に掲げられている。 ・世界医師会のジュネーブ宣言(医師の誓い)も、患者の健康と安寧を第一の関心事とすることを医師の誓いとして定めている。 ・医療倫理の4原則(自律尊重、善行、無危害、正義)とも重なる部分が多い。
POINT
・プロフェッショナリズムの核心は利他主義:自己の利益より患者の福利を優先する。 ・医師憲章の3原則:患者の福利優先、患者の自律性の尊重、社会正義。 ・責務には科学的根拠に基づく医療、能力の維持向上、医療へのアクセス改善、有限な医療資源の公正な配分、利益相反の管理などが含まれる。 ・患者への共感・誠実さ・守秘も重要な要素。
